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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2001年11月

『掌の中の小鳥』, 加納朋子
『インド IT革命の驚異』, 榊原英資
『スター・ハンドラー 下』, 草上 仁
『白い犬とワルツを』, テリー・ケイ
『間違いだらけのビール選び』, 清水義範

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『掌の中の小鳥』 加納朋子
創元推理文庫 本体:540円(01/02初)、★★★★☆
 4年ぶりに偶然に出会った大学の先輩。ここひと月に計3度、彼の奥さんから留守番電話へメッセージを受けていた。4年前の彼女の事件に思いは飛んだ。(「掌の中の小鳥」)小粋なカクテルの店〈エッグ・スタンド〉を背景に、狂言誘拐や自転車泥棒、不思議な消失談が語られるミステリ連作集。

 まさに、掌の中の小鳥のような愛らしい小品が並んでいる。絵を汚した謎や自転車泥棒といった小さな事件が〈エッグ・スタンド〉というカクテルの店で語られていく。謎が解かれるとき、その人たちの微妙な心の揺れが描かれていて暖かい。

 小さな事件の割に、手の込んだ謎が控えていて、本格的な謎解きを楽しませてくれる。それだけに、圭介の名探偵ぶりに説明がないところに違和感を持った。連作で気持ちが深まっていく、主人公二人の恋の行くへも気をもませる。

 「掌の中の小鳥」「桜月夜」「自転車泥棒」「できない相談」「エッグ・スタンド」の5編を収録。  

『インド IT革命の驚異』 榊原英資
文春新書 本体:690円(H13/05)、★★★★☆
 アメリカをはじめ世界が注目するインド大躍進の鍵は、グローバリゼーションの濁流をたくみに取り組んだ独自のIT革命にあった。「情報革命では必ず勝つ」とエンジニアにいわしめたパワーの源泉とは何かを歴史的、文化的に解明する。著者と二人の研究員が共同執筆。

 第一章、第二章で現在のインドの現状を報告、第三章では独立からの歴史を経済を中心に振り返る。第四章は世界情勢と日本のこれからが書かれている。成長の鍵のひとつが、低賃金で良い仕事をするという事では目新しい話ではないが、あらゆる工業製品を自国でつくる事をめざしていたインドが、IT産業を核に大きな飛躍を果たした事は興味深い。経済成長を果たしたとは言え、貧困層など多くの課題を抱えている。

 第四章では、これから中国とインドが大きな成長を遂げることが指摘されている。この二つの国とどういった関係を持っていくかが、日本にとって重要な課題だ。この本を読み終えたところへ、中国のWTO(世界貿易機関)加盟のニュースを知った。世界経済の動きに無知だったが、本の中に書かれているような状況で世界経済が動いている事が実感でき、こういう本を読む楽しみを知った気がする。  

『スター・ハンドラー 下』 草上 仁
ソノラマ文庫 本体:533円(01/09初)、★★★★☆
 異生物訓練士(スター・ハンドラー)を目指すミリ・タドコロ。初仕事から凶暴なヤアプを捕まえる旅に出ることになった。色々あって、危険度Aに指定されている惑星リュアーナに不時着してしまったミリたち。空には危険なオオドラゴンモドキ、傍らには捉えたヤアプが……。

 「笑いと冒険が満載のスペオペ新喜劇」とあるように、吉本新喜劇のような独特なキャラばかりが登場し、徹底的に笑いにこだわったSF。上巻ではノリに付いて行けなかったが、慣れてきたのか結構楽しめた。往年のヨコジュンやかんべさんを思い出した。

 上巻からのキャラは余り存在意味がなかったが、新しく出てきたミネア宙軍の芸人たちや、暴走狂のモンクなど、その特性でみんなを巻き込んだり、助けたりする存在なので良かったのではないかと思う。

 上巻で気になっていたミリの父親の話は、無視された訳ではないけど、シリーズ化を意識してか大きな展開はなかった。  

『白い犬とワルツを』 テリー・ケイ
新潮文庫 本体:552円(H10/3初、H13/8,13刷)、★★★☆☆
 最愛の妻に先立たれた足の不自由な老人サム。彼を気遣う子供たちに感謝しながらも、一人で余生を生き抜こうとする。妻の死後、どこからともなく現れた白い犬を始めは追っ払うか殺すかしようと考えていた。しかし、エサを与え次第に愛情を感じるようになっていく……。

 単行本から6年、文庫化されて3年、それ程売れていなかったこの本は、千葉県の書店の手作りポップがきっかけでベストセラーになっていった。妻を失ってからの老人の余生に、幽霊のような存在の白い犬を絡ませて描いている。

 白い犬が主人公の老人サムにしか見えないというので、もっとファンタジーかと思っていたが、サムの行動のひとつひとつに老いを感じる現実的な話だった。子供たちの気遣いをよそに、何でも一人でこなせる老人であることを期待したけれど、老人は彼の意欲とは裏腹に、年齢相応に衰えていることが示されていく。

 サムの人生はとても恵まれたものだと思う。それでも老いるというのは辛いことで、それをしっかりと感じさせられた。  

『間違いだらけのビール選び』 清水義範
講談社文庫 本体:571円(01/05初)、★★★★☆
 大のビール党・玉谷は飲みなれた銘柄が味を変えてしまい、ビールの選択に悩みだす。究極の選択とは……。定年後、庭いじりを趣味にした恩蔵が、猫のフンに困らされる「猫の額」。友人に別荘を貸した濱中、雨が降ってくると気になってしまう「雨」など、短編11編を収録。実業之日本社の単行本『本番いきま〜す』を改題。

 「間違いだらけのビール選び」は、次々と出る新しいビールに悩む話で、あるあるの連続で面白い。現在ではこのオチが現実になっていることに感心する。

 「二人の女」は主人公の女子高生が、おばあちゃんのケガから、母とおばあちゃんの間にある「嫁と姑」の問題に気づいていくという秀作。ほろっとさせられる感じ。

 「私の中の別人」は、ラジオ番組でセクシーな声で話すタレントがストーカーに狙われる話。清水さん原作とは知らずにテレビドラマで見たことがある。

 「青空の季節」と「島の一夜」は、ちょっとしたふれあいを爽やかに描いていて、これも良かった。


 著者の「あとがき」によれば、この小説は「どんな人にもある、他人から見ればどうでもいいような気がするかもしれないけど、その人にとっては大きな人生模様の物語」だそうだ。清水さんらしい目の付けどころ、小説的な味付けが楽しい。コメディ、ミステリ、ホラー、ラブストーリーと多彩な小説集で、どれも爽やかに気持ち良く読めるのが魅力。  






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