タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『ホワイトアウト』 |
真保裕一 |
新潮文庫 |
本体:781円(H10/9)、★★★★★ |
すごくいいと勧められて、真保さんを初めて読んだ。はじめから話に引き込まれる、出だしはなかなか上手いとか、思っているうちに夢中になっていた。雪山に孤立するダムが、武装した男達に占拠された。山で親友を救えなかった富樫は、巻き込まれた亡き親友の恋人を救う為に極寒の山で命懸けの戦いをする。
こういう人がいて、こういう事件が起これば、こういう風に話が進んでいくしかない。これが解説にある "ケレン" だろう。ここまでの経緯を読んで読者の中に、この先の富樫の行動が見えている。こうしなくては納得できないという話が出来ている。後は期待を裏切らずに、最高の緊迫観で書き上げるだけだ。でも実力がなければ、それもできないだろうが、真保さんは完全にやり遂げている。
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『沈黙のあと』 |
ジョナサン・キャロル |
創元推理文庫 |
本体:600円(97/11)、★★★★☆ |
始まりが子供に拳銃を向けているシーンで、しかも子供は笑っている。そこに至るまでの経過が語られる話しなので、幻想的な話かと思ったら、違っていた。漫画家のマックスが、展覧会で出会った子連れの女性に恋する。子供もなつき、幸せな二人だったが、ふとした事からマックスは彼女の秘密を知ってしまう。という展開はいかにもキャロルらしく、何か起こるぞとぞくぞくしてくる。ラストは少し混乱させられる、何度か読み返していたらようやく全体がしっくりと、納まった。幻想的な部分を可能な限り排除して、現実的な恐怖を描いた作品、やっぱりキャロルは恐い。
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『春高楼の』 |
清水義範 |
講談社文庫 |
本体:590円(98/5)、★★★★☆ |
浪人生活を描いた「学問ノススメ」や新入社員の生活を描いた「青山物語1971」など、清水さんの青春物はみな面白い。明治33年から翌年の、世紀の変わり目を舞台に、青森から帝国大学で学ぶために上京して来た樋口淳一郎と仲間達のお話。始めのうちは、なれない時代設定だからか、ぎくしゃくしていたが、だんだん安定していく。漱石たちを主人公に明治を描いた漫画「『坊ちゃん』の時代」の登場人物が数多く登場する。現在、あと数年で世紀が変わるので、通じるものがあった。
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『タイム・シップ 上・下』 |
スティーヴン・バクスター |
ハヤカワ文庫SF |
本体:各680円(98/4)、★★★☆☆ |
バクスターの描く、ウエルズの「タイム・マシン」の続編。「タイム・マシン」の発刊から100年(1995年)に刊行されたそうだ。文体も当時の文体で、科学用語も当時の言葉で書かれている。バクスターのイメージからはかけ離れていて馴染めない。今でこそタイム・マシンなんて、小説や映画で当たり前の物だろうけど、ウエルズが書いた当時はすごい発想だったのではないだろうか。その大胆さを継いだのか、アンダースンの「タウ・ゼロ」を思い起こさせる壮大な話になっている。
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『新宿鮫』 |
大沢在昌 |
光文社文庫 |
本体:590円(97/8)、★★★★★ |
"新宿鮫" と呼ばれる新宿署の刑事・鮫島を主人公にしたシリーズ第1作。鮫島は警察エリートからの落ちこぼれで、単独捜査を常としている。それでも、やけになる事もなく気負う事もなく地道に犯人を追い続ける。落ち着いた、たんたんとした描写がいい。ロックバンドをやっている若い恋人や、事故で家族を失ってから無気力な上司や、執拗に対立する香田警視なども、ばかキャラでなく存在感がある。犯人や犯人をかばう奴、事件を混乱させる奴、全て存在が生きていてドラマを盛り立てている。
出来すぎぐらいの完成度だ。北上次郎さんの解説が少し内容に触れすぎているように思うが、これも、感激しているからだろう。解説者が冷静ではいられない程の作品なのだ。
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『チャンセラー号の筏』 |
ジュール・ヴェルヌ |
集英社文庫 |
本体:602円(93/5)、★★★☆☆ |
メビウスの表紙につられて買った、"ジュール・ヴェルヌ・コレクション" の一冊。他の本では気がつかなかったけど、メビウスの絵は、小説にあわせて描いたものではないようだ。
乗客、乗組員合わせて28人を乗せた帆船チャンセラー号は、事故を起こして沈んでしまう。筏を作り救助を待つが、ついに食料も水も尽きようとしていた。生死を賭けた筏での漂流を描く。SFではないからシリーズ中で一番古さを感じないで、すらりと読めた。SFの祖ヴェルヌらしくないからか、本書が初訳らしい。面白かったので、極限状態でのサバイバル物を他にも読んでみたくなった。
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『リング』 |
鈴木光司 |
角川ホラー文庫 |
本体:544円(H7/10)、★★★★☆ |
「らせん」を読む前に再読する事にした。ほぼ同時刻に、別々の場所で、四人の若者が不自然な死に方をした。雑誌記者の浅川は、その謎を追ううちに、一週間後の死を予告されてしまう。自分も彼らと同じような死を迎えるのか。恐怖の中、友人の超心理学者と "それ" に立ち向かう。
決意して解明にとりかかる後半からは、テンポ良く新しい事実が示されて息をつかせない。最後に、ほっとした所で二転三転して、話に深みが増している。良く練られていると思った。実はドラマも映画も見ていないが、これを映像で見たら気にしてしまうだろうな。
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『らせん』 |
鈴木光司 |
角川ホラー文庫 |
本体:648円(H9/12)、★★★★☆ |
監察医の安藤が死んだ友人の解剖をするところから始まり、かなり唐突に前作の主人公のその後を知らされる。前作を読んでいれば「えっ、どうして…」と感じずにはいられない。「リング」を読んでいなくても、特に不自然にはなっていない、十分に楽しめるように書かれている。話の進め方がずっと上手くなっているように感じた。ただ、途中から一応の危険が終わって、残った謎を追求するだけになってしまい、少しだれる。話は急展開して、安全だと思っていた彼らも巻き込む厄災へと発展していく。色々手を尽くして科学的に説明しているが、怖がらせの手法がオカルトっぽくて、SFよりホラーとしての印象が強い。
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