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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2004年09月

『ファウンデーションの危機 上・下』, グレゴリイ・ベンフォード
『実況中死』, 西澤保彦
『青山物語1979』, 清水義範
『怪しい人びと』, 東野圭吾

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ファウンデーションの危機 上・下 新・銀河帝国興亡史 1』 グレゴリイ・ベンフォード
ハヤカワ文庫SF(SF1473、1474) 本体:各920円(04/03初)、★★★☆☆
 衰退の道をたどる銀河帝国を救うべく、心理歴史学の完成を急ぐ天才数学者ハリ・セルダン。だが、首相デマーゼルが辞任し、皇帝が次期首相にセルダンを指名したことで、セルダン自身の望みとは裏腹に熾烈な政争に巻き込まれてゆく。巨匠アシモフの遺志を継ぐ〈新・銀河帝国興亡史三部作〉開幕。

 〈銀河帝国興亡史〉(または、「ファウンデーション・シリーズ」)は、1951年(原書)の『ファウンデーション』(ハヤカワ文庫SF)以来、書き続けられたアイザック・アシモフさんのライフワーク的な作品。そのシリーズを継ぐかたちで〈新・銀河帝国興亡史三部作〉が、グレゴリイ・ベンフォードさん、グレッグ・ベアさん、ディヴィッド・ブリンさんによって書かれた。本書はベンフォードさんによるその第1部。

 一万年後、人類は銀河帝国を築いた。しかし、心理歴史学者ハリ・セルダンは帝国の崩壊を予測。事態を見守るためにファウンデーションを設立する。シリーズは、帝国とファウンデーションの歴史を描き、その後にファウンデーション設立以前の話を追加した。本書もファウンデーション設立以前の話で、心理歴史学の完成前のセルダンが首相候補になって様々な危機に遭遇する。

 すっかりアシモフさん銀河帝国興亡史の内容を忘れてしまったが、7作品11冊あるので読み返すはやめた。そのため、どこがオリジナルの設定で、どこからが新シリーズの設定なのか判別出来なかった。あまりアシモフさんの作風を意識してないようで、登場人物などは〈銀河帝国興亡史〉だけど、内容的にはグレゴリイ・ベンフォードさんらしさの現れた作品となっている。

 不法な模造人格の扱いや、暗殺方法など、様々な部分で話に説得力がなく何となくのれなかった。難解な言葉が重厚な雰囲気を醸し出していて、知的に考察された作品だと思うのだが納得いかない部分が多い。ベンフォードさんの文章とは相性が悪く、意味が7割ぐらいしか掴めないので、そのためかも知れない。ヴォルテールとジャンヌの会話は、同じような議論の繰り返しで、興味を感じなかったし、コンピュータ内の擬似空間の描写に疑問を感じる。

 パンとの浸接は興味深いシーンだったが、あの活字はセンスが感じられず、おまけに読みにくい。解説によると、現在の政治問題なども反映しているらしいが、そういうのも余り好きではない。このような息の長い作品には似合わないと思うのだが……。色々気になる面もあったが、新シリーズの第1部としてきっちりと仕上がっていて、続きが楽しみになった。  

『実況中死 神麻嗣子の超能力事件簿』 西澤保彦
講談社文庫 本体:667円(03/11初)、★★★★☆
 謎の人物の見た光景がそのまま見えてしまう能力を持ってしまった主婦・素子。殺人やストーカー行為を「体験」した彼女は、自分の状況をマスコミに訴えた。それを知った作家の保科は、“チョーモンイン”の出張相談員・神麻嗣子に相談。神麻と能解警部、作家の保科は調査を始める。

 〈超能力者問題秘密対策委員会〉、略して〈チョーモンイン〉の出張相談員見習・神麻嗣子と美人警部・能解匡緒と作家の保科匡緒が超能力の絡んだ事件を解決するシリーズ長編第2弾。嗣子に慕われ、能解警部にはひそかに思われている保科のモテモテぶりが羨ましい。何より、萌え系キャラの嗣子がけなげでカワイイ。

 今回は、他人の見た光景がそのまま見える超能力が絡んだ事件。映像を見る人に超能力があるのではなく、見られている人の方が無意識に映像を送ってしまっているところが新しい。佐藤マコトさんの『サトラレ』(講談社モーニングKC)というマンガにちょっと似ているかな。彼女に映像を送ってしまっている人物は、そうとは知らずに犯罪を犯そうとしていて……。

