| 「・・・・あ」 自然に洩れる声に驚きを隠せないまま、それでも龍麻はされるがままになっていた。 「・・・きょ・・・いち・・・・」 茶色く焼けたボロ畳の上で、半裸になって二人で転がる。 あ、あ、と龍麻が甘い声を洩らしはじめ、それにつれて最初はおそるおそるだった京一も、だんだんと行為をエスカレートさせていく。 「ひーちゃんは・・・・ココ、感じんだ?」 胸に唇を落とされて、体の奥がじわりと熱くなるのを龍麻は感じた。 答えられずに、ただひたすら首を横に振る。 京一の吐息の熱さを皮膚にじかに感じながら、龍麻はぐらぐらとめまいがした。 どうしてこんなことになったのだろう。 「・・・・じゃあさ、ココは?」 ニッと笑った京一は、胸を弄んでいた片手を、そのまま龍麻の下肢へと廻してなで上げる。 クッと小さく叫んで喉をそらす彼に、京一は気を良くした。 彼は、そのままゆっくりと・・・だが確実に手の動きを早めていく。 「―――!」 びくり、と激しく白い背が思い切り反り返った。 「・・・・・あ・・・・あああっ」 「・・・・ひー・・・ちゃん・・・・」 京一は、うっすらと汗ばんだ龍麻の首筋に鼻先を突っ込み、思うさまなぶり、舐め、噛んだ。 下肢を苛む動きも一切緩めずに、その手は龍麻を追い詰め続ける そのたびに白い体が跳ね、黒髪が打ち振られた。 「・・・・ヤだ・・・はな・・・放せっ・・・」 「イヤだ、じゃあねえだろ?・・・・・イイんだろ?」 ぼんやりと頭が快感でかすむ中、それでも龍麻はバカやろう、と内心で毒づいた。 「・・・・おま・・おまえ、コレ・・・なにしてんのか・・・わかっ・・・・・・」 これは、友達がしていいことじゃない。 それなのに・・・むしろ。 この、背徳的ともいえる行為の続きをどこかで望んでいる自分が、龍麻には信じられなかった。 信じられない、と思ったもうひとつは、今自分を「抱いて」いる、男。 男同士でそういった物言いが成り立つかどうか、龍麻は知らない。 だが、あきらかに京一の行為は、そうとしか呼びようがない。 京一は、固まりきった龍麻に、最初からずっと一方的に愛撫を加え続けている。 まるで・・・・それが、あたりまえのことであるかのように。 (おかしいぞ、おまえ) もうあとには戻れないのに、この男の落ち着き払った様子といったらどうだ。 (―――――もう、戻れないのに。) 彼と自分の関係は、たぶんもう昨日までのそれとは、変質してしまった。 お願いだから、どうかどうか。 今まで彼と築いてきた、暖かなものがどうか壊れていってしまわないように。 それだけは失いたくないと、心からそう願う。 (京一・・・・) 混乱した頭で龍麻はただ、そればかりを祈っていた。 そんな龍麻の葛藤を知ってか知らずか。 一番敏感な部分のさらに先端へ、京一がちろりと舌を這わせて弄ぶ。 「っは・・・!」 龍麻の腕が宙を掻いた。 京一は笑った。 「・・・何してんのかなんて、きまってんじゃん」 強情な龍麻は、うっすらと涙を浮かべながらも歯を食いしばってなかなか達そうとはしない。 快感よりも、戸惑いが彼の上に色濃くあった。 おそらく、人に触れるのも、触れられるのも初めてなのだろう。 らしいな、と京一は内心で笑った。 だが、もうそれも時間の問題だ。 「ひーちゃんと、オレ。セックスしてんだぜ?」 そういった京一は、ぐい、と舐めながら手にしているものに力をゆっくりと込める。 白い背が、反り返った。 どうされれば一番「いい」かは、同性であるだけに熟知している。 啜り泣きながら吐息を洩らす彼を、京一は目を細めながら見た。 初めて他人から与えられる大きな快楽に、どうしていいかわからず、それでも火のついた体を自分では止められずに、ただ困惑している・・・・・・彼。 普段、いつも自分の横を歩いている生き物と全く同じはずなのに、でもどこかが違っている。 ここまで綺麗だとは、思ってもみなかった。 オレの龍麻だ。 「なあ・・・もう、考えるの、やめねえ?」 「!―――ぐ・・・・・うっ・・・・・」 ぴちゃ、と淫らな音を立てて京一は龍麻をいっそう責め立てる。 やがて・・・・鋭く高い声をあげながら龍麻は、堕ちた。 その瞬間、声とともに、彼の眦からはとめどなく涙が零れ落ちる。 しばらく二人とも、動かなかった。 二人の汗の匂いが、狭い部室の中で混ざり合う。 はあ、はあ、と肩で息をする・・・・自分よりもほんの少し薄い体を抱きしめて、京一は満足気に笑った。 