タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『アヴァロンの戦塵 上・下』 |
ニーヴン&パーネル&バーンズ |
創元SF文庫 |
本体:680円、720円(98/10初)、★★★★★ |
惑星アヴァロンに植民者160名は、想像を絶する怪物グレンデルによって全滅の危機にさらされた。以来グレンデルを一掃した孤島で暮らしてきたが、本土の無人の採掘所で爆発事故が発生する。かつての惨劇を知らない若者たちが本土進出を主張するが……。『アヴァロンの闇』の続編。
前作から20年、安全にこだわる地球生まれと、グレンデルの恐怖を知らない若い世代が対立する。新種の生物を生け捕ったり、反対を押さえて本土に進出したりと、来るぞ、来るぞというドキドキ感がたまらない。
前作で意外な生物による危機が描かれたが、今回も惑星アヴァロンの未知の危険が待っている。アヴァロン生物の生態はさらに突き詰められ、危険な生物だけでなく、色々な楽しい生物も登場している。前作には残酷で暗いイメージがあったように思うのだが、この続編には暗い感じがほとんどない。
前作の内容を思い出せない状態で読み始めたが、全く問題なく楽しむことが出来た。前作を読んでない人も大丈夫だろう。高尚な作品も多くなったSFにおいて、原点とも言うべき怪物小説なんだけど、異星の生態系の魅力もあって、SFの面白さを満喫できる一作だった。
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『クロへの長い道』 |
二階堂黎人 |
講談社文庫 |
本体:533円(03/02初)、★★★★☆ |
私の名は渋柿。一匹狼の私立探偵。独身で、6歳の、ちょっとシャイな黄色人種。母親や知人たちは、私のことを気安く《シンちゃん》と呼ぶ。ハードボイルドに決めた幼児探偵シンちゃんが、友達のペット探しから、殺人事件まで、難事件を解決していくミステリ連作集。
あきらくんのママの不審な行動を目撃したシンちゃんが、事件解決に協力する「縞模様の宅配便」。イクコちゃんの依頼で、捨てられたクロという犬探しをする「クロへの長い道」。TVのクイズ番組に出演したシンちゃんが、殺人事件に巻き込まれる「カラスの鍵」。イグアナを捜査中のシンちゃんが、公民館で殺人事件に遭遇する「八百屋の死にざま」の4短編を収録している。
シンちゃんは私立探偵でハードボイルドだから、ママをルル子と呼んで、世の中を醒めた目で見ている。まるで「クレヨンしんちゃん」みたいな感じだ。愛称も同じシンちゃんだから、これは偶然ではないだろう。小説の語りでは“ルル子”と呼んでいても、日常生活は“ママ”と言っていて、こっちのシンちゃんの方が可愛げがある。
普通の幼児として会話する場面があれば、ハードボイルドの世界に入って大人ぶった会話するときもあり、スナック菓子が報酬のペット探しの仕事もあれば、本格的な殺人事件や盗難事件に巻き込まれるときもあるといった具合にスタンスが一定でないので、ちょっと戸惑う。『二重カッコ』の会話文が、実際の会話をハードボイルド調に翻訳したものと気づくけば割としっくりした。
ハードボイルドの語りが生意気でいてかわいい。本格ミステリとはいえ、幼児が探偵というミステリなので、その設定にあったトリックなので気軽に楽しめる。読み終わるまで知らなかったが、『私が捜した少年』(講談社文庫)の続編に当たる短編集。〈シンちゃんシリーズ〉は、河内実加さんによってマンガ化もされている。
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『12皿の特別料理』 |
清水義範 |
角川文庫 |
本体:533円(H11/12初)、★★★★☆ |
インドで夫が交通事故、食材のない現地で妻が作ったおにぎりは…。別れた夫と新婚のころ食べた鱈のプロバンス風、左遷された会社員がストレス発散に作ったそば、夫の浮気に気づいた妻が作った八宝菜。楽しい思い出、苦い記憶、そんな泣き笑いを詰め込んだ12品の料理小説。
