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本の感想 2006年06月

『サマー/タイム/トラベラー 2』, 新城カズマ
『早春スケッチブック』, 山田太一

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『サマー/タイム/トラベラー 2』 新城カズマ
ハヤカワ文庫JA 本体:660円(05/07初)、★★★☆☆
 〈プロジェクト〉を通して、自分の時空間跳躍能力に目覚めていく悠有。いっぽう、辺里の町では不穏な出来事が進行していた。続発する放火事件と、悠有に届けられる謎の脅迫状――「モウ オマエニ 未来ハ ナイ」。涼、コージン、饗子それぞれの想いが交錯するなか、いつしかぼくは微かな不安に囚われていた――悠有はなぜ過去へ跳ばないのだろう? そして花火大会の夜、彼女はぼくの前から姿を消した……。

 時間跳躍能力に目覚めた悠有と彼女を取り巻く田舎の高校生たちを描くライトノベル。全2巻の完結編。ハヤカワ文庫の『ゲイルズバーグの春を愛す』の表紙を浴衣にした鶴田謙二さんの表紙がマニア心を刺激する。これがなければ買わなかったかも。

 1巻でもそうだったが文体が嫌い。“自転車は、測量器械だ”で始まり、言いたい意味は分かるが、やはり自転車は移動のための道具であり、測量のための道具ではない。雰囲気だけで考察が足りない解釈を偉そうに語るのが気に障る。そういう部分が多くて読んでいてイライラさせられた。

 余りSFとしては進展のない1巻だったが、この巻でようやく彼らの物騒な計画がスタートする。何のためにそんな事をするのか理解に苦しむのだが、話が大きく動き出した事は歓迎する。それでも、浴衣の柄から『ライ麦畑』に脱線したり、唐突に宇宙論が語られたりして、散漫とした印象は拭えない。その方向性のなさが青春を描いていると言われるところなのだろうが、共感できなかった。

 “タイムトラベラー”を扱ってはいるけれど、パラドックスとかないし今回もSF味は薄い。途中で独自の宇宙論が出てきて、そこから発展してタイムトラベラーの必然性が語られるけれど、言葉遊びでしかなくSF的は魅力は感じられない。青春小説だとしたら、納得できる内容だと思う。読み終わって気が付いたけど、ロバート・R・マキャモンさんの『少年時代』とか、スティーヴン・キングさんの『アトランティスのこころ』などの海外のモダンホラー作家の青春小説の影響を強く感じる。  

『早春スケッチブック』 山田太一
新潮文庫 本体:720円(H4/02初)、★★★★☆
 共に子連れで結婚し、郊外で平穏な家庭生活をおくる一家を脅かす一人の男の声。「ありきたりなことをいうな。お前らは、骨の髄までありきたりだ」。彼は、大学受験を控えた息子の実父で失明寸前の身だった。その高慢な態度に反発しながらも、強い影響を受ける息子と娘、動揺激しい夫、3人を励まし、家庭崩壊を防ごうと努める妻……。ホームドラマの頂点と激賞された傑作TVシナリオ。

 本書は1983年に放映されたTVドラマ『早春スケッチブック』のシナリオ集。脚本家の山田太一さんは『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』『終りに見た街』などの脚本や、小説家としても活躍している。資料を見ると『ふぞろいの林檎たち』と同年の放送らしいけど、このドラマは全く見ていない。

 両親とも子連れで結婚したが平穏な家庭を築いている一家。大学受験を控えた息子の前に実父が現れる。その激しい生き様に触れ影響を受ける息子。妻と子供らが実父に会っているのを知って動揺する父。自分らしい生き方を貫こうする男と、平穏な幸せを大切にしてきた一家がその男に翻弄され揺さぶられる姿を描く辛口ホームドラマ。

 シナリオを読むのは小説以上に想像力が必要とされる感じがした。小説なら言葉を積み重ねて説明するところを、簡単なト書きから情景を想像しなければならない。それと、山田太一さんの特徴的なセリフが気になったが、そのうちに慣れた。平凡で幸せな生き方と、特別な人間に成ろうとする生き方のぶつかり合いに魅せられた。今の自分にとっては、どちらの生き方にも特に関心がないが、もっと若かったら心揺さぶられただろう。魅力的なキャストなのでドラマも観たくなった。