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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2004年06月

『三人のゴーストハンター』, 我孫子武丸・田中啓文・牧野 修
『ブラジルから来た少年』, アイラ・レヴィン
『超・殺人事件』, 東野圭吾
『翔び去りしものの伝説』, 都筑道夫

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『三人のゴーストハンター 国枝特殊警備ファイル』 我孫子武丸・田中啓文・牧野 修
集英社文庫 本体:876円(03/09初)、★★★★☆
 普通の警備会社が恐れをなした怪異現象がらみの事件ばかりを扱う国枝特殊警備保障。生臭坊主・洞蛙坊、美貌の霊媒師・比嘉、反オカルト科学者・山県の3人が個々の特殊能力を発揮して、都市の魑魅魍魎に挑んでいく。

 我孫子武丸さん、田中啓文さん、牧野修さんが、それぞれの作風に合った個性的なキャラクターを使って描くゴーストハンター物の連作集。連作全体には統一された背景があり、国枝特殊警備の社長と従業員などの登場人物も共通する。田中さんが不道徳な坊主・洞蛙坊を、牧野さんが美青年の霊媒師・比嘉を、我孫子さんが超常現象を否定する山県を主人公にして1話完結で怪奇現象を解決していく。

 3人が3話ずつ描いたエピソードに、それぞれ独立したエンディングが収録されている。エンディングはそれまでの背景を受けながら、それぞれ独自の展開で描いており、互いに矛盾する話になっている。小説としてはまとまりが悪い部分もあるけど、それぞれの個性が小説の幅を広げていて、今回の共作は非常に上手くいったと思う。

 駄洒落と下ネタの田中さんの話が一番面白かった。基本的には正統的なゴーストハンター物であり、この話が連載をリードする存在になっている。超常現象を否定する形で描いた我孫子さんの話も興味深い。ゴーストハンター物としては異質な気がしたが、現象を科学的に解明し解決するのも悪いわけではない。少年と同性愛に耽っている比嘉を主人公にした牧野さんの話は余り好きではないが、両極端な二人の間に立って一番苦労して描いているように感じた。  

『ブラジルから来た少年』 アイラ・レヴィン
ハヤカワ文庫NV 本体:602円(82/06初、97/04,7刷)、★★★★☆
 元ナチスの主任医師・メンゲレ博士は、二年間に65歳の男94人を殺すことをメンバーに命じた。ナチス戦犯を追うリーベルマンは、この情報を入手し調査を開始する。65歳の男94人は何故ナチスに狙われるのか? 彼が真相に肉迫したとき、彼の背後にメンゲレの魔手が迫っていた。

 瀬名秀明さんが『ハートのタイムマシン!』(角川文庫)の中で紹介していて読みたくなった。ナチスの残党が計画する94人の殺害の目的が意外性があって面白い。古い小説だけど、ひねりがあって今でも新鮮だと思う。『ハート…』では必要があってネタを明かしているが、これを知ってしまうとこの小説の面白さが損なわれるので、“あるSF的な設定が使われている”としか書かない。

 30年近く前の作品なので、科学的な説明は説得力に欠けるように感じたが、作品の本質には関係ない。狙われた人々を救うサスペンスと、元ナチスの計画を探るミステリが大きな魅力となっている。設定を知らずに読んでいたら、謎解きで相当な驚きを受けただろうと思う。

 主人公の人物像が薄っぺらで物足りなく、元ナチスの残党は一元的な悪役としてしか描かれていない。最近の長大な翻訳作品と比べると、人物描写の面では劣っているように感じたが、ストーリーの展開には十分惹きつけられた。  

『超・殺人事件 推理作家の苦悩』 東野圭吾
新潮文庫 本体:438円(H16/05初)、★★★★☆
 新刊小説の書評に悩む書評家のもとに届けられた、奇妙な機械「ショヒョックス」。どんな小説にもたちどころに書評を作成するこの機械が、推理小説界を一変させる「超読書機械殺人事件」をはじめ、推理小説誕生の舞台裏をブラックに描いた危ない小説8連発。意表を衝くトリックと冴え渡るギャグ、そして恐すぎる結末。