12品の料理をテーマにした小説集で、「おにぎり」「ぶり大根」「ドーナツ」……という具合に、それぞれの料理名が各短編のタイトルになっている。
インドで入院した夫の頼みで、食材のない現地でおにぎりを作る「おにぎり」。色々な人の協力で何とかおにぎりが出来上がる。さわやかな感動がある好編。「ぶり大根」では、新婚2か月の日曜、夫が今日はぼくが料理をするという。彼の料理の手際の良さと美味しさに……という話で、現実にありそうなところが面白い。
別れた夫が、好物の料理の作り方を知りたくて電話をしてくる「鱈のプロバンス風」。喜世美の心がちょっと揺れるのが切なく描かれていて良かった。「ドーナツ」「きんぴら」「カレー」は世代や地域による作り方の違いを描いている。家庭で作るドーナツを懐かしく思い出した。きんぴらの地域による違いは知らなかった。4種類のカレーの違いは何となく分かるかな。
小説としての面白さに加えて、その料理に関する薀蓄やレシピを楽しく紹介していることが大きな魅力。小説4にレシピ6ぐらいの感じかな。清水義範さんは他の短編集でもエッセイと小説の中間のような物を書いているので、珍しくはないんだけど。
「おにぎり」「ぶり大根」「ドーナツ」「鱈のプロバンス風」「きんぴら」「鯛素麺」「チキンの魔女風」「カレー」「パエーリヤ」「そば」「八宝菜」「ぬか漬け」の12品。
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『ワトスン君、これは事件だ!』 |
コリン・ブルース |
角川文庫 |
本体:705円(H13/12初)、★★★★☆ |
厳重な警備下にある王室の列車で起きた殺人事件、冷たい海底で熱射病で死んだダイバー、帝王切開で生まれた双子の遺産相続問題……我らが名探偵・シャーロック・ホームズが、ベイカー街で起こる不可解で矛盾に満ちた事件の数々を、近代物理学の法則を駆使して解き明かす連作ミステリ。
コナン・ドイルさんのホームズ物のパステーシュという形で、科学を分かりやすく解説している。著者のコリン・ブルースさんはイギリスの物理学者でサイエンスライターとしても活躍しているそうだ。謎が持ち込まれ、それを解決するというミステリになっている。古典物理学に関連した事件はともかく、相対性理論や量子論などに関連した話はかなり無理をしている感じだけど、止むを得ない事だと思う。様々なシュチエーションや登場人物のやりとりを工夫して、小説として楽しめる水準にはなっている。
ホームズの時代に未発見の理論が、登場人物たちの発見の形で語られる。「特殊相対性理論はアインシュタインが1905年に発表した」とは説明されないのだ。そういった教科書的な知識のみが正しいとは言わないが、このフィクション部分を真に受けてしまった人がいたら気の毒だと思う。ちなみに、ブラウン運動から分子の大きさを計算出来るとしたのもアインシュタインさん。
ホームズにワトスン、マイクロフト(ホームズの兄)だけでなく、コナン・ドイルさんのSF小説の登場人物であるチャレンジャー教授やサマリー教授が出てくるサービスぶりがSFファンには嬉しい。ある一編は、今年最初に読んだ『ソリトン 非線形のふしぎ』(岩波書店)の中で初めて知った現象を使っていた。『ワトスン君、もっと科学に心を開きたまえ』(角川書店)を改題して文庫化したもの。『またまただまされたな、ワトスン君!』(角川書店)という続編がある。
「科学好きの貴族」「失われたエネルギー」「原子論を知らなかった医者」「実験を妨害された科学者」「飛ぶ弾丸」「相対的嫉妬をめぐる三つの事件」「迅速至上主義の実業家」「活動的なアナーキスト」「不忠義者の召使い」「誰もいなかった海岸」「ハドスン夫人の猫」「失われた世界」の12編を収録。
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