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本の感想 2007年06月

『砂漠で溺れるわけにはいかない』, ドン・ウィンズロウ
『清水義範ができるまで』, 清水義範

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『砂漠で溺れるわけにはいかない』 ドン・ウィンズロウ
創元推理文庫 本体:720円(06/08初)、★★★★☆
 無性に子どもを欲しがるカレンに戸惑う、結婚間近のニールに、またも仕事が! ラスヴェガスから帰ろうとしない八十六歳の爺さんを連れ戻せという。しかし、このご老体、なかなか手強く、まんまとニールの手をすり抜けてしまう。そして事態は奇妙な展開を見せた。爺さんが乗って逃げた車が空になって発見されたのだ。砂漠でニールを待ち受けていたものは何か? シリーズ最終巻。

 1993年の『ストリート・キッズ』から続くニール・ケアリー・シリーズの最終巻。非情な探偵業を通じて傷つきながら成長していくニールの姿を描いたシリーズだが、初期の3冊から一転して前作から短めのコメディタッチの作品に変化した。

 ラスヴェガスから帰ろうとしない元コメディアンの爺さんを、ニールが依頼を受けて自宅に連れ戻す話だけれど、様々な人物の思惑が絡んで、命懸けのドタバタが繰り広げられる。前作の凄い訛りで強烈な個性を発揮していたポリー同様に、元コメディアンの爺さんネイサン・シルヴァースタインの我儘とおとぼけが話を引っ張っていく。

 重厚で深い感動を残してくれた初期3作と比べると、物足りない点もあるけれど、コントの台本のような軽妙な会話が絶妙のテンポで楽しめる。4、5作の中編2作でシリーズを締めくくってくれたと思えば納得できる。  

『清水義範ができるまで』 清水義範
講談社文庫 本体:571円(07/05初)、★★★★☆
 斬新な発想を駆使し、ユーモア、SF、歴史ものなど、数多くのジャンルの小説を執筆し続ける著者の素顔とは? 幼少期の読書体験から、作家を目指した経緯、そして小説の創作法まで、すべてを明かす。唯一無二のマルチ作家による、自伝的エッセイ集。

 色々なテーマのエッセイをまとめた物で、自伝的エッセイ集というのはちょっと無理があるかも。でも、第一室「小説」ではどんな小説を書きたいとか、良く題材にする科学や歴史への興味とかを書いているし、第六室「過去」では子供の頃の出来事や、電化製品を通じて思い出などが語られる。第二室「読書」や第四室「教育」などもあるから、自伝的エッセイ集ではなくても、タイトルの“清水義範ができるまで”は許せる範囲か。

 デビュー前後の話や、興味の対象、好きな小説、国語の入試問題に、旅行の話や日常の事など、色々なエッセイが詰め込まれている。どのテーマも語り尽くした感じじゃないので、寄せ集め的な印象は拭えない。でも、他の一冊では得られない集大成的な面を供えているので、著者の入門書として最適。

 子供の頃に飼っていた犬についてのエッセイ「犬にとっての私」は、「小説現代 2007年6月号」のペット小説特集の「メルのいた頃」と同じ題材だったので、エッセイと小説を読み比べる事が出来て興味深かった。

 この文庫版では、創作落語「お天気屋」、小説「添乗さん」を追加収録している。