読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2006年05月

『「新・会社法」これだけでいい』, 太田宗男
『漫画の時間』, いしかわじゅん
『半落ち』, 横山秀夫
『K・Nの悲劇』, 高野和明

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『「新・会社法」これだけでいい』 太田宗男
三笠書房 知的生き方文庫 本体:533円(06/05初)、★★★★☆
 新「会社法」の施行で「会社のルール」「仕事のルール」の何がどう変わったのか。どこから手をつければいいのか、やらなければならないこと、やってはいけないことは?――あなたが知りたいことに一発回答します。

 「会社法」とは、それまで「商法」で規定されてきた会社に関する法律をまとめなおした物で、2006年5月から施行される。有限会社の廃止、最低資本金制度の廃止など、旧法からの改正内容も多い。その会社法から“サラリーマンが知らなければならない”部分を抜き出して、弁護士である著者が分かりやすく解説している。

 今月からの施行されるのでタイムリーだと思い、株式投資に絡んだ関連知識としても知っておいた方が良い事がありそうだと思い読んでみることにした。

 1、2章では、会社法の概要から会社とは何かという基本を説明している。会社法の構成や、社名について、会社の分類など興味深い。続く3、4、5章では、「株式」のしくみ、「組織再編」「M&A」のしくみ、「株式会社」のしくみ&取締役の役割などについて説明しいている。これらは株式投資を行うのに知っておいて損はない知識が多く興味深かった。6章はトラブル実例集となっている。

 知りたい部分を分かりやすく説明していて、退屈で難しい法律の本というイメージとは違っていた。株式投資に関連した事項についての記述も多く読んで良かったと思った。特に3章の「株式」のしくみは、株券のペーパーレス化、株主の責任、債務の株式化、株式分割など株式投資には必須の内容だった。  

『漫画の時間』 いしかわじゅん
新潮OH!文庫 本体:848円(00/10初)、★★★★☆
 1980〜90年代の日本の漫画ワールドにおいて時代をリードする名作が数多く生れた。マンガ好きの漫画家、いしかわじゅんが実作者の立場から百本の漫画を鋭く分析。NHKの『BSマンガ夜話』のコメンテイターとしての原点となった漫画評論集。

 1995年に晶文社から出た本の文庫化なので、取り上げられている漫画はかなり古い。色々な雑誌に発表された漫画評論を集めて、書き直して単行本にまとめているので、古い物だと86年に書かれている。10年から20年前の漫画の評論だけど、ほとんどが現在でも活躍している漫画家だろうし、個人的には一番漫画を読んでいた頃の作品が多いので興味深かった。

 著者のいしかわじゅんさんは、毎月たくさんの漫画を読んでいるらしいが、少女漫画から劇画、4コマにギャグにエロ漫画まで、カバーするジャンルの広さをうかがわせる沢山の漫画が取り上げられている。谷口ジローさんや吾妻ひでおさん、浦沢直樹さん、望月峯太郎さん、水玉螢之丞さん、南伸坊さん、寺田克也さん、とり・みきさん、小林まことさんなど、幾人かの知っている漫画の評論から判断して、かなり信頼できる評論集だと思った。

 冒頭の「漫画の読み方」で、大友克洋さんと池上遼一さんの比較によって、漫画家による表現力の違いというのを強く印象付けられた。柴門ふみさんの漫画を軽視した文章への批判も、鋭い指摘と正面から批判する勇気に驚かされた。柴門ふみさんは割と好きな漫画家なので残念だが、納得できる批判だと思う。  

『半落ち』 横山秀夫
講談社文庫 本体:590円(05/09初)、★★★★☆
 「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは――。

 記憶の喪失に狂乱する妻を殺し、自首してきた現職警察官・梶。殺害から自首までの二日間の行動の謎を追って物語が進行する長編ミステリ。警察、検事、新聞記者、弁護士、裁判官、刑務官と主人公を変えながら連作短編のような形式で描かれる。事件後の経過を描きながら、2日間の空白と事件の真相に迫る。面白い構成だと思った。

 1ページ目から引き込まれる展開で飽きさせない。都合の良い筋書きを押し付ける組織に対し、主役となった警察、検事、新聞記者たちは自分の仕事として事実を知ろうとする。組織と個人の葛藤、疑惑と信頼の揺れる気持ち。それぞれの生活と様々な立場で事件に関わっていく彼らが、事件と梶警部を知るに連れ、殺人者である梶警部を信頼し好意を抱いていく。

 良く出来た小説で感動もしたが、横山さんの小説としてはベストではない。2日間の事を黙秘すれば、捜査してくれと言わんばかりで、納得出来ない。そのため、理由が明らかになるラストでも驚きが少なかったし、次々と梶警部に好意を抱いていくのも説得力が十分ではなかった。何よりも、病気で苦しむ妻を殺すことの是非をもっと問うべきだったと思う。  

『K・Nの悲劇』 高野和明
講談社文庫 本体:648円(06/02初)、★★★★☆
 若くして成功した夫との新しい生活。だが予期せぬ妊娠に中絶という答を出した時から、夏樹果波の心に異変が起こり始める。自分の中に棲みついた別の女――精神の病か、それとも死霊の憑依なのか。治療を開始した夫と精神科医の前には想像を絶する事態が待ち受けていた。乱歩賞作家が描く、愛と戦慄の物語。

 妊娠中絶を決めた女性に霊が憑き異変が起こる。夫と医者は精神病として治療を続けるが、やがて霊の正体が判明していく。江戸川乱歩賞受賞のデビュー作「13階段」から、社会性のある問題をテーマに、信頼の高いエンターテインメント作品を生み出して来た高野和明さんの第3作。

 取り憑いた霊が妊娠中絶を邪魔するというのが新味。霊の憑依現象が精神医学的に解釈できて、精神科医が様々な現象に治療を施していくのが興味深かった。本人は中絶に納得していても、深層心理として拒否しているというのが切なく重かった。“妊娠中絶”という大きな問題をテーマにしながらも、先の気になる娯楽性の高い作品に仕上がっている。

 高野和明さんの小説は、単なる暇つぶしで終わらずに、興味深い設定と社会性のあるテーマで、読み終わった後に何らかの影響を残してくれる。そんな著者の作品を高く評価しているけれど、少し地味な気がする。途中の予想よりも手堅くまとまっているという印象がある。脚本家だったらしいがそのあたりが影響しているのだろうか。後半にもう少しはじけてくれると、文句なしの作品になると思うのだが……。