読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年06月

『ビッグ・トラブル』, デイヴ・バリー
『ホームズと不死の創造者』, ブライアン・ステイブルフォード
『暗いところで待ち合わせ』, 乙 一
『立花隆・100億年の旅』, 立花 隆
『感傷の街角』, 大沢在昌

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ビッグ・トラブル』 デイヴ・バリー
新潮文庫 本体:629円(H13/08初)、★★★☆☆
 マットが通う高校では、水鉄砲を使う“殺し屋”ゲームが流行っていた。彼の標的は片思いのジェニー。水鉄砲を手に彼女の家に侵入するマット、彼女の義父の命を狙う本物の殺し屋も発砲して……。騒ぎは、樹上生活者、町のごろつき、武器商人、警察にFBIまで巻き込んで広がっていく。

 水鉄砲で彼女を狙う少年と、本当の殺し屋が鉢合わせしてしまうという設定はなかなか面白い。その後も、女性刑事が同僚に言い寄られたり、マットが刑事ドラマかぶれの男に追われたりと、次から次へと愉快な話が展開してゆく。著者のデイヴ・バリーさんは人気コラムニストで、このユーモアセンスはコラムで鍛えられたものらしい。

 最近の小説にしては短かめなのに、登場人物が異常に多くちょっと混乱した。笑いの質は高いけど、色々な話を盛り込みすぎて、小説としては損をしているかも。映画化公開決定となっているが、既に映画も完成し、テロ事件の影響で公開延期や、一部修正などを経て公開されたらしい。  

『ホームズと不死の創造者』 ブライアン・ステイブルフォード
ハヤカワ文庫SF(SF1391) 本体:980円(02/02初)、★★★☆☆
 25世紀末、ナノテクと生物学の進歩で人類は数百年もの寿命を獲得していた。人肉を栄養に急成長するように遺伝子操作された植物による連続殺人が起きた。現場のビデオには花束を持つ謎の女性の訪問が記録されていた。女性刑事シャーロット・ホームズはフラワー・デザイナーのオスカー・ワイルドと共に奇怪な連続殺人に挑む。

 ホームズという女性刑事が登場するが、この女性刑事の推理によって事件が解決するようなSFミステリではなかった。ナノテクによる防御機構で怪我や病気の心配のない時代。遺伝子制御によって達成された不死の世代と、若返り処置によって長命にはなったが死すべき運命にある高齢者たち。怪奇な殺人事件を軸に、運命の違う二つの世代の隔たりを描き出している。

 白骨死体に茎が絡まり緑の葉に漆黒の花、その場に残されたカードには19世紀末の文学からの引用が記されている。ナノテク、遺伝子工学、ウェブと未来的でありながら、古色蒼然とした雰囲気がつきまとう。読んでいて何度か「スカッと面白い話が読みたい」と思ってしまった。

 この話より300年前の世界を舞台にした『地を継ぐ者』という作品がある。ストーリーは完全に独立しているので未読でも問題ないそうだ。  

『暗いところで待ち合わせ』 乙 一
幻冬舎文庫 本体:495円(H14/4初)、★★★★☆
 視力をなくし、一人静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件の犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家に逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった。

 目の不自由な女性の住む部屋に、警察に追われる男が隠れ住んでしまう。この先、どうなるのだろうと思わずにはいられない絶妙な設定だ。不審な侵入者に脅えるミチル、侵入者が殺人事件の犯人だと気付いてさらに募る恐怖。じっと潜んで彼女に気付かれてしまうことに脅えるアキヒロ、二人の恐怖がいい緊張感を出している。

 眼が不自由な身で一人暮らしをするミチルの生活を知るうちに、人との交わりを苦手としてきたアキヒロの気持ちに変化がおとずれる。一歩間違えれば味わいの悪い話になるところを、孤独な男女のふれあいという形に上手くまとめていて、好感の持てるいい話だった。他の話も読んでみたいと思った。  

『立花隆・100億年の旅』 立花 隆
朝日文庫 本体:600円(02/031初)、★★★★☆
 人工知能、マイクロマシン、仮想世界、昆虫ロボット……。最先端の研究現場を訪ね歩き、最新の成果から、科学・技術の将来像までをレポートする。科学雑誌「サイアス」の連載をまとめたもの。

 11の研究所の研究内容を紹介している。レポートを読み進めると、遺伝子、脳、人工知能、ロボット、マイクロマシン、分子生物学、仮想世界という現代科学を構成する連なったテーマが見えてくる。派手な成果だけでなく、地道な実験、研究成果の積み重ねによって成果が得られることも実感させられた。

 ひとつひとつのレポートは、もっと詳しく知りたいと思う部分が多い。色々な研究を取り上げた本としては、読者にもっと知りたいと思わせることで目的を達成しているのだろう。さらに知りたい人のために参考文献が上がっていたら、もっと良かった。

 科学雑誌「サイアス」の1996年から97年の記事なので、既に最先端の研究成果ではないことは、理解しておきたい。  

『感傷の街角』 大沢在昌
角川文庫 本体:580円(H6/09初、H13/04,18版)、★★★★☆
 佐久間公は早川法律事務所に所属する失踪人調査のプロ。暴走族の青年からボトル1本の報酬で引き受けた調査は、かつて横浜で遊んでいた少女を探し出すこと。だが、当時を知る一番の証人が殺されて……。佐久間公シリーズの短篇集第1弾。

 早川法律事務所の失踪人調査のプロ・佐久間公シリーズの短篇集で、表題作「感傷の街角」は、1979年に第1回小説推理新人賞を受賞した大沢さんのデビュー作品だそうだ。ハードボイルドとしては、主人公が若く甘い作品だと言われるらしいが、ホードボイルドの間口が広がったからか、そんなに違和感はなかった。

 暴走族に呼び出されるところから始まる「感傷の街角」、不審な行動の少年に出会い、事件に巻き込まれる「晒された夜」、パーティでの恋人との会話を挿みながら、事件を振りかえる「サンタクロースが見えない」など、一作ごとの展開に工夫が見られる。

 主人公に固定の恋人がいるところが、『新宿鮫』と共通点する。恋人を裏切るような出来事はまったく出てこない。ファッションへのこだわりが強く、そこに若さが感じられた。事件に絡んで姉弟や兄妹の愛情が描かれているものが多く、中には事件の重要なカギとなっている作品もあり、ひと工夫欲しかった。

 「感傷の街角」「フィナーレの破片」「晒された夜(ブリーチド・ナイト)」「サンタクロースが見えない」「灰色の街」「風が醒めている」「師走、探偵も走る」の7編を収録。  






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