如水句集

(24/08)
秋日影消へて寂しや夕間暮れ
秋日影二人で帰る河原町
朝顔や蔓を泳がせ迷ひをり
うす雲を溶かせて流る天の川
立秋や酒の銘柄新たにす
(24/07)
海開きバイトに暮るゝ海の家
盃は瀬戸の土産や夕涼み
玄関を開くれば藪蚊入りけり
天空の城に架かりし淡き虹
爺婆とけふでお別れ夏休
(24/06)
毎日が父の日だなと感謝する
万緑に少女の像やすくと立つ
夕風や女将の吊す青簾
退院を祝ひ早々豆ご飯
スピードは出すに出せない蝸牛
(24/05)
清滝や万緑の中走りをり
子供の日孫と飾るや武者人形
蘇る五感新たに若葉萌ゆ
若葉風庭に木漏れ日ゆらしをり
金婚の旅の二人に夏の風
(24/04)
人気ある武庫川渡船春惜しむ
菜の花や湖西の嶺は銀色に
銀色に辛夷のつぼみ膨れけり
青空に触れて真白の辛夷かな
四月馬鹿騙された振りして癒す
(24/03)
列なして鳥雲に入り点となる
春光や行き交ふ艇の水脈白し
陳列の急に華やぐ桜餅
ちちちちと囀りあさの街中に
手を振れば電車はポーと春の昼
(24/02)
復興の進まぬ能登や春早し
立春の煌めく比良の琵琶湖かな
春の空ロケット上がり皆笑顔
菜の花や青き琵琶湖に引き立ちぬ
青空や野辺一面の犬ふぐり
(24/01)
三が日のみは許さる朝酒ぞ
娘来し他はいつもの三が日
三が日仏壇の花瑞々し
しめ飾り控え喪中の我が家かな
ラグビーや貌から顔へオフサイド
(23/12)
裸木に青空広くなりにけり
息災を願ひて食むや大根焚き
妻逝きて未明の電話冴えにけり
立山の見晴るかす日や鰤大漁
里芋を美味しく炊けて褒めらるゝ
(23/11)
山茶花や黒土染むる艶やかさ
ネットにて映画観ゆのみ文化の日
冬に入り最低気温十ニ度に
七五三下駄を両手におんぶかな
鯛焼の順を待ちつゝバス待ちぬ
(23/10)
落葉松の黄金に光る秋の山
一面に錦織りなす秋の山
焼藷屋男子(おのこ)を忘れあとを追ふ
金木犀ことしも匂ふ過去の景
水澄むや底にコインと魚の影
(23/09)
秋晴や白壁土蔵つづく街
電柱のなき街並に秋の風
秋の蚊を払ひ魚を喰らひけり
初さんま通り過ぐるや値札見て
蟋蟀のやつと鳴き初む我が家かな
(23/08)
ここだよと炎を高く焚く門火
炎天下頭の下がるボランティア
立秋と聞かば気分は秋めきぬ
蛇口よりお湯の湧き出る暑さかな
球場の土持ち帰り夏惜しむ
(23/07)
桟橋に群るゝ魚や夕凪ぎぬ
梅雨明くる厳しさ耐えて過ごしけり
同じ行幾度も読みて昼寝とす
雷や妻は今ごろどの辺り
しぐれとは呼べぬ凄さや蝉の声
(23/06)
筑波山己が天下と蟇(がまがえる)
病窓の新緑眩しあさ七時
リハビリの成果待たるる梅雨晴間
薔薇の門潜れば薔薇の花あまた
麦秋を白とブルーの新幹線
(23/05)
青空に映えて鮮やか柿若葉
極上の真鯛へ山葵つけ過ぎぬ
蛍いか目玉を固く喰われんと
引越しの手伝ひ終へて初夏の風
新緑の精気を浴びてウォーキング
(23/04)
藷植うや食糧難の校庭に
パンジーの鉢植え安く買ひにけり
春の灯やぽつぽつ点る先斗町
ふわふわもヒラヒラもゐて蝶群るゝ
山腹を日ごと駆け上ぐ山桜
(23/03)
好きですと書いて渡せず卒業す
春雨やいざなふ宵の縄のれん
久々に初音を聞くや吾が庭に
自転車の空気パンパン春はづむ
青空や野辺一面の犬ふぐり
(23/02)
早春やさざ波光る千曲川
立春や空も野山も光満つ
魁と白梅凛と咲きにけり
草の芽や若草山に萌え出づる
初めての乙女椿に見惚れけり
(23/01)
添書きに見ゆ優しさの賀状かな
好物の棒鱈で酌むお正月
どんど焼きどつと崩れて舞ふ火の粉
餅余り汁粉に入るゝ小二つ
晴天や地にもあをあを冬の草
(22/12)
偲ぶ会帰りの道の冬の月
角館黒塀に映ゆ冬紅葉
久々の三年物の河豚づくし
柚子貰ひ風呂に満ちたる香りかな
友訪えばポインセチアに迎へらる
(22/11)
冬銀河気宇壮大の露天風呂
立冬やうどんの鉢の温かりき
鰭酒の蓋とるまでの静寂かな
歓談も牡蠣雑炊で締めにけり
鯛焼の餡飛び出して舌灼くる
(22/10)
晩秋や落暉に映ゆる跨線橋
山吹や八重は華やぎ返り花
初さんま細身と云えど銀色に
芒原ひかりを揺らせ風走る
芳香に会ひたき人や金木犀
(22/09)
天の川吾も宇宙の一粒ぞ
初秋や薄暮の風に白き月
青空と仲良きことや秋桜
台風に被害の友を案じけり
秋晴やガンは小さく祝杯を
(22/08)
盆休み明けて増ゆるや感染者
新しきビールを試す夕餉かな
秋立つや雲の流れはそれらしく
朝夕の秋気漂ふウォーキング
流星や妻より先に見つけたり
(22/07)
文庫本腹に一緒の昼寝かな
波を切る舳先の先に虹立ちぬ
蝉しぐれ蝉に疫病なかりけり
天辺に翔ぶほかのなき天道虫
夕立に街洗われて気も新た
(22/06)
夏至過ぎて太陽日々に遠ざかる
緑陰にリュック降ろせば背なに風
空梅雨やひと雨ほしき昨日今日
五月雨に樹々も古刹も烟りけり
炎天に電柱の影辿りけり
(22/05)
鮮やかや緑透けたる若楓
養殖と言へど初鮎嬉しけり
退院す夕餉に好きな豆ご飯
艇走る瀬田の河畔や初夏の風
初鰹わらの香りのたたきかな
(22/04)
騙された振りに気づかぬ四月馬鹿
入院の妻へ桜の写メ送る
縁側に本と一緒に春眠し
灯台の岬に光る新樹かな
暖かや妻の退院荷もかろき
(22/03)
すし買つて公園に飲む春日和
銀嶺を背に菜の花の広ごりぬ
青空に触れて真白の辛夷かな
ビストロの椅子にピンクの春コート
麗らかや雲の浮かびて鳶の笛
(22/02)
立春と聞かば心は春気分
春寒しあさの珈琲すぐ冷ゆる
寒戻るラジオに流る「冬景色」
妻騙し罰の当るや春の風邪
菜の花や赤き帽子のひょこひょこと
(22/01)
下駄箱の上にも卓上注連飾
丑年はもう会えないと年明くる
初富士や船客のみな甲板へ
ラグビーや歓声浴びて独走す
胃に優し先人の知恵七日粥
(21/12)
年酒にとネットで探る銘酒かな
妻の留守炬燵でひとり昼の酒
牡蠣安し夕餉は鍋や昼はそば
短日や早ャ街灯の点りをり
柚子貰ふジャムの残りを風呂用へ
(21/11)
初霜や微かに白き庭の草
立冬や暖冬願ふ老夫婦
駆くる児を眺むベンチの小春かな
夙川の桜紅葉も散り急ぐ
