「この写真はどうする?」 「っと、二番のファイルの最後に綴じておいてくれる?これで、体育祭の写真はお仕舞い!」 ファイルを勢い良く閉じると、遠野は息を吐いて笑った。 「ありがとね、龍麻くんに手伝って貰ったお陰で、大分整理がついたわ。折角の休みに、悪かったわね」 休み返上で、卒業アルバムの編集に追われている遠野が声を掛けてきたのは昨日のこと。 最初は一緒にいた美里に頼むつもりだったらしいが、力仕事があるって聞いて、俺が引き受けたんだけど…実際の作業は半端じゃなく力仕事だった。これをずっと一人でやってたっていう遠野をちょっと尊敬してしまう。 「いや、俺は言われたとおりにしてただけ。役に立ってたのか、正直自信がないよ」 俺の言葉を、遠野は豪快に笑い飛ばした。 「な〜に言ってんの、お陰で大分形が整ってきたわ。本当にありがと!」 そう笑う遠野の顔は明るい。昨日、手伝いを頼みに来た時の顔は本当に切実だったから、少しは役に立ったのだろう。 遠野には色々世話になってる割に、まともに返せる機会がないから、こんなことで返せるのならお安いことだ。 …もっとも、それには遠野の『お願い』がいつもとんでもないことだ、っていうのもあるんだけど。 「今日はこの辺にしとくわ。…ところで」 遠野は急にきょろきょろと周囲を見回した。 「…よしっ、あっちに行ってるわね。今のうち…」 遠野は何やら意味不明なことを呟くと、俺ににやりと笑いかけた。 「ちょ〜っと、イイものあるんだけど、見ていかない?」 「いいもの?」 「そ。手伝ってくれたお礼に。遠野杏子秘蔵の写真を一挙に公開しちゃう」 遠野の秘蔵写真…噂は聞いたことがある。 なんでも、焼き増し希望者が列を作ってるのから、公表しないでくれと泣きつく人間がいるものまで多岐に渡って集めていると。 ……ちょっと興味はあるけど、見るのが怖いような気もする。俺の内心の葛藤を知らない遠野は、奥から一冊のファイルを持ってきた。 「色々揃ってるわよ。どう?」 と、遠野が広げたのは、予想とは違うものだった。沢山の写真の山は、どれにも見覚えのある人間が写っていて。 「これ…俺達?」 「そ、この一年の記録。我ながら良い写真だと思うんだけど」 写っているのは、真神の生徒である俺達だけじゃない。何故か雨紋や如月、紫暮や壬生にコスモレンジャーの衣装を脱いだ紅井達のもある。藤咲や高見沢のものもあった。 「俺達はともかく、みんなまで…どうして、こんなに?」 「色々とね〜量としては如月くんの店で撮ったのが多いかな?後はまぁ、色々取材活動の最中にね」 写真に写っているみんなは、どれも生き生きとしている。笑っている写真ばかりではなかったけど、撮られた時の状況が浮かんでくるほどよく表情を捕らえている。遠野には、カメラマンの才能もあるよなぁ…。 「あ、これ!」 醍醐と桜井が、一枚の写真の中で仲良く笑っている。見るからに良い雰囲気で、醍醐の気持ちが綺麗に写ってる。桜井の笑顔も綺麗で、本当に上手くいくことを願ってしまう。醍醐は割とわかりやすく気持ちを表に出してると思うけど、桜井は全然それに気づいてない感じで、それが見ていてじれったい。その話を京一にしたら、えらく複雑な顔をされたよな、確か… もしかして、俺の勘違いかとも思ったけど、やっぱ日頃の様子を見てたら間違いないと思う。こんな写真があれば、特に。 「んふふ、それは醍醐くんにこっそり売ったわ。喜んでたわよ〜」 醍醐…今度カメラ用意して、二人の写真撮ってやる。遠野の笑い方からして、高値吹っ掛けられたんだろう。…気持ちはわかるけど、やっぱり不憫だ。 俺の非難を混ぜた視線に気づいたのか、遠野は慌てたように手を振った。 「やあね、そんな目しなくてもちゃんと適正価格で売ったわよ?良い写真撮れたら私も楽しいし。その分は引いてるって」 適正価格…聞くのも怖いよな、これも。 「あれ?これは?」 写真の中になにやら番号を振ってあるものがある。 「ああ、それ?