梧葉句集
(08/11)
木枯らしや二重扉を吹き抜けり
寒雀大小気にせず集いけり
枯れ野来て伸びる吾が影見詰めけり
木枯らしの雨戸叩きて書を閉じぬ
山茶花の咲きて菊の香絶えにけり
(08/10)
パトカーの音のみ往きし霧の街
新涼や女子高生の丸き膝
そぞろ寒半袖仕舞う妻傍に
秋涼や朝のコーヒの香り立ち
昇進を告げる息子と濁り酒
(08/09)
母在りし部屋の柱に蚊帳の鉤
バス追へず独り残され秋を知る
台風の去りしや雨戸の音絶えぬ
嵐去り新涼を呼ぶいわし雲
無花果や遠きを想いて乳を嗅ぐ
(08/08)
訪ね来てあの日と変らぬ山河あり
西瓜喰ひ種吐き散らせし庭ありき
舗道燃え猫もたじろぐ昼下がり
木曽路来て蚊帳の香かぐはし山の宿
わが家より病院がと言はしむ炎暑かな
(08/07)
蓮の花開きて夏雲むっくりと
花火消え闇に残りし夏の雲
山里や吟声乗せて青田風
朝涼や一日のこと済ましけり
夏雲に似合うのうぜんかずらあり
(08/06)
万穂垂れ雄々しく捩じれ藤古木
沙羅の花苔のしとねに転がりぬ
父の日と思うばかりで暮れにけり
梅雨空を衝かんばかりに立ち葵
小ぶりなる西瓜も並びて薄暑かな
(08/05)
病床の窓に桜を待つ日々や
春愁を吹き飛ばしけり退院日
リハビリの目標果たして五月晴れ
緑陰に酒酌み交わす旧き友
葉桜や時の流れに澱みなく
(08/02)
吹かれ飛ぶ雪に急かされ初天神
振り返り絶句したまま凍てし道
白む街静謐保ちて雪やまず
冬晴れや蝋梅の淡雪露と消え
にわか雪行方定めぬ猫の恋
(08/01)
初春や眩しき孫の晴れ着かな
初雪やセンター試験の列に舞い
鐘の音や凍てつく稲田を透き通り
バスを待つ人押し黙り雪しきり
冬晴れやどんどのけむり真っ直ぐに
(07/12)
迷い猫逃げ足速し冬の庭
歯を病みて女房の雑炊旨きかな
茶箪笥に置きし花梨の香りけり
山茶花や空き家の庭に咲きこぼれ
足傷め外出(そとで)はポストの師走かな
(07/11)
初霜や肌を擦る風ぴりぴりと
秋深し落暉に伸びる影法師
蒼穹をわし掴みして楓燃え
小雀や脚あと残せり霜の朝
車椅子触れてこぼれし赤き実や
(07/10)
松島や老友とめぐり愁思あり
ななかまど秋天負いて露天風呂
五大堂秋の夕日や朱の橋に
木犀の香りて猛暑のありしかな
雨戸繰る手をふと留め十三夜
(07/09)
蝶舞いぬバス出払いし待機場
熱帯夜去らず消え入る虫の声
からすうり一夜を惜しむ花の糸
逝く夏を惜しむ気もなし熱帯夜
猛暑にもすまし顔なり彼岸花
(07/08)
朝もやに玉のすだれやミニトマト
夏草の狭間に紛れし青きイガ
蝉叫び夾竹桃燃え夏沸騰
紗の衣裾ひるがえし僧走る
猛暑にも眼科の女医の涼しき目
(07/07)
戸を繰れば香り新たに白き百合
梅雨の間に空を覆いし並木道
梅雨空をはんなり渉るこんちきちん
久々の朝日にきらり稲の露
雨蒸して廃校の漏屋木耳見ゆ
(07/06)
誇らしげ新駐在所映ゆ代田かな
日は昇りがん素となりしからすうり
梅雨晴れや路地を彩る京和傘
残花みな露滴りてけぶる雨
梅雨晴れやあじさい映す溜り水
(07/05)
見上げげれば大木芽吹くや五月晴れ
悪びれず新玉裸で転がりぬ
更衣の香ほのかに初の冷房車
初植えの街路樹マロニエ咲きにけり
新緑を織りなす三船の錦かな
(07/04)
散る花をものともせずに選挙カー
大鯉の転じて揺れる花筏
名も聞かず別れを惜しむ花見客
春風や京の舞妓の褄に舞い
ひとり往く尼僧に優しき春の風
(07/03)
卒業生くぐる子らの環に光あり
春再び去りし鶯の声帰り
晩霜に負けじと豌豆つる伸ばし
