読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2001年12月

『ブラックライト 上・下』, スティーヴン・ハンター
『虹の天象儀』, 瀬名秀明
『ハイウェイ惑星』, 石原藤夫
『星々の揺籃』, A・C・クラーク&G・リー
『瞬間移動死体』, 西澤保彦

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ブラックライト 上・下』 スティーヴン・ハンター
扶桑社ミステリー文庫 本体:各667円(98/05初、上99/10,6刷、下99/12,9刷)、★★★★☆
 アリゾナ州の田舎で平穏に暮らすボブ・リー・スワガーの元に、ラス・ピューティーという青年が訪れる。ラスは「あなたの父親の話を本にしたいのです」と語り、二人はボブの父親が殉職した40年前の事件を調べ始める。事件の真実が明るみに出ること恐れた男たちが動きはじめた……。

 『極大射程』(新潮文庫)、『ダーティホワイトボーイズ』(扶桑社ミステリー文庫)、『ブラックライト』(本書)、『狩りのとき』(扶桑社ミステリー文庫)という4部作でシリーズを成している。『ダーティ……』以外の3作はボブ・スワガーが主人公。『ダーティ……』は、40年前の事件の犯人の息子や、警官であるラスの父親が登場する話で、本書と深くかかわってくるらしいが、まだ読んでいない。

 警察官アールが、黒人少女の殺害とパイの強盗事件を追っていくところから始まる。すっかり感情移入して読んでいると、この40年前の事件で彼は死んでしまったと知らされる。ちょっとがっかりしたが、既に馴染みのある『極大射程』の主人公のボブが主人公なので、そのまま直ぐに引き込まれていった。

 ボブとラスが協力して40年前の事件を調べるうち、不審な点が出てくる。彼らの調査に気づいた財界のボス・レッドが、二人を消そうと十人を超える犯罪者を送り出す。アールの事件に何が隠されているのか、その事件にレッドがどのように関係するのか、ボブとラスの二人は生きて真相を知ることができるのか。事件の謎と痛快なアクションで魅了する。

 アールを慕うサムという老弁護士が登場する。今も弁護士を続けているが、年老いてたびたび記憶を失った様になって混乱する。ちょっとしたところにも人生の厳しさが描かれている。  

『虹の天象儀』 瀬名秀明
祥伝社文庫 本体:381円(H13/11)、★★★☆☆
 東京・渋谷の五島(ごとう)プラネタリウムが44年間の使命を終え閉館した。機材の搬出や資料の整理に追われるなか不思議な少年がやってきた。少年に投影機の説明をして、投影球の中を見せているときに、意識が時を越えた……。

 祥伝社400円文庫の第2弾の一冊。今年3月に、44年の幕を閉て閉館した実在するプラネタリウムを舞台に描くファンタジー。過去を丁寧に調べ上げて描いていて、ジャック・フィニイさんや広瀬正さんに通じるノスタルジーを感じた。

 若干急ぎ足で話が進み、作品を解説しているようなラストにもまとまりの悪さを感じた。主人公がある作家に特別な思いを寄せるのも、説明不足な気がした。もっと書き込んで欲しいところが多いあるのは、この長さが特殊(?)で書きにくいとか、中編一作で一冊の本になる事への気負いがあるのかも知れない。  

『ハイウェイ惑星 惑星調査艇ヒノシオ号の冒険』 石原藤夫
徳間デュアル文庫 本体:676円(01/02初)、★★★★☆
 「惑星開発コンサルタント社」の調査課のヒノとシオダが、上司の命令でオンボロ調査艇ヒノシオ号に乗って、いろいろな惑星を緊急訪問。車輪生物、重力遮断怪獣、マイクロブラックホールのお茶漬けなど様々な生物や事件に遭遇する。1965年から81年までに書かれたシリーズ18作から、著者自ら選んだ傑作集。


