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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2004年03月

『マニアックス』, 山口雅也
『ペトロシアンの方程式 上・下』, ビル・ネイピア
『オーデュボンの祈り』, 伊坂幸太郎
『私が捜した少年』, 二階堂黎人

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『マニアックス』 山口雅也
講談社文庫 本体:648円(03/05初)、★★★★☆
 孤島で独り、漂着物を収集する女性。取材に訪れた記者があばく彼女の正体と過去の出来事とは?(「孤独の島の島」)、パルプ・マガジンが大好きな少年。彼が目撃した異星人による殺人事件の真相は?(「次号につづく」)など、物にとりつかれたマニアックな人々を題材にした短編集。

 《LINER NOTE》も付いいて『ミステリーズ 《完全版》』(講談社文庫)の姉妹編的な短編集。『ミステリーズ』よりホラー的な作品が集まっているそうだ。


 「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」は、毎年さえないクリスマスを過ごしてきたモルグ氏が、幸運に恵まれ恋人と過ごすクリスマスを迎える話。次から次へと事態が悪化していく様子がおかしい。

 「女優志願」は、ジュディは美しくはないが歌や踊りには自信があった。映画界にトーキーの時代が来て自分にもチャンスがあると思った彼女だったが……という話。藤子不二雄Aさんの『笑ゥせぇるすまん』みたいな展開で、不気味な味わいが良かった。

 「割れた卵のような」は、団地で頻発する幼児の墜落事故、流浪の民パジェル人の子隠しの謎、度外れて身体の大きな子供のいる一家。これらを結び付ける恐ろしい秘密が解明される話。アイデアが面白いし、意外な出来事を結びつける展開が見事。実は、かなり早い時点で話が分かったけど面白かった。


 どろどろしたマニアの世界を描いた物かと思ったら、マニアが登場する普通のミステリやホラーといった感じで、意外とあっさりとしていた。「エド・ウッドの主題による変奏曲」とか「人形の館の館」のようなメタフィクション的な作品も結構好きなので良かった。「孤独の島の島」「モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ」「《次号につづく》」「女優志願」「エド・ウッドの主題による変奏曲」「割れた卵のような」「人形の館の館」の6編を収録している。  

『ペトロシアンの方程式 上・下』 ビル・ネイピア
新潮文庫 本体:629円・590円(H16/01)、★★★☆☆
 気象学者フィンドホーンはある企業の依頼で、極北の氷山に取り残された科学調査チームの救出に向かった。そこでは50年前に墜落して氷に埋まった小型機から、マンハッタン計画に参加した物理学者の日記が掘り出された。様々な謎の数式や図形の記されたこの日記を奪取しようとフィンドホーンに魔の手が伸びる。

 処女作『天空の劫罰』(新潮文庫)がA・C・クラークさんに絶賛されたと言うビル・ネイピアさんの2作目。氷山の中から発見された50年前の核物理学者・ペトロシアンの日記を巡って、複数の組織がそれを所有するフィンドホーンの命を狙う冒険サスペンス物。

 50年前の科学者が、大発見をしていたという設定や、掘り出された日記から秘密を解明しようとする過程には魅力を感じるが、どうにも小説がヘタな気がする。主人公が仕事を引き受けた理由や、日記を預かる事になった経過、日記を守ろうとする気持ちなどが十分に説明されず、主人公の気持ちに入れないまま話が進む。

 全編に渡って説明不足のまま話を進めている部分が多く、主人公たちの行動にも、敵側の行動にも疑問を感じる点がある。歴史と交錯し各地を飛び回る、サービス精神の豊富な展開には好感が持てる。SFの魅力を持った冒険小説の書き手として、今後も注目していきたい。  

『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎
新潮文庫 本体:629円(H15/12初、H15/12,2刷)、★★★★☆
 コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。その荻島は江戸時代以来外界から遮断されており、妙な人間ばかりが住んでいた。嘘しか言わない画家、殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?

 新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した著者のデビュー作。事件に対してそれ程のこだわりを見せずに話が進んでいき、島内を巡り住人と知り合っていく様子は一般小説のような感じ。カカシの優午との哲学的な会話や個性的なキャラクターたちの存在は『不思議の国のアリス』を思わせる。

 カカシの優午の死をきっかけに次々と事件が起こっていく後半は、主人公もそれらしい活躍を見せて、ミステリらしいラストを向かえる。淡々とした前半にも、多くの伏線が張られていて、やっぱりミステリだったのかと思わせるが、この作品の魅力はそこではなくて、その一風変わった世界観だろう。

 奇抜さだけを求めたような登場人物たちが、読み進みにつれてその豊かな人間性に親しみを感じるようになっていく。そして、小説全体に込められた著者の想いに心が暖かくなる。この雰囲気は、著者の作品共通のものらしいので、他の作品も読んでみたいと思った。SF小説では北野勇作さんの作品に近い味わいを感じる。  

『私が捜した少年』 二階堂黎人
講談社文庫 本体:590円(00/07初)、★★★☆☆
 渋柿信介、独身。ライセンスを持たない私立探偵。日常のしがらみに追われながらも、鋭敏な頭脳と大胆な行動力とで、次々に舞い込む事件を解決へと導く。友人の弟が失踪し、行方を追った渋柿は、無関係な殺人事件の謎も解いてしまう表題作ほか、幼稚園に通う5歳のシンちゃんが探偵として活躍するハードボイルド・ミステリ連作集。

 第2短編集の『クロへの長い道』(講談社文庫)が面白かったので捜していた一冊。幼稚園児の渋柿信介が、身近な事件を解決したり、刑事のパパにヒントを与えて殺人事件を解決するシリーズ。幼稚園児の身辺がハードボイルド・タッチで描写されるのが、楽しい味わいとなっている。

 「アリバイのア」では、不動産業者が殺され、ある漫画家が容疑者に…。シンちゃんのパパ・ケン一がママ・ルル子に語る話からシンちゃんが犯人のアリバイを崩す。「キリタンポ村から消えた男」では、ヤクザが殺され犯人と思われる男を追って、渋柿一家がキリタンポ村へ向かう。「センチメンタル・ハートブレイク」では、テレビ局に務める女性が殺され、テレビに出演することになったシンちゃんは、テレビ局で事件解決の糸口をつかむ。

 幼稚園児がハードボイルドで語るところが面白く、報酬の《ビックリマンチョコ》とかCA(チョコレート自主治療協会)などの世界観も新鮮だった。ミステリの謎解きもしっかりしている。前は気が付かなかったが、各タイトルは名作ミステリのもじりになっているようだ。内容は関係ないように思う。

 前半の作品はシンちゃんと事件の間に距離があり過ぎて、ミステリとしては良くても、シンちゃん作品としての魅力に欠ける。シンちゃんの一人称を増やして、事件をもっと身近に描いて欲しい。後半の作品では修正されていっている気がする。

 「私が捜した少年」「アリバイのア」「キリタンポ村から消えた男」「センチメンタル・ハートブレイク」「渋柿とマックスの山」の5編を収録。  






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