読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2007年05月

『せちやん 星を聴く人』, 川端裕人
『影踏み』, 横山秀夫

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『せちやん 星を聴く人』 川端裕人
講談社文庫 本体:514円(06/10初)、★★★★☆
 学校の裏山にぽつんと建つ摂知庵(せちあん)という奇妙な家。少年三人組はそこで神秘的な中年男と出会った。銀色のドームに籠もり、遠い星に思いを馳せる日々。「宇宙」に魅せられた少年たちはそれぞれ大きな夢を追いはじめた。しかし大人になって見上げる空は、ときに昏く……。切なくほろ苦い青春の果てを描く。

 仮面ライダーや手塚治虫さんのマンガなど、自分と同世代の設定が懐かしい。宇宙へのあこがれと博学な指導者・せちやんの存在が郷愁を誘う。中学生の彼らとせちやんがSETI(地球外知性探査)に夢を馳せる物語かと思ったら、どんどん物語は進んでいってしまった。薄い割に色々な事が詰め込まれていて予想外だった。

 宇宙にコンピュータに投資など、著者の今までの作品の総ざらい的な内容なので、やや雑な印象。余りにも嘘っぽい人生なので、どう感情移入して良いのか分からない。奇想天外な話を面白く読んだけど、ちょっとだけ違うかなという感じもした。SETIなんてそんな夢物語だという意味ではないと思うけど、ちょっとそんな気にもなってくる。

 人生って、どんなに成功しても空しい物なのか。夢を追っても、結局何も得られない物なのかな。彼のもとに何が残ったのだろうか?  

『影踏み』 横山秀夫
祥伝社文庫 本体:638円(H19/02初)、★★★★☆
 深夜の稲村家。女は夫に火を放とうとしている。忍び込みのプロ・真壁修一は侵入した夫婦の寝室で殺意を感じた――。直後に逮捕された真壁は、二年後、刑務所を出所してすぐ、稲村家の秘密を調べ始めた。だが、夫婦は離婚、事件は何も起こっていなかった。思い過ごしだったのか? 母に焼き殺された弟の無念を重ね、真壁は女の行方を執拗に追った……。

 忍び込み専門の泥棒・真壁を主役にした連作短編ミステリ。主人公が、亡くなった弟と会話が出来るという設定で、横山秀夫さんとしては異色の作品。色々な伏線により合理的な解釈も可能になっており、そんなに荒唐無稽な話ではない。

「消息」
刑務所を出所した真壁は、2年前に忍び込んだ稲村家で感じた異常について調べ始める。真壁は稲村家の出来事の意外な真相にたどり着く。
真壁と弟の特殊な状況や、弟の特殊能力、彼らを取り巻く状況などを紹介しながら、きっちりとした短編ミステリに仕上がっていて、感心させられた。

「抱擁」
真壁は警察官に職務質問され、危ういところで難を逃れた。数日後、真壁を慕う久子の窮地を知らされる。久子と連絡をとった真壁は彼女にプロポーズした男がいる事を知る。
真壁と弟と久子の関係が大きく取り上げられた作品。久子のために陰で危険を冒す真壁の姿がいい。予想外の真相にも驚かされた。

「遺言」
暴力団員にリンチされ入院した泥棒の黛。彼がうわ言で自分の名を呼んでいると聞き病室を訪れた真壁は、黛の死に立ち会った。真鍋は黛の残したメモから事件の真相に気付く…。
裏の用語が多くて読みにくいけれど、深く胸に染み入る作品。素直な弟に比べて、物事を複雑に悪く捉えがちな真壁の性格が良く出ている。

 短編ミステリでありながら、真壁と弟、そして久子との関係がどうなっていくのか、長編的な興味も見逃せない。泥棒を主人公にSF的な設定もあって、気楽に読める作品に仕上がっている。「消息」「刻印」「抱擁」「業火」「使徒」「遺言」「行方」の7編を収録。