読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 1998年12月

『進化 連続か断続か』, S・M・スタンレー
『初ものがたり』, 宮部みゆき
『ターミナル・エクスペリメント』, ロバート・J・ソウヤー
『悪と異端者』, 筒井康隆
『眠りの森』, 東野圭吾
『スモール・ソルジャーズ』, ギャビン・スコットほか
『卒業 雪月花殺人ゲーム』, 東野圭吾
『大洪水』, マックス・マーロウ
『天使墜落 上・下』, ニーヴン&パーネル&フリン
『パンドラの選択』, 景山民夫

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『進化 連続か断続か』 S・M・スタンレー
岩波同時代ライブラリー 本体:951円(92/8)、★★★☆☆
 ダーウィンの「種の起源」を元に進化の漸進説を語る。その後の古生物学(化石)や、遺伝学の進歩を踏まえて、著者の賛同する進化の断続説へと話が移る。この本は1981年に書かれた本である。それにしては古く感じるのは1859年発行の「種の起源」に多くを割いているからだろう。ある程度の基礎知識をあてにして書いてあるらしく理解しにくい所がやや多い。「ダーウィンがもたらしたものは、精神的孤独感だった」という記述には、はっとした。科学の進歩によって地球は宇宙の中心ではないことが分かり、そしてダーウィンによって、神の創造物だと信じていた自分たちまで、野獣から進化した存在だったと知らされたのだ。はじめて、科学がない頃の方が良い時代だったような気がしてきた。  

『初ものがたり』 宮部みゆき
PHP文庫 本体:553円(97/3)、★★★★☆
 本所深川の岡っ引き茂七が事件を解決する時代小説の連作短編集。四季折々の初物を話の中にうまく生かした風流な作品になっている。美味しい料理と事件解決のヒントをくれる稲荷寿司屋の過去の謎が短編全体を結び付けている。人の心を大切にして話を作っているから、事件が嘘っぽくなく、しみじみと感動する。イラストもいい。最後の方になるとタッチが変わってしまうのが残念だけど、板に描いているらしく木目があるのがいい。主人公の茂七親分は別の本にも出てくる、「本所深川ふしぎ草紙」だったかな。  

『ターミナル・エクスペリメント』 ロバート・J・ソウヤー
ハヤカワ文庫SF 本体:800円(97/5)、★★★★☆
 ピーター・ホブスンはスーパー脳波計を開発、臨終時の脳波を調べていて魂波(ソウルウェーブ)を発見する。これによって魂の存在、死後の世界の可能性が開かれていく。死後の世界を検証しようと、エキスパートシステムの専門家と協力して脳内スキャンによるコンピュータへの人格転記を実現する。彼をコピーした3つの人工知能のうち1つが殺人を犯し、どの人格が犯人かというSFミステリーへと展開する。
 前半は魂波の発見、後半は人工知能の開発と犯人探しと話が分裂しているのが少し気になったが、とにかく楽しく読める。死とか、永遠の生命とか、死後の世界などの重いテーマを扱っていながらエンターテインメントで押し切っているところがいい。ピザの宅配から展開した食品の宅配サービスの描写や、人間以外のヒト属も法律的に保護されているなどのちょっとした設定もその時代と世界観を示していてうまい。また、人工知能に関してホーガンの「未来の二つの顔」で不満だったところを描いていて満足した。  

『悪と異端者』 筒井康隆
中公文庫 本体:571円(98/10)、★★★☆☆
 断筆宣言直後にまとめられたエッセイ集。いろいろな所に掲載されたエッセイその他の文章 80編弱をテーマ別に七つの章に分けている。三島由紀夫賞、サントリーミステリー大賞の選評も載っている。生涯の愛読書のタイトルと著者名を 7ページにわたって書き上げている。文芸家協会の永山則夫さんの入会拒否や著者の脱退に触れた物もあるし、唯野教授も登場するし、夢についても、ベティ・ブープも、芝居の話もある。著者の他のエッセイ集とテーマ的には重複していて目新しさは感じられないが、筒井さんのエッセイの魅力全てがこの一冊で味わえる。  

『眠りの森』 東野圭吾
講談社文庫 本体:485円(92/4)、★★★☆☆
 事務所に忍び込んだと思われる男を殺してしまったバレリーナ。当初、単純な正当防衛かと思われたが、男の身元が判明しても捜査ははかどらない。加賀刑事は、拘留中の葉瑠子の親友・未緒に魅かれていく。
 ラストがとてもいい、その少し前からドラマチックになっていき急展開する。前半は犯人や動機など捉えどころがなくて、読者が推理に参加できずもうひと息だ。加賀刑事か未緒に、もっと感情移入出来ると良かったかと思う。解説に、加賀は「卒業」に登場した教師だとあるので探したら、本はあったけど読んでないみたい。読んでいれば加賀に感情移入して、もっと楽しめただろう。
 

