朝の屋上に人気はなく、龍麻は息を吐いて、黙ってついてきた京一に向き直った。
「この間から、俺達変だよな。ちゃんと話さなきゃと思ってたのに、何かずるずるしちゃってさ」
「………」
「言いたい事は色々あるけど、まずは誤解を解いておこうと思ってさ」
 龍麻の言葉をどう聞いているのか、京一は只じっと視線を合わせて沈黙を守っている。いたたまれなくなって、龍麻は視線を下げた。
 流石に、この瞬間はまともに顔を合わせられない。これからの自分の言葉に、喜ぶ京一の顔は見たくなかった。
「羽村さんと俺は、別にどうこうある訳じゃないよ。楽しいし、可愛い子だとは思うけど、会ったのも昨日が二度目だし」
「………」
 黙ったままの京一の反応が怖くて、龍麻は早口で続けた。
「羽村さんは、俺が色々聞いたから気に掛けてくれているだけだよ。俺も、彼女が好みだって訳じゃない。京一があんまりムキになるから、ちょっとからかうつもりだったんだ。悪かったよ、考え無しな事してさ。謝るから、さ…」
「別に、怒ってねぇよ」
 やっと口を開いたものの、その口振りは酷くぶっきらぼうで、龍麻はますますいたたまれなくなった。
「そ、っか…良かった。けど、京一も気になる子の前だとあんなに不器用になるんだな。ちょっと意外だった。場慣れしてる京一でも、本気な子には迂闊に手が出せないとか?けど大丈夫だよ、彼女、お前の事楽しそうに話してたし。どーんどぶつかれば良いんじゃないか?真神一のイイ男なんだろ?行動で示せよな」
 胸の裡とは正反対の言葉が滑らかに口をついて出てくるのが、他人事のように感じられる。
 早く、早く終わらせて京一の前から逃げ出したい。
 しかし、最後の部分だけは、滑らかには喋れなかった。
「けど、本気ならナンパはやめとけよ。彼女だって良い気分じゃないと思うし。だから……暫く、お前のナンパに付き合うのは、勘弁な」
 我ながら、情けないほど掠れた声だった。これ以上、この場に居るのが耐えられない。
「俺の話はそれだけ。呼び出して悪かった。…行こうか、遅刻になる」
 視線を下げたまま、龍麻は京一に背を向けた。
 早くここから逃げ出したい。
 その思いだけが膨らんで仕方なかった。
 だから、背後から伸びてきた手に手首を捕らわれた時は、跳ね上がりそうになるほど驚いた。
「まだ、俺の話が終わってねェんだけど」
 驚いて振り向いた先にあった京一の顔には、龍麻が予想していたのとまるで違う表情が浮かんでいた。
 何かを堪えているような、複雑そうな、けれどやっぱりどこか喜んでいるような表情。それが痛くて、龍麻は再び視線を下げた。そんな龍麻の様子をどう思っているのか、変わらぬ調子で、京一は木刀を抱えた手で器用に懐から封筒を取りだした。
「その前に、これ。昨日落としていったヤツ」
 差し出された封筒が何か、一瞬龍麻にはわからなかった。それが表情に出たのか、京一が付け加える。
「あきのヤツが持ってきた封筒。昨日、落としていっただろーが」
 そう言われてやっと、龍麻は亜希子に渡された封筒と、その中身のことを思い出した。
(う、わ…っっ)
 亜希子が、面白いからあげると言って寄越してくれたもの。その中身を京一が知ればどう思うか。
「わ、悪いな、ありがと」
 そう言って引ったくるようにして封筒を奪おうとしたのだが、京一はひょいとその手を躱した。
「渡す前に、聞きてェな」
「……ッ」
 やはり、京一は中身を見ていたらしい。
「なんで、俺の写真が入ってんだ?」
「それ、は…」
 答えられずに龍麻は黙り込んだ。
 初めて会った日、亜希子は色々と中学時代の京一について話してくれた。あの頃から馬鹿だったと懐かしそうに話す彼女のことが気にならなかったと言えば嘘になるけれど、自分の知らない京一の話を聞けるのは嬉しかった。亜希子の話しぶりがあまりにも懐かしげで楽しげだったから、嫉妬がどこかに消え失せたのかもしれない。昨日、龍麻に会えたら渡そうと思っていたからと亜希子が差し出したのが、京一の中学時代の写真だったのだ。
「これで、アイツの事からかったら面白いよ」
 そう囁いた彼女は本当に楽しそうで、亜希子に複雑な感情を抱いていた龍麻も思わず微笑んでしまった。
 それを京一に見とがめられたのだ。

