風に、薄紅の欠片がはらはらと踊っている。真神学園の校庭の桜は満開を迎え、時折吹く気まぐれな風に花びらを散らしている。
蓬莱寺京一は、そんな穏やかな春の朝の気候と反比例して機嫌が悪かった。
そもそも、京一は間違っても、始業式などという退屈きわまりない代物に大人しく参加するような玉ではない。当然、今日も端から登校する気などなかったのだが、先日、卒業式でやらかした大立ち回りが響いて、早朝に家を叩き出されたのだ。
夜ならば転がり込む当ての一つや二つはあるが、流石に平日の早朝に扉を叩いて歓迎される場所は思い当たらない。
仕方なく、京一は指定された教室で朝から机に懐く羽目に陥っていた。
教室は変わったものの、2年からの持ち上がりで新鮮味に欠ける教室内は、しかし何故か奇妙にざわついている。
そこへ、登校してきた醍醐雄矢が声をかけてきた。
「珍しく早いな、京一。お前の事だからサボるんじゃないかと心配していたんだが」
生真面目な台詞が、家を出るときの親のそれと重なって、京一は顔を顰めた。
「…叩き出されたんだよ」
「日頃の行いの結果だな」
「やかましー」
「お前ももう少し、落ち着いた方が良いという事だ。これを機に少しは自重しろ」
当然と言わんばかりに頷く醍醐が小憎らしいが、この男は冗談抜きで改心を迫っているから始末が悪い。
「なんか、騒がしいみてーだが、なんかあったのか?」
「ああ…さっき遠野が廊下で、真神新聞の号外をばらまいていた。転校生が来るらしい」
さりげなく話題を変えた京一に気づいたのか気づかないのか、醍醐はさらりと答えた。
「転校生だぁ?もしや、美人のおネェちゃんッッ?」
途端に目の色を変えた京一に、醍醐ががっくりと肩を落とす。
「お前という男は…それしかないのかっ!」
「男としての基本だろうがッッ!」
間髪入れずに断言されれば醍醐に反論の余地はない。
「第一、どうして『美人』と『おネェちゃん』が結びつくんだ?」
「こんな時期外れの転校生、それくらいの条件が揃ってなけりゃ嘘だろーが」
京一のあくまで自分本位な答えに、醍醐はふと遊び心を起こした。
「……お前好みかどうかは知らないが、遠野はかなりの美人だ、とは言っていたな」
「……なんだ男か」
京一はがっくりと肩を落とした。引っかけてやろうという思惑をあっさり看破されて、醍醐は首を傾げる。
「何故わかった?」
「アン子が美人情報を無料でばらまくとは思えねェ。金取って売るだろ。号外扱いって事は喜ぶ対象が同じ女だってことじゃねーか」
「ホント、京一っておネェちゃん関係には異様に鋭いよねぇ。普段はあんなに馬鹿なのにさ」
割って入った笑い声と共に、突っ伏した背中を平たい物で容赦なく叩かれて京一は呻き声を上げた。
「何しやがる、小蒔!それに、誰が馬鹿だっっ!」
「京一に決まってるじゃないか。おはよ、醍醐クン」
「ああ、おはよう桜井」
桜井小蒔は手にした鞄を机に下ろすと、にこりと醍醐に笑いかけた。醍醐の頬に微かに朱が上るのを、少々の同情を絡めて京一は面白そうに見守る。ボーイッシュでさっぱりしている小蒔は下級生の女子に圧倒的な人気を誇るが、男の目で見ても十分可愛い。醍醐の想いは、側にいる人間にはわかりやすい位だが、何せ小蒔は決定的に鈍かった。
「転校生の話だよね?最新情報、追加だよ。ウチのクラスに編入だって。良かったよね、男の子でさ」
「何がいいもんか。俺の美人のおネェちゃんが〜」
「かーっったく、このおネェちゃん馬鹿はっ。良いんだよ、男の子で。男の子だったら京一の魔の手にかかる心配がないじゃないか」
「なんだとこの…」
喚く京一を完全に無視して、醍醐は小蒔に尋ねた。
「情報がが早いな…遠野か?」
