読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年02月

『天界を翔ける夢』, デニス・ダンヴァーズ
『かめくん』, 北野勇作
『超音速漂流』, N・デミル&T・ブロック
『ホーキング、未来を語る』, スティーヴン・ホーキング
『ボクの町』, 乃南アサ

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『天界を翔ける夢』 デニス・ダンヴァーズ
ハヤカワ文庫SF(SF1335) 本体:960円(00/11初)、★★★★☆
 2050年、病や暴力や死を排除した仮想空間〈ビン〉が稼動を開始した。2070年、人々は肉体を捨て〈ビン〉に移住、荒廃した現実世界に残ったのは一握りの人々だった。ネモは〈ビン〉を楽園と認めず現実世界に残っていた。〈ビン〉の父母を一時訪問した彼は、そこで出会った歌手・ジャスティンと恋に落ちる。

 〈ビン〉に入ると残った体は焼却されてしまうので、正式に〈ビン〉の住人となった者は現実世界には戻れない。〈ビン〉を嫌う若者ネモと、〈ビン〉の女性とのラヴ・ストーリー。彼女と結ばれるには、ネモが肉体を捨てなくてはならず、愛する彼に嫌なことを強制できないと、悩む二人。ジャスティンの彼女自身も知らない秘密が明らかになっていく。

 彼女を助け助言を与える本屋の老人メンソーや、ネモを補助するドラゴンのような外見のローレンスの存在が良い雰囲気を出している。SFというよりファンタジーに近い雰囲気か。SF的な魅力としては、〈ビン〉に関連したリアル・ワールド・ツアーとかダウンロードなどの話が楽しめた。ジャスティンの秘密も、二人の選択も納得できないけれど、読んでいて楽しい話だった。  

『かめくん』 北野勇作
徳間デュアル文庫 本体:648円(01/01初)、★★★★☆
 かめくんはほんもののカメではない。カメに姿が似ているからヒトはかめくんをカメと呼ぶ。「木星戦争」に投入するために開発されたカメ型ヒューマノイド・レプリカメ。新しい仕事を見つけ、クラゲ荘に住むことになったかめくんは、ごく普通ののんびりとした生活を始めた。

 かめくんは木造二階建てのアパートの一部屋に住む。倉庫作業員としてフォークリフトの運転をする。図書館に通ったり、のんびりと日常を過ごす。時折、部屋のクーラーで大騒ぎになったり、巨大なザリガニと巨大なカメが戦闘したりという異常事態もあるけど、かめくんも周りの人もいたって平然と受け留める。

 無理をしない、抵抗しない、怒らない。読んでるうちに力みが取れて「ほっ」として、こんな風に柔らかく生きたいなあと考えさせられる。SF的な設定がちょっと浮いてる部分もあったし、少し退屈だったりもするけど、この小説の持つ温かさ、のんびりした雰囲気が気持ちよい。静かな時間もいつかは終わることを気付かされるラストは悲しい。2001年度の日本SF大賞を受賞。  

『超音速漂流 改訂新版』 ネルソン・デミル&トマス・ブロック
文春文庫 本体:705円(01/12初)、★★★★☆
 誤射されたミサイルが三百名を超える乗員、乗客を乗せたジャンボ機を直撃した。機長は死亡し、乗客のほとんどが酸欠によって脳に損傷を受けた。機を操縦できるのは、乗客の小型機パイロットのみ。地上では事故の隠蔽のために生存者もろとも機を墜とそうとする計画が進行していた。

 1982年にトマス・ブロック名義で出版された本書は、航空サスペンス小説の古典的名作。実際にはトマス・ブロックさんとネルソン・デミルさんとの共作だったということで、今回の「改訂新版」では二人の名前で発表されたそうだ。

 誤射されたミサイルがジャンボ機を直撃し、洗面所などで減圧と酸欠状態をまぬがれた人以外は、死亡したか、回復の可能性のない脳損傷を受るという大惨事が発端。事故が大きすぎて戸惑うが、惨事をまぬがれた者が、次々見つかる場面では小さな希望が湧いてくる。

 しかし、凶暴化した乗客、機を墜とそうとする軍、損害賠償を憂慮した保険会社の担当が、彼らの生還を阻む。著者の航空関係の知識に裏づけされた描写が、サスペンスを盛り上げる。ハラハラさせたり、ホッとさせたり、最初から最後まで読者の心をつかんで離さない。  

『ホーキング、未来を語る』 スティーヴン・ホーキング
発行:アーティストハウス 発売:角川書店 本体:2500円(01/12初)、★★★★☆
 最新宇宙論からゲノム研究の将来、M理論から人類の未来へ、「車椅子の天才科学者」ホーキングが、250点以上の図版を駆使し、宇宙と人類の未来に秘められた謎を解き明かす。相対論と量子論、宇宙の姿、未来予測、時間旅行、未来について語る。

 単なる続編は書きたくないという意図で、次のような構成で書かれている。それぞれの章が独立して読める。各章内でも直線的な論理様式は避ける。本文を短くして、イラスト、図版を多くする。図版の説明やコラムなどで、本文の説明を補う。――というもの、この工夫でとても読みやすい本にはなっただろうが、理論についての段階的な説明がなくなって解説書としての魅力を損なっている。

 科学解説書としての役割は、前作が果たしているので、続編は書きたくないという意味では、これでいいのだろう。十年以上前の本とはいえ、最先端の科学がそれほど急速に進んでいくとは思えない、前作は今でも十分読み応えのある解説書だろう。この本の中の目新しい話題が、M理論だった。これについては何か別の本を読んでみたいと思った。

 最先端の研究で明らかになった宇宙や時間の姿を、多くの人に知ってもらうという意味では、楽しくて分かりやすくて、優れた本だと思う。図版の美しさが際立っている。  

『ボクの町』 乃南アサ
新潮文庫 本体:705円(H13/12)、★★★★☆
 城西署の交番に巡査見習いとして赴任した高木聖大。警察手帳に彼女のプリクラを貼っていて怒られる今風のドジな若者。彼女にふられて警察官になった彼だったが、道案内、盗難届の処理、ケンカの仲裁、忙しい毎日を何とかこなしていた。同期の三浦が手柄をあげて、あせる聖大だったが……。

 彼女にふられて警官になり、耳にはピアスの穴、警察手帳にはプリクラを貼り、すぐかっとくる性格。どうしようもないと言えばそうだが、どんな職場にもいそうな若者が主人公。そんな彼を叱り励まし、警官のイロハを教えていく班長や主任、所長。彼らもまた、それぞれ個性を持った人間として描かれている。

 同じ制服を着込み“お巡りさん”とひとからげにされる警察官。道案内、盗難届の処理、ケンカの仲裁、交通事故の検証、夜間の見回り、職務質問、警察官の仕事の色々が分かって面白い。そのひとりひとりが個性ある人間で、色々な思いで仕事についている事も分かってくる。新米のダメ警察官を軸に、警察官の日常をさり気なく描いた秀作。  






間違いなどお気付きの事がありましたら hirose97@max.hi-ho.ne.jp までメールを下さい。
ご感想もお待ちしています。なお、リンクは自由ですが出来ればお知らせ下さい。