世界大戦により地球は壊滅した。生き残ったのは、月にいた人間のみ。しかも月基地は、内部工作員の生物兵器テロにより4000人が発病・発狂し、正気をたもっているのは、月面で作業中だった100人たらずの人間だけだった……苛酷な月面での人類の苦闘を描き、ネビュラ賞の候補となった表題作をはじめ、スタージョン記念賞の「世界の縁にて」、1999年から2004年にかけてヒューゴー賞を受賞した名品5篇を含む、全10篇を収録。
特に記憶にない名前だ。1980年頃からSFを中心に幅広い作品を執筆しているらしい。中短編でヒューゴー賞やスタージョン記念賞などを数多く受賞している。日本での出版は長編『大潮の道』(ハヤカワ文庫SF)に続く2冊目らしい。「ギヌンガガップ」「クロウ」「犬はワンワンと言った」「グリュフォンの卵」「世界の縁にて」「スロー・ライフ」「ウォールデン・スリー」「ティラノザウルスのスケルツォ」「死者の声」「時の軍勢」の10作を収録。
「ギヌンガガップ」
アビゲイルの雇われた仕事は、異星人の装置によって転移されることだった。異星人の真意は不明。転送された自己の普遍性とは……。
転送された人間は元の人間と同じかというのがテーマの作品。オーソドックスなテーマに、セックスやワイルドな雰囲気を漂わせた味付けが面白い。
「グリュフォンの卵」
月面の植民地、野外で作業していたギュンターは間一髪で太陽フレアの嵐から生還した。しかし、地球では核戦争が勃発しようとしていた。
月面の植民地を描いた140ページ程の中編。読み応えもあり楽しめたが、前半と後半で別の話をくっつけたような印象が残る。これも「ギヌンガガップ」と同じような雰囲気がある。
「スロー・ライフ」
順調に進んだタイタンの調査だったが、思わぬ事故が起きた。オブライエンがバルーンで移動中に動きが取れなくなったのだ。彼女は生命の危機が迫る中で不思議な夢を見始める。
異世界で生命の危機に陥るという状況とその世界の生物が介入してくる展開が、本書収録の「死者の声」と似ている。どちらも異星の生命の雄大なイメージに圧倒された。
「ティラノザウルスのスケルツォ」
窓から恐竜を眺められる白亜紀後期のレストラン。わたしは呼び出しを受けて、本部のある2082年に戻った。問題が起こったらしい。
タイムマシンと恐竜という古典的なテーマだが、その展開に目新しさを感じる。主人公の意図が最後まで伏せられたミステリタッチの一作。味わい深い。
SFを中心に幅広い形式の作品が含まれた短編集。「ギヌンガガップ」「グリュフォンの卵」「スロー・ライフ」「ティラノザウルスのスケルツォ」「死者の声」などの純粋なSFに近い作品は好みに合っている。神話や寓話っぽい「クロウ」「犬はワンワンと言った」「世界の縁にて」などは、良く分からなかった。「時の軍勢」はメビウスさんのコミックのような感じで面白い。「ウォールデン・スリー」だけは『SFマガジン』で読んだ事があった。
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