「今回は、情報源は葵だよ。マリアセンセに聞いたんだってさ」
「おはよう、醍醐君、京一君」
「ああ、おはよう」
「居たのか?美里。小蒔の後ろなんかに隠れて無くてもいーんだぜ?」
「京一君と小蒔があんまり楽しそうだったから」
先刻から小蒔の後ろで話を聞いていたらしい。くすくすと笑う美里葵は、小蒔とは正反対のタイプの正統派美人である。
それに加えて、成績もトップクラスを維持し、生徒会長までやっているとなれば嫌みになりそうなものだが、おっとりとした性格と自然な気遣いで同性にも受けが良かった。
「ははっ、確かにな。お前らは楽しそうだよ」
「あ〜醍醐クンまでそんなこと言う?」
「醍醐、てめぇな…」
二人揃った低音の呟きを聞いた醍醐が慌てたように話題を変えた。
「ま、それは置いておいて…美里、転校生はウチのクラスに来るのか?」
「えェ。明日ってことだそうよ」
「やっぱ男なんだよな?」
「京一君には残念だけど…」
美里に直接マリアに聞いたのだと言われて、京一はもう一度机に突っ伏した。
「ああァ、つまんねーな」
肩を落とした京一に、醍醐がふと真顔になる。
「………そう思うか?」
「ナンだよ」
「…最近何か、落ち着かない。何かが来る…そんな気がするんだ。転校生の話を聞いた時には、正直、驚いた」
「あ、それボクも。なんか…この春は特別って気がするんだよね」
「それは私もだわ。なんていうか…胸が騒ぐの」
小蒔や、美里までが頷くのに京一は眉を寄せた。
「おいおい。裏密じゃあるまいし、予知でもしようってのか?タイショーに似合わないぞ?小蒔や、美里までどーしたんだよ?」
「からかうな。お前は…感じないか?」
醍醐の言いたいことはわからなくはない。茶化してはいたが、京一にも皆の感じているものは理解できたからだ。
何か、が起こる。
そんな、漠然とした想い。
いつもの春とは違う胸の奥を騒がせる『予感』。
しかし、それを正直に出さないのも京一である。
「さァてね。ま、美人のおネェちゃんじゃねぇなら俺には関係ない話だな。女がみんななびいちまうよーな男なら問題だが、俺よりいい男がそうそう転がってる訳ねぇからな」
京一が、口ほどには醒めていないことを知っている醍醐は笑って、
「お前らしいな」
とだけ、言った。
転校生がやってきたのは、その翌日のことだった。
「HRに入る前に、今日からこの真神学園で一緒に勉強する事になった転校生のコを紹介します。一ヶ月ほど前にご家庭の事情でこちらに引っ越してきたばかりなの。わからないコトもあると思うから、みんなイロイロ教えてあげてね。さ、緋勇クン」
マリアの促しに、入り口に立っていた少年が教壇に足を進めた。
「緋勇龍麻といいます。どうぞよろしく」
軽く頭を下げた転校生が顔を上げた瞬間、京一は視線を奪われた。
大柄ではないが、背は高い方だろう。決して華奢なわけではないが、すっきりとした立ち姿は無駄を感じさせないしなやかな獣を思わせる。顔立ちは、無造作に伸ばした長い前髪の下に殆ど隠れていたが、黒く澄んだ眼差しがまっすぐ前を見つめているのが印象的だった。
そこに在るだけで人の目を奪わずにはいられない、『華』を感じさせる姿。
視線を奪われたのは京一だけではなかった。教室内のほぼ全員が、教壇に立つ転校生に目を奪われている。不思議な存在感と緊張感がその場を支配していた。
その、一種の緊張状態を打ち破ったのは当の転校生だった。集まる視線に照れたように、ふわりと口元を緩めたのである。
それを切欠に我に返った女生徒から矢継ぎ早の質問が飛び、転校生は困ったように視線を泳がせ始めた。その様子からは、先刻の一瞬たりとも目を離せないような雰囲気は消え失せている。