冬めきてホットワインを試しけり
(21/10)
秋晴や鳶が輪を描く石舞台
天高し生駒の峰の遥かなり
朝寒や浅きポケット頼りなき
黄昏て灯を点すごと花梨の実
冷水に締めて山葵の走り蕎
(21/09)
惑わせて迷走颱風列島へ
病床の灯火親しむ文庫本
爽かや一時停止に児童の礼
病院の敬老の日や小豆粥
秋分やあすより始む夜長とか
(21/08)
落蝉や命の限り鳴き尽きぬ
生きてゐるだけで幸せ初秋刀魚
検診の結果を祝ひ鰻食ぶ
カーテンの微かに揺らぎ涼新た
感動を球児に貰ひ夏惜む
(21/07)
鴨川の灯の点り初む夏の夕
先斗町白きうなじや夏の夕
雨降るや忽ち鳴きぬ雨蛙
青空や日は燦然と梅雨明くる
姦しや朝寝の吾に蝉しぐれ
(21/06)
梅雨晴や行きたき処数多あり
焼き立てのパンの匂ひや明易し
汗流す熱きシャワーの心地よさ
あすからは昼の短き夏至来る
月桃の揺蕩ふ沖縄慰霊の日
(21/05)
木漏れ日や鶯のこゑ心地よき
母の日や妻へ娘の電話あり
「あら虹が」傘を畳んで妻の声
立山を仰ぎ一献ホタルイカ
牛蛙なにを憂ひて鳴くのやら
(21/04)
ざわめくや糺の森の青嵐
青もみじライトに映ゆる東福寺
暮れなずむ日永の空に円き月
春暑し列島の空みな真青
マスターズ制覇の英樹アジア初
(21/03)
のどけしや明日香の里に鳶舞ふ
啓蟄やぶつぶつ喋る炊飯器
下萌や遺跡発掘説明会
お水取り終へて愈々春来る
突風に紙皿の飛ぶ梅見かな
(21/02)
早春の野辺の草ばな芽吹きけり
立春と聞かば浮きたつ旅ごころ
春浅しラジオに流れる「早春賦」
たぽたぽと眠気を誘ふ春の雨
寒戻る朝の散歩を躊躇ひぬ
(21/01)
初便り施設の暮らし姉貴より
コロナ禍の収束願ふ去年今年
年男八度目となり年迎ふ
新春やラジオに流る「春の海」
水仙や海に雪崩るゝ灘の郷
(20/12)
氷裂け御神渡りの諏訪湖かな
氷上の釣りに賑はふ猪名湖かな
新庄の笑顔はつらつ冬うらゝ
手袋の欲しきひと日となりにけり
[鹿寄せ]のホルン流るゝ飛火野に
(20/11)
冬日和過去の苦労も懐かしき
冬日和温室と化す座敷かな
秋寂しマスクを忘れ睨まるゝ
暮早し古書店めぐる帰り道
うたた寝にそつと掛けらる毛布かな
(20/10)
いつ眠る母を案ずる夜なべかな
酒を酌み頁をめくる夜なべかな
秋晴や海は青色風は白
芳香の漂ふ街や金木犀
石蕗の花はや庭隅を明るうす
(20/09)
銀の波すすきの揺れに風を見ゆ
こほろぎの一匹鳴きて庭閑か
かなかなの鳴きて夕風立ちにけり
秋分や大きな秋はまだ遠く
休場の多く寂しき九月場所
(20/08)
子供らの可哀想なる夏休み
秋立つや流るゝ雲のうすかりき
長崎忌以下同文の挨拶ぞ
虫しぐれ眠れぬ夜半の子守唄
庶民には口には出来ぬ秋刀魚かな
(20/07)
二月より会はぬ友より夏野菜
半夏生あと半年を如何に生く
祭消へ寂しき夏となりにけり
川の名を覚ゆ不幸や梅雨出水
すもも食む紅より出づる黄金色
(20/06)
天ぷらの鱚にたつぷり抹茶塩
梅雨寒しづぼらやコロナに負けにけり
幸せは目前にあり薔薇の花
夏の宵通天閣に緑の灯
上高地ホルン流るゝ山開き
(20/05)
更衣髪も刈上げ気も新た
三年も同じシャツなる更衣
夏立ちて律儀に高き二十五度
翡翠を一斉射撃のカメラマン
朝刊のバイクの音や明易し
(20/04)
春眠の深みに誘ふ波の音
春眠の覚めても同じニュースかな
ひたひたと白波寄する春の海
桐の花青空ひとり欲しいまゝ
春闌ける命あるもの生き生きと
(20/03)
黄昏て鍬を洗ふや水温む
たぽたぽと舟べり叩く水温む
啓蟄や背負つては降ろすランドセル
しばらくは留守にしますと春の旅
退院や春の六甲見晴るかす
(20/02)
山茶花の色のみ紅き朝の庭
山茶花の咲きて且つ散る夕べかな
鍵失すや玄関脇のうす菫
梅林の名札新たや[筑紫紅]
麗らかやポンポン船の水脈白し
(20/01)
凍土に転びし時の疵の痕
凍空や研ぎ澄ましたる鎌の月
お雑煮の椀も新たに祝ひけり
令和初新年参賀に淑気満つ
えびすより優る笑顔の福娘
(19/12)
風邪に寝て会社の夢や何故に今
けふもまた株の下りや風邪心地
カラカラと足音たてゝ枯葉駆く
大けやき青空覆ひ黄葉す
短日や門の灯りに迎へらる
(19/11)
奥嵯峨の茶屋を出づれば初時雨
飛火野も紗に透けたるや初時雨
微笑みのティアラ煌めく小春かな
石蕗咲きて明るうなりぬ狭庭かな
急峻を雪崩るゝ如く紅葉燃ゆ
(19/10)
行く雲や流るゝ水に秋の声
木漏れ日の路のそよ風秋の声
凄まじや祈る他なし秋出水
暁を鋭く裂くや鵙の声
金木犀想ひ出多き香りかな
(19/09)
夕空をゆきては戻る赤とんぼ
人恋ひて帽子にとまる赤とんぼ
秋の蚊をとつさに叩きもの思ふ
新米や「いたゞきます」と塩むすび
新涼や熱きコーヒー旨かりき
(19/08)
ヒロシマや灯籠流しに祈る文字
灯籠の灯りてよりの宴かな
ご先祖も一杯やるか盆提灯
反省の言葉を継ぐや敗戦日
爽やかや勝者を讃ふ敗け投手
(19/07)
王手飛車喰らひて止まる団扇かな
添ひ寝して扇ぐ団扇も眠りけり
玉垣に己が名前や夏祭
浴衣着の外人多き祇園かな
初蝉や想ひの丈を鳴き尽せ
(19/06)
白山の虹を惜しみて帰路に着く
黒潮の大海原に虹立ちぬ
過ちをすまいと走る蝸牛
己が影頭一つや夏至の昼
梅の実のいつしか沈む梅酒かな
(19/05)
夫婦して語らひながら新茶揉む
絵はがきのあとに届きし新茶かな
病窓の眼下を滑るつばくらめ
新樹光指を掲ぐる少女像
鮮やかな緑を揺らす初夏の風
(19/04)
静けさや鴬のほか音もなし
年一度交す歓談花見酒
柳川や舟に割らるゝ花筏
たんぽぽや未来を風に絮飛ばす
自販機の青ボタン増え春暑し
(19/03)
うらゝかや大和三山遠からず
麗かや片付け終へてミルクティー
首伸ばし足を伸ばして鶴帰る
初ざくらまだ二輪とて華やげり
センバツの宣誓谺となりにけり
(19/02)
婿逝くや娘気丈に梅の花
春立ちて赤きリュックを買ひにけり
菜の花や青き琵琶湖に白き比良
河豚鍋を囲み病を語り合ふ
水仙や海に雪崩るゝ灘の郷
(19/01)
新御代の祝ひ待たるゝ御慶かな
新年の参賀の旗の御慶かな
柏手の揃ふ響きに淑気満つ
