タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『無限コンチェルト』 |
グレッグ・ベア |
ハヤカワ文庫FT |
本体:680円(S62/11)、★★★☆☆ |
ずっと読み残していた本書の続編『蛇の魔術師』を読む前に再読した。SF作家ベアのファンタジー作品。
「無限」と名付けられたコンチェルト、その演奏会を聞いた人が全て消息を絶った。亡くなった作曲家から貰った鍵と本を持ってマイケル少年は、扉を開けた。そこは妖精シーと人間、その混血ハーフの住む異世界だった。
正統的な魔法世界の物語、前に読んだときはSF的なひねりを期待して少しがっかりした覚えがあった。ツル女たちから魔法の訓練を受けるシーン以外まったく覚えていなくて新鮮な気持ちで読めた。さすがにSF作家だけあって、安定した描写で空想世界をきっちりと築いている。ハーフの少女との性体験や、特別な存在としての孤独、ツル女たちとの微妙な関係と裏切りなどの人間関係が描かれ、読み応えのある話だった。
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『「超能力」と「気」の謎に挑む』 |
天外伺朗 |
講談社BLUE BACKS |
本体:738円(93/5)、★★★☆☆ |
某社に勤める超能力の研究家・D博士に取材した内容を元に「超能力」について解説する。素粒子論やユングの深層心理学、ライヒの気の研究を紹介して、それらが東洋哲学や宗教の考え方に通じると語っている。随所にD博士との対話が入っている。
某社がソニーなのは、すぐ分かる。新聞で知ったが、ソニーには超能力を研究する部があったが、部長の死後まもなく解散したという事だ。D博士とはその部長だろう。一般的に科学者は先入観を持ってはいけないと言われている。超常現象を非難する大槻教授は先入観の固まりのようになっていて嫌いだが、この著者は逆に信じすぎていて説得力がない。研究と結果を積み重ねて、超能力とは何かを説明して欲しかった。実際にはD博士に取材したのではなく、D博士=著者なのだろう。そういう嘘をつく事で内容まで信じられなくなった。この本、3回目でやっと読み通せた。
(その後、天外伺朗さんとD博士は別人だと判明した。D博士はソニー創設者の井深大氏らしい。2000.4記)
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『宝石泥棒』 |
山田正紀 |
角川文庫 |
本体:540円(S57/3)、★★★★☆ |
ハルキ文庫の『螺旋の月』(宝石泥棒2の改題)を買ったが『宝石泥棒』の話を全然覚えていないので再読する。図書館がどうのこうのという話かと思っていたら違った。
甲虫を守護神に持つ戦士ジローは、いとこの少女への想いを遂げるため、神・稲魂の試練を受ける。狂人のチャクラと女呪術師のザルアーを加えた三人は“宝石を人間の手に奪い返す”ために“空なる螺旋”へと旅立った。
日本やアジアの神話を強く意識した異色のヒロイック・ファンタジー。異様な生物たちの描写が大きな魅力になっている。加えて、アジアの精神文化の影響が独特の味を出している。死を覚悟する危機から、結局さらりと回避できる事が多いのは少し引っかかったけど、今読んでも斬新な内容で良かった。
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『螺旋の月 宝石泥棒2 上・下』 |
山田正紀 |
ハルキ文庫 |
本体:740円,840円(98/12)、★★★☆☆ |
『宝石泥棒』の続編で『宝石泥棒2』の改題。新世代コンピュータを開発する次郎は恋人の精神錯乱を知って東京に戻る。部屋で彼女からのメッセージを見つけた彼は、その指示に従い札幌の研究室にアクセスした結果、未来の戦士ジローの体験を知る。未来のジローは更に不思議な世界をさまよい数々の戦いを経験していった。
前作よりスケールアップして他者の追随のない極限の世界を描いた力作。極低温の死者の世界、灼熱の砂漠、時間の混乱した世界のイメージが凄く、傑作かと感じさせる。しかし、前作同様ジローが自力で戦いに勝つのでなく、解決が与えられしまうのはつまらないし、何かに守られているかとも思えてくる(守られているとしたら、人類の代表として試練を与えられている意味がないので違うはず)。現在の次郎の方の話は新世代コンピュータの開発と、何かが研究に介入してくるところが面白く、ジローの話とどう繋がってどんな解決がなされるかと期待したが、たくさんの謎を残したまま終わってしまった。もっと深く読み込めば、ピッタと当てはまる解答があるのかも知れないが、私は混乱したままだ。
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『メドゥサ、鏡をごらん』 |
井上夢人 |
双葉社 |
本体:1748円(97/2)、★★★☆☆ |
〈メドゥサを見た〉と書き残して自殺した作家・藤井陽造。その娘の婚約者が藤井の最後の作品から、死の謎を解こうとする。パソコンからも完全に削除された原稿を追って、その舞台らしい石海を訪れる。
実際には幽霊とか出さないで、説明のつかない出来事で呪いのような物を感じさせていく。現実の中のちょっとした狂いが、積み重なっていくのが恐い。意外な展開があって、どう決着を付けるのかと思ったら、さらに複雑になっていく。一応の決着はあるが解釈の仕方が多すぎて不満が残った。しかし、読みやすさと面白さは絶品。
