読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 1998年11月

『HELL ヘル −地獄の聖戦』, C・ウィリアムソン
『本は寝ころんで』, 小林信彦
『第81Q戦争』, コードウェイナー・スミス
『生物は重力が進化させた』, 西原克成
『ダブルダウン』, 岡嶋二人
『量子宇宙干渉機』, ジェイムズ・P・ホーガン
『アンドロメディア』, 渡辺浩弐
『仏陀の鏡への道』, ドン・ウィンズロウ
『活字博物誌』, 椎名 誠
『アポロ13』, ラベル&クルーガー
『マンガと「戦争」』, 夏目房之介

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『HELL ヘル−地獄の聖戦』 C・ウィリアムソン
講談社ノベルス 本体:960円(97/3)、★★★☆☆
 同名のゲームのノベライズ。<神の手>のために働いていたギデオンとレイチェルは<神の手>の掃討部隊によって殺されそうになる。追われる身となった二人は、その理由を探り、助かる道を捜す。 前半、読みやすいサイバーパンクという感じで新語、造語が次々でてくる。サイバーパンクは苦手で読めないけど、この本は問題なかった。色々な要素があって面白いと思ったが、元はゲームと割り切らないといけない。話がずっと主人公を追っているし、"ある場所に行って、人に会って、指示や情報を得る" という単調な繰り返しになっている。そういう限界の中で、たくさんのアイディアをつぎ込んで良くやっていると思う。  

『本は寝ころんで』 小林信彦
文春文庫 438円(97/9)、★★☆☆☆
 主に「週刊文春」の読書日記のページの91年8月から94年1月までをまとめた物。私のホームページ「ねころんで読書」とタイトルが似ているので買ってきた。まず、第1部として、著者が選んだ海外ミステリ・ベストテンや海外エンタテインメント・ベストテンなどが載っている。古典と現代に分けているが、現代でも64年から86年までの小説が並んでいてちょっと古い。第2部の読書日記は、映画の本がやたらに多い。原則として日本の小説は紹介しない、書き下ろしなど小説を書いている間は、エッセイやノンフィクションしか読まない、とある。そのため小説の紹介が思ったよりずっと少ないのだ。お勧めできる面白い本しか紹介しないのはいいが、パトリシア・ハイスミスと斎藤綾子さんの本ばかり目立つ。  

『第81Q戦争』 コードウェイナー・スミス
ハヤカワ文庫SF 本体:699円(97/5)、★★★☆☆
 スミスは10年ぐらいの間に4冊分ぐらいのSFを書いて、1966年これからというときに亡くなってしまった作家だそうだ。<人類補完機構>シリーズの短編9編と、その他の短編5編を収録している。14才の時の作品や未発表の作品があって寄せ集めの感じがする。<人類補完機構>の短編より、その他の物の方にいいものがあった。まだ少し未訳が残っていて、もう一冊日本で本がでるらしい。  

『生物は重力が進化させた』 西原克成
講談社BLUE BACKS 本体:800円(97/12)、★★★★☆
 脊椎動物の進化について、独自の研究結果をまとめている。実験を通じて生物の進化を考える事が出来るというのが新鮮だった。突然変異と自然淘汰で長い時間を経て進化してきた、という従来の進化論に鋭く切り込んでいる。環境が変わると生物の体は驚くほど変化する。それをサメの軟骨の硬骨化や、サルの人工歯の移植の実験などから説明している。その変化は同じ環境で育つ子孫にも伝わり(遺伝ではない)、やがて遺伝子にも定着する。どうして遺伝子が変化するかは、これからの課題だが、著者の仮説が記されている。この本の内容は最近テレビでも取り上げられていて、広く認められつつあるのかも知れない。大胆で説得力があり面白かった。  ワイスマンがネズミの尾を何世代にも渡って切って獲得形質の遺伝を否定した実験は、何か変だなとは思っていたが、この本の中でどこが間違っているか指摘してあって、もやもやが晴れた。  

『ダブルダウン』 岡嶋二人
集英社文庫 本体:563円(91/11)、★★★☆☆
 ボクシングの試合中にリング上の二人のボクサーが次々倒れていった。青酸によって毒殺されたのだった。誰が二人を殺したのか?、毒はどこからきたのか?、週刊誌の記者の二人がボクシングの評論家と共に犯人探しを始める。岡嶋さんは他にもボクシング物のミステリーとして「タイトルマッチ」を書いている。「タイトルマッチ」は誘拐だったが、今度は対戦中の毒殺。事件に興味を持った3人が、関係者から聞き込んだり、警察から情報を得たりして、状況が明らかになっていく。これはと思える証拠からの推理が、捜査の進展によって否定されたり、うまく興味をつないでいる。人物に深みがないのが残念だが、気楽に読めるところがいい。  

『量子宇宙干渉機』 ジェイムズ・P・ホーガン
創元SF文庫 本体:920円(98/10)、★★★★☆
 550ページを超える、ホーガンのハードSF長編。バークレーの科学者が、多元宇宙の相互コミュニケーションを利用した量子干渉相関器 QUIC を開発した。彼らの研究を重要視した国防総省は極秘プロジェクトに参加させる。様々な分野の学者達と共に、量子レベルでの多元宇宙の探知能力を増幅させる装置を使って多元宇宙の研究を開始する。やがて、彼らは装置の驚くべき可能性に気付く…。
 研究者グループによる開発物というホーガンの得意のパターンのひとつ。話を支える理論は、SF好きや科学解説書好きには、むちゃくちゃ魅力的な設定。途中で、どこまで話が膨らむのだろうかと気になったが、ぐっと押えてまとめている。だから、ひとまわり話を大きくした続編も書けるかも。ラストはもう少し感動的だったら、なお素晴らしかったとは思うが、充分にホーガンの世界を堪能できる作品だった。  

