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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2003年03月

『ホスト 上・下』, ピーター・ジェイムズ
『導きの星 1 目覚めの大地』, 小川一水
『導きの星 2 争いの地平』, 小川一水
『毒笑小説』, 東野圭吾
『さみしさの周波数』, 乙 一
『エンダーの子どもたち 上・下』, オースン・スコット・カード

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ホスト 上・下』 ピーター・ジェイムズ
角川文庫 本体:各1000円(H11/08初)、★★★★☆
 ジョー・メッセンジャー教授は不死の実現を目指していた。記憶をデータ化しダウンロードする研究のかたわら、父の手がけた人体の冷凍保存と蘇生の研究にも協力していた。記憶のデータ化に成功したという女性が現れ、彼の元で研究をしたいという。彼女は後半年の命で、彼の研究に最後の希望を抱いていた。

 人体の冷凍保存と記憶のデータ化をテーマにした近未来的なホラー小説。“S・キング、M・クライトンに対するイギリスの答え”と言われるだけあって、前半は近未来のテクノロジー物、後半はホラーとして、興味が途切れる事なく話が展開していき十分に面白かった。

 前半は文句なく楽しめたが、後半は主人公周辺で事故が繰り返されるだけで、エスカレートしていく凄みに欠けた。謎のメッセージや、嫌がらせの電話など、悪霊と同じような典型的なホラーの形式で襲ってくるところに違和感を感じた。

 さらっと流している部分だが、意識に関して気になる部分があった。霊魂を信じるタイプなのだろうか。ラストに主人公の気持が変わってしまうのもその影響か。エピローグが良かったので救われたが……。  

『導きの星 1 目覚めの大地』 小川一水
ハルキ文庫 本体:800(02/01初)、★★★★☆
 企業と統一国連の宇宙開発で、銀河に数多くの異星人が発見された。彼らの文明は例外なく人類より遅れており、存在を知られずに彼らを支援する〈外文明支援省〉が設立された。惑星オセアノに派遣された若き外文明観察員・辻本司と三人の美少女アンドロイドがオセアノの発展のために健闘する。

 若き外文明観察員・辻本司が、バーニー、コレクタ、アルミティという美少女の姿をした3人の目的人格(パーパソイド)に足を引っ張られたり、助けられたりしながら、何とか任務を果たしていく。無茶な設定も違和感なく読ましてしまうけど、各話はしっかりとした背景設定で描かれていて好感が持てる。

 歴史の要所要所で秘密の介入を行い、残りの期間は年を取らない“減刻睡眠”ですっ飛ばすという連作短編集的な構成を取っている。一話だけ見れば、異星の文明を描いた普通にあるSFだけど、連作を通じて読むと何世代にもまたがる壮大な歴史物語になっている。

 本書には「狩猟採集時代」「金属器勃興時代」「貿易航海時代」の3話が収録されていて、製錬や帆船、航海術などについて良く調べて、その知識を上手に作品に生かしている。最後の話では敵対する派閥の乱入と三人のアンドロイドに秘密があることが示唆され、今後の巻では、外文明支援省や星間企業などの問題も話に上がってくるようだ。

 ヤングアダルトという分野で優れた書き手が数多く育っており、SFが充実した時代を迎えていることを実感した一作だった。  

『導きの星 2 争いの地平』 小川一水
ハルキ文庫 本体:780円(02/07初)、★★★★☆
 惑星オセアノは、列島の黒皮族(スワリス)と大陸の白猛族(ヒキュリジ)との際限のない争いに陥っていた。〈外文明観察員〉辻本司は、戦争を止めるため目的人格の三人のアンドロイドと再介入を試みる。異星の文明の発展を見守る〈外文明観察員〉の奮闘を描くシリーズ第2弾。

 今回は「宗教発生の時代」と「近代科学勃興」の2編で、天体観測が行われる第5章があるので、前巻以上にローバート・J・ソウヤーさんの『占星師アフサンの遠見鏡』(ハヤカワ文庫SF)の影響を強く感じた。異星人と進化した恐竜という違いはあるけど、他の種族の歴史を人類史に重ねて描いているところや、人間との習性の違いを慣用句に使って雰囲気を出しているところなど良く似ていると思う。

 前巻からの流れで、裏で統一国連の政策や星間流通機構の策略などが進んでいて、この巻でも色々な事が明らかになる。この方面での展開が楽しみでもあるが、裏の話がなければ、アセアノの歴史の正常化という本来の話が、失敗が許されない重要な物となり、もっと面白く読めただろう。

 最近になって3巻が刊行されたが、4巻で完結という情報をどこかで読んだ。少し文句も付けたが、全てに渡って良く考えられた完成度の高い作品なので、残りの2巻でどんな完結に導かれるのか楽しみにしている。  

『毒笑小説』 東野圭吾
集英社文庫 本体:600円(99/02初)、★★★★☆
 塾にお稽古に家庭教師と忙しい孫にゆっくり会いたいお祖父さん。麻雀仲間の爺さんたちが考えた妙案とは?(「誘拐天国」) 月に一度の富岡夫人のティーパーティ。手作りのお菓子の味は?(「手作りマダム」) 男が始めたピアノレッスンの理由とは?(「つぐない」)など、ブラックなお笑いを集めた短編集第2弾。


