テキサスの田舎町のしがない保安官助手、ルー・フォード。愚か者をよそおう彼の中には、じつは危険な殺し屋がひそんでいた。長年抑えつけてきた殺人衝動が、ささいな事件をきっかけに目を覚ます。彼は自分の周囲に巧緻な罠を張りめぐらせるが、事態はもつれ、からみあいながら、加速度的に転落していく……。
テキサスの保安官助手の一人称で語られる犯罪小説。過去に犯罪を犯した彼は、事件の発覚を避けようと、冷静に必要な処置を施していく。冷酷な中に優しさを持ち、発作的な怒りと思慮深さを併せ持つ彼が不気味だ。しかし、彼が自己を説明する様々な言葉に一理を感じずにはいられない。
テンポ良く進むし、暴力的な小説の割にユーモアさえ感じさせるので、軽快に読める。1952年の作品という古さも感じなかった。スティーヴン・キングさんが解説で絶賛しているけど、確かにノワールの先駆者であり人間の心の暗い部分を見事に描いた作品だと思う。
ジム・トンプスンさんの小説は2冊目だけど、『鬼警部アイアンサイド』(ハヤカワ・ポケットミステリ)はドラマのノベライズなので、オリジナルな小説は初めてだった。ノベライズでも『鬼警部アイアンサイド』の悪役の描き方には、著者らしさが表れていると思った。
どんな人の心の中にも“内なる殺人者”がいると言う意味で、主人公を理解出来そうな気がする。実は『内なる殺人者』(河出文庫)も、邦題が違けど同じ作品らしい。
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