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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2004年05月

『依頼人』, ジョン・グリシャム
『ぼっけえ、きょうてえ』, 岩井志麻子
『青二才の頃』, 清水義範

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『依頼人』 ジョン・グリシャム
小学館文庫 本体:952円(03/01初)、★★★★☆
 弁護士の自殺に遭遇した11歳のマークは、マフィアが殺した上院議員の死体の隠し場所を知らされる。FBIは秘密を明かせと迫るが、そうすればマークと家族はマフィアに狙われることになる。悩んだマークは所持金1ドルで弁護士を依頼するが…。女性弁護士レジーはマーク一家を守りきることが出来るのか。

 新潮文庫で上下巻だったものが、約900ページの分厚い一冊になった。ジョン・グリシャムさんの小説を初めて読むが、出だしからその世界に引きずり込まれた。母のタバコをくすねたマークが、弟に森でタバコの吸い方を教える場面から、弁護士が自殺するために自動車で森の中に入ってくるまで、興味深い場面がスムーズに展開していく。

 恐るべき秘密を知ってしまった少年が、FBIとマフィアに追われるという設定はもちろんドキドキさせられること必至だが、たった1ドルで雇われた女性弁護士がマークの一家のために、誠実に仕事を務める姿に感動させられた。読みながら“多くの人が秘密を知った方が安全ではないのか?”という疑問が去らなかったが、後半になって復讐が恐いと出てきて納得した。歯向かう者に制裁を加えて、見せしめにされる可能性がある訳で、まだ日本はそこまで恐ろしい事態はないな。

 残酷な場面などでハラハラさせるような3流の手は使わずに、きっちりと楽しませてくれた。本の厚さも忘れる良質のエンタテインメントだった。  

『ぼっけえ、きょうてえ』 岩井志麻子
角川ホラー文庫 本体:457円(H14/07初)、★★★★☆
 時は明治、岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客に語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた(ぼっけえ、きょうてえ)。虎列刺の蔓延する岡山県下の村に設置された密告函。密告の真意を確認する弘三は、ある女の虜になっていく(密告函)。日本ホラー小説大賞を受賞した表題作を含むホラー小説4編を収録。山本周五郎賞受賞。

 「ぼっけえ、きょうてえ」は、女郎が語る壮絶な身の上話。凄すぎて嘘っぽいが、話が進むに連れ、語りの中に引きずり込まれる感じ。語られる話も恐いが、女郎の存在の不気味さが恐い。ラストはちょっと軽いような気がする。

 「密告函」も明治時代の岡山の話。語りが方言じゃないので読みやすいけれど、恐さも半減。でも、虎列刺と書かれた病名(コレラと読む)や村自体に不気味な雰囲気があり、効果を上げている。

 「あまぞわい」は、その名の付いた岩礁の由来が語られる。これも岡山に関係する話。漁村に嫁いだ女の悲しい結末を描いている。

 「依って件の如し」では、日清戦争の頃の岡山、村人から家畜のように扱われる幼い兄妹を描く。これも悲惨な話だけど、彼らを普通に扱ってくれた竹爺と竹婆の存在がわずかな救いとなっている。


 中絶とか近親相姦などタブーを描きながらも文学的な品があり、凄い作品だと感じたが、エンターテイメント的な展開がなく面白くはなかった。「依って件の如し」が一番ストーリー性があったが、利吉に感情移入できる訳もなく、彼が何を成し遂げようともカタルシスはない。ホラーは余り好きじゃあないってことも影響してるかも。  

『青二才の頃 回想の'70年代』 清水義範
講談社文庫 本体:552円(03/05初)、★★★☆☆
 大阪万博で大行列し、よど号ハイジャックに腰を抜かし、浅間山荘事件に釘付けになった'70年代。ホットパンツ、ジーンズ、スプーン曲げ、長嶋引退、ピンク・レディーなど。著者が東京でファッション情報誌の仕事をしながら、作家を目指していた時代。著者自身の青春と共に70年代を回想するエッセイ。

 1970年代の事件や風俗をその頃の著者の状況と共に回想したエッセイ。研究家でもない著者が、何でこんな本を書いたのかと思ったら、「週刊現代」の連載エッセイ「あの頃ボクも若かった」を改題したものだった。読者と同世代の作家が、読者と共に青春の時代を懐かしむという企画なんだろうなあ。

 70年から年を移しながら、ファッション、ヒット曲、事件、風俗などの話題が語られていく。70年代というのは、私が小・中・高校生の時の話だから十分に懐かしい。著者が半村良さんに就職を世話になったり、ファッション情報誌の仕事をしていた話など、既に知っている事も多かったが、タレント本のゴーストライターなど、初めて知った話もあって楽しめた。

 その頃の著者の仕事の関係でファッションの話題が少し多いけど、流行がはっきりしていた時代だと思うので、ちょうど良いかも知れない。著者が『昭和御前試合』で本格的な作家デビューを果たすまでの紆余屈折の期間として、ファンとしては興味深かった。清水ファンじゃなくても、70年代を楽しく懐かしんでみたい(または、知りたい)という人には絶好の一冊かも。  






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