その8

「あれこれ7」で述べたように、今日は王妃誕生日ということで、テレビはお祝い行事を流し続けている。歌の祭典あり、サッカー試合あり、チャオプラヤ川(メナム)でのボートレースあり・・・そして午後6時頃。全国各地一斉に町や村の中心地に人々が集う。ここロイエットの町の中央にある「王母公園」も例外ではない。市内の四方からパトカー先導で楽隊に続き、市内の学校の先生生徒が行列して集い、祝福集会をしている。先生方の多くは、この日のために買い揃えたのだろう、王妃の紋章のついたお揃いのポロシャツを着ている。水色に近い薄紫色のポロシャツだ。タイの絹の服で正装している人もいる。生徒達(全校生徒ではなく上級生のみだろう)は、制服姿、赤白青のタイ国旗を手にしている。タイは不敬罪もありうる王国、今日の行事は滞りなく済ませることだろう。

しかし、このように大切な国家的行事の行列にしては、ちょっと・・・つまり、もっとピシッと美しく行列してもいいと思うのだが、皆さん、そろそろと歩くので歩調も均一でない。そろそろとは、だらだらとに置き換えてもいいかもしれない。でも、このタイ人独特の足の運び方は、いやいやにだらだらしているわけではないので、「たらたらと歩く」と私は表現したい。行列が角を曲がるときは、皆さんご存知のように、内側の人間は足踏み、外側の人間ほど歩幅を大きくして歩くと美しくカチッと四角く曲がれるのに、どうもそういう行列は見られない。それより、悠々堂々と足を運ぶことの方が重要なのに違いない。

ゆったりと心穏やかに、というのが良しとされる。

田んぼや植林地、道路の敷石、塀・・ありとあらゆるものがまっすぐでないこの国。下手をすると、部屋も正方形・長方形ではない四角形だったりする。部屋もコンセントの付け方、配線の仕方、どれを見ても、きちっと統一のとれた直線にお目にかかるのは難しい。

直線の美というのはこの国では通用しないのだろうかと、だんだん思い始める。

ほら、タイ舞踊といえば、指をそらせて舞う美しい踊り。寺院や家に見られる装飾は曲線で描いたタイ独特の模様や型。高校の美術の時間に生徒達が描いていた伝統的図法のタイの物語絵。美しい曲線で描かれる。

たとえば街をざっと眺めたときに、直線的かそうでないかは、見る人の美的感覚によってずいぶん異なるだろう。

というわけで、「きちっと、ぴしっと、真っ直ぐ、揃って、等間隔で」といった言葉は、ここで暮らしている間は忘れようかと思う。

8/12/'04

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