目出度きや青一色の初御空
福笑ひ真に受けて聞くアドバイス
(18/12)
厳格な父の叱咤や冬の海
濤砕く巌は強し冬の海
一枚を残す暦に吊る暦
今年また友に感謝や忘年会
年の瀬や福引き当たる大吟醸
(18/11)
天に実を一つ残して柿落葉
落葉焚きアルミホイルの見え隠れ
立冬や京の老舗の漬物屋
香を追えば柊の花暗闇に
名も知らぬ木々も紅葉東大寺
(18/10)
六甲の峰際立ちて天高し
高山の屋台出揃ひ天高し
夕空を影絵となりて鳥渡る
想ひ出のまた蘇る金木犀
新涼やオカリナ流る森の径
(18/09)
生かされて敬老の日をまた迎ふ
放課後の門閉じられて鰯雲
朱書きにて「サンマあります」めし屋にて
百選の棚田に燃ゆる曼珠沙華
銀ヤンマ街に見かける嬉しさぞ
(18/08)
缶ビール底まで干せば青き空
警戒の幾たび出づる熱中症
涼しさに快眠するも二三日
虫の音にほつと思ふや夕間暮
虹映えて連覇を祝す甲子園
(18/07)
炎天下道に積み上ぐ被災ごみ
大出水命からがらヘリコプター
梅雨明けや白き雲立ちペダル漕ぐ
ひと言の多きを詫びてビール注ぐ
炎天下甲子園まであと一球
(18/06)
夕風や女将の吊す夏暖簾
積読の一冊を手に梅雨籠り
マンションの塗替へ終はり濃紫陽花
夏至来るなぜに急かるゝ昨日今日
梅雨晴れや幾たび回る洗濯機
(18/05)
牛蛙けふの嘆きは如何なるや
鴨川の床の灯りや夏来る
二の腕の白き少女や初夏の風
五月晴れロイヤルキスに大歓声
サンバ跳ね神戸まつりの五月晴れ
(18/04)
三味の音の漏るゝお茶屋や春の月
ほろ酔ひて窓を開くれば春の月
花びらの浮かぶ茶碗の野点かな
艶やかな牡丹に貰ふ精気かな
春うらゝ前のおばさん大欠伸
(18/03)
陽炎を掻き混ぜ揺るゝ一輪車
吾が恋や追へど遠のきかぎろひぬ
本借りにゆくも大儀や菜種梅雨
きんつばの皮の薄さや春来る
歌流る球児の列や芝青む
(18/02)
振り向けば高きに登る観梅行
主逝き更地に残る白き梅
かき雑炊啜る至福を惜しみけり
センバツに決まりて帽子空を舞う
平昌へ声よ届けと春炬燵
(18/01)
初詣先づは感謝の齢となる
注連の穂を雀ついばむ今年かな
古への寅さんを観て年明くる
那智の滝しめ縄に満つ淑気かな
大試験ライバル分かつ長机
(17/12)
木枯や東尋坊に涛しぶき
木枯や角に灯の点くラーメン屋
車椅子慣れぬ手つきや息白し
暗転の間合ひに小さき咳一つ
二人して柚子湯の日には銭湯へ
(17/11)
チョコレート噛む音高く冬に入る
錦なす紅葉の峪や人寄せず
晴天のひと日も暮れて芙蓉閉づ
蒼天に映ゆる白壁木守柿
白鳥やいま着水の飛沫たつ
(17/10)
立ち並ぶ埴輪の歌や虫しぐれ
虫の音や本を抱きて夢うつつ
名月に照らされ眠る汚染地区
秋霖に双葉の苗木たじろがず
湧水の澄みたる暮らし里の秋
(17/09)
友の顏想ひ浮かべて月見酒
一枚を背なに掛けられ月見酒
そば庵の隅に編笠風の盆
新米に平飼ひ鶏の玉子割る
洗顔のあとに覚ゆる涼新た
(17/08)
幾重にも爆ぜに爆ぜるや大花火
踏切りや片陰に待つ人の列
仏壇の鈴(りん)の澄みたる今朝の秋
立秋や走るナースに風立ちぬ
種ありの葡萄に想ふ昭和かな
(17/07)
風そよぐ朝の静寂を破る蝉
空蝉の爪に力の残りけり
丹精の田の流れゆく大出水
太腿も法被も跳ぬるギャルみこし
漸くに暦追ひつく大暑かな
(17/06)
紫陽花や移り気多きアルカリ性
京芸姑粋に着こなす濃紫陽花
想ひ遂げ寺の挙式や沙羅の花
比良映ゆる水田にそよぐ早苗かな
ステテコの脛より見ゆる吾が余生
(17/05)
五月晴れ幟はためく国技館
山頂の風に吹かるゝ五月晴れ
新緑や葉擦れの音と陽の揺らぎ
薫風や窓開け放つ新校舎
シャッター街あをぞら知らぬ鯉のぼり
(17/04)
新入生出会ひを求め部をめぐる
新社員出会ふ上司に父を見ゆ
青き踏む出会ひし方は卒寿とか
初めてのあなたと出逢ふ春の宵
ひとときの出逢ひを惜しむ春しぐれ
(17/03)
常連の揃はぬ宴や春愁ふ
春愁や眠れぬ夜の深夜便
旅立ちの支度整ふくぎ煮かな
連翹や思案の蜂のホバリング
タンポポや笑ひ地蔵の傾げをり
(17/02)
薄ら氷をこわごわと踏む都会の子
寒開けてなほ襲ひきし大寒波
立春や和菓子の色のピンクめく
春光を浴び土を待つ植木鉢
春一番腕をまくりてペダル漕ぐ
(17/01)
笑初め持株上ぐる大発会
新年やいつか聴きたしウィーンフィル
雪舞ひて幼き頃を想ひ出す
初場所や待ちに待ちたる初優勝
玻璃越しの日差しの強き春隣
(16/12)
ゆく年や紅白見たのは何時の日か
黄落の真中に大樹の枯銀杏
鰤大根箸穴に見ゆ妻の腕
冬至過ぎ日差し強まり春を待つ
クリスマス電飾に陰子に涙
(16/11)
老いどちや宴の果てぬ紅葉狩り
一片の紅葉の浮かぶ手水鉢
生きようと点滴室の皆マスク
文化の日買ひしCDダブリをり
初雪や都会の色を奪ひをり
(16/10)
新酒提げ妻待つ郷へ丹波杜氏(とじ)
旬のもの一品ありて新走り
下戸の妻年に一度の今年酒
街匂ふ有り難きかな金木犀
貸し本の待つ人多し秋深む
(16/09)
台風や無辜の民にも天誅か
十五夜や日本の恥部を曇隠す
新米や先づは三つの塩むすび
秋暑しカープの街や天焦がす
傘借りて返せぬうちの秋彼岸
(16/08)
秋立つやみちのくの旅友募る
食卓の花瓶新たや今朝の秋
天炎ゆるアスファルトをゆく盲導犬
涙落つ土を袋に夏終はる
秋めくや木漏れ日届く縁の端
(16/07)
甲子園一点入りビール買ふ
口の泡指差し合ふや生ビール
灯の点るビアガーデンが呼んでいる
梅雨明けや律義に上がる三十五度
日の昏れて船渡御の火や燃え初むる
(16/06)
残り湯の熱き朝や蛙鳴く
更衣二の腕細き八十路かな
見た目にも風の生るゝ京うちわ
玄関を訪ふて入らぬ揚羽蝶
ヤマトンチューも祈る沖縄慰霊の日
(16/05)
菖蒲湯やアヒル浮かべて孫と浴ぶ
平成ややさしき顔の武者人形
被災地に集ふ各地の鯉のぼり
武具担ぐ少女の髪に初夏の風
菓子買はばかほりゆかしき新茶出づ
(16/04)
昼の酒朧となりて夕間暮れ
シラスにも意地あるらしや眼に光
堰落ちて寄り添ひ流る花筏
朋友の手料理並ぶ花見かな
純白に嘘つき難し雪柳