涙で濡れた顔を胸に抱いて、狂ったように口付ける。 友人同士では、決して触れることを許されない部分は厳然と存在するが、今、京一は龍麻のまさにその部分を、思う存分味わっていた。 「・・・・ひーちゃん」 「・・・・・・あ・・・・うあ・・・・」 達したばかりの体に全く休む暇を与えず、京一は延々と彼を苛みつづける。 ―――――もっと、もっと。 全てをさらけ出して、そうして。 龍麻の全部を見たい。全部が欲しい。 「・・・ここ、どうよ?」 ぐちゅり、と音がした。 「―――!」 いきなり奥に京一の指を突き入れられて、ひっと龍麻が喉を鳴らす。 ひくん、と彼の腿が小刻みに震える。 「や・・・・・・な・・・・なん・・・?!」 「・・・このままじゃ、入んねえもんなあ・・・・」 入るって何が、と半ば麻痺した頭でぼんやりと龍麻が考えていると、それは次の瞬間一気に数を増した。 突然のことで、予期していなかった痛みが体に広がる。 龍麻も、さすがに京一が何をしようとしているのかを悟った。 ぞっと戦慄が走る。 「!ばっ・・・・ム、ムリ・・・・ムリだそんなの・・・・・・ヤダ抜けバカッ!!」 むりじゃねえ。そう言って京一は薄く笑った。 「オレだって、キモチヨクなりてえよ・・・・なあ」 もう、無茶苦茶だ。 「・・・・・龍麻」 そう、ささやかれてぞくりと体を震わせる。 その隙に、途中までで止まっていた指が、一気にずるりと彼の奥へと入った。 瞬間、頭の奥まで衝撃が突き上がる。 「ア・・・・・・・・アア・・・ッツ・・・・」 ついで、はじめはゆっくりと・・・だが、次第に激しく掻き回される。 その動きに合わせて体が揺れ、涙がぼろぼろと零れるのを、もうどうすることもできない。 「・・・やめ・・・きょ・・・・・・きょいち・・・」 「ぜってえ、やめねえ」 ぐちゅ、と京一はわざと音を立てながら龍麻の体を精一杯開こうと試みた。 異物感に泣きながら暴れまわる龍麻を、渾身の力で押さえつけてから、京一は彼の名前を呼んだ。 「ひーちゃん」 答えない龍麻に、それでも京一は呼びかける。 龍麻の部分は、いくら経ってもこわばったまま、京一を拒みつづけていた。 もうこれ以上はいくらやっても同じだと判断した彼は、ゆっくりと指を引き抜いた。 かなり狭いが、時間が無い。 自分自身がもう暴発寸前だった。 「・・・これで動いたら、痛えぞ。きっと凄え痛えと思う・・・・だけど」 だけど、ごめんな。 そう言って、彼は龍麻の脚に残るアザをぺろりと舐めてから、一気に彼の中へと押し入った。 「―――――!!」 龍麻は、絶叫をすんでのところで噛み殺した。 (・・・・・ヒッ・・・・・・) 何か、灼熱する棒で貫かれたことだけはわかった。 体のなかでどくりと熱く脈打っているものが、京一であることをまだ信じられないでいる。 そのまま体を破られるのではないか、という恐怖で、龍麻は心底怯えた。 ―――――――支配されている。 京一に。 (だめだそれはだめだ絶対に嫌―――――――!!) 敵と対峙している時のものとは全く質の違う、もっと根源的な恐怖を彼は感じていた。 体の奥底から「自分を侵しているものを排除しろ」との凄まじい衝動が湧き上がる。 すんでのところで、彼はそれを押さえ込んだ。 相手が京一でなかったら、きっと即座に殺してしまっていただろう。それほどの衝動だった。 (・・・・・・京一・・・・) 今まで、数え切れないくらいの敵と戦ってきた。 それは常に死がつきまとっていたことを示している。 それでも、戦いは彼の望むところであり、傷を受けることに対しておそれを持ったことはなかった。 なのに。 体の痛みよりも何よりも、自分が今、全く相手の意のままにされている。 そのことが、何故だかどんなことよりも恐ろしい。 痛い。 ゆっくりと体を蠢かせながら、京一がなおものしかかる。 それに肺が圧迫されて、ひどく苦しい。 痛い。 ―――――怖い。 体はぎしぎしと悲鳴をあげつづける。 どこかでこうなることを予感していたものの、それでも男に犯される、ということは、同じ男の体にとってみれば明らかに異常な事態である。 そういうふうに、つくられている訳ではないからだ。 無理に体を捻じ曲げられ、本来迎え入れるものではないところを突き破られている。 快楽ではなく、恐怖と苦痛で冷や汗が背にじわりと浮いた。 混乱で頭がどうにかなってしまいそうだ。 