〈プロジェクト〉を通して、自分の時空間跳躍能力に目覚めていく悠有。いっぽう、辺里の町では不穏な出来事が進行していた。続発する放火事件と、悠有に届けられる謎の脅迫状――「モウ オマエニ 未来ハ ナイ」。涼、コージン、饗子それぞれの想いが交錯するなか、いつしかぼくは微かな不安に囚われていた――悠有はなぜ過去へ跳ばないのだろう? そして花火大会の夜、彼女はぼくの前から姿を消した……。
時間跳躍能力に目覚めた悠有と彼女を取り巻く田舎の高校生たちを描くライトノベル。全2巻の完結編。ハヤカワ文庫の『ゲイルズバーグの春を愛す』の表紙を浴衣にした鶴田謙二さんの表紙がマニア心を刺激する。これがなければ買わなかったかも。
1巻でもそうだったが文体が嫌い。“自転車は、測量器械だ”で始まり、言いたい意味は分かるが、やはり自転車は移動のための道具であり、測量のための道具ではない。雰囲気だけで考察が足りない解釈を偉そうに語るのが気に障る。そういう部分が多くて読んでいてイライラさせられた。
余りSFとしては進展のない1巻だったが、この巻でようやく彼らの物騒な計画がスタートする。何のためにそんな事をするのか理解に苦しむのだが、話が大きく動き出した事は歓迎する。それでも、浴衣の柄から『ライ麦畑』に脱線したり、唐突に宇宙論が語られたりして、散漫とした印象は拭えない。その方向性のなさが青春を描いていると言われるところなのだろうが、共感できなかった。
“タイムトラベラー”を扱ってはいるけれど、パラドックスとかないし今回もSF味は薄い。途中で独自の宇宙論が出てきて、そこから発展してタイムトラベラーの必然性が語られるけれど、言葉遊びでしかなくSF的は魅力は感じられない。青春小説だとしたら、納得できる内容だと思う。読み終わって気が付いたけど、ロバート・R・マキャモンさんの『少年時代』とか、スティーヴン・キングさんの『アトランティスのこころ』などの海外のモダンホラー作家の青春小説の影響を強く感じる。
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