読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2005年04月

『ファウンデーションと混沌 上・下』, グレッグ・ベア
『幽霊刑事』, 有栖川有栖
『ドキュメント《スター・ウォーズ》』, ゲリー・ジェンキンズ
『栄光一途』, 雫井脩介

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ファウンデーションと混沌 上・下』 グレッグ・ベア
ハヤカワ文庫SF(SF1477,1478) 本体:各720円(04/05初)、★★★★☆
 心理歴史学によって帝国の崩壊を予言したハリ・セルダンは、裁判にかけられようとしていた。それはセルダンの目論見どうりの出来事だった。シンター顧問官は精神感応能力者を探し出し殺害する命令を下した。セルダンの計画の中核を担うはずの精神感応能力者たちが狙われる。〈新・銀河帝国興亡史〉第2部。

 アイザック・アシモフさんの〈銀河帝国興亡史〉を引き継ぐ〈新・銀河帝国興亡史〉の第2部。グレゴリイ・ベンフォードさんの第1部『ファウンデーションの危機』から数十年後、セルダンが裁判にかけられる少し前から始まる。第1部と第2部の間にあった妻ドースの死や、ダニエルとの関係などは、アシモフさんの『ファウンデーションの誕生』あたりに出てくるようだ。

 セルダンの計画によって組織化される精神感応能力者たち。シンター顧問官の追っ手が彼らを狙う。ロボット存在の真相に近づくシンター。歴史の裏で人間に干渉してきた二派のロボットの対立が描かれる。精神感応能力者の存在によって個人の意識をコントロールすることの問題を、人間に干渉することに反対するロボットの勢力を出して、人類を誘導することへの問題を浮き彫りにしている。

 混沌と言うタイトルながら、第1部のベンフォードさんより明解で読みやすい。後から旧シリーズを読む人のことを考えてか、シリーズの設定の何もかもを詳しく説明している訳ではないので、旧シリーズを読んでいない人には分かりにくい部分があるかも。

 この新シリーズは、アシモフさんの『ファウンデーションへの序曲』と『ファウンデーションの誕生』に重なる部分が多い。本編に対して重要な追加はなく、本当に新シリーズを執筆する意味があったのか疑問。ともかく、デイヴィッド・ブリンさんによる3部作のラスト『ファウンデーションの勝利』は読みたい。  

『幽霊刑事』 有栖川有栖
講談社文庫 本体:各720円(04/05初)、★★★★☆
 巴東署の刑事・神崎達也が美人のフィアンセを残して無念にも射殺された。なぜか幽霊として意識を取り戻した神崎は真相解明に乗り出すが、犯人が密室状況で何者かに殺されて……。一体犯人は誰なんだ! ミステリーとラブストーリーが融合した2001年度本格ミステリー・ベスト10作品。

 講談社文庫ではめずらしく解説がないので、「本格ミステリー・ベスト10」って何だろうと思って調べたら、原書房の『本格ミステリ・ベスト10』(探偵小説研究会 編)の事らしい。2000年度の8位に入っている。“2001年度”“ミステリー”とあるのはちょっとしたミスだと思う。

 殺された主人公が幽霊となって事件を解決するという、有栖川にしては変わった小説なのは、犯人あてゲームの芝居を小説化したものだからだろう。幽霊の小説と言うとちょっと嫌なイメージがあるけれど、主人公の幽霊刑事(でか)が、さっぱりした明るい性格でコメディタッチで話が進行するので死の影を感じずに楽しく読めた。

 主人公は誰が自分を殺したか分かっているが、相手に何も聞こえず、何も動かす事が出来ない。犯人が自分を撃ったときの言葉から黒幕の存在を感じ取り、事件の真相解明を誓うがただ観察するだけという制約が面白い。ただ一人、彼の姿が見える同僚の刑事が協力してくれるが、犯人が何者かに殺されて捜査は壁に突き当たる。