(16/03)
朝霞突き抜けて立つ竹田城
松明の火も消へ失せて修二会果つ
合格と聞かずに分かる「お母さん」
醤油しみ踊るサザエの刺身かな
白魚の腹に一物なかりけり
(16/02)
草食の男子を嗤ふ恋の猫
春浅し信濃の歌碑に早春賦
剪定を終へて明るき狭庭かな
日脚伸ぶ夕餉に残る空の青
「小日向」とゆうパン屋あり春温し
(16/01)
目の前の札を取らるゝ歌留多とり
どんと焚きどつと崩れて声沸きし
大寒や「雪やこんこ」と灯油売り
餅残り香りかぐはし磯辺焼き
切り餅に裏表なし吾が人生
(15/12)
年の瀬や夢の膨らむコンサート
落柿舎の柿残りゐて空真青
寒木瓜やはや咲き初めて気ぜわしき
お日さまの日々近くなる冬至かな
十二月願ひの灯りをちこちに
(15/11)
保津川を挟みもみづる嵐山
落葉蹴る子供らのゐて爺もゐて
吾が余命知らぬが仏枯螳螂
木の実落つ音やも知れず夜の宿
百三歳喪中はがきや菊残る
(15/10)
秋深しものを想ひて夜半の酒
秋高しライスシャワーや天に舞ふ
木犀の匂ひ漂ふ立ち話
金木犀窓より匂ふ読書かな
今年酒をんな杜氏の初レビュー
(15/09)
名月はあと二日なり芋を掘る
憧れが想ひ出となり夏果つる
暮れ早しテールランプの赤き列
せせらぎに顔を洗へば秋の水
熱きお茶飲みたきなりぬチチロ鳴く
(15/08)
爺婆も無事に還へりぬ門火かな
駅長の手袋白く梅雨明くる
日照雨(そばえ)去りたちまち虹の立ちにけり
安倍談話虚しさつのる敗戦日
扇子失せ買ふか買わずや迷ひをり
(15/07)
木下闇しばし場所借り憩ひけり
アリさんよゆつくりあるいていゝんだよ
爆弾の如き荒梅雨天怒る
骨切りの音軽やかに鱧料理
梅雨明けや会ふ約束の始まりぬ
(15/06)
梅雨に入り似合う花あり三室戸寺
傘傾げ紫陽花寺を行き交ひぬ
何事もなく父の日の過ぎにけり
片陰の幅狭くなり夏至来る
古琉歌や何を語らむ沖縄忌
(15/05)
ベランダの願ひ大きや鯉のばり
鯉のぼり田舎はいゝな広き空
尻を振る鴨を迎ゆる早苗かな
褒められて図には乗らない白牡丹
芝生刈り匂ひ湧き立つ大地かな
(15/04)
豪雪の地もなんのその桜咲く
保険料下がりましたよ四月馬鹿
姫路城白鷺と化す春の空
荷を下ろしゆるりと憩ふ家康忌
百穀を育む土に穀雨かな
(15/03)
小さきこと妻の戦後の雛飾り
イカナゴの入荷に人は道を空け
ウグイスや生涯初の姿見ゆ
菜の花や湖の向こふに白き比良
日脚伸ぶ日々の移ろひ面白き
(15/02)
閑けさや雨戸開くれば春の雪
名残り雪肩に任地へ発つ朝
春立ちてココアを試す午後三時
寒明けて眠りを誘ふ雨の音
一番に庭明るうすクロッカス
(15/01)
軽トラや注連飾りしてねぎらわる
忘れもの取りに戻れぬ去年今年
注連縄の稲穂啄む雀どち
眞白なる神鶏鳴きて淑気満つ
御手洗の柄杓一列淑気満つ
(14/12)
年の瀬や酒肴選びの愉しけれ
木枯らしやビニールカップの独り旅
あしたから春の近づく冬至かな
木枯らしや両手で包む熱きお茶
年の瀬や募金の声と籤のこゑ
(14/11)
新米や安き価格に泣く農家
彗星に十年の旅冬銀河
巡り合ひて嬉しき後の十三夜
冬に入り京の漬物待ち侘びる
姿よき紅葉を探しひもすがら
(14/10)
コスモスや倒れし場所に天を向く
味気なき秋刀魚の尾頭切られをり
借り物に爆笑の湧く運動会
秋の蚊を叩き南無阿弥陀仏かな
外(と)に出でて首をすくめる秋の冷え
(14/09)
虫の声しばし聴き入る仕舞風呂
暗い記事読む気もせずに虫の声
新涼や誘ひに埋まるカレンダー
柿落つる奈良に見つけし「子規の庭」
遺影にと笑顔撮り合ふ敬老会
(14/08)
被災地へ想ひを馳せて盆踊
幾千万鶴折る人や広島忌
本当の事を知らずに敗戦日
台風過ぐ素知らぬ顔のまろき月
虫の音や日の移ろひの早かりき
(14/07)
風鈴の音に誘はれてまどろみぬ
金魚飼ふ前に余命を心配す
大夕立何年ぶりの濡れねずみ
久闊や出してみやうか「かもめ〜る」
ステテコやピンポン鳴りてドギマギす
(14/06)
短夜やホシ割れぬまゝ窓白む
白百合を手向けむ樺美智子の忌
沖縄忌老婆の撫づる刻銘碑
車窓より代田に映ゆる逆さ富士
ガガンボや己の脚を持て余す
(14/05)
千年の大樹となれど樟若葉
わらび餅買ふて陰選り帰りけり
若葉萌ゆ五感新たに蘇る
手土産に一目で決める新茶かな
夏めきて子らの群がる水飲み場
(14/04)
春愁や漁獲少なき魚市場
桜咲く皆の持ち寄るおもてなし
畑づくり夢の膨らむ穀雨かな
想い出を壊したくなき桜貝
山吹や満開なれど子ら見えず
(14/03)
新調の晴れ着を濡らす春の雨
春時雨下駄の音する先斗町
鯉睦む水面ざわめく春の川
球春や地元の街を明るうす
おちこちに釘煮送りて春終はる
(14/02)
春近し玻璃越しの日に力あり
向き合ひて何を語るや水仙花
河豚ちりや友に任せし灰汁掬ひ
朝飯の遅くなりたるソチ五輪
春寒し繰越損を申告す
(14/01)
嫌なことスッキリ忘れ初寝覚
恙なく生きむと願ふ初寝覚
真白なる飛行機雲や初御空
ぬかるみて先行き惑ふ成人式
年毎に焚くもの減りしどんど焼き
(13/12)
ゆく年や残す想ひの多かりき
残菊やなほ拡がりて括りけり
毎年の言葉に照れて賀状書く
歳末や声を枯らして募金箱
たい焼きの餡の熱さや冬うらゝ
(13/11)
初霜の便りに偲ぶ被災の地
喪のはがき届きて覚ゆ初冬かな
鵙鳴きて島倉千代子送りけり
渡り鳥火傷しさうな日が沈む
柿たわゝ熟るゝに任す過疎の村
(13/10)
菊花展旧友の名の懐かしき
信念を徹し寂しき秋の暮
芒野や揺るゝ穂波に風を見ゆ
災害の絶ゆることなき神の留守
ゆうらりとコスモス遊ぶ青き空
(13/09)
時として扇子の揺るゝ残暑かな
酎ハイのライム買い足す残暑かな
カナカナの鳴きて夕風立ちにけり
名月をあまねし仰ぐ秋津島
虫の音のひねもす聞こゆ狭庭かな
(13/08)
終戦と聞きて勝利と思ひけり(軍国少年)
想ふこと多き八月また来る
黙祷や誰が泣くのか蝉しぐれ
願ひ事一つありけり流星群
頂点に爆ぜる花火の心意気
(13/07)
空蝉や吾は十五で上京す
妥協して生くる他なき金魚かな
百日紅ふと想ひ出す原節子