合格の孫に望まれ焼肉旨し
着膨れて富士染めん朝の光待つ
(07/02)
棄てられし大根青き首あはれ
暖冬や数へるほどの残り鴨
川霧の消えしも猶サギ佇立せり
立春や去年より早めの春コート
天満宮子供より親の目立ちたり
(07/01)
向かい合い雑煮食う老妻いとほしく
年玉の礼言う孫の大人びて
初雪や竹の葉ずれの音消えて
霜降りて小松菜甘し小正月
冬晴れや北山杉のより高く
(06/12)
寒牡丹仔猫も共に囲はれし
満月や師走のネオン秘しにけり
年の瀬やベンツの駐る里の家
乾し大根月の雫に濡れそぼれ
霜満ちて残月凍る棚田かな
(06/11)
初霜や冬耕遅速の田にまだら
露はれし蕪の肩の白きかな
黄落やビルの谷間を吹き上がり
吊るし柿娘の部屋の窓隠し
寄せ鍋や里帰りせし娘が奉行
(06/10)
里山や植えしも刈りしも見届けり
日は落ちてわが影苅田に伸びにけり
秋茄子を丸かじりして温め酒
雲切れて列車に連れ添う後の月
新藁やもくせいの香包み込み
(06/09)
老鶯や一声残して去りしまま
風に揺れ竹笹の掃くいわし雲
秋冷や隠れしとかげ忍者めき
ビルの谷夕日に染まる猫じゃらし
早稲の田に案山子横目に雀群れ
(06/08)
さりげなく夕月冴えて梅雨明けぬ
脛白き舞妓や祇園のにわか雨
炎熱やお盆の鉦もだるげかな
じりじりと灼かれてバス待つ人の列
閑かなる炎暑の街往く僧独り
(06/07)
外つ人の浴衣に馴れし京の夏
浴衣着た孫を娘と見紛いぬ
花火見る浴衣美人の手にケイタイ
それなりの姿で呷る象鼻杯
手裏剣を天に向けたり黍の花
(06/06)
水ぬるみ笹舟追いて児ら走る
通り雨澄める月在り溜まり水
ひと独り農機を連れに田植えかな
吾こそと背筋を伸ばす花菖蒲
長梅雨や香焚く煙堂去らず
(06/05)
うぐいすの音に馴れ初めし童女かな
里の春パトカー洗う駐在所
春の水共に歩めるはやさかな
はくれんの映りし水面に緋鯉かな
春の闇そこはかとなく物芽かな
(06/04)
江田島や桜舞い散る赤煉瓦
放たれて稚鮎の生命(いのち)ほとばしり
河口湖桜花も映して逆さ富士
花吹雪木蔭の美人ホームレス
大蚯蚓草萌ゆ野道に身を委ね
(06/03)
侘助や梅にさきがけ得意顔
梅の香の漂う彼岸の余寒かな
サクラチル告げる児の声胸に抱き
春雪や燦く梅林鎮めけり
君子蘭出入り忙しき三寒四温
(06/02)
雪しんしん遥かな鉄路の音も消え
冬涸れし里田に冴える山の鐘
寒牡丹雪も陽射しも囲い込み
残り雪溶け込む靴音春の音
合格を告げて春めく孫の声
(06/01)
余生なほ夢を大きく喜寿の年
おだやかに句碑を囲みて霜柱
古こよみ貯まりし名画捨てやらず
合格を祈る掌凍みる孫いとし
参道に寒気貫き初ひかり
(05/12)
木枯らしや数へるほどの葉を残し
病棟の灯も温き聖夜かな
モノレール積もりし雪を踏み敷きて
雪撲る病窓に想う句の仲間
初雪に思はず埋もれし花時計
(05/11)
何気なく石庭に散る紅葉かな
錦繍を脱ぎ捨て里山痩せにけり
鉦の音の凛と響きて菊日和
石庭に落葉拾いの翁ひとり
初雪や大根焚きにふんわりと
(05/10)
夕月夜人影残りし苅田かな
長き夜にふと手に取りし季寄せかな
夕風や鉢に二本の秋桜
木犀の香に惑わされたり月明かり
苅田道黄色い帽子の児らの列
(05/9)
北領土指呼に羅臼の秋を行く
網走の湖染めしサンゴ草
知床や鱒の遡上に胸熱し
千枚田尽きて群れ咲く彼岸花
新学期稲穂の列に子らの列
(05/8)
暑い闇のうぜんかずらの色妖し
デパートに涼を求める昼下がり
来し方を雲に回らせ喜寿の夏
稲妻にはたと途絶えし子らの声
