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本の感想 2007年02月

『おれの中の殺し屋』, ジム・トンプスン
『手紙』, 東野圭吾

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『おれの中の殺し屋』 ジム・トンプスン
扶桑社ミステリー文庫 本体:800円(05/05初)、★★★★☆
 テキサスの田舎町のしがない保安官助手、ルー・フォード。愚か者をよそおう彼の中には、じつは危険な殺し屋がひそんでいた。長年抑えつけてきた殺人衝動が、ささいな事件をきっかけに目を覚ます。彼は自分の周囲に巧緻な罠を張りめぐらせるが、事態はもつれ、からみあいながら、加速度的に転落していく……。

 テキサスの保安官助手の一人称で語られる犯罪小説。過去に犯罪を犯した彼は、事件の発覚を避けようと、冷静に必要な処置を施していく。冷酷な中に優しさを持ち、発作的な怒りと思慮深さを併せ持つ彼が不気味だ。しかし、彼が自己を説明する様々な言葉に一理を感じずにはいられない。

 テンポ良く進むし、暴力的な小説の割にユーモアさえ感じさせるので、軽快に読める。1952年の作品という古さも感じなかった。スティーヴン・キングさんが解説で絶賛しているけど、確かにノワールの先駆者であり人間の心の暗い部分を見事に描いた作品だと思う。

 ジム・トンプスンさんの小説は2冊目だけど、『鬼警部アイアンサイド』(ハヤカワ・ポケットミステリ)はドラマのノベライズなので、オリジナルな小説は初めてだった。ノベライズでも『鬼警部アイアンサイド』の悪役の描き方には、著者らしさが表れていると思った。

 どんな人の心の中にも“内なる殺人者”がいると言う意味で、主人公を理解出来そうな気がする。実は『内なる殺人者』(河出文庫)も、邦題が違けど同じ作品らしい。  

『手紙』 東野圭吾
文春文庫 本体:590円(06/10初)、★★★★☆
 強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる苛酷な現実。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。

 本書と真保裕一さんの『繋がれた明日』(朝日文庫)は、同時期に二人の人気作家によって同じテーマの作品が書かれた事が話題なった。真保さんの『繋がれた明日』は殺人犯の社会復帰を描いており、本書は殺人犯の弟が様々な差別を受ける話。大きなくくりでは同じテーマではあるけれど、犯罪者の罪の償いという問題と、犯罪者の家族への差別の問題という、それぞれに違った焦点を持っている。

 『繋がれた明日』に比べ、ロックバンドでボーカルの才能が認められたり、金持ちのお嬢さんと恋愛関係になったりと、展開が派手で作り物っぽいけれど、より難しい問題をきっちりと正面から描いている。『繋がれた明日』のラスト、主人公は読者から許されてしまった感じがするのに対し、自分は何も犯罪を犯していない者への偏見と言うのは終りがなく、問題も深い。

 深刻なテーマを厳しい目で描きながらも、エンターテインメントとして十分に楽しんで読めた。殺人や犯罪者に対する差別と言う殺伐な話しの中に、兄弟の思いやりが描かれていて、主人公の兄弟に対する作者の温かな視線を感じる。