 容疑者は、保科のファンが集まったオフ会の出席者に絞られていく。オフ会の話は作家とファンの関係が分かって面白い。さらに、一ヶ月で小説を書き上げようと奮闘する保科の姿が描かれる。ミステリ小説で超能力を扱う場合の問題について検討したり、読者を満足させるような意外な真犯人などもう無理だとか、創作過程や著者の考えが出ていて興味深い。

 保科には、意外な真犯人など無理だと言わせておいて、事件の真相はなかなかに意外な話だった。超能力がらみなので現実的でないという理由で楽しめない人もいるだろうけれど、本格ミステリとして公正に書かれているので、そういう人にも試しに読んで欲しい。  

『青山物語1979 郷愁完結編』 清水義範
光文社文庫 本体:495円(04/01初)、★★★★☆
 上京以来8年。平岡義彦は、子会社を任せるという話を断り、「正社員から嘱託にして下さい」と切り出した。小説家になる夢を持ちつづけていた平岡は、生活の安定よりも原稿の書ける時間が欲しかったのだ。恋に仕事に、青春の日々を過ごした青山を舞台に描く著者の自伝的小説。

 作家を目指して上京した青年が、ファッション情報の仕事に就いて、様々な経験を経て一人前になっていく。著者の自伝的小説だから、主人公は作家への夢を持ち続けており、社長から認めらながらも、正社員から嘱託になり夢の実現に踏み出す。

 『青山物語1971』『青山物語1974 スニーカーと文庫本』(共に光文社文庫)の10年ぶりの続編であり、シリーズの完結編。当初『青山物語1977』の予定だったが、同じ時代を回想したエッセイ『青二才の頃 回想の'70年代』(講談社文庫)を書いてしまって、予定を変えたそうだ。

 エッセイの方を既に読んでいるので、人物やエピソードのフィクション化の状態が良く分かる。エッセイと小説で同じエピソードを読み比べるのは、椎名誠さんでお馴染みだ。そういえば、阿刀田高さんも小説作法の本で、同じエピソードから書かれた自作のエッセイと小説を掲載して比較していた。作家が経験をどのように抽象化、空想化して作品に生かすのか大変に興味深い。

 仕事を真面目にこなす、ごく平凡な会社員の成長物語であり、夢を実現して作家となるまでの物語でもある。本書だけ読んでも不足なく読めるけど、前2冊といっしょに読むとさらに楽しめると思う。  

『怪しい人びと』 東野圭吾
光文社文庫 本体:476円(98/06初)、★★★★☆
 俺は会社の同僚に一晩部屋を貸して小遣いを稼いでいる。ある日、部屋に戻ると見知らぬ女が寝ていて…(寝ていた女)。工場の休憩室で係長の死体が発見された。密室を解くカギは…(死んだら働けない)。“面白い旅行”の競争を挑まれた僕は、灯台で異様な体験をする(灯台にて)など、身近にいる怪しい人びとを描いたミステリ短編集。

「もう一度コールしてくれ」
強盗に失敗して逃げ込んだ先は“あいつ”の家だった。俺はナイフを奴の顔の前に突き出した。俺をこんなにしたのは、お前の間違った“コール”のせいだ。
オチのひとことの為に、ああいう展開になったのだろうけど、ちょっと弱い。

「甘いはずなのに」
新婚旅行のホテルで、私は尚美の首に手をかけた。「宏子は君が殺したのか」。私は娘・宏子が死んだ事故に疑惑を抱いていた。
意外な真相でもあるけど、良くある展開でもある。見抜けなかったので関係ないか。軽く著述トリックが使われている。

「結婚報告」
旧友から結婚報告の手紙が来た。しかし、同封された夫婦の写真は別人のものだった。連絡もつかず気になった智美は故郷に向かう。
旦那が蝶のコレクターというのが効いているのか、何となく不気味な話だった。恐怖物のプロットとしても使えそう。

 読む前は『怪笑小説』や『毒笑小説』(共に集英社文庫)のようなお笑い系の作品かと思っていた。意外にも正統的なミステリで、ちょっと残念な気もする。短いので描写に味わいはないが、アイデアで楽しませてくれる。どれも良く出来ているけど水準作といった感じで、飛び抜けて面白い作品はなかった。

 「寝ていた女」「もう一度コールしてくれ」「死んだら働けない」「甘いはずなのに」「灯台にて」「結婚報告」「コスタリカの雨は冷たい」の7編を収録。  






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