タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『BRAIN VALLEY 上・下』 |
瀬名秀明 |
角川文庫 |
本体:各619円(H12/12初)、★★★★☆ |
山奥の最新脳科学総合研究所「ブレインテック」に赴任した孝岡は、不思議な現象を目撃する。さらに孝岡はエイリアンらしきものに拉致され、生体実験を施されてしまう。しかし、それらの超常現象も、この地で行われている数々の研究も、すべては人類を更なる進化へと導く壮大な計画の一環だった。
山奥の脳科学研究所に赴任してきた科学者が怪現象に遭遇するなかで、研究所の秘められた計画が明らかになって行く。最新の脳科学などを駆使してオカルト現象の謎を解き明かすホラー色の強いサイエンス・フィクション。
オカルト現象と最新の脳科学が交錯する瀬名さんの長編第2作という事で、期待と共に一抹の不安を持って読み進んだ。オカルト現象そのものが悪いとは思わないが、信憑性のもろさ(科学は再現されて実証される)と研究者による飛躍した解釈が問題だと思う。
本書では信憑性に関しては十分な注意が払われていると思うけれど、飛躍した解釈という点では、オカルト研究書の悪いところそのままに、著者の飛躍した解釈による壮大な展開が行われる。小説だからフィクションなのは仕方ないのだが、純粋な科学であれば飛躍も安心して楽しめるが、オカルトとなると不信感が付きまとってしまう。
買ってから読むまでに時間がかかった。科学知識を織り込んだ小説は好きだけど、読むのにエネルギーを使う。科学的な説明の多い小説を嫌う人が多いけど分かる気がする。ただし、読み始めてしまえば知的な刺激に魅了され、これほど面白い小説もないと思うのだ。これまで読んだ著者の作品と同様に、最新の科学知識が豊富に取り込まれ刺激的な内容だった。
読んだのは角川文庫版だが、新潮文庫で2005年9月に再刊された。
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『「神」に迫るサイエンス BRAIN VALLEY研究序説』 |
瀬名秀明 監修 |
角川文庫 |
本体:619円(H12/12初)、★★★★☆ |
脳はいかに「わたし」を創り出すのか? チンパンジーは「神」を知っているか? コンピュータは「魂」を宿すことができるか? 臨死体験で死後の世界を証明できるか? ベストセラー小説『BRAIN VALLEY』に記された「科学」の各ジャンルを、第一線の研究者たちが最新の知見とともに解説。読者の知的好奇心を刺激しながら、現代の科学を見渡す恰好のガイドブック。
瀬名秀明さんの長編小説『BRAIN VALLEY』で重要な役割を担っている脳科学、UFO、臨死体験などについて、各ジャンルの第一線の研究者たちが、各分野の概要を専門家の立場から解説する。『BRAIN VALLEY』の著者自身が企画し監修した『BRAIN VALLEY』のの科学を解説する一冊。
SFなど、科学を主要なテーマにした小説では、フィクションとノンフィクションの境が分からなくて戸惑う事がある。専門の解説書を読めば良いのだろうが、その選択で迷ったり、多くの分野が関連していて読む本が多くて困ったりする。そういう意味で、本書のような解説書の存在は非常に便利だと思う。著者自身が監修しているという点でも信頼が持てる。
通常の科学解説書のようなものから、小説を意識しながら解説するもの、小説の記述を引用して説明していくものまで、執筆者によって構成がまちまちで統一感がない。小説を余り意識しないで、通常の解説書のような方が読みやすかったので、それに統一して欲しかった。各章の末尾に初版刊行後の重要トピックが追加されたことや、文庫版で更新された推薦図書も嬉しい配慮だった。
各章題と執筆者は「脳科学からの『BRAIN VALLEY』ガイド」/澤口俊之、「心の遺伝子」/山元大輔、「人口生命」/佐倉 統、「霊長類学」/金沢 創、「脳型コンピュータ」/山田 整、「UFO再入門・序章」/志水一夫、「臨死体験」/瀬名秀明となっている。
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『斧』 |
ドナルド・E・ウェストレイク |
文春文庫 |
本体:667円(01/03初)、★★★★☆ |