それは見本用」 「見本?」 「そ。焼き増し希望が多いのは整理がつかないでしょ?結構人気あんのよ」 ……流石、遠野。他にも商売にしてるとは。 言われてみれば、番号の振ってある写真は、舞園や雨紋のものだ。アイドルの舞園はもちろん、雨紋のバンドCROWは人気があるから写真の欲しいファンも居るんだろう。 しかし、この番号写真… 「ちょ、ちょっと待ってくれ。…なんで俺の写真に番号が振ってあるんだ?」 「前に、言わなかったっけ?部費の足しに写真売っていいかって」 …そう言われれば、言われたような気もする。その時は、俺の写真なんて売れないだろうって言ったら、何も言わずにラーメン奢ってくれたんだった、確か。 「龍麻くんの写真、人気高いんだよ。あ、安心して。売る相手は選んでるから」 どういう相手を選んで売っているんだろう…気にはなるけど、聞いたら余計墓穴を掘るような気がするのは気のせいじゃないと思う。 「でね、ちょっと私には理解できないんだけど、あのアホの写真も人気あんのよね〜」 あのアホ。 遠野がそう呼ぶのは京一のことだ。そういいながら、遠野は何枚かの写真を出してきた。 笑っているのやら、ちょっと真面目な顔をしてるのやら、どこで撮ったのか、珍しく胴着を着てる写真まである。 まっすぐ前を睨んでいるその顔は、良く知る、戦いの場でのもの。見慣れてはいても、写真という形で時を止めたそれはちょっと新鮮で。 「龍麻くん?」 「え?な、なに?」 思わず、その写真を手に取ってしまった俺を、遠野が意味深な笑顔で覗き込んでくる。 「気に入ったのなら、あげるわよ?それ」 「別に、そういう訳じゃないよ」 声が上擦ってなかったか、ちょっと自信がなかった。何か、顔も熱いような気がする。 「京一の真面目な顔なんて、珍しいからさ」 そう言って誤魔化そうとしたけど、遠野はまるっきり聞いてなかった。 「それもね、ポイント高いんだけど…最近の一番人気はこれよっ!」 最近の一番人気って…遠野の商売はどうなってるんだ?と思いつつも、差し出された写真をつい見てしまう。 被写体の斜め前から写したらしい。半分のフレームの中に、京一の鮮やかな笑顔。 身に纏う『陽』の『氣』そのままの、眩しいような笑顔。 どうしても視線が吸い寄せられるのを、止められなかった。 「ま、わからなくもないんだけどね…確かに、どーしよーもないアホだけど、時々格好いいし」 「…遠野、どーしよーもないって、そこまで言わなくても…」 「こないだの歌舞伎町。繁華街パンツマラソン」 「うっ…」 何か、フォローしなけりゃと思っても、咄嗟に出てこない。確かに、あいつは時々信じられないようなことやらかすからなぁ…。 俺が返す言葉に詰まってるのを気にした風もなく、遠野はぽつりと呟いた。 「けど、ね。こういう顔してるのって、最近なんだ。前はもっと…なんてゆーのかな、ぎらぎらしてた」 「…ぎらぎらって?」 出会う前の、京一。本人に聞いたことは無いけど、他ならぬ遠野がくれた真神新聞のあいつは、上級生相手に乱闘騒ぎをやらかしていた。 ぎらぎらしてた、っていうのはそういう事なんだろうか? 「っていうか…上手く言えないんだけどね。何か足りないって顔してた。けど、そういうとこが無くなった理由はわかるわ。まぁ、大体イイ顔してる時ってのは、充実してる時だし、アイツってホントわかりやすいもの。ほら」 遠野が写真の半分を隠していた手を持ち替える。 「正直だよね、ホント」 写真のもう半分に写っている俺の表情は見えなかった。けれど、間違いなく笑っているんだと思う。こんな笑顔を向けられて、笑ってないはずがない。 「龍麻くん、アイツの事、どう思う?」 さりげない問いに、答えは考えるより先に口をついて出ていた。 「大事だよ。凄く、大事な人間」 言ってしまってからはっと口を噤んだけど、遠野は笑っている。 「龍麻くんって、結構正直だよね」 「どういう意味?」 「言葉通りよ。