読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年03月

『堪忍箱』, 宮部みゆき
『ミステリを書く!』, 千街晶之
『エンド・オブ・デイズ 上・下』, デニス・ダンヴァーズ
『MISSING』, 本多孝好
『プログラムはなぜ動くのか』, 矢沢久雄

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『堪忍箱』 宮部みゆき
新潮文庫 本体:476円(H13/11初、H13/11,2刷)、★★★☆☆
 菓子問屋近江屋に代々伝わるもの。火事の夜、母と祖父が命がけで守ったそれが堪忍箱だった。14歳で近江屋の当主となったお駒は、堪忍箱を預かることになるが…(表題作)。畳屋の箕吉に、「おいらをかどわかしておくれ」と言ってきた子供がいた「かどわかし」、捨て子たちと市兵衛夫婦には意外な秘密があった「お墓の下まで」など、時代小説8編を収録。

「堪忍箱」
菓子問屋近江屋に代々伝わる堪忍箱。14歳で当主となったお駒が堪忍箱を預かるが……。
少女が代々伝わる思いを解する話として、「堪忍箱」と「十六夜髑髏」が似ていると思う。実はどちらも話が良く分からない。

「敵持ち」
命を狙われている加助は、同じ長屋の小坂井の旦那に用心棒を頼むが……。
亭主が命を狙われているのに、女房は用心棒代を値切っていたりと、笑いを誘う。ミステリ風の謎解きや最後のオチも良かった。

「お墓の下まで」
捨て子を育てる市兵衛夫婦。子供たちにはそれぞれの秘密があった。そして、市兵衛夫婦にも……。
いい話であり、意外な話であり、それでもいい話だった。その「はっ」とさせられる部分が上手い。


 一編一編はそれなりの出来だけれど、全体的のは物足りない感じ。8編もあって、250ページなので、一編がちょっと短すぎるようだ。面白いもの、感動するもの、考えさせるものなど、いろいろな味わいの時代小説が楽しめる。コミカルなミステリの「敵持ち」や、心を打つ作品「お墓の下まで」は非常に好きな作品。

 「堪忍箱」「かどわかし」「敵持ち」「十六夜髑髏」「お墓の下まで」「謀りごと」「てんびんばかり」「砂村新田」8編を収録。  

『ミステリを書く!』 インタビュー:千街晶之
小学館文庫 本体:657円(02/031初)、★★★★☆
 ミステリというジャンルはかつてない盛況の極みにある。内包する分野の多彩さ、豊穣さでも極致に達した時代だ。そんな現在を代表する作家が、創作の喜びや苦しみについて委曲を尽くして大いに語っている。ミステリの初心者から、ディープな読者までも楽しめるインタビュー集。

 ミステリ評論家の千街晶之さんが、綾辻行人さん、井上夢人さん、大沢在昌さん、恩田陸さん、笠井潔さん、京極夏彦さん、柴田よしきさん、法月綸太郎さん、馳星周さん、山口雅也さんにインタビューしている。1998年のビレッジセンターの元本にあった東野圭吾さんへのインタビューは、東野さんの都合によってカットされている。好きな東野さんだけに非常に残念だった。

 ミステリとの出会い、小説を書くきっかけ、作家になるまでの経過、健康面での自己管理、気になる作家、ミステリを書こうとしている人へのメッセージ、などが全員への共通の質問で、その他に各作家に合わせた質問がはさまっている。

 男性だと思っていた作家が女性だったり、作品に対するこだわりや意外な経歴などを知って、今まで読んでない作家にも色々興味を持った。ミステリの魅力が大いに語られた充実したインタビュー集だった。  

『エンド・オブ・デイズ 上・下』 デニス・ダンヴァーズ
ハヤカワ文庫SF(SF1375,SF1376) 本体:各740円(01/10初)、★★★☆☆
 現実世界にそっくりだが、病気や貧困、死を取り除いた仮想現実〈ビン〉が稼動して100年。現実の世界ではガブリエル率いるクリスチャン兵士軍が支配を広げていた。遺伝学者ティルマンは研究施設内のコンピューターのなかに囚われていた。彼の世界に百年ぶりの侵入者が訪れ、やがて〈ビン〉存続の危機が……。

 前作『天界を翔ける夢』から70年が経過している。〈ビン〉での永遠の命をもてあまし、死の問題に悩むドノヴァンや、ダウンロードを受けて死を望むステファニーの存在など、永遠の命や死がテーマとなっている。試験的に導入された臨死体験のプログラムは興味深かったが、その後の展開がなく残念。前半は話が動かなくて余りぱっとしないが、『天界……』では不明だった〈ビン〉の稼動状態が示され、将来の展望までが話題に上っているのは収穫だった。

