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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年07月

『シャドウ・ファイル/潜む』, ケイ・フーパー
『船上にて』, 若竹七海
『魂の駆動体』, 神林長平
『ある日どこかで』, リチャード・マシスン
『家族の時代』, 清水義範

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『シャドウ・ファイル/潜む』 ケイ・フーパー
ハヤカワ文庫NV 本体:840円(01/07初)、★★★★☆
 交通事故から快復したフェイスは、自分に関する記憶を失っていた。入院中に彼女の親友だったダイナという女性が失踪したことを知る。ダイナが捕らわれ責められる夢を見たフェイスは、時折見る夢を頼りにダイナの探索に乗り出す。サイコ・サイキック・スリラー三部作、第二弾。

 超能力の調査をしているらしいFBI捜査官・ビショップ以外は、前作とまったく関係ない。フェイスの能力がはっきりしないため、前作に比べて超能力物としてはやや物足りく進むものの、記憶喪失を絡めたサスペンスは見事に読ませる。

 フェイスの事故もダイナの失踪も、何者かによって仕組まれたことなのか。二人はどんな出来事に巻き込まれたのか。ダイナを救うのは間に合うのか。爽やかとは言い難いラストだが、一抹の救いを感じさせる。その過程が上手く描かれていたら、良い解決方法だったことがもっと納得できたかも知れない。超能力物としてもラストでビシッと締まって良かった。  

『船上にて』 若竹七海
講談社文庫 本体:571円(01/06初)、★★★☆☆
 船の客室から"ナポレオンの頭蓋骨"が消えた。事件の謎を解く意外な盲点とは――表題作「船上にて」。ビルの隙間で意識を取り戻したOLが、そこに転落するまでの経過を思い出していく「優しい水」。五人が順繰りに出した手紙の謎に迫る「かさねことのは」などミステリ8編を収録。

 自殺した女性の友人が事件の真相を語る「時間」、同級生の姉を狙う変質者を描く「タッチアウト」、ビルの隙間でOLが事の経過を思い出していく「優しい水」。古本の手紙文例集が意外な真相に導く「手紙嫌い」など、色々な趣向が凝らされたミステリ集となっている。

 「優しい水」は凄い。ビルの隙間でOLがひとり転落するまでの経過を思い出していく。鈴木光司さんの「空に浮かぶ棺」に似てなくもないけど。「手紙嫌い」は、伏線やアイデアが秀抜。文例は面白いけれど、そのために話にまとまりがなくなってしまった感じがする。「船上にて」は、船上で知り合った老紳士の思い出話が好き。女子校を舞台にした『スクランブル』しか読んでいないので、そういう感じの作品が一作もないのが意外だった。

 「時間」「タッチアウト」「優しい水」「手紙嫌い」「黒い水滴」「てるてる坊主」「かさねことのは」「船上にて」の8編を収録。  

『魂の駆動体』 神林長平
ハヤカワ文庫JA 本体:760円(00/03初)、★★★★☆
 人々が仮想空間に移住しはじめた近未来。自動車は制御され運転の必要がなかった。養老院に暮らす〈私〉は、友人・子安とともに理想のクルマの設計を始めた。――人類の滅びた遠未来。人間の文化を研究する翼人のキリアは、発掘された設計図をもとに、クルマの製作を開始するが……。

 大きく分けて、近未来の第一部と遠未来の第二部から成る。第一部は、自分で運転するクルマの魅力を求めて、クルマの設計を始める二人の老人の話。クルマの魅力について熱く語り合う二人の気持ちは、自動車を運転したことのない私にも伝わってきた。

 第二部は、遥かな未来。発掘した設計図を元に翼人たちがクルマの製作をする。ここでもまたクルマの魅力が語られる。クルマ好きには絶好の作品だが、それだけでなく、仮想空間で生きる意味、アンドロイドの意識、道具作りの意味など、様々なテーマを含んでいて色々考えさせられた。

 出だしが非常に饒舌で、それまでの神林作品のイメージと違うので戸惑った。クルマの話のはずが、リンゴを盗み取る話が長く続くので戸惑ったのかも。リンゴ取りはその後のクルマの設計の伏線になっていた。

 1995年に波書房から書き下ろしで出版された本の文庫化。  

『ある日どこかで』 リチャード・マシスン
創元推理文庫 本体:980円(02/031初)、★★★★☆
 脳腫瘍であと半年足らずの命と診断された脚本家リチャードは、旅の途中、サンディエゴのホテルでひとりの女優の色あせたポートレイトを目にする。75年前にホテルで『小牧師』を演じた女優エリーズ・マッケナだった。彼女に惹かれてゆくリチャードは、時間旅行を試みるが……。世界幻想文学大賞受賞作。

 1980年の映画『ある日どこかで』の原作の初翻訳。主人公が半年の命と宣告され旅に出る経過は映画より痛ましい。時間旅行の方法や作品の雰囲気が、ジャック・フィニイさんに似ていると思ったら、意識して書かれたものらしい。時間旅行の方法は現実的ではないけど、時間理論の本を参照したり、失敗したりと信憑性を高めている。

 自然に愛しあっていくのでなく、リチャードが彼女を口説き落としていく感じが強くロマンチックさに欠ける。1975年の小説だからかも知れないし、著者の性分が現れているのかも知れない。現在、似たような設定の時間物が、色々な作家の手によって書かれている。それらと比較して、短編向きの設定で無理をしているような感じを受けた。  

『家族の時代』 清水義範
角川文庫 本体:533円(H10/08初)、★★★★☆
 長年連れ添った両親が離婚を宣言。しかし、今までどうり一緒に暮らすという。息子、娘たちは理由がわからず、それぞれの思惑と愛情が交錯し大騒ぎに。どうやら、長年世話になった家族同然の女性に遺産を分けるためらしいが……。

 両親が離婚を宣言、息子・娘夫婦が大騒ぎする様子が描いている。両親の離婚問題だけでなく、家族それぞれの生活がある。家族の中だけで解決出来ること、親戚中で力を合わせて解決することもある。家族、親戚、親、兄弟というつながりをしみじみと感じさせられる。

 遺産相続という暗いイメージの話を楽しませてくれた。相続税対策としての離婚作戦というアイデアも面白い。小説の結末だけでなく、木村晋介弁護士の解説も興味深かった。読売新聞夕刊の連載だそうだ。新聞連載と知って、なるほどとうなずける小説だった。  






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