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『スタープレックス』 |
ロバート・J・ソウヤー |
ハヤカワ文庫SF(SF1257) |
本体:800円(99/1)、★★★★☆ |
人類とイルカ族と他2つの異星の種族によって惑星連邦が創設されて十数年後。銀河系には建造者不明の瞬間移動の可能なショートカットと呼ばれる通路が設置されていた。新しく作動したショートカットの探査のための巨大宇宙船「スタープレックス号」が建造され、現地の調査や知的生物の探査の旅に出た。
SFの楽しいところを総取りした作品。使われているSFアイデアが多くても無理を感じさせないが、幾つかの魅力的なアイデアはもっと掘り下げて欲しくなる。異星人の個性が楽しいし、数式を使わないレベルの科学が親しみやすいし、唖然とさせられる宇宙の起源や未来に関するアイデアが嬉しい。他のSFの影響も濃いが、後半のオリジナルのアイデアの魅力も半端ではない。楽しいけれど、まとまりがないというか、もう少し話を絞った方が作品の評価が高くなったかも。
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『本の雑誌風雲録』 |
目黒考二 |
角川文庫 |
本体:476円(H10/10)、★★★★☆ |
「本の雑誌」の発行人・目黒さん自身による「本の雑誌」配本部隊の記録。発行の真相から、1976年の創刊、そして1985年の10周年までの「本の雑誌」の急成長が配本の苦労を通じて語られる。
配本部隊の話という事を知って少しがっかりしたが、読んでいくうちに「本の雑誌」を巡る、思いと繋がりに感動してしまった。時折、若者の行動を厳しく批判するが、成長を見守る温かい目も感じさせてくれる。会社を3日間で退職していた目黒さんが、地味な配本の仕事を続けられたのは、十分な報酬もなく集まってくる学生たちに引っ張られての事に違いない。
終わりの方にこんなシーンがある。目黒さんが、雨に濡れながら重い本の束を運ぶ学生たちをふと見て、自分なら彼らの年のときにこんな事しなかっただろうと考えて「バカだよ、あいつら」とつぶやくのだ。「本の雑誌」の配本を支えてくれた彼らに対するいとしい気持ちが伝わってくる。
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『あした天気にしておくれ』 |
岡嶋二人 |
講談社文庫 |
本体:485円(89/8)、★★★★☆ |
未読の岡嶋二人作品はゲームブックしかないと書いたけど、この本はまだ読んでなさそうなので確認してみた。
三億二千万円で取り引きされた競走馬が輸送中の事故で足を折ってしまった。それが知られれば牧場は破産するしかない。競馬秘書と呼ばれ馬の管理を任されている朝倉がある提案をする。牧場が一致協力して朝倉の案を実行するが、思わぬ事態が待っていた。
計画に徐々に不安が出てくるところで、朝倉にますます失敗できない状況が生まれていくのがうまい。軽快でいて心理描写がしっかりしているので、各シーンの緊張感がひしひしと伝わってくる。これが岡嶋作品の魅力だろう。トリックは途中で気付いた、というか、こうするとどうなるのかなと考えてたら、それがトリックだった。深くは考えてなかったので細部の説明に成る程と感心した。ラストは競馬場のシーンの後にすぐエピローグが来るぐらいすっきりしている方が良かった。
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『復讐の残響』 |
デイヴィッド・ローン |
新潮文庫 |
本体:667円(H10/6)、★★★★☆ |
盲目の元音響技師ハーレックのシリーズ第3弾。盲目のハーレックは鋭い聴覚を武器に誘拐事件を解決した。その事件の犯人の一人バリターノが出所し、相棒を射殺した元巡査部長を殺害した。次に狙われるのはハーレックか?。警戒する中で次の犠牲者が出る。
誘拐事件の犯人がハーレックに復讐しようとする前回の『音に向かって撃て』と同じパターン。どうせ似た話になるのなら、聴力を武器に事件を解決する方が面白いのにと思ったら、あっさり100ページで逮捕されてしまう。その後どうなるかは書かないが、日本だったらこんな事ないんだろうなあ。
今回も相手は精神異常者で殺人に少しのためらいもない。息詰まる展開に本当にドキドキさせられた。
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『ファースト・コンタクト』 |
金子隆一 |
文春新書 |
本体:720円(H10/10)、★★★★☆ |
文春新書の第一回配本の中の一冊。副題が「地球外知性体と出会う日」という、SETI(地球外知性体探査)についての解説書。生物の発生のしくみから地球外生物の存在の可能性を解き、銀河系内に存在する交信可能な文明の数を予想する(ドレイク方程式)。SETIの歴史や成果、将来の展望、その日のための国際的な準備について触れている。
少しSF風の内容を予想していたのに意外にかたい話だった。歴史から最新の話題まで含めて、SETIに関係する事項を網羅している。どの事項も著者ひとりの見解ではなく、多くの研究者の意見を紹介していて信頼できる内容。最後の章はそれまでとはちょっと違って空想的で楽しい。SETIに取り組む人々の考えなどが理解できる本。
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