『アンドロメディア』 渡辺浩弐
幻冬舎文庫 本体:600円(H10/6)、★★★☆☆
 著者紹介では具体的にどういう仕事をしているかピンとこないが、解説から学生のときにTVゲームソフト紹介のビデオマガジンの編集長をしていた事が分かった。そういう著者の得意のジャンルともいえる、近未来の日本で開発されたバーチャルアイドルをめぐるSF。  天才的なコンピュータ技術者タカナカは、父である芸能プロダクションの社長から、CGとは気付かない程の映像でバーチャルアイドルを制作する企画を受ける。タレント・舞の全データを取り込んで、完成されたバーチャルアイドル・AI(アイ)には、彼女の記憶を持った人工知能までが組み込まれていた。ここまでが第1章で、第2章ではがらりと変わる。恐怖物的な描写で、舞が狂気に取り憑かれていく様子を描く。第2章を読んで持った不満が、第3章で解消され、第3章で抱いた不満もその章のラストで解消する。そういう構成がいいかどうかは分からないが、初めて読む作者になかなかやるなと思った。しかし、クライマックスでは話の整合性を無視してまで盛り上げようとして、幾つか説明のつかないシーンを残してしまっていて、もう一息。  

『仏陀の鏡への道』 ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫 本体:880円(97/3)、★★★★☆
 「ストリート・キッズ」の続編で、しかもかなり評判がいいので買った。でなければ、こういうタイトルの本は敬遠してしまうだろう。ニューヨークでストリート・キッズだった10歳の頃から探偵業をしこまれたニールは、銀行の秘密部門に雇われる文学部の学生だ。前回の事件の影響で山中の小屋で隠遁生活をしていた彼の元に新たな依頼がくる。研究半ばにして、逃げてしまった化学肥料の研究者を連れ戻す仕事だ。楽な仕事と思われたが、命を狙われ、おまけに関係者に惚れてしまったニールは香港に飛ぶ。  読み応えたっぷり、中身がぎっしり詰まっている感じ。ハードボイルドの危険な世界で、本好きの優しいニールが傷つきながら、その厳しい世界を学んでいく。少しだけ文句があるとすれば、敵が巨大すぎて翻弄され続けているのが悔しい。しかし、そのもやもやした感じをラストシーンが救っているのだからさすがだ。  

『活字博物誌』 椎名 誠
岩波新書 本体:640円(98/10)、★★★★☆
 椎名さんのエッセイは読んでいて心が安らぐ。ささいな事に興味を持って、それについて面白おかしく追求していく。かたひじ張らずに楽しんでしまおうという姿勢が気持ちを楽にさせてくれる。さらにこの本の良いところは、その話題にそって自然に本が紹介されているところだ。普通の本の紹介で読みたいとも思わない本も、その話題の中では思わず読みたいなと思ってしまう。この本は岩波書店の「図書」と、筑摩書房の「頓智」掲載のエッセイをちょうど半々ぐらい載せているのだけど、読んでる時に違いを感じなかった。一応この本には「活字のサーカス」という前作がある。調べてみたら前作から11年も経っている、「…サーカス」からは読む本にかなり影響を受けた気がする。  

『アポロ13』 ジム・ラベル&ジェフリー・クルーガー
新潮文庫 本体:777円(H7/6)、★★★★☆
 1970年4月のアポロ13号の事故から生還までを、船長・ラベルが描いた実録。多くの資料を通して、船内の出来事だけでなく、スタッフや家族、報道までを客観的に描いている。月着陸も3回目となり一般の関心もずっと減ったアポロ13号。13時13分打ち上げ予定で話題になったのは不吉な13という数字だった。酸素タンクが爆発した時には、月に近く、直接帰還は無理で、限られた酸素、水、電力で月の軌道を回る自由帰還軌道を選択する。しかし、既に通常の方法で飛行士3人を生還させる資源は残されていなかった。うろたえる事もなく冷静に任務をこなす飛行士たち。単なるアポロ13号の記録で終わっていないのは、ラベル船長の生い立ちが語られるところだ。同文庫から今年出た「アポロ13号 奇跡の生還」より、ずっと人間的なドラマで、生還したシーンでは涙がでた。  

『マンガと「戦争」』 夏目房之介
講談社現代新書 本体:640円(97/12)、★★★★☆
 読んだ後、感想を書くのを忘れてしまって、99年1月に書いている。11月に読んだと思うのでここに入れておく。
 メディアでしか戦争を知らない世代が多数になった今、マンガの中に描かれた戦争を語る。手塚マンガや60年代の戦記マンガのブームから時代の順に、たくさんのマンガが取り上げられていく。「紫電改のタカ」、水木しげる、「サブマリン707」、「カムイ伝」、「ゴルゴ13」、「デビルマン」、「宇宙戦艦ヤマト」、「AKIRA」、「風の谷のナウシカ」、「沈黙の艦隊」、「新世紀エヴァンゲリオン」など。
 時代と共に戦争に対する考え方が変わっていくのが分かった。また、単純に面白いと読んできたマンガを“メディアに描かれた戦争”として解体していくのが新鮮で良かった。  






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