タイトル |
著者 |
レーベル名 |
定価(刷年月),個人的評価 |
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『真夜中への鍵』 |
ディーン・クーンツ |
創元推理文庫 |
本体:980円(01/01初)、★★★★☆ |
鋼鉄の手の男に襲われる悪夢に悩むジョアンナ。休暇で京都旅行中の私立探偵アレックスは、彼女が12年前に失踪したリーザにそっくりなことに驚く。やがて二人は恋に落ちるが、ジョアンナの失われた過去がアレックスを謎の迷宮に引きずり込んでいく。日本を舞台にしたロマンチック・サスペンス。
京都を舞台にしたクーンツの作品ということで良からぬ興味を持って読んだ。前半はなかなか面白くならず退屈だった。日本人が読むには説明が過剰な個所が多いのかというと、それ程でもないので、慣れない世界を舞台にした影響で話も縮こまってしまったのではないかと思う。後半からは、アレックスとジョアンナが敵に対して挑戦的に行動していき俄然面白くなる。
ラストは十分な説得力がなくて残念だったけれど、記憶を操作や後催眠暗示による障壁、それらを開放する過程など、読み応えがあった。主人公二人が共に過去に精神的な傷を負っているというのがクーンツらしい。日本については、実際に行くことなく書いたそうだが、京都時間と東京のシーンが観光案内的なのが気になったぐらいで、ほかは問題なかった。笑わせて欲しかった気もする……。
1979年のリー・ニコルズ名義の作品を元にした1995年のディーン・クーンツの改訂版。
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『ロボット21世紀』 |
瀬名秀明 |
文春新書 |
本体:860円(H13/07初)、★★★★☆ |
小説『パラサイト・イヴ』や『BRAIN VALLEY』の著者の瀬名秀明さんが、一線で活躍するロボットの研究開発者たちに取材して、世界一の水準である日本のロボット研究を伝える。日本のロボット研究者は何を考え、何を目指しているのか。ロボットと人間が共存する社会を探る。
最近の大きな話題であるホンダの二足歩行ロボットと、ソニーのヒューマノイド・タイプのエンターテインメントロボットの研究者の話から始まる。ロボットの技術的な話よりも、それぞれの研究は何を目指したているのか、研究者たちはどのような未来を描いているのかなどに焦点が向いている。
作家が書いているから分かりやすく、細かい言葉に気が配られているのが感じられた。日本人のロボット文化をアメリカやヨーロッパと比較や、ロボットのサッカー・ロボカップがロボットの協調性の研究に役立つなど面白かった。また、現在のロボットは「鉄腕アトム」ではなく、これから目指す物も「鉄腕アトム」ではないと言う事を広く理解してもらうこともこれからの課題らしい。
まとめでは著者の主張が少し強すぎる感じがしたが、ロボットの入門書として非常に優れていると思う。これを機に、もっとロボットの本を読んでみたくなった。50冊もの参考文献が挙がっているので助かる。
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『西の魔女が死んだ』 |
梨木香歩 |
新潮文庫 |
本体:400円(H13/08初)、★★★★☆ |
中学に入ったばかりの5月、まいは学校に行けなくなった。ママは訳も訊かず田舎のおばあちゃんのところで気晴らしをさせることにした。西の魔女こと大好きなおばあちゃんとの暮らし、まいはおばあちゃんから魔女の手ほどきを受ける。それは、何でも自分で決めるということだった。その後のまいの物語「渡りの一日」も併録。
まいのママはハーフで、おばあちゃんは英国人。おばあちゃんの家での生活は、朝食に鶏の卵を取り、畑の野菜やハーブを料理に使い、裏山の野いちごでジャムを作るという素朴で静かな生活。
おばあちゃんの魔女の話に乗って、まいは早寝早起きをし、何でも自分で決めるという魔女の修行を約束する。理想的な世界の楽しい夢のような話でありながら、おばあちゃんの死、ママとおばあちゃんの間の亀裂、学校でのいじめ、「死ぬとどうなるのか?」といった暗い部分も前向きに描いている。
「渡りの一日」は、数年後のまいの一日を描いた楽しい作品。「西の魔女が死んだ」には、辛い部分も多かったので良い清涼剤。二編合わせても220ページの薄い本。
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『R.P.G.』 |
宮部みゆき |
集英社文庫 |
本体:476円(01/08初)、★★★★☆ |
ネット上で疑似家族を演じていた「お父さん」が刺殺された。3日前の女性絞殺の現場と共通する遺留品が見つかった。殺された女性に怨みをもつA子を有力な容疑者として捜査が絞られて行くなか、デスク担当の中本巡査の提案で前例のない取り調べが行われることになった。
事件の経過を説明する始まり以外は、疑似家族を演じていた娘、息子、母親の取り調べがほとんどを占める。合間に載った彼らのメールが、「ネット上の疑似家族」を具体的に説明している。三人の取り調べを、犯人を目撃した可能性のある被害者の娘がマジックミラー越しに見つめる。彼らはどうして疑似家族に引かれていったのか? 父は疑似家族に何を求めたのか?