 事件の真相としては、殺人の理由が少し弱い気がするけれど、幽霊刑事というミステリとして公正でない部分の制約を明確にして、異色の本格ミステリとして十分に楽しめる作品に仕上がっている。感動のラストは、書き方によってはもっと泣かせる事も出来ただろうけど、さっぱりと描いたのが良かったと思う。  

『ドキュメント《スター・ウォーズ》 ジョージ・ルーカスはいかに世界を変えたか』 ゲリー・ジェンキンズ
扶桑社セレクト 本体:933円(04/09初)、★★★★☆
 1977年5月25日。ジョージ・ルーカスは、絶望していた。映画『スター・ウォーズ』に取り組んで4年。暗中模索の脚本改定、ふくらむ予算、続発する事故、業界中の批判。ようやく迎えた公開日も彼の心は重かった……。世界を変えた映画『スター・ウォーズ』の舞台裏を描く。ノヴェライゼーションの翻訳者・野田昌宏氏の特別エッセイ付き。

 スター・ウォーズ誕生の舞台裏を、たくさんの関係者への取材を元に描いたドキュメンタリー。『ルーカス帝国の興亡/《スター・ウォーズ》知られざる真実』(扶桑社)を再編成して文庫化したもの。

 映画『スター・ウォーズ』製作の舞台裏から、監督ジョージ・ルーカスさんの生い立ち、打ち立てた様々な記録、関係者たちのその後、《スター・ウォーズ》三部作の完成までを描いている。1977年の『スター・ウォーズ』公開から20年を経て書かれた本だからこそ、熱狂に流される事なく冷静に描けた部分があるだろう。

 描かれた監督の姿は尊敬できるものではないし、公開前には映画に対する悪い評価もあったらしい。大成功の後の様々な苦悩も描かれており、栄光だけで終わらないところが興味深い。『スター・ウォーズ』がそれほど革新的な映画だったどうか分からないけど、コミックや玩具などのライセンス商品の大成功は、それまでにない画期的なものだと思う。

 この本の文庫化とほぼ同時期に、初期3部作のDVDが発売された。今まで《スター・ウォーズ》をちゃんと観たことがなかったので、その『STAR WARS TORILOGY』を購入した。オリジナルの『スター・ウォーズ』ではないのが残念だった。  

『栄光一途』 雫井脩介
幻冬舎文庫 本体:686円(H14/04初、H16/12,5刷)、★★★★☆
 オリンピックを目前に控えた日本柔道強化チームのコーチ望月篠子は、柔道界の重鎮から極秘の任務を言い渡された。代表候補の中にドーピングをしている選手がいるらしい、代表選考までにその人物を突き止めて欲しい。重圧に堪えながら真実を追う篠子は、スポーツ界を蝕む病に直面する。

 第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞したデビュー作。柔道という格闘技の世界で、若い女性コーチを主人公に据えて、ドーピングの問題に切り込んでいる。女子柔道の存在はあるにしても、男性のイメージの強い柔道、特に男子柔道選手のドーピング問題を、若い女性コーチが調査するという対比が面白い。

 リアルというよりは、エンターテインメント性を重視した内容で、面白くスラスラ読める。主人公に助言をして力を貸すのが、友人の佐々木深紅で、鬼平犯科帳の好きの女性剣士という存在。主人公の教え子の柔道選手・角田と学生の堀内が調査に協力する。話は、主人公たちの調査する男子柔道選手のドーピング問題と共に、角田が女子柔道の代表に入れるかが焦点となっていく。

 疑いのかけられた代表候補の性格や過去が明らかになるに連れ、様々な展開が頭をよぎる。犯人探しの面白さと共に、ドーピング問題の難しさ、柔道における武道とスポーツなど、興味深く考えさせられた。意外性を狙ったラストは違和感があった。読者が抱いた人物像とギャップがあり過ぎては、読者は納得しないだろう。

 続編として主人公の望月篠子がアルペンスキーの闇に挑む『白銀を踏み荒らせ』(幻冬舎)がある。