 沈黙を守る龍麻をどう思っているのか、京一もまた静かに龍麻の答えを待っている。
 沈黙が痛くてそろりと京一の方を窺った龍麻だったが、予想外の近距離に京一の顔を見つけて硬直してしまった。
 暫く見ていなかった至近距離からの、真剣な眼差し。
 視線に絡め取られて動けない龍麻の頬に、京一の骨張った掌が当てられた。
「何か、溜め込んでるツラしてる」
「………」
「言えよ。我慢しるんじゃねェよ」
「…言いたい、ことがあるのは、京一の方じゃないのか?」
 何とかそう言葉を紡ぐと、京一はすっと目を細めた。
「…あの時、すっげぇムカついた。…お前があきに笑いかけるから」
「………だからそれは」
 京一の方から告げられたくは無かった話だったから、無理して自分から振ったのに、結局は京一の口から聞く羽目になってしまっている。これ以上聞きたくなくて反論しようとした龍麻の言葉を、京一は全く意に介さなかった。
「お前があんな無防備に笑いかけるから、腹が立った。そんなに笑うんじゃねェとか思ったよ」
「………」
 聞きたくない、それ以上は言わないで欲しい。しかし、そんな龍麻の無言の願いなど、やっぱり京一には通じなかった。
「それなのに、昨日はまたあんな風にこっちの気も知らねェで笑ってるしよ。だから…」
「…それは謝っただろ?もういいじゃないか」
「よかねェよ。ちゃんと聞けっての」
 そこまで聞いて、遂に龍麻は我慢できなくなった。
 一晩掛けて、なんとか自分の気持ちを整理し――――とても整理しきれたものではなかったが――――泡立つ心を抑えてそれをちゃんと伝えたというのに、これ以上何が欲しいと言うのか。

