タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『火星転移 上・下』 |
グレッグ・ベア |
ハヤカワ文庫SF(SF1187,SF1188) |
本体:各760円(97/4)、★★★★☆ |
『女王天使 上・下』と共通の未来を舞台に火星と地球の対立を描くSF。
2171年(火星暦53年)の火星の学生たちの抵抗行動から始まり、一年後の主人公キャシーアとチャールズの再会と恋を経て第二部へ。成長した二人が火星の未来をも左右する重要な事件の中心人物となっていく姿を描く。
第一部はベアのSFとしては、異色な恋愛物でがっかりさせられる。主人公が地球へ向かう所から、地球の情勢が出てきて、火星がおくれた片田舎だと知らされる。さらりと触れられる地球の混沌としたイメージが凄い。『女王天使』と共通の未来というのがここへ来てようやく納得できる。
下巻後半に出てくる、それまでほのめかす程度にしか明かされなかった新理論によって、物語は重大な局面を迎える。この物語の真価はここからと言っても過言ではなく、前半の不満もふっ飛んでしまう。この理論、実践はともかく、理論自体に凄い魅力があり面白い。化石となって発見された火星生物については、将来もっと書いてくれないかと期待している。
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『銀座探偵局』 |
大沢在昌 |
光文社文庫 |
本体:533円(97/6初、98/12,10刷)、★★★★☆ |
まず確実にハズレの無い大沢さんの短編集。探偵物の連作5編を収録。
武藤俊、通称ムウが二年ぶりに日本に戻り探偵を始める事にした。弱みを握られたシティマガジンの編集長・山田一郎が命懸けの捜査に協力させられる。ムウを慕う女性編集者や大龍会の大門婆さんら一癖ある脇役が登場する16ビートなハードボイルド短編集。
「囮にされた探偵たち」、「張子にされた探偵たち」、「奇跡にされた探偵たち」、「標的にされた探偵たち」、「標本にされた探偵たち」と似たようなタイトルが並ぶ。
アメリカの宗教団体の関係者と来日していた女性が失踪、彼女を捜す第一話から、高級外車から降りてきた美女4人の依頼を受ける第二話、新興宗教団体の教主の娘の依頼で奇跡の現場に立会う第三話、善良な編集長の首に賞金が懸けられる第四話、アマゾンで発見された半魚人の救出を依頼される最終話まで痛快なテンポで進む愉快なハードボイルド。
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『ホット・ゾーン』 |
リチャード・プレストン |
小学館文庫 |
本体:657円(99/4初)、★★★★★ |
ブレストン&チャイルドの『マウント・ドラゴン』は遺伝子操作で生み出された致死ウイルスの恐怖を描いたホラーだった。その著者のひとりダグラス・ブレストンの兄が致死性ウイルス・エボラの恐怖を描いたノンフィクション作品。
テレビの科学風番組の中で何回か取り上げられて、エボラウイルスやその蔓延の危機が何度かあった事について知っていた。しかし、ここまで想像力を刺激されリアルに感じる事はなかった。始めは活字ならではの力だと思ったが、恐怖をあおる事なく冷静に描いている著者の筆力による部分が大きいと考え直した。
エボラの属するフィロウイルスには、マールブルグ、エボラ・スーダン、エボラ・ザイールの三種類あり、本の半分以上は、アメリカのヴァージニア州の霊長類検疫所のサルがエボラ・ザイールに良く似たエボラ・レストンに感染した話に割かれている。結局、レストンはサルからサルに空気感染するが人間には無害だと分かるが、恐ろしい話であり、感染を防ぐための対策を息詰まるような思いで読んだ。
凄まじい症状とその時に体内で起こっている事が克明に記されているので、そういうのに弱い人は残念だが読むのは諦めた方がいいだろう。
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『こちら幻想探偵社』 |
清水義範 |
ソノラマ文庫NEXT |
本体:533円、(99/6初)、★★★☆☆ |
乾三四郎はテレビのスタントのバイトをクビになり、悪友・真下が始めた探偵社に勤める事になった。所長に所員ひとりと美少女の助手の三人の探偵事務所には、とんでもない秘密があって、超常現象に関連した依頼ばかりがくるのだった。
SF的な設定のドタバタ・ミステリーの連作短編四話。気は弱いけどスポーツ万能なおれ(乾)に、露出過剰な服装の美少女と、調査もせずにむちゃくちゃな推理をする所長という組み合わせながら、押さえ気味の展開で物足りない。「たまげ箱」のもっと意外な機能も見たかった。どの回も超常現象に対して、SF的な解決をきっちり付けていて、そっちに重点が置かれているって事かな。