渓流に銀鱗跳ねて山滴る
(05/7)
病窓にけむる翠の日々に濃し
長雨や点滴台の音も湿り
七夕の病棟癒す笹かざり
太陽の塔夕日輝き梅雨明けぬ
夏の夜の帳切り裂き着陸機
(阪大病床にて)
(05/6)
闇迫り妖しく浮かぶはなうつぎ
つわぶきの掌に南天のこぼれ花
月満ちて老松映す代田かな
山あいの棚田に孤蛍飛ぶを見ゆ
水無月や松の滴露に髪濡れし
(05/5)
行く春をとどめてひらりはなみずき
堰切りて今将に代田へ迸る
ころもがえ眩しき女性専用車
竹林の繁りて伽藍見え隠れ
ケイタイを聴く腕あらわ衣更え
(05/4)
誇らしげ百花にさきがけ黄水仙
もつれしを綴りて揺れる雪柳
うぐいすの声おとなびて山笑う
喘ぎ来て見晴るかすかなカタクリの花
廃校を知るや知らぬや花吹雪
(05/3)
君子蘭廊下に居据わる余寒かな
春宵に抜かれし根深の白さかな
サクラサク知らせに祝う門出かな
卒業の子らそれらしき顔になり
月明かりぬきあしさしあし椿道
(05/2)
湯豆腐に曇りし硝子や外は雪
烏賊釣りのランプに透けて雪舞いぬ
冬草や踏み散らされし薄化粧
配達の音に耳すます雪の朝
OLの茶髪乱して春一番
(05/1)
初春や寂しき里にも大家族
星空やインド洋に散る子ら想う
晴れ着の子抱えて離さじ福袋
喜寿迎え寿ぎて見ゆ福寿草
冬枯れし里睥睨す送電塔
(04/12)
病窓にもみじ移ろい秋ぞ逝く
木枯らしの去りてホスピタルパークに落ち葉踏む
点滴の腕にほのかな寒さかな
病室をひとりで去る朝言葉少なし
ウインドウ水滴つたいて点滴想う
(04/11)
コスモスの叢しとどなり霧深し
朝靄に籾焼く匂い溶け入りぬ
つわぶきや何を見るやら垣根越し
色づきぬ里山捲きて霧一条
登校の子らの呼ぶ声霧の中
(04/10)
月残りもくせい漂う滴露かな
用水に障子を洗う里の家
秋寒や小雀の居てふくらみぬ
水引きて寝姿あわれ川すすき
独り居て灯火親しむ山の小屋
(04/09)
風すさび羽もどかしく秋の蝶
栗のいが通い路ちりばめ嵐去り
彼岸花稲穂に媚びず背を伸ばし
水溢れ穂を泳がせるすすきかな
虫の声杜絶えて読経の声高し
(04/08)
クーラーの音も苦しげな昼下がり
フアミレスを約して孫と墓参かな
猛暑にもものかは稲穂伸びに伸び
朝露の宿る間もなき熱帯夜
孫去りて庭に残りし花火跡
(04/07)
葉朽ちしにけな気ぞトマト赤きかな
空うつす水面隠して稲伸びぬ
日は昇りウオーカー去り行く猛暑かな
塗り替えし鉄塔聳え山滴る
外つ人のゆかた姿や鉾巡る
(04/06)
水張りて田植え機あれど人ぽつり
代田暮れ灯ともす農家映しけり
あじさいの競い咲きしに目の移り
老いし穂を包むがごとく青すすき
南天の咲きこぼれしに実ぞ想う
(04/05)
五月雨や堰の水音高くなり
名に惑い花にも惑い薔薇の園
里山や青葉に埋もれふくらみぬ
苗代や青空映してみどり萌ゆ
霖雨やばいかうつぎの白冴えり
(04/04)
忽然と里遠く映ゆ山桜
山峡の瀬を流しゆく花いかだ
口中に精気みなぎる若牛蒡
若やいで華やいで行く観桜会
鋤き終わり水待ち顔の春田かな
(04/03)
北窓を開けて微風を請じ入れ
鐘の音のだるげにわたる春霞
水しぶき軽やかに舞う春の川
鶯や庭に飛び来て啼かず去り
春泥に足踏み入れる稲田かな
(04/02)
枝の雪とけて在りたり初蕾
大根の首温しげな冬日和
白菜の霜葉の内の白さかな
冬晴れやひねもす水路を治す群れ
参道を行きつ戻りつ梅の香や
(04/01)
冬田鋤く影絵が伸びて日は落ちぬ
南天の実の転がりて初氷
賀状繰り家人の声も上の空
振る舞の甘酒に染む少女かな
