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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2002年01月

『僕の名はユー』, 高橋 勝
『片道切符』, 風間一輝
『未来形J』, 大沢在昌
『人質カノン』, 宮部みゆき
『犯罪は二人で』, 天藤 真

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『僕の名はユー』 高橋 勝
ぶんりき文庫 本体:540円(H13/01初、H13/08,7刷)、★★★☆☆
 ダンボールの箱に入れられ、捨てられた子犬の僕。女子高生の由美が雨に濡れた僕を家に連れて帰ってくれた。僕はユーと名づけられ、榊原家の一員となった。僕が拾ってきた宝くじが一億円に当たっていて……。犬の目から見た人間社会の不条理をコミカルに描く。

 犬が拾ってきた宝くじが当たるという設定で、子犬を語り手にしたところが面白い。語り手が犬なので、この犬による人間観察や、メス犬への関心などのエピソードの合間に宝くじの話が進展する。こうした部分が独特の味わいではあるが、話が横道にそれて少しもどかしい。

 語り手を犬にした事への配慮が十分ではない。特に、犬が冷や汗をかいて目覚めるシーンは、ひどい間違いで腹が立った。ユーが語る人間社会への批判が、子犬らしくない固定概念にしばられたもので、余り共感できる内容ではなかった。猫ならともかく、犬には人間批判は合わない気がする。  

『片道切符』 風間一輝
光文社文庫 本体:629円(00/04初)、★★★★☆
 金で殺しを請け負うプロの殺し屋・烏堂勲。必要ならば容赦なく銃弾を浴びせ、時には命を狙われる、失敗の許されない裏稼業。あの「深志荘」に住む悪徳私立探偵・室井や、盗難車屋の辻、拳銃ブローカーの大里、詐欺師の昌恵ら裏稼業の面々が登場する連作ハードボイルド。

「冥土の土産」
種村は銃口を俺に向け「殺る前に、ひとつだけ面白い話を聞かせてやろうか。冥土の土産ってやつだよ」と笑顔を見せた。殺し屋の俺が命を狙われはじめた。
自分を狙う人物をあれこれ思い浮かべるなかで、さり気なく主要な登場人物が紹介されているという上手さ。敵の使った決め台詞をちゃっかり使い始めるのが可笑しい。

「地獄の沙汰も」
ターゲットは不死身で知られる殺し屋・手長猿。俺は断ったが、手長猿についての調査を開始したところ、情報屋は殺され、俺の周辺にも手長猿の手が伸びて来た。
2話目にして早くも強敵出現。巻き込まれる型の殺しだから、主人公が殺し屋という事への反感も和らぐ。手長猿の意外な正体を知った烏堂の巻き返しが見所。

「成仏しろ」
親本は3編のみ収録。4編目のこれは刊行後に「EQ」に掲載された作品。拳銃ブローカーの大里が元海兵隊の脱走兵3人に狙われ、烏堂にボディガードを依頼してくる。
死んだはずの烏堂が生きていたというところが、裏話としても面白い。他の作品に引けを取るわけではないが、おまけ的な感じもする。

 展開が早くて、数ページ読んだだけで風間さんの世界にどっぷり浸れる感じ。殺し屋を主人公にしながらも、バイトの今日子との会話や、悪徳私立探偵・室井との電話ネタや、塒(ねぐら)についての軽口など、軽いユーモア感覚が生きている。3作で終わっていた親本に、一編を付け加えたのもそんなユーモア感覚のためか? サービス精神豊富な読みどころ満点の作品。

「冥土の土産」「地獄の沙汰も」「三途の川」「成仏しろ」を収録。  

『未来形J』 大沢在昌
角川文庫 本体:381円(H13/12初)、★★★☆☆
 小説家志望のフリーター・菊川、大学院で地球物理学を専攻する茂木、卜占術師・赤道、女子中学生・立花、高校三年のスポーツ青年・山野。彼らは、Jと名乗る見えない存在の意思によって集められた。何もわからないまま行動を開始した五人組だが、意外な真実に近づいていく。

 携帯電話に配信された書き下ろしミステリ。ラストは一般公募され、その最優秀作品が収録されている。5人それぞれの個性が生きていて楽しい。携帯電話に配信され、ラストを公募する企画の小説としては、良く出来ているのだろう。メッセージを送ったJ自身が何も知らず、5人がJとメッセージを交換する中で事の真相に近づいていく。

 ネットなどに繋がっていないコンピュータにメッセージが表示されたり、天使と呼ばれる存在が絡んでいるなど、本編もSF的な要素をもっているとはいえ、入選作のラストは無理やりSFにしてしまって違和感があった。「最優秀賞」以外の数編も掲載した方が良かったのではないだろうか?  

