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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年04月

『赤い予言者』, オースン・スコット・カード
『喪服の折鶴』, 佐野 洋
『遥か南へ』, ロバート・R・マキャモン
『ウルトラマン対仮面ライダー』, 池田憲章+高橋信之
『垂里冴子のお見合いと推理』, 山口雅也

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『赤い予言者』 オースン・スコット・カード
角川文庫 本体:838円(H11/11初)、★★★★☆
 アメリカの開拓時代、7番目の息子の7番目の息子アルヴィンは、特殊なパワーを持って生まれた。アメリカの将軍はインディアンを排除しようと企むが、それに気付いたショーニー族のタクムソーは、インディアンを組織して戦争に備えようとする。アルヴィンに出会ったインディアンが、予言者となるが……。

 『奇蹟の少年』の続編だが、主役のアルヴィン少年は100ページを過ぎるまで登場せず、白人とインディアンの対立の話が続く。人間関係の面白さと、超自然的な力や魔術などが興味を引く、主役不在でも読ませてしまう。

 『奇蹟の少年』でアルヴィンを導くシャイニング・マンが登場し、アルヴィンを導くにいたった経過がシャイニング・マンの側から描かれる。ちょっとこのあたり、『エンダーのゲーム』と『エンダーズ・シャドウ』の関係にも似ていて面白い。物事を片側から眺めるだけでは分からない、思ってもいないような真実もあるという事か。

 フランス軍のナポレオンが魔力を持っていたり、描かれるインディアンの歴史が、どれほど史実に基づいているか分からないけど、予言や超能力を交えながら、面白く進んでいく。インディアンの生活を理解する中で、アルヴィンはいちだんと成長した。続きが楽しみなのだが、刊行が途切れてしまっている。  

『喪服の折鶴』 佐野 洋
文春文庫 本体:514円(01/11初)、★★★★☆
 慶事に用いられる折鶴「妹背山」を黒と白に塗り、嘴には「近日参上」の文字が……。表題作ほか、脚のある折鶴を持ってきた女性刑事の悩み「『立ち鶴』の迷い」、自殺した患者の病室に飾られた折鶴「折鶴の過去」等、折紙が趣味の退職刑事が事件を解決する連作推理。

 警察を退職した末次刑事が、折鶴を展開して折り直す依頼や、幼稚園から消えた折鶴を心配したり、折鶴に込められたメッセージを推理する話など、折鶴をテーマにした一種の安楽椅子探偵物だが、ミステリにそれほど重点は置かれていない。一話目に登場した歯科医の娘が、末次を「おじさま」と呼ぶようになったりと、一編一編が前の短編の後を引いていて、小さな展開が楽しめる。

 「津く羽根」「昔男」「妹背山」など多くの折鶴が、江戸時代の『千羽折鶴形』から登場する。『千羽折鶴形』に出てくる変形鶴の一つ一つに狂歌がついていて、それが事件を解くかぎとなっている作品もあった。折鶴の背景に味わいがあって、温かい作品となっている。この本の主人公が、現役だったころの話が『折鶴の殺意』(文春文庫)になっていて、作品中にも再三出てくる。

 「「立ち鶴」の迷い」「逃げたキリン」「折り置きの鶴」「折鶴の恩返し」「折鶴の過去」「龍の餌」「喪服の折鶴」「折鶴の訊問」「折鶴の入院」の9編を収録。  

『遥か南へ』 ロバート・R・マキャモン
文春文庫 本体:各819円(00/01初)、★★★★☆
 離婚し仕事も失ったダンは、はずみで殺人を犯してしまう。逃亡するダンを追う2人の賞金稼ぎは、3本腕の男とプレスリーのそっくりさんだった。顔の半分に痣のある少女・アーデンを同乗させることになるが、彼女に手配中の殺人犯だと知られてしまう。疲れ果てた彼を待ち受ける賞金稼ぎ、逃亡の果てに何があるのか……。

 ダンはヴェトナム戦争で使われた枯葉剤の影響で白血病を病んでいる。残された時間を刑務所で過ごすわけにはいかない。顔半分に痣のあるアーデンは、顔の痣を消してくれるブライト・ガールを捜していた。この2人を追うのは、シャム双生児の3本腕の男とおしゃべりなプレスリーもどき。追っ手の2人は怖い存在でもあるが、何とも面白く描かれていて楽しい。