「チョ、チョットみんな待って。緋勇君が困ってるでしょッ。質問はもう終わりにします。席は…確か美里サンの隣が空いていたわね。美里サンはクラス委員だから色々教えてもらうといいわ。美里サン、よろしくネ」
飛び交う質問を強引に打ち切ったマリアは、転校生の着席を確認して声を張り上げた。
「さぁ、気持ちを切り替えて。HRを始めます…」
次の休み時間、3ーCの教室はちょっとした興奮状態だった。女生徒は興奮気味に、男子生徒はそれに引きずられるような形で転校生を遠巻きに見ている。
(おーおー、注目の的ってヤツだな、こりゃ…)
時期外れの転校生という事実に加えて、本人が人の目を惹く容姿をしているとあって、緋勇龍麻に対する注目度は高い。物好きばかりだと思いつつも、京一自身も興味を持っているので人のことは言えなかった。
まさか、この自分が『男』を気に掛ける日が来るとは。自分でも信じられないが、沸き起こった好奇心は止められなかった。
この様子では、転校生が人の輪に囲まれるのも時間の問題だろう。
しかし、意外にも一番に声を掛けたのは朝、質問責めにしていた女生徒達ではなく、隣の席の美里だった。
「緋勇君、よろしくね」
微笑みかける美里に、耳をそばだてていた周囲の人間に密かなどよめきが走る。美里は人当たりは良いのだが、自分から積極的に初対面の男子生徒に話しかけるタイプではない。それが、自発的に話しかけ、あまつさえ楽しそうに笑っているとなれば一部の人間にとってそれは既に事件である。それだけ、転校生に対する興味があったのだろうが、それを喜ばない人間がこのクラスには存在する。
(こりゃ、ヤバイかもな…)
視線を向けると、案の定教室の片隅の一団が、不穏な視線を投げている。
肝心の、視線を向けられた方は小蒔も絡んで何やら楽しげに話している。転校生に何やら囁いて走り去る小蒔を、顔を真っ赤にして美里が追うのを目にして、不穏な視線が一気に殺気の籠もったそれに変化する。嫌な雰囲気を感じて京一は眉を寄せた。
以前から美里に邪心を抱く佐久間は、これまでも何度かトラブルを起こしている。大抵の場合は醍醐が割って入っているのだが、今日はその醍醐の姿が朝から見えない。佐久間はあれで喧嘩の場数は踏んでいる男だ。厄介な事になる前に、忠告は必要だろう。
密かに声を掛ける口実を得たことに喜んでいる自分が、どうしようもなくらしくないと思ったが、仕方ない。
「あ〜あ…あんなにカオ真っ赤にしちゃってカワイイねェ〜」
声を掛けると、転校生は僅かに目を見開いて京一を見返してきた。
「よォ、転校生。俺は蓬莱寺京一。これでも剣道部の部長をやってんだ。まぁ、縁あって同じクラスになったんだ。仲良くしようぜ」
見開かれた目が和み、ふわりと笑みになる。
「こっちこそ、よろしくな」
笑った表情は柔らかく、京一は思わず息を詰めた。
(コイツ…)
すっきりとした鼻筋と、濡れたような瞳。白い肌に薄くほんのり色づいた唇。長い前髪に隠されてはいるが、間近で見ると転校生は恐ろしいほど整った容貌の持ち主だった。
一瞬見惚れてしまった自分を誤魔化すかのように、京一は言葉を重ねる。
「そうだ、ひとつだけ忠告しておくが、あんまり目立つマネはしない方が身のためだぜ」
「目立つ…?」
首を傾げる転校生に、京一は肩を竦めた。
「このクラスには始末に負えねェ、頭に血の上り易い奴らが多いからな」
今も、穏当とは言いかねる視線を向ける一団にちらりと視線を投げてみせる。転校生はすっと眉を寄せたが特に怯えた様子もなく不思議そうに訊ねてきた。
「何か…えらく睨まれてるけど、なんかしたかな?」
「まァ、美里は真神じゃ有名人だからな」
「美里さん?」