平成の水引き装ひ鉾建ちぬ
骨切りの音も涼しき鱧料理
(13/06)
梅雨晴間本に栞を手に鍬を
梅の実や熟るゝに任す過疎の村
遠慮せず好きに生きろやなめくじら
紫陽花や一雨ありて濃かりけり
ゲームの子今日はサッカー梅雨晴間
(13/05)
行く雲を仰ぎて春を惜しみけり
四月果つ世界遺産や富士の山
夏立ちて朝の散歩を早めけり
母の日を悔ひて迎へし不孝者
天空の城に架かりし淡き虹
(13/04)
山吹や蝶は黄色が好きらしい
日当たりを得て蘇りツツジ咲く
花冷えや何時もの店で飲み直す
鯉跳ねて波紋拡がる花筏
開け放つ部屋を抜けゆく春の風
(13/03)
「天然」と威張りて並ぶ桜鯛
包丁を入るゝに惜しや桜鯛
啓蟄や不意につぶやく冷蔵庫
朝刊を火の粉が飾るお水取り
いかなごの列に今年も顔馴染み
(13/02)
春浅し嶺にしろがね野に若菜
雨粒に息吹を宿す冬芽かな
春立ちて二冊購ふ旅の本
けふもまた余寒を供のウォーキング
水温む甲羅干したる亀二匹
(13/01)
子宝を願ふ娘と初詣
宝くじ外れて聞こゆ除夜の鐘
薬師寺や吉祥天女に淑気満つ
寒に入りいよゝ風呂の湯熱かりき
センバツに選ばれ空に舞う帽子
(12/12)
待望の株価戻りし師走かな
一病も息災のうち大根炊
枯葉舞ふ諸手を振りてはしゃぐ児ら
住所録消して身に沁む年の暮
蝋梅のまろき花芽の固さかな
(12/11)
産卵を終へて骸となりし鮭
イヤホンと共に過ごせし夜長かな
立冬や独りで淹れる朝のお茶
錦秋に間に合ひ癒ゆる運のよさ
紅葉を額縁にして富士の山
(12/10)
柿盗み齧ってみれば渋きこと
(疎開先にて)
霜降や山の学校火入れ式
沖縄やまた騙されて鵙猛る
秋晴れや園児の帽子みんな赤
どこにでもいる慌てん坊初紅葉
(12/09)
庭の木のざわめきに知る野分かな
敬老日商品券で元をとる(町内会より)
網笠を覗きたくなる風の盆
筋通し独りぼつちや秋の風
おはようと露草蒼の濃かりけり
(12/08)
黙祷の鐘にかぶさる蝉しぐれ
手も足もくれてやりたき熱帯夜
赤信号ビルの日陰に待ちにけり
秋立ちて少し窓閉づ朝かな
土産提げ顔で手を振る盆の明け
(12/07)
妻の留守ちょっと贅沢うな重を
テストして寝茣蓙を妻に奨めけり
旅先で妻の好みの扇子買ふ
梅花藻や水清くして魚棲む
電柱の影をたどりし炎天下
(12/06)
云ひたきこと山ほどありて時鳥
山径を語らひ行かばホトトギス
紫陽花や近寄り見れば星数多
女子高生胸を突き出す更衣
朝ごとに吾にあいさつ牛蛙
(12/05)
豌豆に水たっぷりと旅に発つ
涼しげな氷の器旅の宿
保津峡のトロッコ列車に初夏の風
鹿生まるその可愛いこと可愛いこと
若葉風木漏れ日の環(わ)を揺らしおり
(12/04)
春光や鯉跳ね上げる水しぶき
春暑し行き交うみなの腕まくり
風光る両手を上げて一輪車
沈黙を解きて里山笑いけり
暢気さは私の取り柄春うらゝ
(12/03)
招かれて男児もじもじ雛まつり
(男はボクひとり)
百歳を超ゆる馬酔木や咲き競ふ
(盆栽展にて)
春場所や鬢付け匂ふ谷町線
(正確には鬢付け油)
鳥帰る前見て進むものばかり
式終へて袴姿で宙に舞ふ
(12/02)
氷点下三十度の地に医者来る
(医師不足深刻、最北の診療所ができた)
豪雪の地を思いつゝ旅に発つ
(前からの計画だが、気がひけた)
妻病みて知る物干しの冷たさや
(あさの洗濯物は冷たかった)
風光る渚に字を書く女子高生
(沖縄・古宇利島にて)
夕刊を待ちわび広ぐ梅だより
(2月の歩こう会は大阪城梅林)
(12/01)
寒星を仰ぎて帰る通夜のみち
順々に七十億人年明くる
初御空乾ききつたる下駄の音
初糶やマグロの口も塞がらず
仮設にも容赦はせぬと寒に入る
(11/12)
京の町みちに迷ひて初時雨
捨てがたき背広も捨てゝ年を越す
紅葉散り久闊を叙す葬儀かな
間違ひの電話か咳で切れにけり
添書きに筆の進まぬ賀状書き
(11/11)
嘘もつき騙されもして木の葉髪
木の葉髪ともに減りゆく預金かな
枯蟷螂なほ鎌あげし面構へ
約束を果たせず迎ふ初紅葉
草紅葉ひねもす歩み長き影
(11/10)
天高し千年の杉なほ伸びむ
こじれたる話解きたし蔓たぐる
「雪っこ」の新酒の出荷沸く拍手
桃哀れ棄つる他なき福島産
深呼吸肺まで滲みる金木犀
(11/09)
椅子引きて上座奨める敬老日
小芋食む病院食にも好物が
タイガース負け病棟に秋愁満つ
長き夜を幾たび手にす体温計
サンマサンマ早く秋刀魚と退院す
(11/08)
夕立に追はれて逃げし疎開の日
ががんぼや脚持て余す二日酔ひ
外(と)に出れば風さらさらと今朝の秋
香ぐはしき藺草枕の昼寝かな
かなぶんや昭和を連れて電灯へ
(11/07)
雲海やリュック降ろさず見惚れをり
梅雨明けて雲の欠片もなかりけり
炎天に弁当広ぐ工夫たち
河鹿鳴く瀬音涼しき錦雲渓
脳天を突き抜けむとすかき氷
(11/06)
香水やナース溌剌風生ふる
失せ物に電話かけたき五月闇
からだより大きな声の雨蛙
なめくじらお前も家なき被災者か
梅雨しとどてるてる坊主うな垂れむ
(11/05)
万緑の中より出づる斎王代
一年生堅く眼を閉じ黙祷す
免許証返上したる蝸牛
カリヨンの下に集合初夏の風
今日からは新茶ですよと京の宿
(11/04)
瓦礫満つ祈りの大地草芽吹く
春雷や虹を賜むる雨上がり
春暁のマンガに含み笑ひかな
乾杯を控へて始む花見かな
休刊の日を持て余す日永かな
(11/03)
吾が想ひ書いて渡せず卒業す
父逝きし齢となりて彼岸来る
辛夷咲き友との旅を偲びけり
「球根を植えています」と札立ぬ
避難者の拍手を貰ひ卒業す
(11/02)
草焼や祝詞終りて火を放つ
春立つや何やら音の聞こえくる
春の雪だるまの命お昼まで
かまくらや洩るゝ灯の影子らの声
手袋の片方なくし寒明くる
(11/01)
日脚伸ぶお茶替へらるゝ見舞ひかな
年玉を慣れぬ正座で待つ子かな
生姜湯や心もじんと温まる
講釈のおやじさて置きクエ旨し
牡蠣割ればまだある命貰ひけり
(10/12)
遊ぶこと多き師走を詫びにけり
突然の冬に箪笥のおちこちを
暮早し洗濯物の固きこと
寒波きぬ足入るゝ湯の熱つかりき
もうすぐと炬燵のスイッチ入れて待つ
(10/11)
