読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2003年06月

『クラミネ』, 児玉真澄
『動機』, 横山秀夫
『導きの星 3 災いの空』, 小川一水
『ダークホルムの闇の君』, ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『クラミネ』 児玉真澄
トクマ・ノベルズ 本体:1000円(03/05初)、★★★★☆
 人気のゲーム・クリエイター田辺は、バリ島での婚前旅行中に不可解な体験をする。そして、ゲーム開発部の人間が発売前のゲームとまったく同じ方法で殺害され、急遽帰国することに…。事件は連続的な猟奇殺人事件へと発展し、彼は事件現場で殺人鬼の記憶に触れる。書下ろし長編ホラー。

 ゲーム・デザイナー、ゲームをまねた殺人、猟奇殺人鬼、サイコメトリー、プロファイリングなど、流行の素材をふんだんに盛り込んだエンターテインメント。楽しませることを優先してリアリティが少し犠牲になっている感じ。ヤングアダルトとかライトノベルといった青少年向けの小説に近い。

 多くの素材を詰め込みながら、その負担を感じさせずスラスラ読めてしまうけれど、同じ手口の殺人が続いたり、捜査に進展がないなど、前半は平坦で物足りない感じがする。後半ぐらいから、犯人らしい人物が浮かんだり、犯行動機につながる証拠が出たりと、スピーディな展開を見せ断然面白くなった。

 ラストはこういう結末を5割方予想していたので意外ではなかったが、難しい話をまとめ上げた事に構成力の高さを感じた。前半の問題点もこういう話なら、ある程度仕方ないと思う。本来はストレートに楽しめる作品を書くタイプだと思うので、次作ではひねらない作品を読みたい。ホラーとしては残酷描写も抑えめなので、一般の人にも読みやすいと思う。  

『動機』 横山秀夫
文春文庫 本体:476円(02/11初、03/01,6刷)、★★★★★
 署内で一括保管される30冊の警察手帳が紛失した。犯人は内部のものなのか? 日本推理作家協会賞受賞の表題作ほか、女子高生殺しの前科者が殺人依頼電話に苦悩する「逆転の夏」。公判中の居眠りで失脚する裁判官を描いた「密室の人」など4短編を収録。


「動機」
署内で一括保管される30冊の警察手帳が紛失した。一括保管を起案した貝瀬は、記者発表までに事件を解決しようとするが…。
手帳の一括管理、刑務部と刑事部との対立。事件が本業でない警務部の貝瀬が捜査に乗り出すところが面白い。事件の真相も意外で、解決も良かった。

「逆転の夏」
まじめに働く山本だったが、女子高生殺しの前科を持っていた。山本の元に匿名で殺人依頼の電話がかかる。断っても金が振り込まれ、話を聞くうちに…。
過去の女子高生殺し、会社でのいざこざ、匿名の殺人依頼、妻への仕送り、振り込まれる金、保護司への疑惑、短い話に色々な事柄が絡んできて、それがひとつの方向に話を進めていく…。必然性のある展開が上手いと思う。

「ネタ元」
県民新聞が記事のトラブルでシェア低下。各社の購読者獲得争いが激化した。県民新聞の女性記者・真知子は主婦殺しの事件の特ダネを狙っていた。
購読者獲得争いに疲弊する記者たち。真知子に特ダネを提供してくれたネタ元の意外な真意が明らかになる。全国紙に対する地方紙、男性中心の職場での女性、弱者のもがく姿が描かれている。テーマとエンタテインメントのバランスが良い。

「密室の人」
任官して22年の裁判官・安斎が公判中に居眠りをしてしまった。所長の命令で記事を抑えに向かうが…。
居眠りの話から想像もしなかった展開を向かえる。必要な伏線がきちんとあって納得できる。興味を引きそうなネタを捕らえるのが上手い。


 『陰の季節』(文春文庫)に続く第2作品集ということだが、本書を先に読んでしまった。記者のネタ提供者の話や居眠りした裁判官の話など、一風変わったミステリが並ぶ。それぞれの短編の感想にも書いたけど、興味を引きそうなネタを、必然性のある展開で描いている。テーマとエンタテインメントのバランスが良く、楽しく読んで何か心に残してくれる。こうなると、多少のキズがあっても気にならない。  

『導きの星 3 災いの空』 小川一水
ハルキ文庫 本体:860円(03/02初)、★★★★☆
 外文明観察官・辻本司と3名の目的人格の見守る惑星オセアノ。オセアノは遂に産業革命を向かえ、天才発明家の登場により大空への挑戦を開始した。2つの種族の対立が続く中、司は干渉を禁じる支援省の方針に反する決断をする。一方、地球政府は「超地球知性体」の存在の証拠を入手する……。文明育成SF第3弾。

 存在を知られる事なく、惑星の文明の発展を見守る外文明観察官。狩猟採集時代から始まって、遂に第6章「航空時代の幕開け」、第8章「原子力と国際紛争」まで来た(7章は別の話が語られる)。メインとしてオセアノの発達があり、背景として統一国連と星間流通企業の対立などが描かれている。沈美娟と司の関係、司が外文明観察官になった経緯などが明らかになる。

 人類よりも高所に対する恐怖が強いオセアノの知的種族が大空を目指す姿に感動する。航空力学に関して良く勉強して描いている。別の惑星の文明を見守っていくという話が魅力的で面白く読んできたのだが、背景の設定が明らかになるにつれ、それまでの支援行動の純粋さが損なわれてしまった。楽しんできた話に泥を塗られた気がして少し残念だった。ある意味で、ここまでの話を壊してしまっているのだから、それに値する納得できる展開を考えての事と期待する。噂どうり、次でラストだろうか。  

『ダークホルムの闇の君』 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ
創元推理文庫 本体:980円(02/10初)、★★★☆☆
 魔法世界ダークホルムに別世界の巡礼団が来るようになって40年。別世界の事業家チェズニー氏の横暴さに、ダークホルムの住人は困り果てていた。神殿のお告げで巡礼団を廃止する目的で、闇の君に選ばれた魔術師のダーク。彼と妻、一男一女五グリフィンの子供たちを巻き込む騒動の顛末は?

 魔法世界が人間の観光団を受け入れていることや、舞台を設置して冒険を演出して観光団を迎えているのも面白いと思った。巡礼団を迎える闇の君に選ばれたダークが、様々な騒動を起こしながら、家族と共に奮闘するのが描かれている。

 ダークホルムの誰もが巡礼団を廃止にしたいのに、チェズニー氏と魔物を恐れて仕方なく続けているという設定で、ダークの奮闘も何だか虚しい。最終的に巡礼団が廃止に向かうのが予想される中で、準備と巡礼団の出迎えが400ページも続くのは長過ぎる。ダークの子供やグリフィンや動物たちの騒ぎに著者らしさを感じたが、誰が主人公だかも曖昧で中盤の魅力に欠けていた。

 今回の騒動は決着が付いたが、〈ダークホルム二部作〉の開幕編とあり、調べたら8月に続きが出る予定。宮崎駿監督の新作「ハウルの動く城」はダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの原作だ。  






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