「アイツらは美里に近づく人間は全員気にくわねェんだよ」
まぁ、佐久間達が殺気立っている理由は、当の美里がいつになく積極的な態度に出ているという事実があるからだろうが。
「まッ、そういうこった。無事に学園生活を送りたいなら、それ相応の処世術も必要って事だ」
「近づくって、挨拶しただけだし、席、隣なんだけど…」
美里の態度をどう思っているのか、首を傾げて悩んでいる。ふと好奇心が湧いて、京一は訊ねた。
「美里は美人だし、性格の良さは折り紙付き、今のところ男っ気もナシだ?どうだよ、そーゆーのは?」
それを聞いた転校生の目が、さっきまでとは違う、悪戯っぽい光を宿した。
「それ、さっき桜井さんにも言われたよ。けどさっき、蓬莱寺は楽しい高校生活には処世術が必要って言わなかったっけ?その直後にそういう事聞かれちゃうと、何て返事して良いのか悩むんだけど…どう答えるべきかな?」
妙に楽し気に、しかし最後は本気っぽく聞き返されて、京一は一瞬詰まった。そう返ってくるとは思わなかったのだ。丁度その時予鈴が鳴り、会話はそこでお開きになった。しかし、京一の心には確かな感覚が刻まれていた。
(コイツ、面白れェかも…)
結局、昼休みに京一は校内案内を買って出た。
何となく、気になってしまうのだ。視線が追ってしまうと言った方がいいのかもしれない。それに、佐久間がしきりとちょっかいを出したがっている素振りなのも気になる。
転校生は京一の申し出を笑顔で快諾した。
「悪いな、蓬莱寺。昼持ってきてないから、ありがたいよ」
「おう、今からだと売店は厳しいから学食でいいか?」
「任せる」
その様子に、教室内が更にざわめく。美里が男子生徒に積極的になるのも珍しいが、京一が男を構うのは更に珍しい。というか、今まで誰もそんなものは見たことがない。
二人が出ていった後の教室は、ちょっとした恐慌状態に陥ったのだが、勿論京一はそんなことは知らない。
学食で食事を済ませ、校内を一通り案内してやる。
転校生は大人しく付いてきていたのだが、窓からの眺めにふと足を止め、眉を寄せて尋ねてきた。
「蓬莱寺、あれは?」
転校生が示したのは、敷地の隅に建つ古い建物だった。
「ん?あぁ、ありゃ旧校舎だ」
「旧校舎?」
「今は使われていない廃屋だ。立入禁止だけど、お約束みたいにそっち方面の噂にゃ事欠かない場所だよ」
冗談交じりに京一はそう解説したのだが、転校生はただじっと古い校舎を眺めている。
「緋勇?」
「あぁ…何でもない。行こう」
何でもない、といった風ではなかったのだが、転校生の様子はそれ以上の質問を拒む雰囲気があった。深く追求出来ず、京一はそのまま案内を続ける。
生物教師犬神と担任のマリアのやけに真剣な言い争いに遭遇したのにも驚いたが、行き会った霊研の部長、裏密ミサまでこの転校生に友好的なのには驚かされた。
霊研…オカルト研究会は、変わったクラブの多い真神の中でもトップクラスの変わり種である。その部長を務める裏密ミサは変人以外の形容詞の思いつかない程の変わり者で、京一もだが、特に醍醐辺りは遭遇することすら恐れている。
その、裏密と転校生は実に友好的な雰囲気で話をしていた。
「うふふふ〜緋勇〜くんとは〜仲良くなれそう〜」
ひらひらと持っている人形の(!)手を振る裏密に、転校生は怖じる風もなく手を振っている。京一には理解できない…いや、絶対に理解したくない感覚である。
「お前…」
「なに?」
「アレを見てなんも思わねェのか?」
心底嫌そうに尋ねる京一に、返ってきたのは実にのんびりとした答えだった。
「今まで会ったことのないタイプ、かな?」
「当たり前だッ!あんなのがそうそう転がってたら安心して道も歩けネェだろーが」
