読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年10月

『ナヴァロンの要塞』, アリステア・マクリーン
『怪笑小説』, 東野圭吾
『骨 上・下』, ジャン・バーク
『ぼくらは虚空に夜を視る』, 上遠野浩平

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ナヴァロンの要塞』 アリステア・マクリーン
ハヤカワ文庫NV 本体:740円(77/02初、01/10,16刷)、★★★★☆
 ナヴァロン――エーゲ海にそびえ立つ難攻不落のナチスの要塞。1200名の連合軍将兵を救うために、ナヴァロンの巨砲を破壊せよとの特命が下った。世界的登山家のマロリー大尉ら精鋭5人は知力、体力の限りを尽くして不可能に挑む。

 世界的登山家マロリー大尉、その副官アンドレア、登山家で航海士のスティーヴンズ大尉、爆発物の専門家ミラー、機関士兼通信士のブラウンの5人が、不可能とされるナヴァロン島の断崖絶壁に挑む。

 そこまでにも幾つもの難関が待っていて、精鋭ぞろいの一行が極限の状態にまで追い込まれる。それぞれの得意を生かし、仲間を助けて困難を克服していく。絶望的な中でもユーモアを失わず、困難な任務に立ち向かう悲壮感はない。原書が1957年と古い作品で、翻訳も77年だけど、活字が小さい以外には古さを感じさせない。

 主役のマロリーは、エベレストで行方不明になった実在の登山家かと思ったが、調べてみたら名前が違うし、年代もちょっと合わないか……。  

『怪笑小説』 東野圭吾
集英社文庫 本体:495円(98/08初)、★★★★☆
 年金暮らしの老女が芸能人の“おっかけ”にハマる(「おっかけバアさん」)、“UFOの正体はタヌキだ”という説を追求する男の(「超たぬき理論」)、周りの人間が動物に見えてしまう中学生の悲劇(「動物家族」)など、ブラックなお笑い小説集。


「鬱積電車」
「息が臭い…」「席を譲って」「すけべおやじめ」、電車に乗り合わせた人々の鬱積した思いがぶつかり合う。
リアルで面白かった。実際はこんなに憎しみ合っていることは無いと思うけど。オチはちょっと弱いかも知れない。

「逆転同窓会」
珍しくも教師たちの同窓会が毎年開かれていた。今年はこの会に卒業生数人が呼ばれる事になったが……。
教員の世間知らずを痛烈に皮肉っていて愉快。教員に企業などで社会勉強をさせるという話があるが必要だと思う。

「無人島大相撲中継」
相撲博士・徳俵は過去の取組のすべてを完璧に暗記しているという。彼と共に無人島に漂着した十数人を退屈から救ったものは……。
相撲博士の設定も、無人島に漂着する展開も、笑ってしまうしかないバカバカしさ。こういう能天気な話も日常を忘れて楽しめていい。

「あるジーサンに線香を」
まだ研究段階の若返り手術を受けたおじいさんの日記。ダニエル・キースさんの名作『アルジャーノンに花束を』のパロディ。
『アルジャーノン…』を読んだとき、老化して衰えていく人生にも似ていると思った。だから納得のパロディなのだが、ちょっぴり笑わせて元ネタに負けない感動をくれた。


 ミステリ作家・東野圭吾さんのお笑い小説集。ミステリ風な作品はまったくない。上記の4編が好みの作品だった。筒井さんほどの毒はなく物足りない部分もあるけど、奥の深さを感じさせる作品も多く楽しかった。

 「鬱積電車」「おっかけバアさん」「一徹おやじ」「逆転同窓会」「超たぬき理論」「無人島大相撲中継」「しかばね台分譲住宅」「あるジーサンに線香を」「動物家族」の9編を収録。著者自身が一編一編を解説した“あとがき”付き。  

『骨 上・下』 ジャン・バーク
講談社文庫 本体:各629円(02/06初)(02/06初、02/07,2刷)、★★★★☆
 連続女性失踪事件の遺体発掘隊に同行することになった女性記者アイリーン・ケリー。だが山中で待っていたのは、連続殺人鬼が仕掛けた恐るべき罠だった。孤立無援の彼女が頼れるのは捜索犬ビングルだけ、彼女の運命は?

 連続殺人事件の犯人が、捕まることを想定して罠を仕掛けていたという設定が斬新だ。数日かけて山中の遺体発掘に向かう一行。殺人犯パリッシュは同行した女性記者ケリーに異常な関心を寄せていく。出だしからハラハラさせられる内容で引き込まれる。期待どうり今までにない展開で楽しませてくれた。

 後半は、被害者の精神的なダメージや、殺人犯に狙われながらの息の詰まるような生活が描かれている。山中の話で一気にいった方が迫力があったと思うのだが、こういう展開も事件の裏側で被害者の苦悩が続くことが分かって良かった。

 ジャン・バークさんの小説を初めて読んだが気に入った。本書は新聞記者アイリーン・ケリーのシリーズ7作目だそうだ。シリーズとは知らずに読んだが、ケリーのトラウマとなっている出来事など、分かってみると成る程と思う部分もある。調べてみると過去の6作は全て扶桑社ミステリーから出版されている。  

『ぼくらは虚空に夜を視る』 上遠野浩平
徳間デュアル文庫 本体:590円(00/08初)、★★★★☆
 只の高校生のはずの工藤兵吾は、虚空で戦争するハメになった。これまでの現実は、虚空での戦闘に発狂しないための妄想でしかなかった。無限に襲いくる敵を、超光速戦闘機(ナイトウォッチ)で倒さねば人類は終りだというのだ。これが人間に科せられた苛烈で空虚な現実だった。

 景瀬観叉子から呼び出された工藤兵吾は、徐々に世界の真の姿を知るようになる。けんかしながらも彼を好きな聡美が嫉妬したりと、ラブコメとSFが縒り合わさりながら進行する。兵吾と聡美の絡みが恥ずかしかったりするのは、ヤングアダルトをおっさんが読んだのが悪いのか。

 エンターテインメントでありながら、この世の虚しさを訴えたりするのは「ガンダム」とか「エヴァンゲリオン」の流れだろう。高尚なテーマとエンターテインメント性を上手く両立させている。

 SF的な設定が映画『マトリックス』に似ているのは、悪いとは言わないが新鮮味に欠けた。小説ということもあって、本書の設定の方が説得力がある。既に『わたしは虚夢を月に聴く』と『あなたは虚人と星に舞う』(共に、徳間デュアル文庫)というシリーズ続編が出ている。  






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