眠られぬ夜長をめぐる過去未来
酒飲んで本屋に寄りて文化の日
鵙猛る甍梢を欲しい侭
秋寒し手動ドアーの車輌くる
予期もせぬ運に恵まれ初紅葉
(10/10)
テレビ消しあとは灯火を親しめり
秋の蚊に吾(あ)は悪人となりにけり
入賞の案山子にかくる祝ひ酒
お帰りと角を曲がれば金木犀
「牡蠣入荷」昼餉はそばに即決す
(10/09)
CDの百枚揺るゝ鳥威し
夏物を多く残して店閉じる
山車に乗る日焼けの顔に深き皺
湯浴みして夕餉の膳にすだちの香
敬老日今年は何もなかりけり
(10/08)
逢ひたくてけふも出かける盆踊
あめんぼう右折左折は苦手かも
踏切の待つ人癒すカンナかな
雑音のあとに遠雷届きけり
西瓜買ふ大き過ぎると妻小言
(10/07)
汗光る白鵬の汗珠玉(たま)の汗
油照り杭打ちの音けたゝまし
誘われて二つ返事の暑気払い
玉垣に祖父の名のあり夏祭
雨過ぎて新鮮な空夏の蒼
(10/06)
踏み入れば紫陽花迫る三室戸寺
喉元の皺の目立ちて梅雨に入る
八つ橋の朽ちてなほ咲く花菖蒲
田植待つ水鏡に映ゆ月の影
パソコンのうるさくなりて夏至来る
(10/05)
伊豆の旅あすは我が家か春惜しむ
不出来だと友の癖字の新茶着く
懐かしやジュース作りし山清水
神鶏の羽根艶やかや楠若葉
スカートを手繰る少女の水遊び
(10/04)
己が影写る菜の花畑かな
万愚節騙され妻を喜ばす
チューリップ畑にピョコピョコ赤帽子
夜桜や舞妓に群るゝカメラマン
同じ行また読み返す目借時
(10/03)
山笑ふ古希から始む水彩画
青き踏む琵琶湖一周一日目
春うらゝピンクのシャツを着てみたし
実朝の眼を醒ましたる春嵐
春寒やアドレス削除のキー重し
(10/02)
魁の梅一輪や街の朝
初雪や夕刊飾る金閣寺
三寒に耐へて四温を待ちにけり
春の気を吸ふて撮らるゝレントゲン
「暖かくなれば」の多き二月かな
(10/01)
紋付の白襟極み淑気満つ
去年今年背中合わせの無限大
手の震へ癒えて初旅チェックイン
マフラーの余分となりし日差しかな
寒造り裸の杜氏に湯気立ちぬ
(09/12)
歳晩や光陰追ひて日を惜しむ
来年も生きてるつもり日記買ふ
大根焚き運よく出会ふ京の旅
鳶舞ふ吾も真似たや冬麗ら
煮凝に一本欲しき朝餉かな
(09/11)
踏みしめて名残を惜しむ草紅葉
一村の蒼天を染む柿すだれ
芒原ひかり揺らせて風走る
薄暗きお堂の床に紅葉映ゆ
顔見世のまねきに上がる拍手かな
(09/10)
特選の菊を囲みて撮る笑顔
秋祭り大門開けて子らを待つ
むらさきの実をちりぢりに野分過ぐ
包丁のサクサク切れて秋さやか
ヨイショッと声を杖にし花野発つ
(パロディーです)
(09/09)
ジュジュジュジュと音もご馳走初秋刀魚
初めての席譲らるゝ敬老日
秋暑し座敷に日差し入り初む
合併を拒み明日香の曼珠沙華
芝居終へ早たそがるゝ秋の暮
(09/08)
朝顔やつぼみの数は夢のかず
ステテコや背なに風立つ濡れタオル
初秋やフルート流る森の朝
手から手へかち割り届く甲子園
新米や稲穂飾りて売られをり
(09/07)
読みかけの本も一緒の昼寝かな
風とほる京の町屋の葭障子
夕立にテレビ乱るゝ怖さかな
うな重の「う」の字はうなぎ旗なびく
くちなしの白は濃き白深き白
(09/06)
田植終へ大きな薬缶軽トラへ
南風や予選の球児足高く
扇風機今年も共に過ごそうぜ
子供らの去りて角出す蝸牛
二の腕の列なし歩む更衣
(09/05)
若葉風こどもの多き日曜日
武具飾よちよち歩きに拍手湧く
夏立つや病後の友を誘ひ出す
夏めくや自転車洗う昼下がり
風鈴の売り場に流る蝉の声
(09/04)
春惜しむブルートレーンまた消ゆる
春愁や中止となりし小旅行
タンポポの絮ビッグバンし小宇宙
花筵隣り合はせも縁のもの
春灯やカレーの匂ふ帰り路
(09/03)
花冷えに肩摺り寄する夜道かな
菜の花や湖西の嶺に雪残る
白魚やまなこ揃へて吾を見ゆ
生き急ぐことは禁物花便り
球春や新装なりし甲子園
(09/02)
春立ちてポンポン弾むタイヤかな
夜半の音春一番と知る朝
幕上がる前に落とせし咳ひとつ
初音聴き妻のご機嫌直りけり
放列のレンズに映ゆる春の雲
(09/01)
なに故に達磨焼かるゝとんどかな
七福神詣りに一つ残りけり
競り終はる鮟鱇のみな仰向けり
加湿器の音深々と寒に入る
酔ひ覚めや五臓六腑に寒の水
(08/12)
もぐり込む布団に残る陽の匂ひ
金柑や吾にも夢の二つ三つ
諦めしこと多少あり年暮るゝ
冬落暉黄金に霞む跨線橋
星二つお供に笑ふ冬の月
(08/11)
秋祭り下の名で呼ぶ友揃ふ
石蕗の花一隅照らし黄昏るゝ
ストーブや去年の匂ひ立ちにけり
向き揃ふ鳩膨らみて冬に入る
木枯らしや首まで浸かる仕舞風呂
(08/10)
来し方に酸っぱさもあり濁り酒
わだかまり解けず独りの濁り酒
秋遍路友は今頃どの辺り
花嫁や平安神宮秋日和
秋の蚊を叩き心の揺れはなに
(08/09)
台風の過ぎたるあとの茜雲
扇風機ともに過ごせし夏終る
骨一本残し秋刀魚は吾が腹へ
ケータイの宣伝多き敬老日
気動車を降りて眼に入る曼珠沙華
(08/08)
手応へのありて西瓜の真っ二つ
油照り砂塵をあぐるダンプカー
灯を消して盆僧ついと去りにけり
タオルケット足でまさぐる今朝の秋
赤とんぼ何を思案のホバリング
(08/07)
夏雲やかがむ球児に跳ぶ球児
寝返れば暫し冷たき寝茣蓙かな
有無もなく誘ひに乗りし暑気払ひ
缶ビール底まで干せば青き空
お引取り願ひたくなる大暑かな
(08/06)
蓮一葉己が世界や雨蛙
招かれて父の日あるを実感す
手土産は娘の好きな枇杷の籠
点滴や今日も読書の梅雨じめり
雲晴れて新緑の山近づけり
(08/05)
粽解く白き裸身や昼の夢
街の子の尻一列の田植かな
峡流る天に伸びゆく栃の花
ぬかるみに慣れて終はりぬ田植かな
初夏の風鉢植え並ぶ路地を過ぐ
(08/04)
遠慮など知らぬ顔して黄水仙
靴紐の緩むがまゝに青き踏む
花吹雪追ふ児のあとを花吹雪
新緑や少女の像はすくと立つ
人工の巣に鳥孵る春の空
(08/03)
廃村に残る大樹の山桜
草餅や茶柱立ちぬ北の宿
初音聞き今年も生きてゆけさうな
泡一つ立てゝ鯉ゆく春の池
腕まくり堤に少女風光る
(08/02)
