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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2003年04月

『ホラーを書く!』, 東 雅夫
『アトランティスのこころ 上・下』, スティーヴン・キング
『春信殺人事件』, 高橋克彦
『夜の記憶』, トマス・H・クック

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ホラーを書く!』 インタビュー:東 雅夫
小学館文庫 本体:657円(02/07初)、★★★★☆
 あのホラーを書いたのはどんな人? どんな考えで創作しているのだろう? ホラーに対するこだわりは? どんな作品に影響を受けたのだろう? ホラー評論家・東雅夫が10人の人気ホラー作家にインタビューした。

 インタビューされているのは、朝松健さん、飯田譲治さん、井上雅彦さん、小野不由美さん、菊地秀行さん、小池真理子さん、篠田節子さん、瀬名秀明さん、皆川博子さん、森真沙子さんの総勢10名のホラー作家。

 ホラー、モダンホラー、怪奇、幻想、伝奇など、それぞれの作家のジャンルへのこだわりが伝わってくる。ジャンルへのこだわりは、SFとかミステリでもあると思うし、場合によっては、それが嫌われる事もある。ホラーが専門ではなく、ジャンルにこだわっていないという人もいる。

 ホラーというジャンルが確立したのも最近の事らしく、ここに出てきた人たちの作品がホラーというジャンルを築いてきたことが読み取れる。インタビューを通じて、作家の作品、ジャンルへの姿勢が分かると同時に、本全体で日本のホラーの歴史までもが分かってくる。千街晶之さんのインタビュー集『ミステリを書く!』(小学館文庫)と共に楽しく貴重なインタビュー集だと思う。

 1999年にビレッジセンターより刊行された本の文庫化で、文庫化に際して各作家のプロフィールなど最新のものに修正されている。  

『アトランティスのこころ 上・下』 スティーヴン・キング
新潮文庫 本体:781円、819円(H14/05初)、★★★★☆
 1960年、11歳のボビーとキャロル、サリー・ジョンは仲良し3人組だった。ボビーは同じアパートに越して来た不思議な老人と親しくなっていく…。1966年、ギャンブルと学生運動の大学時代が幕を開け、ピートはキャロルに出会う。1983年、1999年、それぞれの人生が絡み合いながら、感動のクライマックスへと向かっていく。

 「1960年 黄色いコートの下衆男たち」「1966年 アトランティスのハーツ」「1983年 盲のウィリー」「1999年 なぜぼくらはヴェトナムにいるのか」「1999年 天国のような夜が降ってくる」の5編から成る。

 上巻全部が「黄色いコートの下衆男たち」で、60年代の田舎町を舞台に少年たちを描いているところが、キングの「スタンド・バイ・ミー」やマキャモンの『少年時代』を彷彿させる。両作品とも大好きな作品だが、不思議な老人とのふれあいや母親との葛藤、初恋などが描かれたこの話も良かった。

 下巻は、ヴェトナム戦争下の大学生活を描いた「アトランティスのハーツ」、奇妙な二重生活をする男の話「盲のウィリー」、サリー・ジョンのその後を描いた「なぜぼくらはヴェトナムにいるのか」と続き、「天国のような夜が降ってくる」で彼らの物語をしめくくる。「黄色いコート…」に登場したキャロル、サリー・ジョン、ウィリーらのその後が各作品に描かれている。下巻のどの話にも“ヴェトナム戦争”が大きな影を落としていて、その事について詳しかったら、著者の伝えたい事がもっと良く理解できただろうと思う。  

『春信殺人事件』 高橋克彦
講談社文庫 本体:533円(H14/05初)、★★★☆☆
 歌麿・清長とともに江戸の三大美人絵師として名高い・鈴木春信。彼の希少な肉筆画が発見され、七億円で落札された。その作品から決定的な贋作の証拠が見つかり、肉筆画と共に関係者が行方をくらました。浮世絵専門の捜し屋・仙堂耿介が、蒸発した男を捜す依頼を受ける。

 浮世絵を主題にしたミステリではあるが、浮世絵ミステリ3部作(『写楽殺人事件』『北斎殺人事件』『広重殺人事件』)と呼ばれるシリーズとは別のもの。それでも3部作の登場人物である塔馬双太郎も出てくる。

 3部作が歴史的な浮世絵師の謎を大きなテーマにしていたのに対して、この話は、捜し屋・仙堂耿介が事件の謎を追っていく過程が大きい。ラストでは春信に関する新説が示されるが、3部作ほどの驚きは感じられない。

 ミステリ的には大勢が整っているのだが、耿介の事件に対するかかわり方に問題があるのか今ひとつ乗りが悪い。雇われて金のためだけに仕事している感じが問題なのだろうか。ミステリの題材として浮世絵世界を描くのではなく、その世界の魅力が感じられるような作品であって欲しかった。  

『夜の記憶』 トマス・H・クック
文春文庫 本体:619円(00/05初)、★★★★★
 ミステリー作家ポール・グレーヴズは、50年前の少女殺害事件の謎解きを依頼される。彼は少年の頃、事故で両親をなくし、その直後、目の前で姉を惨殺されていた。事件の記録を読み、関係者の話を聞くうちに、姉の忌まわしい事件の記憶が彼を苦しめる。語られなかった事件の秘密とは……。

 姉を目の前で殺されるという過去を持つミステリ作家が主人公。その事件が彼の実生活にも、創作にも深い影響を及ぼしている。相当に重い設定なのだが、リヴァーウッドの50年前の事件の謎と、彼の事件の秘された部分とが興味を掻き立てる。特に、リヴァーウッドの事件は、真実でなくても納得できる物語が欲しいという依頼が面白い。

 リヴァーウッドの事件の記録を読み、生きている関係者から話を聞いて、過去の事件を想像していく。ポールの小説中の犯罪者と刑事が、その想像の中に頻繁に現れる。姉の事件とその影響下にある彼の創作が、何の関係もない依頼された事件が、彼の中で密接に結びついていく。誰がケスラー(犯罪者)で誰がスロヴァック(刑事)で誰がサイクス(ケスラーの手先)なのか?

 忌まわしい事件とその記憶による苦しみを描きながら、その重さを感じさせない面白いミステリに仕上がっている。過去の事件に捕らわれて、もがき続けているミステリ作家を見事に描き出している。ラストに待っている真相にも驚かされた。『緋色の記憶』『死の記憶』『夏草の記憶』『夜の記憶』と続いた記憶シリーズの中でも一番の出来だと思う。  






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