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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2006年08月

『グリュフォンの卵』, マイクル・スワンウィック
『SF魂』, 小松左京

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『グリュフォンの卵』 マイクル・スワンウィック
ハヤカワ文庫SF(SF1558) 本体:900円(06/04初)、★★★★☆
 世界大戦により地球は壊滅した。生き残ったのは、月にいた人間のみ。しかも月基地は、内部工作員の生物兵器テロにより4000人が発病・発狂し、正気をたもっているのは、月面で作業中だった100人たらずの人間だけだった……苛酷な月面での人類の苦闘を描き、ネビュラ賞の候補となった表題作をはじめ、スタージョン記念賞の「世界の縁にて」、1999年から2004年にかけてヒューゴー賞を受賞した名品5篇を含む、全10篇を収録。

 特に記憶にない名前だ。1980年頃からSFを中心に幅広い作品を執筆しているらしい。中短編でヒューゴー賞やスタージョン記念賞などを数多く受賞している。日本での出版は長編『大潮の道』(ハヤカワ文庫SF)に続く2冊目らしい。「ギヌンガガップ」「クロウ」「犬はワンワンと言った」「グリュフォンの卵」「世界の縁にて」「スロー・ライフ」「ウォールデン・スリー」「ティラノザウルスのスケルツォ」「死者の声」「時の軍勢」の10作を収録。


「ギヌンガガップ」
アビゲイルの雇われた仕事は、異星人の装置によって転移されることだった。異星人の真意は不明。転送された自己の普遍性とは……。
転送された人間は元の人間と同じかというのがテーマの作品。オーソドックスなテーマに、セックスやワイルドな雰囲気を漂わせた味付けが面白い。

「グリュフォンの卵」
月面の植民地、野外で作業していたギュンターは間一髪で太陽フレアの嵐から生還した。しかし、地球では核戦争が勃発しようとしていた。
月面の植民地を描いた140ページ程の中編。読み応えもあり楽しめたが、前半と後半で別の話をくっつけたような印象が残る。これも「ギヌンガガップ」と同じような雰囲気がある。

「スロー・ライフ」
順調に進んだタイタンの調査だったが、思わぬ事故が起きた。オブライエンがバルーンで移動中に動きが取れなくなったのだ。彼女は生命の危機が迫る中で不思議な夢を見始める。
異世界で生命の危機に陥るという状況とその世界の生物が介入してくる展開が、本書収録の「死者の声」と似ている。どちらも異星の生命の雄大なイメージに圧倒された。

「ティラノザウルスのスケルツォ」
窓から恐竜を眺められる白亜紀後期のレストラン。わたしは呼び出しを受けて、本部のある2082年に戻った。問題が起こったらしい。
タイムマシンと恐竜という古典的なテーマだが、その展開に目新しさを感じる。主人公の意図が最後まで伏せられたミステリタッチの一作。味わい深い。


 SFを中心に幅広い形式の作品が含まれた短編集。「ギヌンガガップ」「グリュフォンの卵」「スロー・ライフ」「ティラノザウルスのスケルツォ」「死者の声」などの純粋なSFに近い作品は好みに合っている。神話や寓話っぽい「クロウ」「犬はワンワンと言った」「世界の縁にて」などは、良く分からなかった。「時の軍勢」はメビウスさんのコミックのような感じで面白い。「ウォールデン・スリー」だけは『SFマガジン』で読んだ事があった。  

『SF魂』 小松左京
新潮新書 本体:680円(06/07初)、★★★★☆
 『復活の日』『果てしなき流れの果に』『継ぐのは誰か?』――三十一歳でデビューするや、矢継ぎ早に大作を発表し、『日本沈没』でベストセラー作家となった日本SF界の草分け的存在。高橋和巳と酒を酌み交わした文学青年が、SFに見た「大いなる可能性」とは何か。今なお輝きを失わない作品群は、どのような着想で生まれたのか。そして、意外に知られていない放送作家やルポライター、批評家としての顔――。日本にSFを根付かせた“巨匠”が語る、波瀾万丈のSF半生記。

 小松左京さんが発行している個人雑誌『小松左京マガジン』に連載中の「小松左京自作を語る」を活かしながら、自身の半生記を語り下ろしたもの。作家デビューまでの生い立ち、SF作家デビューからその後の一連の作品解説、万博からベストセラー『日本沈没』、『さよならジュピター』プロジェクトについて語っている。巻末には年譜が付いている。

 学生の頃の話は『やぶれかぶれ青春記』でだいたいは知っていた。マンガを描いていたことなども有名な話だが、漫才の台本を書いていた事や大阪万博にかかわっていた事は初耳だった。SF界の巨匠という認識だったけれど、一般社会でも思っていた以上に認められていたのだ。膨大な知識とグローバルな視点からの発想において日本を代表する知識人なのだから、当然と言えば当然だろう。

 各作品を語った部分では、自分が作品を読み切れていなかった事を実感させられた。小松左京さんの小説を読んだのは十代の頃であり、作品に込められたテーマを十分に理解する事が出来なかった。これから少しずつ読み直して理解を深めたいと思う。現在、書店で手に入る小松さんの小説は少ないのが残念だ。

 終章では現在の仕事と宇宙と生命についての思いなどが語られる。最後に小松さんにとってSFとは何かが書かれていて、厳正な思いで受けとめた。薄めの本だけれど、小松左京さんの半生をコンパクトに知るのに最適な一冊。小松さんのSFに対する思いが伝わってくる。