 それこそ、人の気も知らないで。

 掴まれたままの腕を強引に奪い返して、京一を睨み付ける。沸き上がってくる怒りは、ずっと堪えてきたものも手伝って最早吐き出さないとどうにもやり場が無く。
 龍麻は、大きく息を吸い込んで、激情のままに京一を怒鳴りつけた。
「…お前、どうしろって言うんだよ!言っただろ?彼女の事は何とも思ってないし、お前の知らないところで会ったりもしてない!」
 怒りを露わにする龍麻に、京一も怯まずに怒鳴り返す。
「別にンな事はわかってるよっ!」
「じゃあ何なんだよ。何が言いたいんだよ?訳の解らない事言うなっての!」
「だから話を聞け、つってるだろーが!」
「さっきから聞いてるだろう!そっちこそ俺の話を聞いてないじゃないか!」
「聞いてないのはお前だろーが!」
 一歩足を踏み出した京一を避けるように後ずさった龍麻は、背中に壁――――屋上の隅にある給水塔のものだ――――を感じて我に返った。怒りが勢いに任せて怒鳴ってる内に、いつの間にか足が動いていたらしい。さっきまでの怒りが急速に退いていく。まっすぐ睨み返してくる京一の視線が急に痛くなって、龍麻は視線を逸らした。
「同じ事を何回も聞かされるのはもう十分なんだよ!もう…勘弁してくれよ……頼むから」
 そう言って、逃げるように背を向けようとした龍麻の動きは、派手な音を立てて壁に叩き付けられた京一の腕によって封じられた。直後にからんと響いた音は、京一が放り出した木刀が床に転がった音らしかった。
「逃げるなよっ!」
「逃げてなんか…っ」
「じゃあ、聞けよ!」
 真剣に怒りを露わにした眼差し――――昨日、唇を奪われたあの時と同じ目の光に、龍麻は動けなくなる。
「別に…あきがどうこうじゃねェよ。俺が頭にきたのは、お前が――――龍麻が会って間もないような相手にあんな風に笑いかけたこと、だ。いつもは全然そんな素振りをみせねェクセによ」
 そう言い切ると、京一は途端に困ったように視線を泳がせ始めた。
「だから、だな…あんな風なのは嫌なんだ、って言うか…あれにむかついた訳で、別に俺があきのことをどうこう思ってるって訳じゃ…」
 いきなりしどろもどろになった京一を、龍麻はぽかんと見つめた。
 亜希子を思っている訳ではない?ならば、あの異常なほどの不機嫌ぶりはいったい何だったというのか。それに、龍麻が女の子に笑いかけるのが許せない?自分は散々ナンパに励んで人の心を騒がせてくれたというのに?
「…そんなの、お前がいつもしてる事じゃないか」
 思わず滑り出た正直な本音。しかし京一はきっぱりと首を振った。
「俺はいいんだよっ!けど、ひーちゃんがやるのは駄目だ」
 あまりにも自己中心的な即答に、龍麻は放心状態から回復した。
(んじゃ、何か?自分がナンパするのは構わなくて、俺が女の子と笑って話すのは許せないと?毎回人をナンパに連れ出しといて、いざ俺がその気になったら許せなくなるってことか?それであんなに怒りまくってたと?)
 むかむかむかむか。
 流石に頭に来た。この男ときたら、どこまで自分勝手なのか。
「自分でやってることが俺だと許せないって言うのはどういう了見だ?それじゃ何か?お前は人を毎回ナンパに引っ張り出しておきながら、いざ俺が誰かと良い感じになると許せなくなるって言うのか?そこまで女の子を独占したいんなら、最初っから俺なんか誘うんじゃねーよ!」
 怒鳴りつけた龍麻に対し、京一はちょっと目を見開き、次いであろう事かくすくすと笑い出した。
「何がおかしいんだよっ!」
「ひーちゃんって…鈍いよなぁ」
 しみじみと言われて、龍麻は憤然と怒鳴り返した。
「それはお前にだけは言われたくないっ!」
 人の気持ちも知らずに散々振り回してくれた相手にそんな事をしみじみと言われては、龍麻の立場はない。
 それを聞くと、京一は笑いを収めてすっと龍麻の顔に自分のそれを近づけた。
「ああ、許せないかも。俺は確かに、可愛い女の子は好きだし、ナンパは好きだぜ?けど、な…」
 急に真顔になった京一に、興奮して飛んでいた状況が龍麻の意識に戻ってくる。
 気が付けば、もう片方の掌も壁に付いていて、京一の腕と壁に囲われてしまっている。逃げ場のない空間に、龍麻の顔が苦しげに歪んだ。

(勝手な事ばかり、言って…)

 けれど、好きだ。この眼差しからは、どうしたって逃げられない。
 苦しげな龍麻に、京一は殆ど息のかかる距離まで顔を寄せて囁くような声で告げた。
「ひーちゃんが女の子に笑いかけてると、気になってこっちがナンパどころじゃなくなるから。上手くいったらどうしようって、気が気じゃなくなる。だから駄目だ」
「…え?」
 囁かれた言葉がようやく浸透して、龍麻は目を見開いた。