結構引っかけにも弱いし」 ヤバイ、と思ったけど、今度は顔が紅くなるのを押さえられなかった。 「遠野…」 「やあね、冗談だって。けど、ホント、なんでみんなわかんないのかしら?」 半分は良くわからない呟きを漏らすと、遠野はその写真を俺の手に押しつけた。 「お詫びにそれはあげる。大丈夫、お金は取らないから。けど…一つだけ、聞いても良い?」 不意に真顔になった遠野は、じっと俺を見つめた。 「好きな人、居る?」 「…居るよ」 「その人、大事?」 「とても」 引っかけられたなあ、とは思ったけど、嫌な感じはしなかった。遠野の気遣いがわかったし、隠しておかなけりゃいけないという思いよりも、気持ちが先に答えを告げてしまっていたから。ただ、どうしようもなく熱い頬が気恥ずかしくて仕方ない。 京一は、大分前から『大事な人間』ではあったけど、『好きな人』になったのはこないだの事だ。 ずっと持っていたけれど、今まで表に出てなかった想いは、正直すぐに溢れてしまいそうになる。けれど、それは俺にとってなるべく隠しておきたいものだ。同じだけ返せない好意を受け取っているという自覚があるから。
けど、遠野にはばれちゃったよなぁ…
遠野は、からかう笑顔になって尋ねてきた。 「で?今日は京一は一緒じゃないの?」 「あいつは旧校舎に行ってるよ。後で買い物に付き合うって約束してるけど」 それだけを言うのにやっとで、おまけに顔の赤味は未だ退かない気がする。 「んじゃ、もう一つ、これあげる。近くの喫茶店のコーヒー券、もう日がないけど、私は行けそうにないから。時間潰すのには良いでしょ。行ってきて」 「いいのか?サンキュ」 遠野は、悪戯っぽく笑って付け加えた。 「それと、その店のこと、京一にも教えといてあげたほうが良いよ」 「京一に?」 「そうよ、これは私からのささやかな忠告。安心して、さっきのはオフレコにしとくから。私はもうちょいやってくからさ。今日はありがとね!」 「え?ちょ、ちょっと遠野?まだやることあるんだったら手伝うよ」 「いいから、いいから!みんなによろしく!」 「みんなって…おい!」 何故か、追い立てられるようにして新聞部の部室から放り出されてしまった。なんだかわからないが、取りあえず用は済んだらしい。貰ったサービス券は4枚もあり、確かに期限が迫っている。場所もこの近くらしい。 「まぁ…そっちでもいいか」 本当は家に帰って京一と待ち合わせる筈だったんだけど、別にこのまま行っても構わない。元々の買い物の目的も、大したものじゃないんだし。 旧校舎に電波は届かない。気づくだろうと京一の携帯にメールを送ると、大体の場所を覚えて券を仕舞う。 校門まで出た時、前方に見覚えのある背中を見つけた。 「あれ?醍醐じゃないか?」 何故だか、一瞬硬直したようにも見えたが、振り返った醍醐は笑顔だった。 「な、何だ、龍麻か……どうした?今日は休みだろう?」 「遠野の、卒業アルバムの編集を手伝ってたんだ。醍醐は?」 「ああ…久しぶりに部の様子を見ようと思ってな。しかし手伝いとは…ご苦労だな」 「いや、具体的なことは遠野にしかわからないから、俺のやったことなんて大した事じゃないさ。遠野の秘蔵写真も色々見せてもらったから、どっちかって言うと俺が楽しませてもらったみたいなもんだよ」 …ちょっと、どっきりもさせられたけど。貰い物もした事だし。そういえば、貰ったサービス券は4枚あったよな。 「そうだ、醍醐は今構わないのか?」 そう尋ねると、醍醐は勢い良く飛び上がった。 「あぁ…俺は暇だぞ、とても!何か用があるなら喜んで付き合うからなッ!」 何か、今日の醍醐は変だ。やたら大げさで…何かあったのかな?けど、必死に頷く様は妙におかしい。そんなに暇なんだろうか。 「遠野にお礼だってサービス券貰ったんだ。良かったら行かないか?」 そう言うと、醍醐は大げさに頷いた。 「お、おう。良いぞ。喜んで!」 そんなに喜んでくれると、誘い甲斐はあるけど何か気になる。