「誘拐天国」
塾にお稽古に家庭教師と忙しい孫にゆっくり会いたいお祖父さん。麻雀仲間の爺さんたちが考えた妙案とは?
前作に比べると素直に笑えない作品が多いなか、痛快なのがこの作品。大富豪の爺さんたちの桁外れな誘拐は、筒井康隆さんの『富豪刑事』を思い出させる。

「エンジェル」
南太平洋の小島で見つかったエンジェルそっくりの生物。世界中でたちまち人気のペットになるが、やがて驚くべき生態が明らかになって…。
完全にSFといって良い作品。新生物エンジェルに、人類が振りまわされる話だと思っていたら、ラストで視点の転換を迫られる。人間の身勝手さが描かれていたとは…。

「つぐない」
無趣味で仕事一筋の男が、突如始めたピアノのレッスン。家族に白い目で見られながら、必死の練習を続ける理由とは…。
意外な理由に新鮮な感動をうけた。ネタバレしそうだが、その理由は著者の名作にちょっと似ているとだけ書いておこう。

「誘拐電話網」
「子供を誘拐した、親に代わって金を出せ」と言う脅迫電話が俺の元にかかって来た。警察に連絡しようか…。思案の末に俺はある決断をした。
似た作品がありそうな感じだけど、脅迫電話に対応する緊迫感が良く出ていて面白かった。この男が調子乗っちゃうところも良い。


 前作が全くミステリを感じさせる作品が無かったのに対して、今度は、誘拐、警察、泥棒、殺意、殺人、推理など、半数以上の作品に何らかのミステリ的な要素が盛り込まれている。今回の方が著者として無理のない作品なのではないかと思う。

 「誘拐天国」「エンジェル」「手作りマダム」「マニュアル警察」「ホームアローンじいさん」「花婿人形」「女流作家」「殺意取扱説明書」「つぐない」「栄光の証言」「本格推理関連グッズ鑑定ショー」「誘拐電話網」の12編を収録。著者と京極夏彦さんとの対談が付いている。  

『さみしさの周波数』 乙 一
角川スニーカー文庫 本体:457円(H15/01初)、★★★★☆
 いつか結婚すると予言された小学生の二人。以来、彼女と眼を合わせることもできない。時が過ぎ、定職もなくアルバイトで暮らす僕だったが…「未来予報」。金を盗むために、旅館の壁に穴を開けた男。手を入れてとんでもないもの掴んでしまう「手を握る泥棒の物語」など、4編収録の短編集。

 「未来予報 あした、晴れればいい。」は、小学生のときに結婚すると予言されて、目も合わせられなくなってしまった男女の話。すれ違いながらも、通じるものがあって救われている。予言をする少年が面白い存在。

 「手を握る泥棒の物語」は、旅館の壁の穴からお金を盗もうとした男が、少女の手を握ってしまう話。全体的には想像が付いてしまう話だが、二人のやりとりに意外な展開があって面白かった。

 「フィルムの中の少女」は、古い8ミリフィルムに写った少女の幽霊のてん末。ホラーとミステリが合わさった作品で、欲張りすぎて難しくなってしまった。

 「失はれた物語」は、事故で右腕の感覚以外を失ってしまた男の話。五感を失った男の一人称で書かれているので、情報がほとんど入ってこない。展開の限られる中で、見事に感動的な物語を描いている。こういう話なのに、後味が悪くないところが凄い。  

『エンダーの子どもたち 上・下』 オースン・スコット・カード
ハヤカワ文庫SF(SF1344,1345) 本体:各660円(01/02初)、★★★☆☆
 惑星ルジタニアに蔓延する致死性ウィルス“デスコラーダ”を防ぐため、スターウェイズ議会は粛清艦隊を派遣。超空間ネットワーク“アンシブル”に潜む知性“ジェイン”を抹殺するためアンシブル停止計画が進行していた。ルジタニアの人間、原住種族ペケニーノ、窩巣女王ひきいるバガーたちは、それぞれの形で生き延びる道を探ろうとするが……。

 『エンダーのゲーム』『死者の代弁者』『ゼノサイド』と続いてきたエンダー・シリーズの完結編。『エンダーのゲーム』『死者の代弁者』が独立して読めるのに対し、本書は『ゼノサイド』の後半に当たる話なので、そっちを先に読んでおいた方が良い。『ゼノサイド』で残された問題が一挙に解決に向かう。

 ある装置の副作用で作られた存在が、エンダーの精気を奪い生存の危機を生み出す。エンダーとその生存が重要テーマとなっている。普通の人間の筈のエンダーに極めて特殊な能力を与えていて違和感を感じる。著者の卓越したストーリーテイラーぶりに、それなりに読まされてしまうが、全体の調和を壊すような荒唐無稽さは歓迎できない。

 どの登場人物も理屈っぽく自己主張が激しいので、好きな登場人物がいない。エンダーですら、老いて魅力が失せてしまった。シリーズ完結という事にしか価値を感じなかった。  






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