『スモール・ソルジャーズ』 ギャビン・スコット/アダム・リフキン/テッド・エリオット&テリー・ロッシオ
ソフトガレージ 本体:660円(98/12)、★★★☆☆
 これから公開される映画のノベライズ。自分で動き、会話も可能なフィギュア "コマンドー・エリート" と その敵 "ゴーゴナイト" 。おもちゃとして開発されたそのフィギュアに、手違いで軍事用の最新チップが組み込まれてしまった。父のおもちゃ屋の店番をするアランが発売前の彼らを起動して、彼らの戦闘に巻き込まれてしまう。チップの機能によってフィギュア同士の戦闘はエスカレートしていく。
 少し子供向けという感じはあるけど、なかなか面白い。何人もの脚本家が何回も書き直しただけあって、どのシーンも無駄にせず楽しませてくれる。周りから理解されないアランが悪役のモンスター "ゴーゴナイト" たちに、自分を重ねていき、暴走していく兵士のたちの方が悪役になってしまう。意外なようでいて、無理解な大人に比べて姿は悪いけど気持ちの通じる…、というありがちなパターンにも思えて物足りない。  

『卒業 雪月花殺人ゲーム』 東野圭吾
講談社文庫 本体:476円(90/2)、★★★☆☆
 東野圭吾さんの初期の作品、たぶん「放課後」に続く2作目だろう。今月読んだ「眠りの森」に登場した加賀刑事の学生時代の殺人事件を描いている。卒業を控えたT大の学生、男女7人は高校からの親友だった。進路も決まり、順調に見えた祥子の自殺にショックを受ける6人。恩師の家の茶会の「雪月花之式」の最中に次の事件が起きる。祥子は他殺なのか?、「雪月花之式」のトリックは?、加賀が親友の死の真相に迫る。加賀のプロポーズから始まり、剣道の大会、祥子の死と順調に読者の気を引いていく。親友の死と仲間が犯人かも知れないという事態にもめげない加賀の強さがいい。「雪月花之式」のトリックで確率二分の一というのはちょっと残念、ズバッといって欲しかった。  

『大洪水』 マックス・マーロウ
創元ノヴェルズ 本体:800円(98/5)、★★★☆☆
 アマゾンの森林地帯で、古生物学上重要な卵の化石が発見された。ジェフリーとマルカムの調査隊が激しく対立ながら現地へ向かう。集中豪雨で川が増水し洪水の危険がせまる中、調査隊で残忍なレイプ殺人が起こる。
 実力ある著者だから人物の存在感もあり、話にも説得力があるが盛り上がりに欠ける。発掘も進まないし、洪水も雨が多く危険があるというだけ。殺人が起きても変に犯人が目立って分かり易すぎる。調査隊は化石にこだわって判断を誤っているのに、村人が死んでいく中、運良く生き延びていく。最後の最後になって大洪水に巻き込まれるが、事件はほぼ解決していて付け足しでしかない。それ程ひどい出来ではないが何かちぐはぐな気がした。  

『天使墜落 上・下』 ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル&マイクル・フリン
創元SF文庫 本体:各620円(97/6)、★★★★☆
 科学技術を否定するようになった地球、氷河期が始まり、気温の低下と年々広がる氷河によって、生活は急激に悪化していた。地球から見捨てられた宇宙ステーションでも物資不足に悩まされ、資源を求めて地球を訪れたスクープシップが攻撃され、氷河に不時着する。天使墜落を聞きつけた地下活動するSFファンたちが、彼らの救助と逃亡を企てる。軽い気持ちで始めてしまった救出も、だんだんとひけない状況に追い込まれていく。
 登場するSFファンたちの大人げない行動ぶりが情けなくなる。登場人物のほとんどにモデルがあるらしいし、仲間内でのおふざけとして大袈裟に書いているのだろう。有名なSFからの言葉遊びや、アメリカSFファンダムでのみ通じる冗談などの一部が、説明無しに使われていて少しだけど読みにくいところがある。基本的な話の筋はしっかりしたハードSFになっていて、なかなか楽しかった。終わってから気付いた、下巻の終わりに地図が載っているので読みながらコースをたどるといいかも。彼らの計画の成否がテクノロジーの発展と未来への希望の象徴となっていると言うところが、ニーヴン&パーネルの「悪魔のハンマー」に似ていると思った。「悪魔の…」では原子力発電所が、同じような象徴になっている。  

『パンドラの選択』 景山民夫
中公文庫 743円(98/3)、★★☆☆☆
 ロシアの核兵器解体施設を直下型の大地震が襲った。偶然にも解体中の核の起爆装置が作動して、48時間後には貯蔵庫の核をも巻き込む大爆発となる事が判明する。地下に閉じ込められた核の調査団と現地作業者が世界の終わりを食い止めようと努力する。
 いくらか不満があっても途中まではまあまあだった。全人類の祈りの力がどうのという台詞を見たときからいやな予感はあったけど、とんでもない終わり方をしている。書き方次第では、きちんと納得させて、そういう話に持っていく事だって出来たはずが、最後ひどく投げやりにそういう話にしてしまう。管制室にいったら発射サイロの底板を開けて、そこからミサイルまでいけると本書の中でも書いている。まだ時間も残っていたのだから努力させるべきだった。残り時間といえば、輪をかけて下らないその落ちは、別の意図があったのかと勘ぐってしまいそう。  






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