聞いてみようかと思ったところへ、またまた知った姿が現れた。 「あれぇ?醍醐クンにひーちゃん?」 「龍麻オニイチャンに醍醐オニイチャン!」 元気の良い声と共に、金色の頭が飛びついてくる。 「桜井にマリィ。どうしたんだ?」 抱き留めたマリィは、ぐりぐりと頭を胸に押しつけてくる。少し、以前より大きくなったような気がして自然に顔が緩んだ。マリィの過去を思えば、元気のいい姿は無条件で嬉しい。桜井も笑いながらそれを見ている。 「うんッ。葵と待ち合わせだよ。ちょっと時間が中途半端だから、お茶でもしようかと思って。こないだ葵にタダ券貰ったとこがあるから」 「マリィも、一緒にショッピングナノ!龍麻オニイチャン達にも会えて、トッテモラッキー!」 そうか、醍醐はもしかして桜井と待ち合わせしてたとか? そう思って醍醐を窺ったけど、なにやら天を向いてぶつぶつ呟いている。本格的に変だな。 「ひーちゃん達は、どしたの?」 「ああ、俺は遠野の手伝いで、醍醐は部活に顔出ししてたらしい。丁度帰りに一緒になったから、お茶でもするかって話してたとこ。遠野にサービス券貰ったから」 「え?それって、もしかしてサンタローズって店じゃない?」 「そうだけど…」 「葵オネエチャンに聞イタ店と同ジ!」 マリィが嬉しそうな声を上げる。そっか、美里に貰ったってことは、ひょっとしたら遠野と出所が同じなのかもしれない。 「なに?ひーちゃん達も同じ店行くの?んじゃ、一緒に行こうよ!」 「あぁ。それじゃ、桜井とマリィにはケーキを奢るよ」 人数が多い方が楽しいし、何よりちょっと様子のおかしい醍醐も気になる。さっきの写真が頭をよぎって、桜井が一緒なら元気が出るんじゃないかと思うから。 「ほんと?やった!」 喜ぶ桜井の声に、何やらトリップしていた醍醐がやっと笑顔になる。 「あぁ、折角だし、行こうか…」 言いかけて、醍醐はまた固まってしまった。 流石に、今回は桜井も気づいて不審な眼差しを向ける。 「…醍醐クン、どしたの?」 桜井にまで、変だって気づかれてるようじゃ重症だよなぁ… 「今日はなんだかおかしいんだ。けど、行きたいって言ってたから、引っ張っていっちゃおう」 何やら難しい顔をしている醍醐を引きずるようにして、俺達は真神を後にした。
店は、大きくは無かったが、感じのいいところだった。そこまで歩いている間に、醍醐もやっと正気に戻ったらしい。 「落ち着いたか?醍醐」 尋ねると、照れたように笑い返してきた。 「いや…すまんな。気にしないでくれ」 その表情はいつもの醍醐で、どうやら元に戻ったらしい。後で不調の理由を聞いてみるか。 「マリィは、龍麻オニイチャンノ隣ネ!」 嬉しそうに笑うマリィの言葉は好都合だ。醍醐の正面で様子を窺えるし、その…気になる人の横、っていうのは嬉しいものだと思うし。 「はいはい。んじゃ、醍醐クンこっちね」 「ああ」 桜井に促されて横に座る醍醐はやっぱり、彼女を気にしてるみたいで微笑ましい。 けど、当の桜井はマリィと早速メニューを広げて悩んでいるから、やっぱりちょっと気の毒だよなぁ。 「龍麻オニイチャンは何ニスル?」 マリィが、メニューをこちらに持ってきた。 「俺はいいから、マリィと桜井で好きなの頼みなよ」 「ひーちゃん、食べないの?折角だから頼もうよ〜」 「…もしかして、味見したいとか?」 「へへへ〜さすがひーちゃん!ボクの言いたいことよくわかってるよね!決められなくって」 「別に、良いよ。好きなだけ頼んだらいい」 「え、ホント!」 笑う桜井は本当に嬉しそうで、こっちまでつい笑顔になってしまう。 醍醐もこういう笑顔見たら幸せを感じるんじゃないかな…と思ったのに、醍醐はまた固まっていた。おまけに、今度は顔から血の気が引いている。 もしかしたら、おかしいんじゃなくて具合が悪いのかもしれない。 「醍醐?どうしたんだ?本当におかしいぞ?」 「いや…本当になんでもないさ」 醍醐はそう言うけど、顔色は悪いままだ。