 ドタバタ、パスティーシュ、スラップスティックなどSF関係では良くある“お笑い小説”だが、ミステリでは意外と少ない。事件の謎を解こうとする読者の意気込みが“お笑い”と馴染まないのだろう。ミステリの名作を発表するかたわら、『毒笑小説』や『怪笑小説』などの“お笑い小説”を書いている著者が“お笑いミステリ”に挑んだ短編集。

 作品中にミステリ小説が登場する作品が多い。ミステリ小説全体をパロディにした作品なのだろう。パロディと言うと特定の作品をネタにしている場合があるけど、そういう作品は多分1作もない。税金対策に小説に手を加える「超税金対策殺人事件」や、高齢作家のボケぶりを描いた「超高齢化社会殺人事件」、原稿枚数を競う出版界を皮肉った「超長編小説殺人事件」などがミステリのパロディ作品。

 笑わせながらも、こんな事もありうるかもと思わせるところが良く出来ている。「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト5枚)」は、解決を考えずに書いてしまった連載ミステリの最終回の苦悩を描いている。著者もそういう経験があるのだろうか。東野さんは結末まで考えてから書くタイプに思えるけどね。

 科学を主題にした小説が好きな読者を皮肉った「超理系殺人事件」は、痛いところを突かれてしまった。飛ばし読みしても良いと書いてあるけれど、ぜひ全員にきちんと読んでもらいたい。「超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)」と「超予告小説殺人事件」は、“お笑いミステリ”ではあるけれど謎解きの魅力も備えていて、ミステリとしても満足できる作品。「超読書機械殺人事件」はかなりSF的な小説で、似たようなアイデアの話があるような気もするが……。

 「超税金対策殺人事件」「超理系殺人事件」「超犯人当て小説殺人事件(問題篇・解決篇)」「超高齢化社会殺人事件」「超予告小説殺人事件」「超長編小説殺人事件」「魔風館殺人事件(超最終回・ラスト5枚)」「超読書機械殺人事件」の8編を収録。  

『翔び去りしものの伝説 都筑道夫コレクション《SF篇》』 都筑道夫
光文社文庫 本体:781円(03/08初)、★★★☆☆
 非業の死を遂げた八剣巷二が蘇ったのは、王位継承をめぐって魔法使いが権威をふるい、美女・妖婦、無敵の剣士らが入り乱れる地球外王国。王子にすり替わったウエラこと八剣には、秘められた使命があった。異世界ファンタジー長編「翔び去りしものの伝説」に、SF短編やエッセイを併録。

 昭和51年から53年にかけて雑誌「奇想天外」に連載されたSF長編。魔法使いに剣士、半裸の美女が登場するヒロイック・ファンタジー。連載当初はスペース・オペラの肩書きだったが、途中からヒロイック・ファンタジーという肩書きに変わったそうだ。基本的にヒロイック・ファンタジーで、幾つか『スターウォーズ』を連想させる場面があり、若干スペース・オペラの要素が感じられた。

 地球人としての微かな記憶を持つ主人公が戸惑いもなく暗殺を実行する。地球人を主人公にしておきながら、どう解釈したら良いのか分からない行動をされ、感情移入できずに戸惑ってしまった。主人公を身近な存在にすることで、ファンタジーに親近感を持たせる事が出来ると思うけれど、これでは逆効果だった。

 話が進むに連れ、そんな事は気にならなくなった。次々と事態が進展して飽きさせない。登場する脇役たちも個性的で魅力があった。その反面、中々先が見えてこないのがもどかしく、適当に展開しているようにも感じてしまった。主人公の八剣がこの世界ではウエラであり、さらに王子の記憶を持つことに矛盾を感じる。良く出来てはいるけれど、のめり込めなかった。


 「イメージ冷凍業」はSF短編。自殺を禁止する未来世界で自殺を試みる話と、イメージを冷凍する装置で商売する話を無理につなげた感じ。前半を短く、後半を膨らませれば良かったのでは。アイデアは面白い。「地球強奪計画」は近未来のスパイ冒険物で、未来的な小道具が面白い。未完のままでは惜しい、誰か都筑を書いて完成させて欲しい。おっと“続き”だ。

 長編「翔び去りしものの伝説」、短編「イメージ冷凍業」、未完長編の第1章「地球強奪計画」、インタビュー「SFを創る人々 都筑道夫の巻」、エッセー「わからない、ということ」を収録。  






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