ばーん・ぼらーん便り

<その6> 101の日本人 Mi先生紹介

あ、101はここではロイエットと読みます。
101には現在10人以上の日本人が住んでいると思われる。親しく行き来する仲間の中心に位置するのは、そろばんのMi先生。Miさんは、思うに、「たったひとりのNGO」である。日本から外に出てみると、思わぬところに日本人が住んでいて、その人たちはそれぞれの暮らし方の中で その地になくてはならない人になっている、という状況を目撃する。Miさんもそのひとりだ。Miさんは「そろばん背負ったバックパッカー」だったらしい・・英語圏で何年かそろばんを教えてきたのが、アジアに目を転じたとき、そろばんに縁深い土地はタイの101(そろばん産地の島根県横田町と何年も交流がある土地)と知り、ある年ふらっと(ではなくて、個人的視察だったのかもしれないが)やって来る。ここと決めて住み始めた101、ある私立小学校に職を見つけ、英語(日本では高校の英語教諭だったそうだ)とそろばん(なんと10段の腕前!!)の先生として学校の「顔」になってるMi先生。101在住4年、ここ1年間は新設された中学で日本語も担当し、3in1状態だ。(註:スリー・イン・ワン=コーヒー+砂糖+ミルクが一体になったインスタント飲料のこと。Mi先生は英語+そろばん+日本語) ところで、タイには公立と私立、そしてMaliが2年前に勤めた王族援助の(王族立とでも言ったらよいのだろうか)学校がある (タイに12校)。101のような地方の1都市で見る限り、私立の学校の先生方は実によく働く(働かされる)。生徒を集めて運営する以上は教育熱心な上に、さまざまな父母のニーズに応えるべく教育設備にも力を注ぎ、補習授業や年に何度かある学校対抗学力試験のようなイベントにも積極的だ。Mi先生のホームステイ先の教務主任の女性教師は、4時の生徒の下校時刻後すぐに帰宅することはまずないし、土日も学校に出向いて仕事をすることが多い。一方、 そのご主人は公立高校の先生だが、4時半ごろには帰宅でき、主夫業に専念できる。私立に勤めて拘束時間の多い奥さんの給料の方がいいかと言うとそうでもない。Mi先生も単身乗り込んで契約した仕事であるから、タイ人と同様に給料をもらって働いているが、 (日本人の金銭感覚で言えば)わずかな給料(失礼!) でフル活動である。ボランティアと呼んでいいと思う。実際、金銭面だけでなく、その情熱、責任感、惜しみなく尽くす態度は、真のボランティアだ。 小学3年生から6年生のそろばんの授業はタイ人の算数の先生とペアを組むから、先生方もそろばん指導に長けていく。Mi先生が最初に教えた生徒たちは今では最上級の6年生。腕を上げて段に昇格した生徒もいるそうだ。毎日早朝クラブも開いて、7時には学校 に出てきた子どもを対象に、昼休みも同様に指導。朝ごはん抜き、昼ごはんも省略となることさえあるそうだ。(わたしには真似できない!)子どもたちがピッとした姿勢でそろばんの玉をはじき、級を上がっていくのに顔をほころばせるMi先生である。(そろばん無級の私は穴があったら入りたくなる。)
もともと101は島根県横田町との交流でそろばん教育に力を入れてきた。毎年行き来があるそうである。そんなときも、Mi先生はタイ側の下準備の手伝いに活躍。書類の翻訳整理、迎える側の準備手伝いなど縁の下の力持ちである。(このような日本からの善意の交流を迎えるタイ側裏話については色々言いたいことがあるが、それはまた別の話。)
近年、JICAのプログラムのひとつ「そろばん指導」が何年間かタイであり、毎年選ばれた1県を対象に実施されていたが、2002年度はここ101が対象であった。県下の公立小学校の先生 (各校2名)を対象にそろばん指導を行い、先生養成→生徒指導と裾野を広げるやり方だ。1年かけての辛抱強い指導(暑い気候のもと、県下の中年・熟年の先生方相手に順に週単位で集中的にそろばん指導を行うのは想像するだけで大変そうだ)が行われていたが、残念ながら次の年度は別の県に移ってしまいアフターケアまで手が回らない。各校に寄付されたそろばんだが、生かしてそろばん授業を行い続けている学校ももちろんあれば、ダンボールごと職員室の隅にうっちゃられている学校もあるそうだ。日本国のお金で組織的に行われる事業は地元に対して確実にインパクトがあるのだが、長期的に見て、定着させるにはアフターケアと継続指導が欠かせないと思う。
Mi先生は何の組織にも属さず個人でひとつの学校に所属し、その生徒対象という小さな限られた範囲であるから微力であろう。が、継続的にきめこまかな指導を行い、確実に成果を上げている。脚光を浴びるわけでもないし、教材副教材調達も自力だ。でも、Mi先生によって育った生徒たちは幸せだ。彼らの知る日本人=Mi先生は熱心でこわくて優しい頼りになる先生だ。たったひとりのNGOだ。知らない世界で知らない日本人が活躍して信頼されている、と知って温かな気持ちになる。Mi先生はまだまだ101で教え続けそうだ・・・帰りたいけど帰れないのよね〜なんて笑ってる。

2/22/'04

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