「・・・・たすけ・・・・」 かすれる喉を震わせてやっとそれだけいった彼の頭を、京一はしっかりと抱きしめた。 そして、一言ずつゆっくりと動きながら、噛んでふくめるように言う。 「・・・ひーちゃん。オレ、ここ」 ここにいる。 オレは、ここにいる。と。 それでも龍麻の答えはない。 答えのない龍麻に、ありったけの精神力で自らの動きを止めてから、京一はささやいた。 「・・・・・・こわくねえよ、ひーちゃん」 泣き腫らした涙の痕に、そっと口づけを落とす。 「こわくねえから。おまえの中にいんの・・・・・オレだから」 だから、どうかそんなに怯えないでくれ。 今更だけどな、と彼はそれでもしっかり龍麻の上半身を抱きしめた。 京一には、かなりの無茶をしでかした自覚はあった。 (本当は、今日やっちまうつもりじゃなかったんだけどな・・・) こういうことに対して、龍麻がなんとなく嫌悪感を持っているのではないかと常々彼は思っていた。 そして、すこしづつ薄皮をはぐように、彼の中のタブーをなくしていこうと、そう決めていたのだ。 だから、いつだってふざけかかった。 殴られても、はたかれてもめげなかった。 じゃれ付いてくる自分にとまどいながらも、最近では鉄拳制裁とともにだが、うっすらと微笑むようにすらなった龍麻だったのに。 (・・・・やっちまった、よなあ・・) 好かれている、という自覚はあった。 だから、きっと本気で龍麻を口説き落とせば、彼は嫌だとは言わなかっただろう。 それでも。 龍麻が楽しめないのなら、自分にとっても意味が無い。 本当に、京一はずっとそう思っていたのだ。 それなのに、このざまはいったいどうしたことだというのだろう。 目の前で快楽に震える龍麻の姿に、自制などは全てはじけ飛んでいってしまった。 (がっついちまって、みっともねえ・・・・。) 今、青ざめた龍麻が、涙を浮かべてちぢこまり、震えている。 突き進んだ体が本気で怯えているのに、やっと京一は気づいたのだった。 それでももう、引き返すことはできない。 過ぎた時間は戻ってはこないのだ。 取り返しはつかないかもしれない。 でも、このまま終わらせたくはなかった。 「・・・・いてえ?」 「・・・・・いた・・・い・・・」 うっ、うっとしゃくりあげながら、龍麻は力の入らない手で京一を探している。 彼の瞳は閉じられたままだ。 その腕を自分の肩へと導いて、力の入らない掌を広げてやる。 オレはここだ、と龍麻に確認させるために。 そして京一は、ただ触れるだけの口づけをあたりへと落とした。 「・・・・オレんこと、キライん、なっちまった?」 「――――――ちが・・・・」 その問いには思い切り首を振って、龍麻はその問いそのものを否定した。 いきなり動いた為に体の奥が刺激されたらしく、短い悲鳴を龍麻は洩らす。 もう、これ以上自分を受け入れることは、龍麻には無理だと京一は判断した。 ありがとな、そう呟いて彼はずるりと自身を引き抜こうと体をそらす。 その瞬間。 「・・・・・いや・・・だ」 ぐい、と京一の肩先に触れた指が、一瞬だけわずかに力を持った。 うっすらと龍麻が泣き濡れた目を開ける。 京一は、苦笑した。 全く、こんなところですら負けず嫌いだとは。 「ひーちゃん。も、いい。無理しなくて・・・ほんとに、もういいから」 「・・・無理、じゃ・・・・・・ない」 「ひーちゃん?」 「・・・・・・中途半端は、嫌いなん・・・・だ」 はあ、と龍麻は息をついた。 小声で、短く叫ぶように彼は言った。 「・・・お前が、入ってるのは・・・・いやだ。でも・・・・・今、出て行かれるのは、もっといや、だ」 青ざめた顔で、だが精一杯に矜持をとりもどした彼は、堰を切ったように言う。 「・・・・やるなら、最後までしろ」 「でもオマエ、痛いっつってあんだけ・・・」 「・・・痛いことは痛いが、いつもの怪我の比じゃ、ない」 「んなもんと、比べるなよ」 「きょう・・・ち」 そう言って、力の入らない腕で必死に自分にしがみつく龍麻の背を京一は支えた。 「そんなこと言ったら、こんどは止めてやんねえぞ?」 うっすらと、咲き零れるように龍麻が微笑む。 「・・・・それで・・・・いい」 こいつなら、たぶんいい。 龍麻は、精一杯の笑みを見せた。 胸の中に湧き上がっている怖れは、今もなお高まりつづけている。 あちこち痛む体は、もう限界だ、と自分に告げていた。 