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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 1999年11月

『シリコンバレーを抜け駆けろ!』, ポー・ブロンソン
『奪取 上・下』, 真保裕一
『ディープ・ブルー』, D・ケネディ 他
『地球最後の日』, ワイリー&バーマー
『あの頃ぼくらはアホでした』, 東野圭吾
『ファイナルジェンダー 上・下』, ジェイムズ・アラン・ガードナー
『今夜も木枯し』, 風間一輝

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『シリコンバレーを抜け駆けろ!』 ポー・ブロンソン
角川文庫 本体:1000円(H11/8初)、★★★★☆
 1995年のシリコンバレーを舞台に、才能の有る若者が「300ドルPC」に夢を託す。

 大企業の息のかかったラ・ホンダ研究所は、高い技術力を誇っていた。上層部の対立から、アンディが「300ドルPC」の開発を任された。仲間との協力で、大きな成果が上がったとき、上層部が計画の中止を迫ってきた。スポンサーの大企業にとって、「300ドルPC」はマージンの低い邪魔な存在でしかなかったのだ。

 「駆け抜けろ」では無くて「抜け駆けろ」。ちょっとカッコ悪いけど、大企業の隙間を「抜け駆け」して生きるベンチャー企業を表してるのだろう。序盤は活字がぎっしり詰まっていて、読んでも読んでも進まなかったが、中盤からは興味のあるテーマと言う事もあって一気に読めた。

 1995年を舞台にして、原書が1997年の発行なので、技術的には斬新な物ではないけれど、アンディらが開発する「300ドルPC」とそのソフトは、今でも的外れの物ではない。1997年にこれを読んでいたら、衝撃を受けていたかも知れない。

 少しだけある青春グラフティ的な部分が、余り上手く描かれていなくて、もうひとつだったけれど、マイクロソフトやインテルなどの大企業とベンチャー企業の関係が推察できて興味深く、画期的なハードやソフトの開発の夢を楽しめたので良かった。  

『奪取 上・下』 真保裕一
講談社文庫 本体:各714円(99/5初)、★★★★★
 新聞連載の『夢の工房』を加筆訂正して改題、刊行したものを文庫化。

 自販機を高電圧で誤動作させたり、韓国の硬貨で機械を騙したりと、ハイテクを駆使した軽い犯罪を得意にしていた道郎は、友人の借金でヤクザに命を狙われる事になった。期日までに借金を返すため、パソコンでの偽札造りで大金を手にした。しかし、そんな金蔓を見逃すヤクザでは無かった……。

 500ページで上下巻という長さをまったく感じさせない。先を読まずにはいられない絶妙な展開と、偽札造りの細部へのこだわりの面白さ。第一部、第二部、第三部と三回に渡って偽札を造る事になるが、その度にそうしなければならない理由があって、期限を切られての徹夜の作業が続くのだ。

 第一部では、紙幣識別機を通過するための偽札造りで、パソコンを駆使した偽造技術が示され、第二部では、偽札造りに取り憑かれたじいさんと少女に、印刷技術のノウハウを伝授される。第三部では、それまでの集大成としての偽札造りとヤクザ相手の壮大な詐欺が企てられる。

 偽札造りは犯罪だけど、それを感じさせないロマンがあり、偽札造りに取り憑かれていく主人公に深く共感する。決してあきらめず、不可能を可能にしてしまう彼らのエネルギーに魅せられた。  

『ディープ・ブルー』 ダンカン・ケネディ、ドナ・パワーズ&ウェイン・パワーズ
徳間文庫 本体:552円(99/10初)、★★★☆☆
 海に浮かぶ研究所・アクアティカでは、人工的に知能を高めたサメを飼育して、脳組織の研究を行っていた。嵐の日、研究所のオーナーが訪れて、数名の従業員と共に研究所に取り残された。嵐とサメによる破壊で海水の浸入した研究所内に、知能の高くなったサメが侵入し人間を襲う。

 同名映画の小説化。サメが人を襲うのだから、そのままなら「ジョーズ」になってしまうところを、建物の中でサメが襲ってくるという設定にして新味を出している。でも少し「ジュラシック・パーク」に似てるかも。

 研究対象として扱ってきたサメによる逆襲から、どうやって生き延びるか。伏線とか、謎とかなしに、ひたすら誰が死ぬかに話が絞られている。その選択は、なかなか意外性があって面白い。共感できない主人公の女性研究者はどうなるのかと思いきや、ラストは十分満足出来た。

 その主人公がウェット・スーツを脱ぎだすシーンがあって、いかにも映画的なサービス・カットに苦笑してしまった。  

『地球最後の日』 フィリップ・ワイリー&エドウィン・バーマー
創元SF文庫 本体:620円(98/3初)、★★★☆☆
 クラークの『神の鉄槌』と共に『ディープインパクト』の映画原作となった。