 それは…それではまるで…

 呆然とする龍麻に、京一は追い打ちを掛けるように囁いた。
「その、喋ってる女にヤキモチ妬いちまうから嫌なんだよ」
 そう言って京一はにやりと笑って見せた。
 ここ何日か、ずっと遠ざかっていた京一らしい不敵な笑み。
 どうしようもなく龍麻を捕らえる鮮やかな――――――
「俺は言いたいこと言ったぜ?ひーちゃんも吐き出しちまえよ」

 その、言葉に。

 閉じこめていたものが溢れた。

「俺は」
「おう」
「お前のナンパに付き合うのは嫌だ」
「………」
「お前が、俺の知らないところで可愛い子と仲良くなるのも、嫌だ」
「…で?」
「もう、ナンパなんかしてんじゃ、ない…っ」
「言えたじゃねェか」
 そう言って、笑う京一の顔がすっと近づいて来る。
 熱を分け合うような温かくて柔らかいそれが触れてくる前に、龍麻はそっと目を閉じた。




 唇を合わせると、龍麻の身体はぴくりと震えた。薄く開かれた唇に誘われるように舌を忍ばせれば、今度は拳は降ってこなかった。歯列を探り、奥に逃げた龍麻のそれを追いかけて絡ませると、触れあう柔らかな肉の感触がどうしようもなく心地良い。
「…っ、ふぁ…」
 隙間から漏れる切なげな吐息に、余計に欲を煽られて、京一は更に深く龍麻を貪った。
 お互いの息が上がるまで深く探り合ってようやく唇を離せば、龍麻は大きく息を吐いて少し恨めしげに京一を睨んだ。
「窒息するかと、思った…」
 しかしそんな台詞も、目元をほんのりと紅く染めてのものならば迫力は無いに等しい。
 京一は笑いながらもう一度顔を寄せた。
「窒息してみるか?」
「ば〜か」
 くすくすと笑う龍麻の表情は、ここ何日か遠ざかっていた柔らかなもので、キスで上がった熱を煽ってくれる。
 本当に、何故こんな感情を自覚せずにいたのか、自分でもわからない。ほんの昨日まで、こんなものが自分の中に存在していることすら気づかなかったのが、信じられなかった。
「ひーちゃん……ぶっ」
 もう一度呼んで、再び唇を塞ごうとしたその時。
 思い切り顔面を平手で押さえられて、京一は強かに鼻を打った。
「いてーな、何すんだよっ」
「後ろ、後ろっ!」
 何事かと振り向いた京一は、入り口に立つ葵に初めて気が付いた。屋上の入り口に背を向けていた京一には見えなかったが、龍麻は葵の訪れに気づいて京一を制したらしい。
「葵…お、おはよう」
 不自然に上擦った龍麻の声をまるで気にしていないように、葵は穏やかに笑いかけた。
「小蒔から、二人が屋上に行ったって聞いたから。もうHRは終わったわ。一時限目は科学室でしょ?」
「あ、う…うん。悪いな。わざわざ」
 そう言って身を起こそうとした龍麻の身体を、京一はがしっと押さえつけた。
 体勢的には、未だ龍麻は壁と京一の腕との囲いの中にいる。
「きょ、京一?」
 焦ったように声を上げる龍麻は無視して、京一は目を細めて葵を見つめた。
「知ってて、か?」
「……ちゃんと、仲直りは出来たみたいだから」
 そう言ってにっこりと微笑む様は正に聖女の名に相応しい。しかし、それがこの場合ばかりは通用しないことを京一は知っている。