「だから、新鮮だなって思って」
京一は無言で転校生の首を抱え込んだ。道を誤ろうとしている若人は止めてやらなければならない。使命感に燃えて、京一は転校生の耳に囁いた。
「男ならあーゆーおぞましい世界以外にも愉しみは沢山あるんだよッ!いいか、丁度この三階には実にナイスなスポットがある。上手くすれば非常にイイモノが覗けるとっておきだ」
「いいもの?」
「そうそう。ちょっとこっちへ…」
さりげなく場所を移そうとした京一の背後から、おどろ線を背負ったような声があがる。
「きょ〜いちィ、あんたねェ〜」
何事かと振り向いた視界に、天敵とも呼べる存在を見つけて京一の顔はたちまち強張った。
「げッ、アン子!」
「げッ、アン子じゃないわよッ!なんにも知らない転校生にナニ吹き込んでんのよッ」
遠野杏子は、どこへでも首を突っ込む野次馬根性と、恐るべき行動力で真神学園新聞部を一人で背負って立つ女傑である。問題児で新聞ネタに事欠かない京一とはいわゆる犬猿の仲という奴で、先日の卒業式での一件も、真神新聞のスクープで一気に広がったようなものなのだ。
「い、いヤァ…」
「あんたの品のなさが伝染ったらどううするつもりッ」
そこへ、畳みかけるように顔を出した小蒔が言葉を継いだ。
「まったく…ホントだよ。そーゆー目つきの時って、な〜ンか企んでるんだよね…アンタの場合。京一はスケベを絵に描いて額に貼ったような奴だからね。着いてくとろくなコトないよ、緋勇クン」
「こ、小蒔ッ。なんで、お前が…」
アン子だけでも扱いにくいことこの上ないのだが、それに喧嘩友達のような小蒔まで加われば、はっきり言って勝ち目は薄い。
「ボク、そういえば、用事を忘れてました。遠野さんに桜井さん。すいません、急ぐんで、それじゃッ」
自分でもわざとらしいとしみじみ思う口実を口にして、
「悪ィな、緋勇。じゃあなッ」
じりじりと後ずさり、脱兎の如く逃げ出した京一の背中を、アン子の罵声が追いかけてくる。
「チョットッ、京一ッ!逃げるな〜!」
逃げるなと言われて待つ馬鹿は居ない。特にやましいところがある身でアン子と小蒔の相手をすればたちまち玩具にされてしまうのは確実だ。しかし、逃げ出したものの、人身御供を出したままでそのまま逃走を決め込む訳にもいかない。適当な物陰に逃げ込んで様子を窺った。
予想通りというか、転校生はアン子相手にも友好的に対応しているらしい。うっかりいい顔をしていると、骨の髄まで吸い尽くされかねないからと忠告しておく余裕がなかったのが悔やまれるところだ。
予鈴が鳴り、二人が離れていくのを確認して転校生の元に戻る。
「ふぅ…ようやく行ったか」
「あれ?蓬莱寺、用はいいのか?」
あれほどのあからさまな逃げ口上を真っ当に信じたというのは、馬鹿真面目なのか大物なのか。判断に悩むところだが、それは流石に顔には出せない。
「ンなモン、口実だって。どうも、アイツ苦手なんだよなァ。わりィな、緋勇」
「…仲が良いんだと思ったけど?」
さらりととんでもないことを言われて、京一の顔が固まった。
「ばっ、何をどう見たら、今のから仲が良いなんて発想が出きるんだよッ」
「なんでって、口調の割に遠野も桜井も楽しそうだったし」
「玩具にされる俺の立場はどーなんだよッ」
「そういや、そうだな。玩具は…ちょっと嫌かもな」
真顔で言う転校生に、思わず頭がぐらりと揺れる。なんとか倒れるのは回避したが、先刻から心に浮かんでいたある想いが疑問に変わった。
(コイツ、もしかして…)
そして、それを確認する機会は意外に早く訪れた。
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