「ハイウェイ惑星」
3千万年前の種族が残した惑星上に張り巡らされたハイウェイ。その惑星で進化した生物は……。 石原博士のデビュー作。有名なアイデアなのでSFファンなら読んでおきたい。面白い。

「空洞惑星」
空洞惑星で起こった重力遮断現象で被害が……。重力遮断怪獣を退治に向かう。 重力に関する意外な現象を上手く使った作品。

「ブラックホール惑星」
マイクロ・ブラックホールのお茶漬けで幻覚効果が得られる。マイクロ・ブラックホールが大量に埋蔵している惑星の調査に向かった。 ブラックホールについての解説が長いけど、「マイクロ・ブラックホールのお茶漬け」が出てくるこれも有名な作品なので読めてよかった。


 当時からハードSFは好きだったけど、マンガ調の作風が余り気に入らず、一冊ぐらいしか読んでいない。すでに読みたくても手に入れにくかった気もする。当時は難しいSFだと思っていたけど、意外に基本的な科学を元にしていて、普通の読者も面白く読めるのではないかと感じた。一番の魅力は科学と小説の結びつきだけど、行動派のヒノと思考派のシオダのコンビも楽しいし、異色の惑星での出来事も面白い。加筆修正されていて、古さも感じなかった。
「ハイウェイ惑星」「安定惑星」「空洞惑星」「バイナリー惑星」「ブラックホール惑星」の5編を収録。
 

『星々の揺籃(ゆりかご)』 アーサー・C・クラーク&ジェントリー・リー
ハヤカワ文庫SF(SF1218) 本体:880円(98/01初)、★★★☆☆
 米国海軍のミサイルの極秘テストの情報をつかんだ女性記者キャロルは、船をチャーターしフロリダ沖海域を探索する。珊瑚礁の海底から不思議な金色の物体を発見し、それを持ち帰る。沈没した財宝を狙う一味が彼女たちの行動を追っていた。

 キャロルと船の乗務員ニックが、会うたびに言い争いをしながらも、互いに惹かれ合っていく。演劇を趣味にする海軍の中佐が共演する少女に女を感じていく。それぞれの過去の恋愛体験などが描かれて、心の傷が明かされる。彼らの関係はこの先どうなっていくのか……、という具合に前半はハーレクイーンを読んでる感じ(読んだことないけど)。

 後半は海底に潜む故障した宇宙船の内部に入ったり、横取りされた財宝を取り戻そうとしたり、その末に銃撃戦やカーアクションがあったりと楽しませてくれる。でも、クラークさんのSFを読めると思った人は完全に裏切られる。かすかにクラークさんらしいところもあるけど、全体ではSFですらないかも知れない。クラークさんの50ページぐらいの短編に、恋愛を絡め、主要な登場人物に長い過去を加えて、500ページの長編にしたのが本書と言えそう。  

『瞬間移動死体』 西澤保彦
講談社文庫 本体:667円(01/08初)、★★★☆☆
 人気作家を妻に持ち、ヒモ同然で生活する小池和義。妻に苛められることで愛を確認する彼だったが、どうしても許すことの出来ない一言から妻を殺害することを決意した。彼は自分のある特殊な能力を駆使した殺人計画を実行するが、事態は予期しない展開を見せる。

 西澤さんの長編を初めて読んだ。SF的な設定のミステリを多く書いているらしく、本書の主人公の特殊能力も、SF的な設定を使っている。この能力はタイトルから推察できるし、解説でも明かされているのに、130ページまで伏せて書かれていて、そのせいか話の進まないここまでが退屈。

 妻の住むロサンジェルスで発見された男の死体と、日本にいる彼の殺害計画がどう絡んでくるのか、彼の特殊能力の制約からパズルの解答のような殺人トリックなど、話の進みだす中盤は興味深く楽しめた。

 事件の真相は、偶然の出来事が多く、登場人物の感情も納得できなかった。SF的な設定のパズルとしては、良く考えられていて、こういう作風だと知っていれば、もっと楽しめたと思う。  






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