生真面目な所があるのを知っているから、俺達に合わせて無理に付き合ってるんならと思うと放っておけない。 「調子が悪いなら、俺らに遠慮することないんだぞ?」 しかし、醍醐は笑ってそれを否定した。 「そんなことはないさ。心配させて悪かったな」 「大丈夫ならいいけど…」 確かに、顔色は良くないけど落ち着いてるようには見える。 「醍醐って、結構溜め込むタイプだろ?あんまりおかしいと心配だよ」 そう言って笑うと、何故か醍醐はじっと俺の顔を見つめてきた。…何か付いてるのか? 「醍醐クン、どしたの?ひーちゃんに見とれちゃって」 桜井が、醍醐の様子に気づいて不思議そうに首を傾げた。醍醐がはっとしたように視線を剥がす。 「そ、そうか?」 そう言って無理矢理のように笑う醍醐はやっぱり少し変で、桜井はそれに気づいているのかいないのか、人の良くない笑みを浮かべて醍醐をつついた。 「そりゃ、ひーちゃんは綺麗だけどさ、あんまり眺めてると京一みたいになっちゃうよ?」 京一?なんでここで京一の名前が出てくるんだ? 同じ疑問を醍醐も持ったらしい。眉を寄せて桜井に尋ねた。 「き、京一?」 「だってさ、京一ってたまにひーちゃんが前髪上げてる時とか、ぼーっと惚けたみたいに眺めてるんだよ?何見てるのさって聞いたら何でもないって言うけど、あれは絶対見とれてるんだって」 桜井…それは違うと思うけど…。 俺の顔なんて、正直眺めても楽しいものじゃない。男らしい醍醐や、凛々しい中にも愛嬌のある京一の顔の方がよっぽど鑑賞に値すると思う。綺麗系なら、如月や紅葉だって良い。はっきり言って、俺なんて逆立ちしたって敵わない。 「そうかな?俺の顔なんて、眺めて楽しいもんじゃないと思うけど?」 そう言うと、桜井とマリィ、両方がきっとなって、 「ひーちゃんは自覚なさすぎ!ねぇ、マリィ」 「ソウダヨ、龍麻オニイチャンハ綺麗ダカラ、見テルト幸福ニナル!瞳ガトッテモ綺麗ナノ」 と、反論をくれた。そんなもんかなぁ… 「マリィ、それはちょっと幸福の意味が違うと思うんだけど…」 けれど、気に入って貰えてるのならそれは逆よりずっと良い。あんまり自分の顔は好きじゃないのと、瞳を隠す意味で伸ばしていた前髪を摘んでみる。 「まぁ、京一やマリィがそんなに気に入ってるんなら、もう少しこれ切ってもいいかも」 そういうと、何故か桜井は首を振った。 「なに言ってんだよ、もったいないじゃないか!」 「桜井?」 …何故、髪を切るのが『もったいない』になるのか。良くわからない。けど、桜井は結構真剣だった。 「マリィはともかく、京一を喜ばせてやるコト、ないよッ!大体、ひーちゃんは京一を甘やかしすぎ!」 「そうだぞ、龍麻。最近、京一を甘やかし過ぎてるんじゃないか?」 おまけに、醍醐までそれに乗ってくる。さっきまで元気なかったのに。調子戻ったのか? しかし、それより何より、二人の言葉が気に掛かった。 『京一を、甘やかしすぎ』 それはちょっと…違うと思う。そりゃ、普段とかは俺が面倒見てるように見えるかもしれないけど、本当のところは。 「醍醐…それ、違うぞ?」 「うん?」 「どっちかって言うと、俺が京一に甘やかされてると思うけど」 そう言った途端、後ろに気配が生まれた。 「何を言ってるんだ、龍麻っっ!」 「龍麻、君は間違ってる!」 び、びっくりした…! 見知った気配だけど、いきなり横や背中に予告無く出てこられると、流石にびっくりする。それに、よくよく気をつけると、ここは他にも知った気配で溢れている。 ……なんで、こんなのに気が付かなかったんだ?俺もまだまだ修行が足りないってことか? 「き、如月クンに壬生クン?」 桜井も、驚きの声を上げている。マリィや醍醐に至っては固まってしまっているみたいだ。 「如月に紅葉…新宿に来てるなんて、珍しいな。コーヒー飲みに来たのか?それも…みんな、一緒に?」 そう言うと、周囲のテーブルの客が一気に立ち上がった。 