 昨日、龍麻が去った後に現れた葵は、亜希子から聞き出したという龍麻との顛末を教えてくれたのだ。
 龍麻が、亜希子の話す中学時代の京一の話を楽しそうに聞いていたこと。その様子があまりにも楽しそうだったから、亜希子がその頃の写真を引っ張り出し、機会があれば渡そうと持ち歩いていたこと。それから、今の亜希子には付き合っている相手がいて、別に龍麻にそういう意味で興味を持っている訳ではないこと――――そういえば、亜希子は自分の都合に関わらずいい男には目のないタイプだった――――等の話を語った葵は、最後にこう付け加えた。
「それで、京一君は何をそんなに怒っているの?」
「何を、って…」
「ずっと、怒っているみたいにみえるわ。そんなに、龍麻があのひとと仲が良いと気に触るの?」
「別に…あきと龍麻がどうこうなんて思ってねェよ。ただ…」
「……龍麻だから、気になる?」
 その一言に。
 やっと京一は気が付いた。
(そうだ、あきのヤツは関係ねェ。俺、は…)
 亜希子がどうこうではなく、龍麻だから許せないのだと。誰であろうと、龍麻があんな風に笑いかける相手には、やっぱり自分は怒りを覚えてしまうであろうことも。
「なんだよ…馬鹿か俺は」
 気が付いてしまえば、単純極まりないシンプルな気持ち。
 しかし、葵の言葉がなければ、まだ気づけずに訳の解らない苛立ちを引きずっていたかもしれない。
 葵は、そんな京一の内心を読んだかのようににこりと笑った。
「ちゃんと、仲直りしてね」
 その微笑みが気になって、気づけば京一は尋ねてしまっていた。
「…美里はどうして知ってるんだ?」
 それは単純な疑問。まるで、京一自身も気づいてなかった気持ちを読んでいたかのような葵の言葉が不思議だったのだ。
 その問いに、葵は、
「だって、私も見てたもの」
「……へ?」
「いつも見てたから、気が付いたの」
と、にこりと笑って見せた。
「龍麻が元気がないのは私も困るし、今のまま二人が泥沼になってしまうのも嫌だもの。けど…ちゃんと仲直りして、それから先は互角よね」
 いつもの葵より、ちょっと強気な笑顔で。
「だから、これからは、ライバルだから」
 敵に塩を送るのは最後にすると言わんばかりに言い切られて、京一は一瞬惚けてしまった。
 あの、常はどちらかといえば大人しげな少女の何処に、こんな強かな表情が隠れていたのか。
「そりゃあ、不戦布告ってことか?」
 しばしの沈黙の後、やっとそう言葉を捻りだした京一に、葵はやっぱり笑顔で言葉を返した。
「だって、私も譲れないし」
 その笑顔はいっそ清々しいほどで、京一は苦笑いを返すしかなかった。気持ちの自覚という点に置いては、美里は恩人だ。それを考えれば、自覚したばかりの想いに、しっかり恋敵が付いてきたという事実も仕方のない事かと、そう思えた。


 だが、しかし。
 いざ美味しい場面をしっかり邪魔されると、当然しっかり腹が立つ。


「つまんねー。サボろうぜ、ひーちゃん」
「京一?」
「科学なんて、どーせ実験とかそんなんだろ?いいじゃねーか、別に」
 そう言って、慌てる龍麻の身体を引き寄せると、これみがよしに腰に手を回してみせる。
 何せ、肝心の事はまだどちらも口にしていない。これからだという時に入った邪魔は正直、許せない。
「ちょ、ちょっと京一…」
「ひーちゃん…」
 抗う身体を気にせずに、そのまま唇を寄せようとした京一だったが。
「…っはぁっっっ!」
 氣の高まりに気づいた時にはもう遅く、気合い一閃、龍麻の掌打によってあっさりと吹き飛ばされてしまった。
「いい加減にしろ、この馬鹿猿!」
 耳まで真っ赤にした龍麻は、吹き飛ばした京一を乗り越えて葵にぎこちなく笑いかける。
「ご、ごめんな、葵。行こうか」
「ええ…けど、京一くんは?」
「アイツは放っておいていいんだよ!さ、遅れるから」
 咄嗟のことでまともに技を食らった京一の、霞のかかっていく意識に、最後の言葉が残される。
「負けないから、ね」
 その声を残して、がちゃんと階下への扉は閉じられた。