タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『蛇の魔術師』 |
グレッグ・ベア |
ハヤカワ文庫FT(FT118) |
本体:718円(88/12)、★★★★☆ |
SF作家ベアのファンタジー作品『無限コンチェルト』の後編。
マイケルは映画作曲家の指示から妖精の住む異世界に捕らわれた。彼は魔法の訓練を受け、やっと妖精の国から帰ってきたが、その間に現実の世界では五年の歳月が流れていた。平穏な暮らしに見えたが、小さな異変が起き始めていた。魔法を身につけた彼は敏感にそれを捉えていた。
大変に読み応えのある本で、太古から続く人間と妖精の争いや、宇宙の成り立ちまでも言及している。前半は日常生活の中に徐々に不安が高まっていくサスペンスが良いが、中盤は少し退屈。後半の激しい展開と刺激的なイメージにはわくわくさせられた。スケールの大きさといい、構成力といいSF作家ベアの良いところが十分に発揮されている。少しSFのエッセンスが入っていて、前編の『無限コンチェルト』より面白かった。
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『パワー・オフ』 |
井上夢人 |
集英社 |
本体:1748円(96/7)、★★★☆☆ |
「おきのどくさまウィルス」と呼ばれるコンピュータ・ウィルスがネットを通じて広がった。ネットワークの管理会社が必死の対応に追われる中、ゲームソフトの会社がワクチンソフトの発売を発表する。余りの開発の早さに疑問を感じる者もいたが……。
1994年からの連載で1996年に本になった。94年から計算すると5年経つので少し古いかもしれないが、楽しむのにそんなに影響無いと思う。あらすじからはパソコンを好きな人向けに思えるが、コンピュータ・ウィルスやパソコンについての正しい知識を伝えようとしてるような感じがあり、知っている人には少し退屈かも。ワクチンの開発者がウィルスをばらまいたのかという疑問が出てきた所でそれをミステリー風に展開して欲しいと思ったが、人工生命を使った研究などが出てきて空想的な方向へ向かっていく。既に読んでいるある海外の小説と同じアイデアだったのが残念だった。
著者自身がパソコンに詳しい事は他の著作からも知っていたが、今回も正確な知識で書いている(ワクチン付属のカードをメモリボードと呼んでいるのがちょっと疑問)。逆にコンピュータの解説が丁寧なだけに飛躍した部分が希薄で不満だった、思い切った嘘を書いて欲しかった。
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『プラネットハザード―惑星探査員帰還せず― 上・下』 |
ジェイムズ・アラン・ガードナー |
ハヤカワ文庫SF(SF1260,SF1261) |
本体:各620円(99/2)、★★★★☆ |
久しぶりに買った「SFマガジン」(1999年4月号)に著者の短編が載っていた。読んでみたら面白かったので新人だけど買ってきた。
25世紀、人類は種族同盟に加入し宇宙に進出していた。惑星探査要員の任務は危険なため仲間の死で軍の士気が影響されないように瑕疵を持った者を集めていた。顔に大きな痣のある惑星探査要員フェスティナ・ラモスへ、同僚のヤーランと共に帰還率ゼロの惑星へ降下する命令が下った。
ソウヤーと同じカナダの作家で、帯にソウヤーの「この10年、これほど出来のいい処女作は初めて読んだ」という言葉が載っている。危うい設定を難なくこなしていて楽しめた。惑星メラクィンが地球に似ているという謎を中心に、ガラスの女の存在、他の探査要員の行方など、幾つもの謎を提示して、最後には全て納得が行くようにまとめている。SFとしてはそれ程濃い方ではないが、顔に痣のある女性が主人公だったり、瑕疵を持った者が惑星探査要員となるという設定が効いていてひねりがあって良い。「SFマガジン」の短編も妙な魅力があった。一部のコミカルなキャラクターも楽しませてくれる。
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『時にはうどんのように』 |
椎名 誠 |
文春文庫 |
本体:448円(98/8)、★★★☆☆ |
何冊目だか分からないけど「赤マント」シリーズのエッセイ集。
1994年から95年の約一年分の連載をまとめた物。この本の始まりが222回記念だそうだ。ふと時計を見ると“2:22”だったり、“3:33”だったりする話など。日本中を飛び回り、目にした様々な不思議などを、移動中の乗物の中でまで書いた面白エッセイ集。