境内にどんどのありて小正月
(03/12)
蔦枯れて六甲おろしの声いづこ
鋤きし田の藁と土とに霜斑
鰭酒や暖簾を梳きて匂い来ぬ
靴音の乾きて高し夜寒かな
初雪や白菊のごとブロッコリー
(03/11)
秋霖やつわぶきの黄の冴えわたり
夕日照る白壁を背に柿映える
描くごと籾の捲かれし冬田かな
朝霧の流れて燃える山浮かぶ
木枯らしや濡れ落葉をも剥がしけり
(03/10)
雨戸繰る朝にもくせい匂い来ぬ
秋寒や更衣の紺の温さかな
露ひかる稲田に泊まりしコンバイン
茅屋のコスモス独り風に揺れ
日が落ちて湖面を渉る風凛と
(03/9)
ひと夏のにぎわい去りて河童橋
朝露に足あと残りて小草道
稲穂垂れ彼岸の花もたおやかに
秋晴れをまるく映して蓮の露
秋の日の落ちて読経の声高し
(03/8)
夏遅し稲穂伸びよと祈るのみ
遅き夏取り返すべく蝉しぐれ
蓮咲きて心安まる長き梅雨
朝露や一輪ごとの木槿かな
麻殻焚く闇に浮かびて浴衣かな
(03/7)
里映す水面の消えし稲田かな
長梅雨や並木繁りてバスに触れ
梅雨晴れに呼ぶ声聞こえず子ら遊ぶ
梅雨空に怒涛打ち寄せ甲子園
梅雨晴れの朝日にひまわり笑ふごと
(03/6)
ころもがえ乗せて軽やかスクールバス
晴れ晴れと里山映して代田かな
天に向け切っ先するどき青すすき
事もなげぽつりヒカリて孤蛍飛ぶ
渓流に銀鱗躍りて山滴る
(03/5)
藤棚を梳き通り来て風やさし
春の海ゆらりゆらりとたらい舟
鶯の声大人びて山深し
紫陽花や我がもの顔に競いけり
ひたひたと代田に浸み入り水温し
(03/4)
花見客去りて残れし月おぼろ
水複えり水草芽吹く用水路
人影のなき廃校に花吹雪
春嵐蔓に委ねて花豌豆
散る桜仰向けに観て草いきれ
(03/3)
みたらしや手の掌凍みて余寒かな
坂道に風の光りて丘の塔
碧と梅窓に見上げて腕まくら
あぜ道に泥を叩きて春田かな
木漏れ日に芽吹く名もなき草のあり
(03/2)
月残り明星冴ゆる霜の暁(あさ)
暮れなずむ里田に舞うや牡丹雪
梅香り絵馬に手合はす子らのむれ
陽だまりに三毛寝そべりて媼ぽつり
沈丁花つぼみ叢がり匂いたつ
(03/1)
折々に詠める稲田に初日かな
侘助や椿よそ目につつましく
走り行く孫見失う初詣
冬枯れの岸沿う流れは糸のごと
霜消えて小松菜を引く冬日和
(02/12)
鴉啼き人影見えぬ冬田かな
霜枯れのすすきも浴びる冬陽かな
葉牡丹の戸毎に並び師走かな
街の灯の凍りて見ゆる坂の道
パトカーの冷たき闇を切り裂きて
(02/11)
涸れた田に籾焼く煙たなびきて
川霧にすすきも隠れ瀬音のみ
つわぶきや冷雨に打たれ凛然と
木枯らしを追いて一帆矢のごとく
初霜や座る人なきベンチかな
(02/10)
風去りて木の実の山路を覆いけり
朝もやに金木犀の匂いたち
水退きて藁の匂いの稲田かな
天高く灯台白し経が岬(きょうがさき)
秋の陽にかもめとたわむれ伊根の船
(02/9)
黄金の穂波に潜みぬ彼岸花
敬老は人のことかと思いしに
柿熟れて山里にぎわうウオーカー
前線の北も南も秋便り
人影も遠慮しがちなコンバイン
栗の実のとげとげしきぞ秋近し
あおき葉の波間に稲穂の見え隠れ
朝露に濡れそぼれしシューズに秋を知る
青柿や嵐に落ちて夏も去ぬ
球児去りそよぐは壁の蔦のみぞ
(02/8)
雨休みて(やみて)遥かにけぶる浅間山
雨激し人影寂し清里の夏
緑陰に独り楽しむ酒樽の温泉(お湯)
緑濃きスキー場眼下に露天風呂
朝露に光る稲葉やウオーキング
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