「あ〜あ、ったく、馬鹿が先走るから気づかれるんだよッ」 「冷静さを欠くと、こうも見苦しくなるものですね」 「ダーリン、元気してる〜?」 「龍麻、コスモレンジャーにも会いに来て欲しいな」 「龍麻サン、今度ライブ見に来ませんか?」 「オー、アミーゴ!会いたかったネ!」 「先生、アンタに会えた偶然には俺の強運に感謝するが…たまには歌舞伎町にも来てくれよ」 藤咲に御門に高見沢、それに黒崎と雨紋、アランに村雨までいる。今日は旧校舎潜りの日じゃなかったよなぁ…? 「ふふふ、偶然会ったから、驚かせようと思って」 「葵!来てたの?」 最後に、美里が笑いながら出てきた。 「折角、驚かせようと思ったのに、如月くんも、壬生くんも…駄目じゃないの」 美里は、桜井達と待ち合わせてるんじゃなかったのか?不思議に思っていると、美里が笑って近づいてきた。 「ごめんなさいね、龍麻。みんなに会ったところに、姿を見かけたものだから、少しびっくりさせようと思ってしまって。…驚かせてしまった?」 美里はそう言って首を傾げた。なんだ、そういうことだったのか。 「そんなことないよ。旧校舎以外で、こんなに集まったのは本当に久しぶりだから嬉しいし」 そう、本当にこれだけ集まったのは久しぶりじゃないかと思う。個々では結構会ってると思うんだけど、集まるのはそれこそ旧校舎に潜るときくらいだ。 「よかった。話の邪魔をしてしまったんじゃないかと、心配してたの」 美里は面白いことを気にする。こういう驚かされ方は嫌なものじゃないと思うけどなぁ。そこへ、如月が何か真剣な面持ちで話しかけてきた。 「……君は、何か誤解してないかい?君が蓬莱寺を甘やかすことこそあれ、何故君が、甘やかされていることがある?」 …意味が分からなくて、一瞬考えてしまった。そうか、さっきまで醍醐達と話していた事だ。すると、紅葉までが身を乗り出してくる。 「その通りだ。僕もそう思う。龍麻、君は蓬莱寺を甘やかしすぎてる」 紅葉の言葉を切欠にするように、みんなが一斉に喋りだした。 「過分な親切は人を駄目にするものですよ」 「そうッ、龍麻、あんまり甘やかすと、あの馬鹿はつけ上がるよ」 「つけ上がるなんてもんじゃないだろう。あの猿はっ!」 「こればっかりは意見が合うな。同感だぜ」 何が、どうなってるのか。さっぱりわからないが、みんなの言葉に共通してるのは、何故だか京一の話…しかも俺が京一に甘いってことだ。 今日はえらく京一について色々聞かされる日だ。今の俺の心境では、ちょっとばかり複雑だけど。 訳が解らなかったが、途中である可能性に気が付いた。 そっか…京一にはこの店を教えたんだ。 みんなと会ったのが美里だけじゃなく、京一も一緒だったとしたら。そう考えると色々想像がつく。 ……ったく。ちょっと悪趣味だとは思わないのか、あいつは。確かに、その場に居ない人の話題で盛り上がってる所に本人が出てくりゃ驚くけど、それがこんなネタなら、後味悪いだろうに。 みんなの息が切れるのを待って、俺は早々に降参することにした。 「まいった。もう充分驚いたよ。それで、最後に京一が出てくるのか?アイツも人が悪いな」 「た、龍麻?」 「ったく、驚かすにももうちょっと考えればいいのに。そりゃ、人の話してる時に本人が出てきたらびっくりはするけどさ」 考えを見抜かれたのに驚いたのか、紅葉の目が丸くなる。しかし、すぐに首を振った。 「違う、そうじゃないんだ、龍麻!」 紅葉はあくまで仕掛けを守ろうとしてるらしい。こういうところ、真面目だよなぁ。後ろにいた雨紋まで口を挟んできた。 「そうだよ、龍麻サン。蓬莱寺サンは来ない。大体あの人は今頃…」 「雨紋くん」 何かを言いかけた雨紋を、美里が引き留めている。美里も乗るなあ。 けど、それもあまり意味がなかった。やっと、首謀者が出てきたのだ。 「俺がどうしたって?」
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