それでも。 完全にこの男に抱かれたら、彼を許容することができたなら、きっと何かが変るだろう。 どうなるのかは全く予測がつかなかったが、それでも京一からのものであれば、自分はそれを受け入れることができるはずだ。 「・・・・はやく・・・・」 そう言って、初めて自分から口づけをねだる。 「ひーちゃん」 京一は、ぎりっと歯を鳴らした。 はあ、と首を振って、ほんとにバカだなひーちゃんと、そう言って。 「・・・・・・いいぜ」 京一は、確かに繋がったままの、愛しい龍麻を抱きしめた。 「もう絶対、とまらねえからな。覚悟しやがれ」 汗ばんだ胸に抱き込まれながら、龍麻は、これから起こるだろう衝撃に対して再びぎゅっと目を瞑った。 ―――――おまえだから、いいんだ。 そう、心で何度も繰り返しながら。 結局のところ、龍麻はタクシーでマンションに帰ることになった。 やっとの思いで部屋についた京一は、背中からよいしょっと彼を下ろす。 「・・・は・・・・・」 とりあえずソファに寝かせてから、さてどうしたもんかな、と傍らの龍麻を見る。 ぐっすりと寝入っているようだ。 しばし考え込んでから、京一は冷蔵庫の中をごそごそと漁りはじめた。 あれから、大変だった。 京一は、二人の情事の匂いが残る部室を必死に換気し、畳に落ちた血をなんとかぬぐった。 龍麻は完全に動けなくなるし、おまけに気が付くと昼休みである。 昼休みの間じゅうずっと部室にこもったまま、とりあえず二人の携帯を留守電にする。 見ると、醍醐や小蒔からメールが何件か入っていて、京一は思わず頭を抱えた。 「・・・どーか、みつかりませんよーに・・・・・・」 昼休みの喧騒が過ぎ、午後の授業が始まるのを見計らい、京一は龍麻に肩を貸して、とりあえず学校を出ようと歩き出した。 そのころには龍麻も目を醒ましていたが、やはりまともに歩けない。 ゆっくりと歩いていた二人が教員に見つかったのはもちろんだが、龍麻の尋常でない様子に驚き、帰宅するといった彼にタクシーを呼んでくれたのである。 もちろん、今回はありがたく好意を受けた。 なので結局のところ、午後から龍麻は病欠。京一はその付き添いということになっている。 「・・・ん」 目を覚ました龍麻は、リビングで寝かされていたことに気づいた。 「お〜。もうこんばんは、だな」 「・・・・もう夜か」 ソファで横たわったままの龍麻は、くん、と鼻を鳴らす。 「カレー?」 「おう。食うだろ?」 京一がにかっと笑って手を差し出す。 カレー好きなのな、と龍麻が笑うと、ラーメンほどじゃねえよ、と京一も笑った。 「・・・んで、痛い?」 「・・・・それはまあ」 ん、と京一がお玉を持ったまま何かを考えているようだ。 「どうした?」 じゃあもう今日はやれないなあ、と真顔で腕を組んだ彼にむかって、華麗に龍麻の拳が炸裂する。 「なにすんだよ、イテエだろ、てめえ!」 「・・・・・ほんとにバカ猿だ・・・・・」 本気で肩を落とした龍麻に、ひょいとカレーの皿が手渡された。 素直にそれを受け取りながら、龍麻は言う。 「今日はもうしない」 「・・・・しねえよ」 なあ、と京一が福神漬けの瓶を開けながら言う。 「・・・なんか、おもいっきりオレら、なんか変るかなあと思ったけど。なんもあんまり、変んねえもんだな」 龍麻は、かるく目を見開く。 だがそれは一瞬で、カレーを口にしながら、そうだなと龍麻は言った。 「そんなもんじゃないか?」 「そーかな」 「そうだ」 でもやっぱりアレは運動なだけあって、腹はへるなあ。口を動かしながらそう言った京一に素直に同意しつつ龍麻は思う。 それでも、やっぱり何かは変ったんじゃないか。 それがなにかを口に出してみろ、と言われても、それは無理なのだが。 変ったことといえば、ひとつ。 普段食事は龍麻の担当だ。 食べかけのカレーに、ちらりと目をやった。 ――――京一は、何も言わない。 だから、自分もことさらには、言わない。 湯気の立ち上るカレーの人参が、少し固めだった。 京一作のカレーをそれでも素直においしいと思いながら、龍麻はすこしだけ、笑った。 |
| しんのサイトの800HITを踏み抜いて奪取したSSvv 何でも良いよ〜と言ったので、絶対自発的には書かないであろうというコソクな読みからお初をおねだり(笑) 「うちの龍麻じゃ無理だよ〜」と泣きながらも、見事にリクに応えてくれたしん、ありがとうっっっ! |