 南への逃亡を、狂気に向かっている事とダブらせて不吉な感じを与えている。マキャモンさんは「脱ホラー作家宣言」をしてから本書を書いているらしいが、なかなかホラーなムードが漂っている。登場人物たちの過去がしっかりと描かれていて、彼らの行動により現実味を感じさせて、物語りの深みを増している。この長い話をスリリングに楽しませてくれた。  

『ウルトラマン対仮面ライダー』 池田憲章+高橋信之
文春文庫PLUS 本体:各676円(01/01初)、★★★★☆
 60年代の光と70年代の影を背負って誕生した2大スーパーヒーロー、ウルトラマンと仮面ライダー。謎につつまれた創世神話を解き明かし、輝ける英雄伝説の軌跡を追い、彼らが時代のチャンピオンとなりえた秘密に迫る。円谷皐、石ノ森章太郎両故人のインタビューも収録。

 デザイン画などの資料などから、企画が決定するまでの経過を説明。ウルトラマンはベムラーという怪獣だったし、仮面ライダーも十字や骸骨のマスクだった。巨大ヒーローのウルトラマンと等身大ヒーローの仮面ライダーを比較しながらその魅力が語られる。

 写真が豊富に掲載されていて、外で読むとき少し恥ずかしい。写真が全て白黒なのが残念。仮面ライダーの1号、2号、新1号など色の違いをカラーで確かめたかった。無理を承知でいえば、決めワザなどは動画で見たくなる。活字でビジュアルな世界を語ることの限界を感じた。

 夢中になった子供のころを思い出しながら懐かしく読んだ。子供の頃にウルトラマンや仮面ライダーを好きだった30代、40代を対象にした本だ。ウルトラマンの前傾姿勢、仮面ライダー1号の交代理由、怪獣の再利用、仮面ライダーの音響効果など、初めて知った話、なるほどと思う話も多くあって楽しめた。  

『垂里冴子のお見合いと推理』 山口雅也
講談社文庫 本体:514円(02/03初)、★★★★☆
 垂里冴子(すいりさえこ)33歳、未婚、読書好きで、とてもおしとやか。彼女に縁談が持ち込まれるが、そのたびに事件が起こり縁談は流れてしまう。眼鏡をはずした冴子は、卓越した観察力・推理力で事件を解決する。和風美女の推理が冴える連作ミステリ。

「春の章 十三回目の不吉なお見合い」
垂里家にかけられた呪いか、冴子のお見合いも13回目。今回のお相手は、慶応大学卒の銀行員、スポーツマンで財産もあったが……。
見合い相手の不審な行動から、事件に巻き込まれる垂里家の姉弟たち。事件よりも推理好きの父親、姉を慕う京一、活発な次女・空美、登場人物たちの個性が楽しい一編。

「夏の章 海に消ゆ」
海に潜る京一、浜辺で本を読む冴子、水着姿で側転を決める空美。夏に持ち込まれたお見合いは、防衛大学出の40歳、自衛隊のエリートだった。
相手の男がトイレに入った後、他に出口のない密室から消えてしまったという事件。トリックはバレバレだが、全体的な設定には説得力があって良かった。

「秋の章 空美の改心」
恋人に振られた空美がお見合いを決意。姉・冴子への縁談を横取りする。空美のお見合い相手は、製薬会社の次期社長、35歳。読書と音楽鑑賞が趣味、見合い経験多数。
空美のお見合いに冴子が付き添うという新展開。お見合いの席で相手の男が突然苦しみだして……。空美のキャラが生きている。伏線も効いていて良かった。

「冬の章 冴子の運命」
今度のお見合い相手は、幻想文学賞を受賞した作家、39歳。この人なら本好きの冴子にピッタリの人物。2人は意気投合するが……。
非常に良い雰囲気だったのに残念。『続・垂里冴子のお見合いと推理』に冴子のお見合いは続くのだった。冴子の想いと同様に切ない話が明らかになる。


 冴子は礼儀正しくて、常に平静で、婚期の遅れにもあせった様子もない。でも、持ち込まれた縁談には素直に応じる。読み進んでも冴子の気持ちが良くわからないが、それでも彼女の魅力にひかれていく。事件までに話の半分を使っているので、あっさりと事件解決して、ミステリ的にはもの足りないけど、登場人物の面白さで楽しませてくれる。

「春の章 十三回目の不吉なお見合い」「夏の章 海に消ゆ」「秋の章 空美の改心」「冬の章 冴子の運命」の4編を収録。  






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