読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年11月

『魔術探偵スラクサス』, マーティン・スコット
『イリーガル・エイリアン』, ロバート・J・ソウヤー
『活字狂想曲』, 倉阪鬼一郎
『不安な童話』, 恩田 陸

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『魔術探偵スラクサス』 マーティン・スコット
ハヤカワ文庫FT(FT306) 本体:680円(02/02初)、★★★☆☆
 魔法の国トゥライの探偵・スラクサス。でぶで大食い、大酒飲み、借金だらけで女房には逃げられた。ぼろい仕事と思い、王女の恋文を取り戻しに行ったスラクサスだったが、殺人の容疑者にされ、魔術師や殺し屋に次々と狙われる羽目に……。

 魔法の国を舞台に、探偵スラクサスと相棒の女剣士マクリが活躍するユーモア・ファンタジー。賭博の借金をかかえた大酒飲みのスラクサスは、最低レベルの魔術師。一方マクリは、居酒屋で働きながら、夜間の学校に通い宮廷大学を目指すビキニ姿のすご腕剣士。スラクサスの酒好きにはあきれるし、マクリの生真面目さには泣かされる。不釣合いな二人が息の合った所を見せて活躍する。

 魔術探偵という設定も面白いし、キャラクターにも魅力がある。テンポ良く話も進むが、いまいち物足りない。向こうから事件が転がり込んできて、巻き込まれて都合良く解決してしまう。王室から認められる程の探偵であるはずなのに、それらしい活躍が見られない。二人の能力も上手く生かされていない。スラクサスの魔法が生かされず、剣とか格闘が結構強かったりするから、マクリのすご腕がかすんでしまっている。

 スラクサスとマクリの二人は最高のコンビだし、面白くなりそうな設定なので、シリーズの今後に期待する。林田球さんのマンガ、『ドロヘドロ』(小学館 BIG COMICS IKKI)と設定が似ている。  

『イリーガル・エイリアン』 ロバート・J・ソウヤー
ハヤカワ文庫SF(SF1418) 本体:940円(02/10初)、★★★★☆
 人類は初めてエイリアンと遭遇した。アルファケンタウリのトソク族が地球に飛来したのだ。ファーストコンタクトは順調に進んだが、トソク族の滞在する施設で地球人の惨殺死体が発見された。容疑者としてトソク族の一人が逮捕され裁判にかけられる。

 エイリアンとのファーストコンタクトはテキストどうりといった感じで進む。それでも、ユーモアを交え、楽しく描かれており、魅力あるファーストコンタクトになっている。やがて、彼らの施設に出入りしていた人間が惨殺され、容疑者としてエイリアンの一人が逮捕される。特殊な凶器、エイリアンの血液らしき物質、特有の足跡、直後に脱皮したことが理由だった。

 弁護士が付き、陪審員制度に則った裁判が開かれる。この裁判の進展が本書の大部分を占めている。弁護士をメインに陪審員制の裁判の興味深い部分を丁寧に描いている。裁判の過程でエイリアンの体構造が明らかになったり、トソク族の証言で神に誓った際に、エイリアンの神の概念が分かったりとミステリでありながら、SF的な欲求も満たしている。エイリアンを死刑にするための研究が依頼されたりするのが凄かった。

 かなりの厚さの本だが、分かりやすくて面白くて夢中で読んだ。楽しさだけで評価するなら、SFミステリの傑作かも知れない。最後に意外な真相が明かされるのだが、安易な設定にちょっとがっかりした。ラストからエピローグにかけても読んでいて照れてしまう。ソウヤーさんらしいと言えばそうなのだが……。  

『活字狂想曲』 倉阪鬼一郎
幻冬舎文庫 本体:533円(H14/08初)、★★★☆☆
 16年前、限りなく無職に近い現実不適応者・暗坂が選んだ仕事は、印刷会社での「文字校正」だった。校正者の仕事は性に合っていたが、彼には「会社員」としての生活は耐えがたく、せめてもの発散に同人誌に不満をぶちまけた。9年間にわたるエッセイを改稿して収録。

 校正者の仕事に関連する話題が、期待したほどには多くなく、会社の行事や上司への不満、仕事の出来ない奴への悪態、会社の変人の紹介などが半分以上を占めている。題名からして、校正のノウハウや、苦労話、印象的なミスなどが綴られた本だと思っていたでがっかりした。

 ひとつひとつの話はそれなりに楽しめるのだが、続けて読んでいるうちに嫌なものが積もってくる。共感できない部分には嫌悪を感じてしまうし、共感できるところでも自己を省みて落ち込んだりする。

 他人より自分の方が偉いと思って生活している態度は気持ちの良いものではない。この本の中でバカにされ貶された人の中にも、自分は他人より偉いと思っている人がいるに違いない。そこから這い出て何かを成し遂げなければ、同じ穴のむじなで終わってしまう。現在の作家の視点から書いたものであるなら価値もあるだろうが、同じ穴の中での言葉には重みがない。  

『不安な童話』 恩田 陸
祥伝社文庫 本体:552円(H11/04初、H14/08,5刷)、★★★★☆
 大学教授秘書の古橋万由子は、25年前に変死した画家・高槻倫子の遺作展で強烈な既視感に襲われ失神した。画家の息子・秒に「あなたは母の生まれ変わりです」と告げられ、彼と共に画家の遺書に記された4人の人物を訪ねることにことになるが……。

 表紙には“長編推理小説”と書いてあるが、前半は“生まれ変わり”とか“芸術家の狂気”や“特殊な能力”などホラー小説の雰囲気十分。4人の人物を訪ね歩く後半は、この中に犯人がいるのかと、がぜんミステリらしくなってくる。画家の際立った個性が明らかになってくる中で、主人公がその生まれ変わりとして意識しているのが印象的。ホラーとミステリの融合した独特の雰囲気が良かった。

 泰山先生の変人ぶりは、森博嗣さんの犀川教授が思い出された。この泰山先生、画家の息子の秒、幼なじみの俊太郎という男性キャラクター3人が浮世離れしていて感じが似ているように思う。

 遺書に記された4人の人物を訪ね25年前の事件を探る主人公たちに、放火、脅迫と何者かの妨害が入る。関係者4人は事件にかかわりがあったのか? ラストは設定が複雑になり過ぎていると感じたが、謎はきちんと解決されていて文句はない。ラストが唐突で複雑なことと、俊太郎の存在が生かされていないことから、長い話を切り詰めたのではないかと推測しているのだが……。  






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