傷舐めて眠りに入りぬ恋の猫
血の色に蕾ふくらむ沈丁花
向き合ひて何を語るや水仙花
欅の芽流るゝ雲の速さかな
駅出でて縄暖簾まで息白し
(08/01)
初春や漁港華やぐ大漁旗
手袋の見つからぬ日の憂ひかな
七日粥土の匂ひを啜りけり
風呂吹や信濃土産の糀味噌
ほろ苦き昔を想ふ柚子のジャム
(07/12)
雑炊の蓋とるまでの静寂かな
住所録消して身に滲む年の暮れ
満つる湯に身を沈むれば冬の月
冬日和将棋指すひと見入る人
炉火赤し五平餅焼く飛騨の宿
(07/11)
霜やけや厳しき時代ありにけり
法事終へ閑散となる冬座敷
「かき入荷」思わずくぐる縄のれん
流れくる紅葉織りなす錦かな
蒲団干すけふは娘の里帰り
(07/10)
なに故に辛き獅子唐あたりけり
懐石の膳にひと挿し芒の穂
藤袴和服のひとを引寄せぬ
漸くに公孫樹色づく遅き秋
てすさびにまた呑み直す夜長かな
(07/09)
湧水にタオルを浸す残暑かな
曼珠沙華仲間はずれのなかりけり
敬老の日に祝わるゝ歳となる
朝露に濡れしズックも乾きけり
何処からと席空けらるゝ秋の旅
(07/08)
また来たるあの日も紅き夾竹桃
コウノトリ巣立ち七月果てにけり
峰雲や阿久悠偲ぶ甲子園
溶接の火花飛び散る油照り
大滝の飛沫に濡るゝ己が影
(07/07)
夏祭り終へて法被の干されをり
鮮明や台風一過青と白
拍手湧く音に先立つ遠花火
砂を撒きいざナイターの始まりぬ
夏休み私服のあの子に出会ひけり
(07/06)
空梅雨と聞かば案ずる水飢饉
雨あがる蒼天を突く立葵
傘入れて覚悟を決めし梅雨の旅
天辺に皮の残りし今年竹
小西瓜や新薬師寺に供へをり
(07/05)
蚕豆の艶あをあをと酒の朋
父と児の弁当広ぐ五月晴れ
旅先の決まらぬ侭に夏立ちぬ
全山を緋色に染める山躑躅
白雲に溶けてしまいし初夏の月
(07/04)
もの云わぬ桜の語る彦根城
花吹雪帽子追ふ人笑ひをり
ほろ酔ひにしばしまどろむ花の下
白川の果てまで染める若柳
鯉幟集ふ千匹過疎の村
(07/03)
梅香る水琴窟の音跳ねる
まんさくの花逆光に色放つ
春光の底まで届く池の色
瀬戸内の霞みて消ゆる巨船かな
今日だけの袴を濡らす春の雨
(07/02)
春寒し[閉店]の紙貼られをり
早春を迎へに新(さら)のスニーカー
早春の浮き立つ心いつわれず
菜の花の一畝街を明るうす
赤提灯まだ灯の入りぬ日永かな
(07/01)
初釜や花びら餅の餡透ける
スイッチを入れゝば流る「春の海」
大寒や底の冷たき仕舞ひ風呂
泣きさうな冬空仰ぐ妻の留守
冬寒し鍋になほ振る七味かな
(06/12)
品書きの「大根」の大太々と
庭掃除終へて暫しの日向ぼこ
湯治場に柚子の香匂ふ冬至かな
宴闌て煮え立つ牡蠣の縮みをり
葉牡丹のひとり占めせし花壇かな
(06/11)
冬に入り列車の響き乾きけり
律儀にも木枯らし一号挨拶す
杉玉の色青々と今年酒
山茶花を入れて新婦を写しけり
隧道を抜くれば霧の里なりし
(06/10)
藷掘りに親子の絆深めをり
退院す先づは刺身と温め酒
無人店えらぶに迷ふ秋の豊
秋暑し先づ顔洗ふ旅の果て
山路を迷ひて聴きしキリギリス
(06/09)
台風や泡盛甕に眠りをり
熊よけの鈴の音澄みて山の径
鈍行の停車の度に虫の声
新たなるだんじり白し秋祭
一円を拾ひて熱し秋の昼
(06/08)
水虫と共に苦労の頃ありき
油照り鉄橋渡る貨車の音
ビール飲み球児の美技に酔ひにけり
新涼や今朝の空気のさらさらと
処暑迎へはや壊さるゝ海の家
(06/07)
糊きゝし浴衣に伸ばす背筋かな
初蝉やひと声ありてあと閑か
七夕や多き願いに笹垂るゝ
葭簾張り部屋の暗さも嬉しけり
焼酎に薩摩切子の季節かな
(06/06)
語るより聞き手にまはり夏料理
顔写真つけて並びし夏野菜
嫌われてゐるとも知らずなめくじら
牛蛙古墳の濠の深みどり
雨上りどこへお出かけ蝸牛
(06/05)
縁側に湯浴みのあとの初夏の風
蛙鳴く棚田の水に朝日映ゆ
夜回りのナースの影や白牡丹
チビ茄子の主張しつかり辛子漬
赤子泣く空に大きな鯉幟
(06/04)
雨雲の割れて日差しに山笑ふ
花の塵踏むを憚り磴登る
花筏ボートの櫂に乱れけり
街灯に桜吹雪を教へらる
野道行く村に一人の新入生
(06/03)
戒名をメールで知らす彼岸かな
片栗の花に見惚れてバス逸す
夕暮れて白木蓮の灯りけり
春灯に浮かびあがりし高台寺
暮れなずむ日永の空に鎌の月
(06/02)
春めきて酒すゝみたる夜更けかな
見つければまた見つかりし蕗の薹
公園の将棋広場の日永かな
春立ちて歩みはじむる児の笑顔
ふくらみて未だかまだかと冬芽かな
(06/01)
霜柱踏みて入試に立ち向かむ
初神籤末吉引きて好しとせむ
降る雪や都会の音を静めけり
寒に入る列島既に厳しかり
風呂吹きに串穴多き新所帯
(05/12)
同人誌ガリ切り終へて鍋囲む
落葉径炭焼窯の朽ちし跡
寒波来るはじめの熱き湯船かな
外灯に雪降りをるを教へらる
枯木立名札目立ちし植物園
(05/11)
手応へのありて大根引き抜けり
小春日や横浜めぐる赤きバス
旧交を温めをりし燗熱く
しぐれ止み行き先示す傘のさき
七五三赤き鼻緒に白き足袋
(05/10)
宿直の月夜にボンとドラム缶
しをれても命の限り八重芙蓉
水割りもお湯割りとなり秋深む
六甲や夜景煌めきちゝろ鳴く
長き夜も放送終はるオルゴール
(05/9)
明日香路が好きと今年も彼岸花
ざわざわと胸騒ぎせし野分かな
秋暑し室津の坂や港見ゆ
名月の家来となりし街灯り
ひと言の後味悪しき芋茎かな
(05/8)
蜜かけて匙で喰ひたし雲の峰
球児らの砂を袋に夏終る
虫の音に酒酌み交す旅の宿
鳴き尽きて蝉の骸や天仰ぐ
地蔵盆児らの奏でる鉦太鼓
(05/7)
土用波荒れて浜辺に人もなし
イヤホンのコードからまる熱帯夜
朝まだき蝉に起こされ日の始む
炎天の土曜に動く町工場
のうぜんや石塀小路を明るうす
(05/6)
忍び逢ふ鼓動鎮まれ蛍の火
夏至の日の遊び惚けて帰りけり
父の日や病を伏して電話切る
床に臥す事情も知らず梅雨に入る
鮎跳ねる瀬戸の群青流れけり
(05/5)
校門に乳房寄せくる衣更
柏餅ひとつ余りて子を想ふ
青葉風木漏れ日まろぶ坂の径
あめんぼう何を思案の立ち止まり
牛啼きてどよめき沸きし賀茂祭