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『バトル・ロワイアル』 |
高見広春 |
太田出版 |
本体:1480円(99/4初、99/6,5刷)、★★★★★ |
650頁を超える分厚い新書で、表紙に大きく「BATTLE ROYALE」とまるでぺーバーバックのような作り。あったかも知れないもう一つの日本・大東亜共和国を舞台に中学生同士の殺し合いを描いた衝撃作。
大東亜共和国では毎年、全国の中学三年生の任意の50クラスに殺人ゲーム・プログラムを行っていた。宝くじに当たるような確率だから大丈夫と思っていた七原秋也ら城岩中学3年B組が修学旅行のバスごと拉致された。説明会で教師の死体を見せられ、逆らった一人が殺された。そして、ゲームの幕が上がった。
望月峯太郎さんのマンガ『ドラゴンヘッド』のイメージで読んだ。こっちの予想をことごとく裏切って驚かされる小説だ。
ひとつは、もっとゲームのような、さらっとした殺し合いを描いている物と思っていた。タイトルからしてもそういう感じだから。血にまみれた担任教師の死体を見せられ、主人公の一番親しい友達があっさりと殺され、自分たちが殺し合いをしなければならない事を理解していく。そのシーンの痛々しさは忘れられない。
さらに、何らかの方法でシステムを壊していく話になるかと思っていたら、かなりの部分まで“バトル・ロワイアル”が続くストレートな作品だという事。話が進につれ、ゲームを続ける大東亜共和国への憎しみが募っていく。国歌の強制、盗聴法、自衛隊迷彩服での民間機搭乗などの現実と合わせて、現実の日本の目指している所がどこなのか、ひどく恐ろしくなる。
そして、40人もいるクラスの全員にそれぞれ焦点をあてて、平和だった頃の思い出と共に、脅える者、策を巡らす者、静かに死を覚悟する者を描き出す。重要な人物十名ぐらいに絞って描くのが普通なのではないかと思うのだが、その丹念な描写のおかげで、死んでいったどの人物もが、自己を持って生きていた事を印象づけられる。
理不尽な国家戦略によって、42分の41という死の確率を背負わされた恐怖と絶望、不信感。そんな状況下でも誰かを守ろうと懸命になる者がいる。殺伐とした中にも温かい交流が描かれるが、そんな小さな救いさえも踏みにじられる。こういう話にすれば感動するだろうという、あざとさを感じなくもないが、読んでいる間はそんなことに関係なく、怒ったり悲しんだりして、夢中で読んだ。
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『極微機械(ナノマシン)ボーア・メイカー』 |
リンダ・ナガタ |
ハヤカワ文庫SF |
本体:820円(98/8)、★★★☆☆ |
ニッコーは夏別荘社社長によって試作された人造人間で、30年という期限の寿命が尽きようとしていた。生き延びるために連邦警察長官カースティンに接触したり、過去に制作された違法なナノマシンを手に入れようと画策した結果、犯罪者として命を狙われる。
ナノマシンや予備の肉体、枢房という脳に埋め込まれた補助器官でのバーチャルな体験など、最新のSF的発想を融合して独自の世界を築いている。ただし、スピード感のある爽快なエンターテインメント作品で楽しみたい内容が、何か煮え切らない話になってしまっている。
ニッコーの失策で命を狙われる弟がニッコーに対して少しも恨み言を言わない事や、フォージタが自分に暴力を振るうアリフをかばったりする事や、他にもニッコーと父親や、ニッコーとカースティン、カースティンとリアンダーの過去など、複雑な人間関係が十分理解できず、すっきりしないまま終わってしまった感じがする。
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『X−ファイル 未来と闘え』 |
クリス・カーター&エリザベス・ハンド |
角川文庫 |
本体:580円(H10/11初)、★★★☆☆ |
テキサス州で洞穴に落ちた少年が中に生きていた三万五千年前の生き物に襲われた。一週間後、連邦政府ビル爆破の予告があり、モルダーが爆弾を発見するが、結局五人もの死者が出た。スカリーの配属変えに気落ちする彼に、事件の真相を知らせようとする者が現れる。
X−ファイルを見たことないので、あまりドラマとの関連を言えないのだが、シリーズを通じてFBIの男女のX−ファイル捜査官が活躍するらしい。その流れで制作された映画の小説化。
解説込みで200頁という薄い本だが、中身は充実していて楽しめた。解説を読んでみると、モルダーの妹の事とか、FBIでの二人の位置づけとか、この本の中では十分に説明されない流れを知っていれば、もっと良かったかも知れない。
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