わたしは今、人を殺そうとしている。再就職のライバルとなる元同業者6人を皆殺しにする。この苦境を脱する手は他にないのだ――リストラで失職したビジネスマンが打った乾坤一擲の大博打は、やがて彼の中の“殺人者”を目覚めさせてゆく。ハイスミスやトンプスンに比肩する戦慄のノワール。ミステリの名匠の新たなる代表作。
タイトル『斧』はリストラを意味しているそうだ。斧で人を殺しまくる話なんて余り読みたくない。リストラにあった男が再就職のライバルを殺していく話。真面目で不器用な主人公が道を踏み外していく過程を淡々と描いている。シリアスでありながら、どことなくユーモアが感じられる。
著者がドナルド・E・ウェストレイク名義で書いたものはドタバタなどのユーモア小説で、リチャード・スターク名義で書いたものはシリアスな小説なんだそうだ。本書はウェストレイク名義としては例外的なシリアス路線だけど、ウェストレイク作品らしいユーモア感が殺伐とした話の救いになっている。
失業生活の主人公に共感し計画の達成に喝采を贈るのか、平穏な暮らしを奪われた被害者に同情するのか、どういう気持ちで読んだら良いのか複雑なところ。単純に主人公を憎む気持ちにはなれないが、どう論理付けしても正しい事をやっているとは思えない。悩まされる話だった。
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『みんな家族』 |
清水義範 |
文春文庫 |
本体:762円(04/08初)、★★★★☆ |
激動の昭和を「普通の人々」は、こんなにも逞しく生きていた。二・二六事件の迫る冬、少女は花占いに夢をはせ、優しかったあの子は南方の戦いで死に、焼け野原に立って一儲け企む奴もいた。懐かしい路地裏の匂い漂う清水版昭和史。
著者の父と母、著者の妻の父と母という4つの家族の話からはじまる“普通の人々”による昭和史。はじめは関係のない4つの家族が、子供の結婚によって結ばれ、さらにその子供が結婚して親戚関係になっていく。著者の清水義範さんはパスティーシュ小説などの短編が有名だが、自身の青春時代を描いた長編も面白い。本書もその系統に入るだろうか。
偉業を成し遂げた成功談でもないし、貧困に苦労を重ねる話でもない、戦争での離別や敗戦後の食糧不足はあるけれど、不幸と幸せの積み重なった“普通の人々”の人生が描かれている。望みをかなえた人もいれば、挫折していく人もいる。自分の成すべき事をやり遂げた人生もあれば、何をすれば良いのか迷ったままの一生もある。著者の視線はどの人にも公平で優しい。
戦争から敗戦、高度成長の昭和史と共に様々な人生が描かれている。目立たない作品だけど、多くの人に読んでもらいと思える良い話だった。
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『やさしい経済学』 |
竹中平蔵 |
幻冬舎文庫 |
本体:533円(H17/04初)、★★★★☆ |
経済成長率、GDP、三位一体の改革、特区など、知っておきたい経済用語から、ビジネスに役立つデフレや為替の知識、暮らしに直接関わる年金や規制緩和まで、常識として頭に入れたい、経済の問題をやさしく解説。郵政民営化、ペイオフ、M&A……新聞・テレビを賑わす話題も頭に入る。小泉政権現役大臣が教える経済の本。
『あしたの経済学』(幻冬舎刊)を加筆・修正した文庫版。これまでの日本経済の歩みから始って、現在の日本経済の状況を解説。問題点を指摘した上で、幾つかの方向から解決策を提示していく。大変に分かりやすくて説得力もあるが、少し考え方が一方的な気がする。著者は小泉内閣で経済財政政策担当大臣をやっている人なので、政策を推し進めるために良いとこるだけを取り上げて説明しているようだ。
現在の経済政策を砕いて考えれば、自由な競争の社会になれば、個人や企業のやる気が出て、活気のある日本になり、世界での競争に対抗できる国になる、と言うことだと思う。問題なのは、競争の中で敗れた人々への配慮が必要なこと。問題を個人保証を取る金融機関のせいにして終わってしまっている。問題点の解決のない政策を押し付ける姿勢は支持できない。
著者の示した経済政策の負の部分を見つめ直し、他の人の本も読んで考えてみたい。経済問題を考える基礎として有用な本だったが、必ずしも公正な視点から経済政策を説明しているとは思えない。
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