最近の文春文庫の椎名さんの本は「週刊文春」連載エッセイの「赤マント」シリーズばかりらしい。一覧を見るとほとんど読んでいるようだが、前回の『ネコの亡命』を買いそびれているので忘れないようにしなくては。沢野ひとしさんの1ページのカット1枚と小さいカット1枚を含めて一編が7ページ弱なので短い時間にも読みやすい。ちょっと読むと、気が休まって元気が出る。
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『絞殺魔に会いたい』 |
パーネル・ホール |
ハヤカワ文庫HM(HM153-4) |
本体:602円(97/4,5刷)、★★★★☆ |
臆病な探偵・スタンリーのシリーズ第四作。翻訳で既に10作近く出ている。
スタンリーは事故の賠償契約に被害者の元を訪れる調査員として雇われている探偵だ。弁護士の元に電話が入り、彼が契約に向かった先で死体が待っていた。担当刑事に犯人扱いされ、弁護士事務所も捜査され、彼は濡れ衣を晴らすために犯人探しを命じられる。
「わたし」で語られる一人称の探偵小説で彼のいつものぼやきから始まる。ハーレムでの契約は心底恐いとか、ここからなら交通費が稼げるとか、色々言っている。いやな役回りを怒ったりしてると妻アリスになだめられて納得するのが可愛い。臆病で人が良くって、いざとなると勇気を出してがんばるけど、ちょっと抜けている。今回、やたら張り切って事件解決といきまいた時には、その犯人はちょっと変じゃないかと思っていたら、やっぱり彼の勘違い。最後に解決された内容は納得できるし、ミステリーとしてしっかりしていて安心して読めるシリーズ。
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『別人「群ようこ」のできるまで』 |
群ようこ |
文春文庫 |
本体:438円(97/12,16刷)、★★★☆☆ |
群(むれ)ようこさんというエッセイストが本の雑誌社の事務員だったというのを目黒考二さんの『本の雑誌風雲録』で知った。本の雑誌社の事務員がどういう経過でエッセイストになったのか気になったので買ってきた。
大学での就職活動の話から、幾つか仕事を変わっていった話、そういう彼女を母親は実にあっけらかんと見つめている事などが書かれている。本の雑誌社へ入った経過や仕事の内容、初めての物書きの仕事、原稿書きが増えて本の雑誌社を退社する事などが続く。
予想していた通りの内容で満足、目黒さん以外の人が見た本の雑誌社の始動期の様子も分かった。後、群さんから見た椎名さん、目黒さんはどんな人なのかも知りたかったのだが、それについてはあまり書かれていなかった。沢野さんがイラストをさぼった事件に触れているので、彼のとんでもない性格は良く分かった。沢野さんの事は今月読んだ椎名さんの本のあとがきにもはっきり書いてあったが、仲間内の書いた文からは得られない客観的な描写が強く印象に残った。群さんについてはパワフルな人だなと思った。関係ないけど「IN・POCKET」の対談の写真で群さんのお顔も拝見できた。この本の印象とは違って穏やかそうな人だ。
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『ライトジーンの遺産 上・下』 |
神林長平 |
ソノラマ文庫NEXT |
本体:571円,495円(99/1)、★★★★☆ |
一話目以外は書き下ろしという事だが、連作中短編集になっている。
原因不明で臓器が崩壊する未来。人々は何らかの人工臓器に頼って生きていた。臓器崩壊の原因の解明と人工臓器の研究から生まれた人造人間のコウとMJ。二人はそれぞれサイファの能力を認められコウは中央署に、MJは臓器メーカに雇われていた。事件を巡って二人はたびたび対立した。
まずは、各タイトルを挙げておく、
上巻は、アルカの腕、バトルウッドの心臓、セシルの眼、ダーマキスの皮膚
下巻は、エグザントスの骨、ヤーンの声、ザインの卵
一編ごとに腕、心臓、眼、皮膚、骨、声帯の各人工臓器がテーマになっている。人工臓器開発の暗部や社会に属さない自由人という荒廃した部分が描かれるハードボイルド。自由人のコウはウイスキーをやりながら好きな詩集を読んでいる。彼の兄のMJはサイファの力で若返り、女性になって贅沢な暮らしをしている。極端に違う二人が、唯一の人造人間で真のサイファとして様々な事件で対立する。内臓が崩壊するという設定に素直に入っていきにくく、二話目の中盤でようやく慣れてきて話を楽しむ事が出来た。上巻まで読んで、質の高い良質のSFと感じ、下巻を読んで傑作だと思った。上巻のパターンを壊す作品が下巻にあって、事件のないその作品が光っている。
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『三億の郷愁』 |
清水義範 |
ソノラマ文庫NEXT |
