読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 1999年01月

『リヴィエラを撃て』, 高村 薫
『ファウンデーションの誕生 上・下』, アイザック・アシモフ
『ぼくのマンガ人生』, 手塚治虫
『デッド・ゾーン 上・下』, スティーヴン・キング
『男は旗』, 稲見一良
『月の物語 異形コレクション8』, 井上雅彦 監修
『ターン Turn』, 北村 薫
『音に向かって撃て』, デイヴィッド・ローン
『戦時下動物活用法』, 清水義範
『臨界のパラドックス』, アンダースン&ビースン
『解決まではあと6人』, 岡嶋二人

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『リヴィエラを撃て』 高村 薫
新潮ミステリー倶楽部 本体:1942円(93/7)、★★★☆☆
 《リヴィエラ》という言葉を残して殺された男女。捜査をする手島にイギリスのMI5が接触してくる。事件はイギリスの大財閥や世界的なピアニストとの関連が浮かび物語は日本を離れる。78年の北アイルランドのテロリストの活動が、92年の東京での事件にどう繋がるのか。各国の組織が《リヴィエラ》を巡って虚々実々の駆け引きをする。
 濃密にその世界を描き出して読者の心をがっちりと捉える。でも、著者との真剣勝負という感じで読んでいて疲れるし、長すぎる。国の特殊な組織の十分にコントロールされている人たちが、恋人との愛に我を忘れたり、男同士の友情とか愛とか、組織を超えて情けをかけたりと、だんだん不快になっていった。ここぞってところで使ってこそ感動できるのに、全体がそればっかりだと変な世界に思えた。  

『ファウンデーションの誕生 上・下』 アイザック・アシモフ
ハヤカワ文庫SF 本体:各640円(98/6)、★★★☆☆
 心理歴史学の創始者ハリ・セルダンがファウンデーションを設置するまでの半生を描く。前作『ファウンデーションの序曲』の8年後からの話しで、本書の終わりがシリーズ第一作『ファウンデーション』へと繋がっていく。〈銀河帝国興亡史〉の幕を閉じる作品。読者をあっと言わせるような意外な真相とかなしに素直に終わっている。ひとつの作品としては特に光る物はないんだけれど、アシモフの集大成として評価したい。また、年をとったセルダンが、著者そのままという感じで、アシモフが自分の作品の中に自分を残していったような感じがして切なくなった。  

『ぼくのマンガ人生』 手塚治虫
岩波新書 本体:660円(97/5)、★★★☆☆
 手塚さんの講演記録を元にプロダクションがまとめた手塚治虫さんの自叙伝。本文の合間に小学校時代の友人や手塚さんの妹さん、虫プロ倒産のとき手塚さんを支えた葛西さんの話がコラムになっている。他に当時のマンガとか、その当時を描いた自伝的なマンガが少し載っている。巻末にはマンガ「ゴッドファーザーの息子」が収録されている。
 研究者による本の方が、手塚さんの生涯について過不足なく知る事が出来るだろうが、本人の生の言葉を読めるところが本書のいいところ。亡くなってから講演を元に作った本とは思えないほど内容的にまとまっている。妹さんの話は、手塚さんの性格を知る事が出来る他では聞いた事のないエピソードが多い。  

『デッド・ゾーン 上・下』 スティーヴン・キング
新潮文庫 本体:各583円(H9/3,H9/2)、★★★★★
 1970年代のアメリカを舞台に、4年半の昏睡から覚めて予知能力を身につけた男の悲劇を描く。若き教師ジョンは恋人セーラとカーニバルに行った。出店の賭けで不思議な力を発揮した彼は、その帰り交通事故にあい昏睡状態となってしまう。4年半後に目覚めた彼は、看護婦に触れたとたん、彼女の子供の目の手術の結果を、医師からはその肉親の行方を知ってしまう。昏睡の間に失った様々な物を嘆きながら、予知能力者として騒ぎに巻き込まれていく。
 キングは良く知っている作家という気がするが、長編を読むのはこれが初めて。実力のある作家の小説を読んでると、どこかにその世界が本当に存在するような気になってくる。キングもそういう作家だ。ジョンは狂信や反感などの騒ぎから逃れるために、力を使わないでいようとするが、強い要請があったり、能力に操られるように予知力を使ってしまう。何回もの手術とリハビリ、様々な心の痛手を乗り越えて、やっと訪れた安らぎが踏みにじられていく。そんな中にも、救われるシーンが幾つかあるのでバランスが取れている。ラストはちょっと涙がこぼれた。初版は昭和62年発行だから、かなり古い本。  