 ティルマンが〈ビン〉と接触するお膳立てが出来たとき、別の方法で簡単に連絡がとれてしまうのにはしらけた。ガブリエルが〈ビン〉の破壊を企てるなか、登場人物たちが思いもしなかった行動に出る。すじだけ追うと後半は盛りだくさんで面白いのだが、登場人物の気持ちが十分つかめなかったり、もっと描いて欲しい部分があっさりしていたりと、もう一息だった。  

『MISSING ミッシング』 本多孝好
双葉文庫 本体:600円(01/11初)、★★★☆☆
 自殺をこころみた私に、少年は何で死ぬのか聞いてきた。どうして話す気になったのか、幼い頃の父母の事故死から話し始めていた「眠りの海」。幽霊ちゃんは、妹を亡くしてから、自分は妹の典子だと思うようになった「祈灯」など、“失われたもの”に対する思いをテーマにした短編集。

「眠りの海」
幼くして両親を失った主人公が、教師になって女子生徒と関係を持つようになる。学校に知られ、別れることを決めた最後のドライブで……。
いい話だなあと思う反面、作り過ぎの設定がちょっとひっかかる。不幸がいっぱい。

「蝉の証」
老人ホームの祖母のもとを訪れた俺は、同じホームのお爺さんについて調べるはめになった。爺さんの意外な過去が明らかになって……。
意外と冷たい見方をする主人公だ。全体的には楽しい話だったし、ラストの会話が救っている。

「瑠璃」
僕より4つ年上のいとこのルコ。退屈だからと高校を辞め、自由奔放に生きている。そんなルコと過ごした夏、そして……。
ルコに振りまわされながらも、楽しく過ごす前半が好き。後半は、アイディアには感心したけど、こういう展開じゃなくてもと思ってしまった。


 「MISSING」というタイトルの短編はなく、これが共通するテーマらしい。家族を、愛する人を、自分らしさを、失った人たちが描かれている。どの話の語り手も、どこか醒めた目で人を見ていて、人の悲しみの裏側を見通している。どの話も感動的で、きれいに描かれていて、作った感じが見えてしまって、不満が残った。

 「眠りの海」「祈灯」「蝉の証」「瑠璃」「彼の棲む場所」の5編を収録。  

『プログラムはなぜ動くのか』 矢沢久雄 著/日経ソフトウエア 監修
日経BP社 本体:2400円(01/10初、02/01,1版8刷)、★★★★☆
 Windowsでコンピュータに初めて触れた人、統合開発環境でプログラムを始めた人たちが、もう一歩スキルアップをするためには、プログラムが動作する根本的な仕組みを理解する必要があります。本書はプログラミングを始めたい人、スキルアップを目指す初級プログラマ、中級パソコン・ユーザーのために、プログラムが動作する仕組みをやさしく解き明かします。

 パソコン初心者用の本だと思っていたのだが、「ベストセラー」でもあり、「10年後も通用する“基本”」と書いてあるので読んでみた。プログラマ向けの雑誌「日経ソフトウエア」の連載ということで、予想外に歯ごたえがある内容だった。

 各章の概要をあげると、CPUとは何か、2進数と2進演算、少数演算の誤差、配列・スタック・キューなど、メモリとディスク、データ圧縮の仕組み、プログラムの動作環境、コンパイル・リンクなど、OSとアプリケーション、アセンブリ言語の初歩、ハードウェア制御、プログラミングの初歩、となっている。

 Cとかアセンブラのプログラマが1、2年かけて身に付けていく内容をこの一冊で解説している。プログラマだけでなく、コンピュータの仕組みを知りたい人には、是非読んで欲しい。本書の内容をきちんと理解すれば、パソコンの不可解な部分がなくなり、パソコンに対するイメージが大きく変わるだろう。

 一番最初に出てくるマシン語の説明はちょっと気になる。マシン語は電気信号となったプログラムだと記されているが、必ずしも電気信号ではなく、紙の上の16進数などもマシン語と呼んでいると思う。昔はパソコン雑誌に、16進数がぎっしり印刷されたページがあって、マシン語プログラムと呼んでいた。  






間違いなどお気付きの事がありましたら hirose97@max.hi-ho.ne.jp までメールを下さい。
ご感想もお待ちしています。なお、リンクは自由ですが出来ればお知らせ下さい。