 二つの放浪惑星が太陽系に向かっているのが観測された。地球に衝突する可能性が徐々に大きくなっていく。二年後の審判の日に備え、ヘンドロン博士は秘密裏に地球脱出のためのロケットの建造を開始。博士の娘を愛する主人公・トニーは有能な人物を計画に参加させる仕事を請け負った。

 自分たちの選んだ人物だけ生き延びるために、ロケットを建造する。しかも、彼らは五億年の地球生物の歴史を繋ぐ重要な使命を担っているそうだ。集まった千名のうちの百名しか乗船の機会はないのに、それを知らされずに必死の作業が行われる。何かひどく気分の悪い話なのだが、後半にある程度の解決が見られ嫌悪感は減った。

 1932,33年の作品なので、科学的な事項には多くの疑問符が付くが、惑星の接近による地震や津波、暴徒化した人々などがリアルに描かれていて、地球の最後という衝撃的な出来事を上手く表している。  

『あの頃ぼくらはアホでした』 東野圭吾
集英社文庫 本体:552円(98/5初)、★★★☆☆
 ミステリ作家の著者が、小学生時代から就職するまでを綴った青春記。

 悪い事で恐れられるH中での命懸けの中学時代。ゴジラからウルトラセブンまで、怪獣ファンの話。更衣室覗き、ブルース・リー、不正定期券、本は嫌い、映画製作などの高校生活。受験、一浪、大学時代、就職。その時代を感じさせる様々な流行を含む、大阪人らしいパワフルでスリリングなエッセイ。

 作家で、しかも理系だったりすると、もっと真面目なのかと思っていたら、結構無茶していて爆笑。でも、エッセイとしての魅力はもうひとつか。時間が前後するのは、仕方ないかも知れないけど、小説として書かれていたら、もっと楽しめただろうと思う。

 高校生の頃に推理小説を好きになった経過が書かれているが、その後どんな本を読んでいたとか全然出てこない。本の事にもっと触れて欲しかった。巻末に新生「ガメラ」の監督・金子修介さんとの対談がある。  

『ファイナルジェンダー ―神々の翼に乗って― 上・下』 ジェイムズ・アラン・ガードナー
ハヤカワ文庫SF(SF1286,SF1287) 本体:各640円(99/9)、★★★★☆
 トバー入江の人々は、20歳まで一年ごとに性が入れ替わる生活をする。20歳になると《最終性選択》が行われ、性が固定するのだ。フリンがその日を向かえる前夜、彼の前に卑しむべき《中性》と《旧テクノロジー時代》の鎧で完全武装した騎士が現れた。彼らの崇拝する神々と彼らの特殊な生活の謎が明らかにされる。

 第一作『プラネットハザード 上・下』(ハヤカワ文庫SF)は、肉体的な瑕疵のある者を消耗品として集めた惑星探査の話だった。今度は一年ごとに男女の性を経験しながら成長する人々の話で、直接ではないけど前作と同じ未来を背景にしている。またしても、一癖ある設定を上手く料理するガードナーの手腕が発揮されていて、面白かった。

 一人の人間が両方の性を経験するのに、彼らの生活習慣には激しい男女差が存在する。主人公が《最終性選択》で悩む事で、男と女と中性、男女の役割などについて考えさせられる。また、成人する主人公が自分の父母の過去を知って、成長していく話でもある。  

『今夜も木枯し』 風間一輝
幻冬舎文庫 本体:600円(H11/11初)、★★★★★
 寡作な人らしく、まだ作品数も少なく、文庫は本書で三冊目。名前は「かざまいっき」と読む。

 仙波は、古い百科事典を地方で売り歩く行商人。世話になったホテルの亭主に頼まれ、売春を強要されたタイ人ホステスを部屋に匿った。彼女をボランティア組織に預けるまでの約束が、暴力団と警察を敵にして街を脱出する羽目になってしまう。群馬県舞橋市を舞台に繰り広げられる逃亡サスペンス。

 野球部のエースだったが、喧嘩で甲子園を辞退、離婚して探偵を始めるが物にならずに、今の職に就いた不良中年が主人公だ。そんな彼も「乗りかかった舟からは降りない」という信条で、関係ない女を守るために命懸けの逃亡を企てる。と、ここまでなら普通の話だが、全く予想外だった後半が凄い。空気がビシッと緊張するような厳しさを味わった。

 「怖カッタヨ。仙波サン、ワタシ、タクサン怖カッタヨ」なんて言うジャンの片言日本語が可愛い。そのせいで、女性には批判されてしまう面もあるかも知れないけど、男だけが読むには、もったいなさ過ぎる一級のエンタテインメント作品だ。  






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