『男は旗』 稲見一良
新潮文庫 本体:427円(H8/12)、★★★☆☆
 客船・シリウス号は今やホテルとして使われている。その責任者・安楽さんはシリウス号の元船長だ。彼を慕って集まってきた一癖ある男女を乗せてシリウス号が再び海に出る。船に隠されていた宝の地図を狙って盗賊団が船を襲う。
 全体に現実感がなく大人の童話として割り切ろうとしても違和感が残る。シリウス号に集まってくる人たちが、何故ここにいるのかが伝わってこない。孤独に生きる人物を多く描いている著者には苦手な話なのか。必要ないけど飛行艇を盗もうとか、目的もないから宝の島でも探すかっていうのもやだな。何でシリウス号を買い戻すために宝島を探そうって言わないんだ。  

『月の物語 異形コレクション8』 井上雅彦 監修
廣済堂文庫 本体:762円(H11/1)、★★★★☆
 書下ろしホラーアンソロジーの8冊目、はじめて読んだ。テーマは月、三つの章に分かれていて第二章はSFを集めている。全体では漫画を二編含む25作品。買うのを躊躇するほど外観が悪い。目当てはSF作家ばかりで、草上さん、岬さん、堀さん、梶尾さん、横田さん、眉村さん、大原さん。
 梶尾真治さんの竹取物語の後日談「六番目の貴公子」は展開が鮮やか、オチは好きではない。岡本賢一さん「月夢」はホラーSF、テーマを生かしたアイデアが効いている。北野勇作さんの「シズカの海」はノスタルジーを感じさせるホラー、不思議な味わいがある。大原まり子さんの「シャクティ〈女性力〉」はデパートを舞台にした話が面白いが、非現実部分との繋がりがちょっと良くない。
 始めの方に“月をテーマにしたホラー = 狼男”という安易な作品が並んでいてがっかりしたが、全体では狼男物は少なく、いろいろなバリエーションの“月の物語”を楽しめた。『異形コレクション』のシリーズは、1998年度日本SF大賞特別賞を受けている。  

『ターン Turn』 北村 薫
新潮社 本体:1700円(97/8)、★★★★☆
 女性版画家が事故に遭いダンプにつぶされたと思ったら、何事もなかったように自宅で目覚めた。事故は夢だったのか、いや、他の人が誰も存在しない世界で、同じ一日を繰り返す事になったのだ。記憶以外なにも先に残せない世界での孤独な生活に絶望が募る。
 二人称小説っていうのか、主人公を君と呼ぶ第三者が語る形式ではじまり第四章まで続く。語り手と主人公が会話したりする。主人公がひとりになると会話がなくなって読みにくいからだろうと思ったら、それが伏線になっている。孤独と、先に何も残せないという状況はかなりつらいだろう。版画を作っても誰も見てくれないし、後に残らない。いつかきっと戻れるという希望しか支えがない。こんな状況をどう処理するのかと思ったら、中頃でロマンチックな展開があってほっとする。
 北村薫さんの小説のいいところが十分出ていて面白かったけれど、どことなく印象が弱い。ラストの主人公の悟りに共感出来なかったためか。お金を払うところを何度も描いているのは何故か。消えてしまう版画を彫る事と、無意味にお金を払う事とは根が同じだと言いたいのかも知れない。払うのは自己満足でしかないが、版画を続けるのは練習になるし、その間が充実するのだから価値が違うと思うのだが…。  