『人質カノン』 宮部みゆき
文春文庫 本体:476円(01/09初)、★★★★☆
 深夜のコンビニに強盗が……。人質はOLの彼女、夜食を買いに来た中学生と、酔っぱらいの中年サラリーマン。金を奪った強盗は何故か尻ポケットからガラガラを落としていった。表題作をはじめ、街の片隅、日常に潜むミステリ7編を収録した短編集。

「人質カノン」
深夜のコンビニ強盗。犯人は何故か尻ポケットからガラガラを落としていった。
人質になったOLと中学生の会話、リストラされた中年サラリーマンの行動などが面白く描かれている。前半の強盗事件の軽さの割に、犯行の真相は辛いものだった。

「十年計画」
ある中年の女性から、十年かけて復讐する計画を聞かされたわたし。運転免許をとって、交通事故に見せかけて、裏切った男を殺す計画だった……。
巧妙に興味を引いていく会話が上手い。解説者も書いているけど、二人の会話の状況が明かされたとき“なるほど”と小さな驚きを感じた。

「生者の特権」
恋人に裏切られ、自殺しようとしていたOLが、夜の学校に侵入しようとしている小学生と出会う。少年はいじめっ子に隠された宿題のプリントを取りに行こうとしていた。
二階のバルコニーの高所に怯え、幽霊に怯え、必死になって走って、いつしか生きる気力が回復していたという話。それらしいエピソードが生きている。

 「失恋」「いじめ」「障害」、さまざまな出来事に傷ついた人々が、癒されていく姿をあたたかく描いている。この短編集ではミステリ色が薄れ、より著者のメッセージがストレートに伝わってくる。

「人質カノン」「十年計画」「過去のない手帳」「八月の雪」「過ぎたこと」「生者の特権」「濡れる心」の7編を収録している。  

『犯罪は二人で』 天藤 真
創元推理文庫 本体:820円(01/09初)、★★★★☆
 前科のあるおれだが真人間なると誓って、一目惚れした保護司の娘と結婚。しかし、小さな盗難事件で疑われたことがきっかけで、夫婦二人で新しい怪盗を目指すことに……。表題作ほか76年以降に発表された12編を収めたミステリ短編集。「天藤真推理小説全集」17巻完結。

「絶命詞」
父を亡くし意地の悪い伯父の世話になる母娘。街中で伯父を追う母を目撃した万里子は二人を追跡し、何者かに刺された瀕死の伯父を発見する。
母の犯行と思った万里子が、体を張って事件の謎に挑むところがけなげ。時代が古風な色気を感じさせる。

「犯罪は二人で」
怪盗が真人間なると誓って、保護司の娘と結婚。盗難事件で疑われたことがきっかけで、二人で新しい怪盗を目指すことに……。
妻を愛して真人間になった夫も、彼の思いを汲んで怪盗になろうとする妻の気持ちも暖かい。

「一人より二人がよい」
散歩の留守に、億万長者のベストセラー作家の屋敷に忍び込んだ怪盗二人。ファンが訪ねてきて必死で対応するが……。「犯罪は二人で」の怪盗夫婦の続編。
作家になりすまして、どうにかごまかす様子が面白い。妻のピンチに決死のアクションもあってサービス満点。

「純情な蠍」
妻を訪ねて来た女性は、病死した夫の初恋の人が和子だと言う。妻と死んだ男とは何の関係もなかったと言うが、不審に思った彼が問いただすと……。
ラストのどんでん返し、見事に騙された。直接な描写ではなくてもエロチックな感じが魅力の作品。

 表題作の怪盗夫婦のシリーズ3作が楽しい。大きな盗みに挑戦する期待感、予期せぬことが起こり、あわてる姿が楽しけ、夫婦で協力し合う様子があたたかい。「のりうつる」は相手の体に乗り移ることが出来るようになった男の話で、意外なSF設定に驚かされた。

「運食い野郎」「推理クラブ殺人事件」「隠すよりなお顕れる」「絶命詞」「のりうつる」「犯罪は二人で」「一人より二人がよい」「闇の金が呼ぶ」「純情な蠍」「採点委員」「七人美登利」「飼われた殺意」の12編を収録。  






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