読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2005年03月

『念力密室!』, 西澤保彦
『素子の読書あらかると』, 新井素子
『クリスマスの4人』, 井上夢人

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『念力密室! 神麻嗣子の超能力事件簿』 西澤保彦
講談社文庫 本体:667円(04/04初)、★★★★☆
 ミステリ作家・保科匡緒のマンションで起こった密室殺人。担当刑事は目が覚めるような美貌の能解警部。そこに登場する“チョーモンイン(見習)”神麻嗣子はこの部屋で超能力が不正使用されたと言う。シリーズの最初の事件である表題作「念力密室!」をはじめ、“密室”をテーマにした6作品を収録した連作短編集。

 水玉蛍之丞さんの描く神麻さんの表紙がかわいい“神麻嗣子の超能力事件簿”の3冊目。シリーズ初の短編集で、シリーズ最初の事件である「念力密室!」が入っている。先に2冊の長編を読んで気になっていた3人の出逢いを知ることが出来た。神麻さんが能解警部を恐れている理由も分かった。


 「念力密室!」はシリーズ最初の事件。作家・保科のマンションの部屋で密室殺人が起きる。「死体はベランダに遭難する 念力密室2」はあるマンションのベランダで起きた密室殺人。能解警部の一人称での語りが印象的。「念力密室!」とこの短編の間に『幻惑密室』(講談社文庫)が入るらしい。

 「鍵の抜ける道 念力密室3」は密室から死体が消えた事件。前回の能解警部の語りで気持ちが分かっているだけに、彼女の不機嫌さが意味深。このシリーズ、ミステリよりも3人の関係の方に力が注がれている。「乳児の告発 念力密室4」は赤ん坊の誘拐が絡んだ密室殺人。能解警部の語りの事件は犯人が……だ。辛い。

 「鍵の戻る道 念力密室5」は保科の前妻の部屋で起きた密室殺人。保科と前妻の関係がさっぱりしていていい感じ。念力で作った密室にも飽きてきたけど、これで最後だから。「念力密室F」はシリーズの未来を予告するおまけ的な話。保科の前妻の聡子は思った以上に重要な登場人物らしい。


 シリーズの他の作品では念力以外の超能力も扱っているのに、本書では念力で作られた密室殺人ばかりが並ぶ。一作ごとに工夫が見られるけど、5作も並ぶとちょっとくどいかも。保科の語りと能解警部の語りの作品が交互になっている。この構成によって2人のそれぞれに対する気持ちが読者にストレートに伝わってくる。登場人物のマンガ的なイメージ以上に2人の思いが真面目に描かれていて、彼らの関係の今後の展開が気にかかる。おまけの「念力密室F」を読んでその気持ちが更に強くなった。

 「念力密室!」「死体はベランダに遭難する 念力密室2」「鍵の抜ける道 念力密室3」「乳児の告発 念力密室4」「鍵の戻る道 念力密室5」「念力密室F」の6編を収録している。  

『素子の読書あらかると』 新井素子
中公文庫 本体:552円(05/01初)、★★★★☆
 「これは書評の本でもありませんし、おすすめの本を書いた本でもありません」。私が――新井素子が、とある本を読んで、さまざまな感想を書いた読書エッセイです。運命のように出会ってしまった愛する本、いとおしい本。そんな本を読んで考えた読書の喜びと幸福をつづった読書エッセイ。

 世間での認識は違うかも知れないけれど、私にとって新井素子さんはSF作家であるし、本書の中で著者も自分はSF作家だと書いている。で、SF作家・新井素子さんによる読書エッセイ。マンガやミステリ、ホラーやSF、児童書などの小説以外に、『臨死体験』(立花隆著)や『ホット・ゾーン』(リチャード・プレストン著)、『逆説の日本史』(井沢元彦著)などノンフィクションも多く紹介されている。

 著者自身が「はじめに」で断っているように、書評ではなくて読書エッセイだから、著者の日常の出来事や感じた事と共に本の感想が語られている。台所にハエが増えた原因や、子供の頃の本に関する思い出、大学時代の旦那さんとの出会い、夕食のしたくをさぼって本を読み続けた話など、著者らしい飾らない文章が楽しく読める。

 『ホット・ゾーン』とか『天藤真推理小説全集』、『銀河帝国興亡史』シリーズ(アイザック・アシモフ著)など、自分の読んでいる本が出てくると嬉しいものだが、少し大げさに言うとがっかりするほど読んだ本が多かった。面白いと感じる本の傾向が似ているのだろう。これだけ似ていると著者のおすすめは、私にとってもおすすめに違いない。『3LDK要塞山崎家』(太田忠司著)や『逆説の日本史』など読んでみたくなった。

 高野文子さんの描く“ワニのぬいぐるみを枕にソファで本を読む新井素子さん”の表紙がシンプルで良い。  

『クリスマスの4人』 井上夢人
光文社文庫 本体:571円(04/12初)、★★★★☆
 1970年、ビートルズが死んだ年の聖夜、物語は始まった。その夜を共に過ごした二十歳を迎える4人の男女。ドライブ中の車の前に突然、飛び出してきたオーバーコートの男。彼らは重大な秘密を共有する羽目になった。その後、10年毎に彼らを脅かす不可解な謎と、不気味に姿を現す男。2000年、時空を越えた結末は、破滅か、奇跡か!?

 1970年のクリスマスの夜の事件から始まり、事件に関係した4人の男女が、1980年、1990年、2000年と10年ごとに集まるたびに話が進行していく。10年前の事故で死んだはずの男が彼らの前に現れて……、20年後、解決されない謎がさらに深まっていき、世紀末の2000年、全ての謎の意外な結び付きが明らかになる。

 実際には各章が1年おき(最後の章だけ2年後)に発表されたらしい。“ビートルズの解散”“マリファナ”“ジョンレノンの死”“インベーダー・ゲーム”“世紀末”“インターネット”など、それぞれの時代のキーワードを織り込んで、それぞれの時代を鮮やかに再現している。時代の経過と4人の境遇の変化が、30年という月日と人生の刹那さを感じさせる。

 解決不可能に思えた話の辻褄が、幾つもの伏線と共にきっちり合ったのは見事だったが、ジャンル違いの解決がミステリとしてはちょっと引っ掛かった。井上夢人さんはジャンルミックス的な小説を多く書いているので、ファンなら十分に認められる範囲内かも知れない。しかし、井上夢人さんの小説としては、今までになくミステリ的な手法で書かれていたので、こういう別ジャンルの結末に対して疑問が残った。