『音に向かって撃て』 デイヴィッド・ローン
新潮文庫 本体:738円(H6/7)、★★★★☆
 失明した音響技師が脅迫電話の背景音の分析で事件を解決する『音の手がかり』の続編。事件から一年後、捕まった犯人スタークが復讐に燃え刑務所を脱走する。スタークは軍の特殊部隊の元隊員でプロの暗殺者だ。警察とFBIの警戒をかいくぐり盲目のハーレックに迫る。
 スタークが殺人を繰り返しながら迫ってくる。彼の恐ろしさを示す子供の頃のエピソード、捜査官の元に届くスタークの精神分析などが話を盛り上げる。なかなか直接対決といかないので、伸ばしすぎと思わなくもないが、どのシーンも緊張感があっていいシーンなので抜きにはできないだろう。ハーレックの活躍が少ないのが残念だが良く出来ている。でも、悪意が強くて残虐すきるので好きな話ではない。スタークの子供の頃のエピソードは本当に恐いぞ。  

『戦時下動物活用法』 清水義範
新潮文庫 本体:438円(H9/7)、★★★★☆
 ひさしぶりに清水さんの本を読む。ダイエットをする女の子の独白でつづる「空腹姫」から、現在の日本が戦争をしていたら、書かれたであろう警告文書「戦時下動物活用法」まで、著者ならではのパスティーシュ小説10編を収録。
 一番笑えたのは「平成×年竹林館占」。占いがずらっと並んでるので読み飛ばしたくなるが、良く読んでいくと笑いがいっぱい詰め込まれている。巻頭の「空腹姫」はダイエットに悩んでるのに結局ケーキ食ってる娘。全然フィクションじゃなくて、どこにでもいそうだけど面白い。パソコンに挑戦する夫婦の「トライアル・アンド・エラー」もいかにもありそうな話。夫はマニュアルどうり進めたいのに妻は勘で操作していく、いらいらする夫、結末は?。実際のパソコン習得はこの中間の態度が良いかも。絶好調の作品多数収録でお買得な一冊。  

『臨界のパラドックス』 ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン
ハヤカワ文庫SF(SF1067) 本体:680円(94/7)、★★★☆☆
 反核活動家のエリザベスが実験設備の破壊工作中に爆発に巻き込まれタイムスリップする。そこは1943年のロスアラモス、原爆を開発しようと必死の研究が行なわれているところだった。偶然にも施設の一員となったエリザベスは核兵器の開発を阻止しようとするが…。あったかも知れないもうひとつの核兵器開発競争を描く。
 こんなに好きになれない主人公っていうのもめずらしい。単純な思考回路からの安易な言動と、この時代の文化へのヒステリックな対応に苛立ってしまう。それを我慢すれば、ドイツとアメリカの核兵器開発の生々しい現場を描いていて興味深かった。科学者が自分で計算するのかと思っていたら、計算専門の女性チームが存在したのか。こういう描写が時代を感じさせてくれていい。ドイツの方の架空の核施設の凄惨なシーンもあの時代ならありそうだと思えた。
 途中で挫折している『原爆をつくった科学者たち』岩波同時代ライブラリーを近いうちに読み直してみようと思う。『原爆を…』は原爆研究に従事した科学者たちが書いた12編の回想録です。  

『解決まではあと6人』 岡嶋二人
講談社文庫 本体:524円(94/7)、★★★★☆
 ひとりの女性が別々の興信所に奇妙な依頼をしていく、カメラの持ち主を捜して欲しい、ある喫茶店を捜して欲しいなど。5つの興信所の調査から浮かんでくる事件の全貌とは何か。依頼者の女性はどう関係するのか。5編の調査過程と解決編からなる斬新な構成の長編ミステリー。
 この構成の工夫だけで十分に嬉しいのに、それぞれ興信所が特徴があって面白い。一章の調査員は一般的な感じだが、二章は所長の姪とその彼氏の素人探偵、三章はボスと元不良のような助手、四章は女性調査員と音響技師、五章は友人らしい男二人と個性を出している。五章の男二人は著者がモデルかな。三章のネタが風化しちゃっているのが惜しいけど岡嶋さんらしい作品で文句なく楽しめる。
 これで岡嶋さんの作品の未読はもうゲームブックしか残ってないかも。  






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