本体:552円(99/4)、★★★★☆ |
タイム・トラベル物の自選短編集。
「三億の郷愁」
約100ページの中編、事故で過去に行ってしまった二人が生活のために考え出した事は……。割と一般的な時間物だけど、ミステリーの味付けとラストの意外性に工夫がある。
「また逢う日まで」
就職して東京で生活を始めた義明は隣に越してきたお婆さんと親しくなる。オチが時間物なのでこの作品集に入れるとネタバレだけど、オチよりムードを楽しむ作品だから関係ないか。
「タイムトンネルだよ、ピーナッツ!」
叔父の研究室を訪ねるとテレビで延々と昔の番組をやっている。このテレビは一体何なんだ。こんなラストもありなのか。
「21人いる!」
あらすじは書かない。楽しい話。ドタバタで始まって、主人公と共に振り回される。
「バイライフ」
著者の多作の秘密を公開。清水さんの作品数を考えるとSFではなくて真実かも。
「人生かし峰太郎」
坂本竜馬が襲われる所へ現れた男・峰太郎は……。このパロディ、他にもありそうなのに知らない。
一人の著者のタイム・トラベル短編集なんて、同じ様な話で飽きるかと思ったら、バラエティにとんだ色々な作品を読む事が出来た。「また逢う日まで」と「21人いる!」が特に良かった。SFが好きな著者だけど、余りSFは書いていない。その多くがタイム・トラベル物なのではないかと読んで気づいた。全ての作品が他の単行本に収められていて、6編中5編読んでいた。
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『フロム・タイム・トゥ・タイム 時の旅人』 |
ジャック・フィニイ |
角川文庫 |
本体:1000円(H11/1)、★★★☆☆ |
ジャック・フィニイの遺作となった作品で『ふりだしに戻る』の続編。
その時代についての知識を身につけ、自己暗示をかけると時間旅行が可能になる。プロジェクトに参加したサイモンは1880年への時間旅行に成功し、その時代に移り住む事を決めた。その彼に第一次世界大戦を防ぐという新たな使命が与えられる。果たして歴史は変えられるのか。
『時の旅人』を改題しての文庫化。『時の旅人』といえばH・G・ウェルズの生涯を描いた本が思い浮かぶ(ハヤカワ文庫NF)ので副題になって正解。はじまりはサイモンが変更した歴史が書き換えられ、彼は現代に戻る事にする。時間物でこれをやると何でもありになっちゃうな。前半は歴史改変の証拠集めが面白かったぐらいで退屈な話が続く。後半は、飛行船のシーンや、貧しい芸人たちが夕方に下宿屋の階段で語り合う所や、タイタニック号への乗船など見所も多い。ただ主人公が何を考えているのか良く分からなく、引き込まれない。昔の写真が沢山載っているのは、著作権が切れていて使いやすかったからか。それとも、本の厚さの割に高いのは写真の掲載料のためか。
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『ロケットガール』 |
野尻抱介 |
富士見ファンタジア文庫 |
本体:620円(H9/4,再版)、★★★☆☆ |
ホームページで知った野尻さんの小説をはじめて読む。
ソロモン諸島でのロケット開発打ち上げを日本企業が受け持っていたが試験は失敗続きだった。16年前に失踪した父親を探しにソロモン諸島を訪れた女子高生・ゆかりはアルバイトで宇宙飛行士をやる事になる。待っていたのは地獄の訓練とボディラインくっきりの肌に密着した宇宙服だった。
美少女アニメ風のイラストが付いている。アニメ風美少女の出てくる小説に何故か嫌悪感がある。なら読まなければ良いのだが、SFとしての評価が高く、著者のホームページの技術的なこだわりを見て期待してしまったのだ。打ち上げまでの三分の二は、重量軽減のため女子高生を宇宙飛行士にしてしうというドタバタ・コメディ。女子高生が全裸の検査やサディスティックな訓練を受けるのだから、それなりに楽しめるのだが、SFじゃない。後半のロケット打ち上げもリアルすぎてSFじゃない、SFなら実際のロケット打ち上げと違っているぐらいの方が面白かった。発射の加速とか、振動とか、不安とか、緊張とその解放の瞬間とか、無重量感とかをリアルに感じたかったのに、あっさりしている。私が期待した物は、この文庫では無理なのかも知れない。悪いとこばかり書いてしまったけど、キャラクターも魅力的で良く出来ていた。実力のある人なので制約の無いSFを読みたいと思った。今度「SFオンライン」の短編を読んでみるか。
ゆかりの性格と巻き込まれて宇宙飛行士になってしまうのが合っていないのは、性格を変更させられたから。ホームページに書いてある。
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