(05/4)
朝日浴び衣新たに山笑ふ
残雪や己がいのちの幾ばかり
あんず咲く新しき名のまち生まる
春愁やウォッチに音あるを知る
花の塵過ぎし宴の泣き笑ひ
(05/3)
一年生門出を祝ふ桜かな
つくしんぼぼくもぼくもと顔を出す
寝転びし十番ティーの揚雲雀
啓蟄や午後の砂場に遊ぶ児ら
隧道の先にかげろひ立ちにけり
(05/2)
うすらひに柄杓とらるゝ手水鉢
掌に豆腐切る刃の冴返る
梅の香や空に浮びし大阪城
春立ちてスキップの児の靴ひかる
玻璃越しのつらゝの雫ひかりけり
(05/1)
災いを福に変へたき去年今年
をとめごや初日に光る鼻の先
どんど焼き夢の果たせぬ達磨燃ゆ
白き髪目立ちし妹の厄詣
海透けて海鼠哀れや身を晒し
(04/12)
一夜明け嵐の遺産敷黄葉
街寒し自販機に増ゆ赤マーク
白障子明るくなりて日の新た
着膨れて鳩に餌やる爺と婆
酒だけは切らせてならぬ年用意
(04/11)
寄せ鍋や話題を残し宴果てる
振り向けば高きに登る峪紅葉
腰かけし石の冷たき紅葉狩
朱一色果つところなき柿すだれ
冬めきて部屋の奥まで射す陽かな
(04/10)
暮れ早し灯下に移す将棋盤
柿かぶる手に滴れし甘露かな
頭のみ残し秋刀魚の骸かな
柿もぎし爺と語らふ里の道
蟋蟀の音に送られて帰路急ぐ
(04/09)
音たてし秋刀魚に搾る酢橘かな
風速を聞きて案ずる安否かな
慰霊碑の何かも知らづ彼岸花
銀杏の匂ひに秋を覚えけり
濁り酒浮き世は澄んでをりもせづ
(04/08)
傾きしマッチの足の茄子の馬
敗戦忌御霊は地獄か極楽か
朝風の涼新たなる目覚めかな
捕虫網駆け寄り覗く兄妹
黒トンボ墓石に翅を合せをり
(04/07)
短パンに替へて薮蚊のよろこべり
青田ゆく一両電車の派手な色
水着の子ティーシャツの子の滝すべり
鉾建てや轍を残し一休み
参つたと詫びを入れたき大暑かな
(04/06)
帆柱のてんでに揺らぐ夏の海
法事終へ大の字に寝る夏座敷
朝顔や蔓泳がせて握手待つ
篝火にをんな鵜匠のほゝ映ゆる
野分きて家族の絆覚へけり
(04/05)
夕風に乗りてタンポポ一人旅
素足の子嬉々と戯むる水たまり
城跡や無念を鳴きし牛蛙
カーニバル踊る少女に青時雨
いづくにて生きていたかの初蚊かな
(04/04)
蒼天に若葉の浮かぶ大欅
声もなく牛舎の跡に著莪咲けり
夜桜と存問するや春の月
始業式終えて児童の水遊び
長堤を緋色に染める花の塵
(04/03)
球児らの夢の如くに花開く
春泥を浴びてウララの晴れ姿
点眼のパチッと決まり空おぼろ
燕来る急ぎ玄関開けにけり
春暑しバスのクーラー動き初む
(04/02)
雲はゆき水は流れて春うらゝ
水温む舟べり叩く波の音
春雷の一撃に沸くナース室
女医の襟うす水色の春の服
水取りの支度の音や二月堂
(04/01)
去年今年関門トンネル抜けにけり
新妻となりし姪から初賀状
味噌汁の大根多き七日かな
留守番をねこに頼んで探梅に
嘘つきて耳たぶ紅く寒の入り
(03/12)
鰭酒のなほ注ぎ足して夜も更けむ
山茶花の落花の隙に黒き土
暮早し鶏は呼ばねど小屋に入る
枯葉落ち空の大きくなりにけり
抱き上げし嬰の微笑む小春かな
(03/11)
友よりの新酒は梅の化粧箱
夕暮れて蜜吸ふ蜂や冬近し
大根の突き出る首の寒さかな
芋煮喰ふ集ひ勤労感謝の日
顔見世のまねきに華やぐ京の町
(03/10)
秋祭り山車ひく稚児の薄化粧
のけぞりて役目の終へし案山子かな
ひもすがら詫びてばかりのしゝおどし
二階にも届く秋刀魚の焼け具合
オーナーの夢を名札に青蜜柑
(03/9)
虫の音に玄関広く開け放つ
芋の葉に朝日に映ゆる露の珠
畦道に大きなやかんと曼珠沙華
コスモスの野辺に広げる握り飯
秋涼し布団きて寝る嬉しさや
(03/8)
廃線の隧道抜けてカンナ燃ゆ
山道に会釈の人や眼の涼し
露草や嘘のつけない色なりき
新米の届きて夏の果てを知る
図書館に宿題あふる夏の果て
(03/7)
風はらみ紺碧の海ヨットゆく
水蹴りて園児の声や海開き
言ひ過ぎて青唐辛子の辛きこと
靴下を脱ぎて登山の終りとす
宵山や山車に灯点り拍手わく
(03/6)
己が過去あとに戻れぬ蝸牛
磯笛や桶に休みて鮑採り
初夏の宿かほり漂ふ青畳
蜘蛛の巣に連なる雨のビーズかな
せゝらぎに一息入るゝ薄暑かな
(03/5)
次々と棚田に水の張られをり
故郷はセピア色なる麦の秋
青葉雨祇園小路に蛇の目傘
葱坊主親分子分の格差あり
鴬にテレビ消したる朝かな
(03/4)
身をかゞめ舟沈むやに蜆掻
故郷や峠を越せば山躑躅
幼子や吾が手に垂るゝ甘茶かけ
雲雀の巣残して畝を鋤きにけり
落人の村に大樹の遅桜
(03/3)
遠来の友の戸惑ふ春の雪
春きざし眠るボートのペンキ塗り
舞ふ火の粉走る響きやお水取り
真砂女逝く小さき椿落ちにけり
木蓮の蕾谷間に灯りけり
(03/2)
藁葺きの白壁映ゆる紅き梅
彼の世にて龍馬と語るや菜の花忌
玻璃越しの日差しに力春隣
雲ゆきて麦の芽淡く緑なす
氷蹴る児らの笑顔や声弾む
(03/1)
下北の灯も透きとほる冬海峡
なに聞ゆ縄文の跡雪覆ふ
女体燃ゆ棟方志功雪の中
仰ぎ見る注連縄白し那智の瀧
水仙や潮岬に波まねく
(02/12)
職退きて庭に侘助あるを知る
冬日落ち湖上に舞ふや鳥の影
日記買ふなほ生きたくて五年用
悴む手うどんの鉢に温めをり
近づきてなほ近づきて冬芽見ゆ
(02/11)
突然に窓いっぱいに雁の列
子規百年城四百年秋日和
新走り木曾路に青き杉の玉
嵯峨野路や人に流され紅葉狩り
児も嬉々と小さき熊手の落葉掻き
(02/10)
友事故死茶碗割る音酷い秋
コスモスや野辺ゆく神輿を見やりをり
金木犀過ぎし日想ふ香りかな
葡萄棚残れし葉のなか房ひとつ
艶豊か大青蜜柑ゴッホの絵
(02/9)
蝉逝きてオカリナ響く森の朝
秋風や土掘り返し花壇かな
黒ん坊どこへ消えたか新学期
秋暑し虫の音恋し日暮れかな
梨届く妻追憶か独り旅
(02/8)
春の雹に堪えし石榴の実が朽ちる
門閉じて校庭の隅白木槿(むくげ)
芙蓉咲く入道雲や垣の上
原爆忌橋の若者頭(こうべ)垂れ
蝉時雨止みて天空真っ暗に
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