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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2004年02月

『あやし』, 宮部みゆき
『導きの星 4 出会いの銀河』, 小川一水
『きみの血を』, シオドア・スタージョン
『りかさん』, 梨木香歩

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『あやし』 宮部みゆき
角川文庫 本体:552円(H15/04初)、★★★★☆
 十四歳の銀次は「大黒屋」に奉公にあがった。「大黒屋」の跡取り藤一郎の縁談がまとまる直後、藤一郎の子供を身ごもった女中が店を出された。銀次は藤一郎から女中のところへ遣いを頼まれが…(居眠り心中)。ある酒屋に伝わる布団部屋の怪奇(布団部屋)など、時代怪奇小説・九編を収録。

 江戸時代の庶民の暮らしに潜んだ恨みつらみ。そこから生まれた怪奇な出来事を哀れみを込めて描いている。宮部さんの時代怪奇小説の中でも、特に欧米ホラー小説の影響が色濃く表れた時代小説集だと、解説の東雅夫さんが書いている。言われてみれば、幾らか欧米ホラーの影響も感じ取れるけど、従来の日本的な恐怖小説の枠組みを大きくはみ出す物でもない。


「安達家の鬼」
義母の座敷には何かが潜んでいた。亡くなった義母が、嫁のわたしに打ち明けた秘密とは…。
前半は笹屋の話で後半は安達家の鬼と話が一転するけれど、どちらの話も良い感じで気に入った。ちょっとだけ『千と千尋の神隠し』に似ている部分もあるかな。

「時雨鬼」
相談に行った桂庵の主人は風邪で寝込んでいた。おかみさんが相手をしてくれたが、その相談は意外な方向へ…。
意外な展開が上手いのと、後を引く終わり方も良かった。おつたにしても、その後どうなったか書かれてないのがある種の救いになっている。

「蜆塚」
小河屋の番頭・松兵衛が死に際に語った六太郎についての話。少しも信じなかった米介だったが…。
これはSF的というか、欧米ホラーの影響の濃い作品で面白かった。こぼれた米で育った蜆が味が良いという話も興味深かった。


 一編一編の出来は悪くはないのだけれど、読んでいて乗れなかったのは時代小説だからだろうか。全部に同じ人物が登場する連作形式にしてくれれば、もっと乗れたかもかも知れない。上に記した3編が個人的に気に入った話。「居眠り心中」「影牢」「布団部屋」「梅の雨降る」「安達家の鬼」「女の首」「時雨鬼」「灰神楽」「蜆塚」の9編を収録。  

『導きの星 4 出会いの銀河』 小川一水
ハルキ文庫 本体:920円(03/11)、★★★★☆
 他に並ぶ知性体もなく宇宙に広大な文明圏を築いた人類。しかし、2つの地球外知性体が宇宙航法を入手したことで戦乱期を迎えた。目的人格に率いられたセントールの武力行使に地球勢力は退去を余儀なくされ、司が導くオセアノにも戦火が迫る。異星文明間の争いの中で、超地球知性体の存在が明らかになって……。ハートフル文明育成SF完結編。

 惑星オセアノの文明の発達を見守る話から変化して、完結編のこの巻では、地球外知性体による星間戦争の話に突入する。目的人格に率いられたセントールが宇宙航法を入手して人類に宣戦布告。司たちが導くオセアノも宇宙進出を果たした矢先に、セントールの攻撃にさらされる。

 これまでの路線に魅力を感じていた私としては、この当たりの話は余り面白くはなかったが、この後の展開には読み応えを感じた。これまでの伏線を上手く使って、壮大な物語を見事にまとめている。不安と期待が半々だった完結編だったが、色々な意味で満足させられた。文明に対する考察には感心したし、壮大な歴史と広大な宇宙を十分に感じさせる。遥かな高みにある異生物の思考を難解になる事なく描いていて、SFとしても高いレベルの作品となった。

 まだ、著者の作品はこのシリーズしか読んでいないが、他の作品も早く読んでみたいと思っている。  

『きみの血を』 シオドア・スタージョン
ハヤカワ文庫NV 本体:580円(03/01初)、★★★★☆
 ある米軍駐屯地の精神科医が、文面があまりに異常だと思われる手紙の差出人の兵士を訊問した。兵士のジョージは、手紙の内容を問いただされると態度を急変させ、コップを握り潰して少佐に飛びかかろうとした。そして、傷ついた自分の手から流れる血を見るや、それを吸いはじめた。彼の異常な行動の意味するものは…。

 最近、続けて単行本が出て、ブームと言っても良いような状態になっているシオドア・スタージョンさんの吸血鬼小説。幾つかの書簡の後、少佐の前で異常な行動を示したジョージの手記が本書の半分を費やしている。不幸な少年時代ではあっても、別にホラーでもSFでもない手記だが、後半の精神分析によってその内容が覆されていく。

 ジョージ・スミスの正体が一般的なホラーの吸血鬼かと言えば、全然そんな風には描かれてはいない。ごく普通の人間が、どのようなトラウマによって“血”に対して特別な感情を抱くようになるかを解き明かしていく。ある意味で普通小説と言っていいような地味な作品なのだが、本書の後半で彼について理解が深まっていく過程がやたらに面白く、胸を打つラストが切なくて感動的だった。  

『りかさん』 梨木香歩
新潮文庫 本体:476円(H15/07初)、★★★★☆
 リカちゃん人形が欲しいと言ったようこに、おばあちゃんが贈ったのは“りか”という名の市松人形。おばあちゃんと暮らしてきたりかさんは、人と心を通わせる術を持っていた。ようこはりかさんに導かれ、古い人形のかつての持ち主のたちの思いに触れる…。成長したようこと仲間たちの共同生活を描いた「ミケルの庭」を併緑。

 ようこのがっかりした光景からはじまって心配していると、りかさんの持つ不思議な力によって、ようこの気持ちが落ち着いて好ましい方向に展開していく。りかさんの不思議な力を素直に認めさせてしまう描き方が上手い。マンガ家の高野文子さんの作品に共通する物を感じた。

 著者は日本児童文学者協会新人賞や児童文学ファンタジー大賞などを受賞しているから、これも児童文学なのだろう。とは言っても、人形に関する知識や細部にまで配慮された設定など少しの手抜きもなく、人形に込めた様々な思いや、家庭の事情など、子供には理解出来ないかも知れないと感じる部分もある。大人にも楽しむことの出来る作品で、読んでいて気持ちが優しくなってくる部分もあれば、心に痛みを感じさせられる部分もあった。


 蓉子(ようこ)と仲間たちの共同生活を描いた「ミケルの庭」は、仲間と育てているミケルという名の赤ん坊に危機が訪れる話。紀久とミケルの視点から語られており、蓉子は脇役だが、「りかさん」の話を踏まえて読むと違った味わいが加わる。  






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