テーマになっている家族の問題については、テーマが犯行理由と結びついているために、関連した事柄を明確に書き出せていない感じがする。正面から堂々と描けたら、もっと感動する話になっていただろう。犯人の感情については実に良く描き出されていて、犯人の目星が立ってからは、刑事と共に苦しみを味わった。
『模倣犯』の武上刑事や『クロスファイア』の石津刑事が出てくる。
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『ふわふわの泉』 |
野尻抱介 |
ファミ通文庫 |
本体:640円(01/05初)、★★★★☆ |
化学好きの浅倉泉は高校の化学部部長を努めている。文化祭を目前にして、フラーレン分子の合成実験を行っていた。落雷によって装置が全滅し落胆する泉だったが、天井を漂うふわふわした白煙に目を留めた。“ふわふわ”は、ダイヤモンドよりも硬く空気よりも軽かった。
新素材の製造で一生遊んで暮らそうとする夢が、とんとん拍子に実現していく。そのあたりは、余りにも現実感がないのだが、物質を検査する過程がきっちりと描かれて、その物質が立方晶窒化炭素だったりするところが、ハードSF好きには嬉しい。
“ふわふわ”という技術革新によって、世界に大きな影響を与えていく泉たち。クラークの『楽園の泉』で有名な“軌道エレベータ”までが登場する。これがタイトルの元になっている。これも“ふわふわ”があれば簡単に実現できる訳ではなくて、いろいろ技術的な考察をするところが興味深い。
話の進み方が唐突で、自然な流れでストーリーを楽しむことが出来ないのが残念なところだが、前作あたりから、自分の世界を確立したような印象があり頼もしい。
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『犯罪の帝王』 |
トニイ・ダンバー |
ハヤカワ文庫HM |
本体:640円(01/07初)、★★★☆☆ |
銀行強盗事件で旧友ダンが撃たれ意識不明になり、ニューオリンズの弁護士タビーは気力を失っていた。娘に子供が生まれ、まだ40代の彼に孫が出来た。意識不明だった親友が息を引きとった。タビーは親友のつぶやきを手がかりとして「犯罪の帝王」に挑戦する!
殺人の場面など衝撃的だが、どこか軽いノリのミステリ。翻訳物としては薄くて読みやすい。シリーズの5作目なので本書だけ読むと、旧友ダンのことや、ダンの撃たれた事件のことなどが説明不足に感じられた。シリーズを順番に読めれば良いのだが、これが初めての翻訳作品なので仕方ない。
結婚5ヶ月目で娘に子供が生まれたり、判事の再選キャンペーンの事務長を頼まれたりと、事件と関係ない出来事に主人公の弁護士が一喜一憂するのが魅力のシリーズだと思う。パーネル・ホールさんのスタンリー・ヘイスティングズ・シリーズに近いのかな。年齢性格とも自分に近いスタンリーに比べて、初老の弁護士タビーは感情移入しにくい。本書の続編の翻訳が進んでいるそうだ。
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『歓喜の島』 |
ドン・ウインズロウ |
角川文庫 |
本体:952円(H11/09初)、★★★★☆ |
1958年、元CIAの腕利き工作員のウォルターは、ニューヨークで民間の調査員に転身していた。若い上院議員ケニーリーとその妻の警護についた彼は、将来の大統領候補の秘密に触れる事に……。ジャズ歌手の恋人と共にFBIとCIAの間で渦巻く陰謀に巻き込まれていく。
解説を読んだら、主人公ウォルターはニール・ケアリー・シリーズの第4弾(未訳)に登場する元CIAの諜報員なんだそうだ。その数十年前の姿が、本書の若きウォルター。前半はウォルターの姿にニール・ケアリーがダブって来る。優れたシリーズを持つ宿命かも知れない。
脇役も含めて登場人物のセリフが洒落ていて、60年代のニューヨークの雰囲気を盛り上げる。詳しく書き込まれたアメフトの試合展開や、野球とフットボールを比較した思いにも時代を感じた。余分な感じのエピソードも後から、それなりの意味を持ってくるところも良く出来ていた。実在の人物を絡ませた関係で、話が硬くなって主人公の魅力が薄まったような気がする。
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『Y』 |
佐藤正午 |
ハルキ文庫 |
本体:648円(01/05初)、★★★★☆ |
ある晩に北川健と名乗る男から奇妙な電話がかかってきた。その男は、かつて私の親友だったというが、私には全く覚えがなかった。その男の代理人という人物から渡されたフロッピー・ディスクの中には奇妙な物語が入っていた。それは私と北川とが親友だった別の時間の物語だった。
愛する人の人生を自分の過ちで狂わせてしまった男が、過去に戻るチャンスをつかんで人生のやり直しを計る。この話のような劇的な事じゃなくても、誰でも自分や他人の人生を決めてしまった過去の出来事を悔やむことがあるだろう。何となく身につまされるところが興味を引く。
彼女を救うことで新たな人生を歩み出す北川。しかし、皮肉な運命に囚われていってしまう。そんな時間の中に消えた人生を一枚のフロッピーによって、かつての親友に託す。別の人生で親友だった男から知らされた脅威の出来事、その話を信じていくところに時間を越えた信頼を感じる。失われた時間(歴史)というテーマで、SF心をくすぐられるシーンも多いのだが、スカッと楽しめないのが残念だった。
作中でグリムウッドの『リプレイ』(新潮文庫)に触れている。それまでの記憶を持ったまま人生をやり直すところが似ている。
(2002年12月加筆修正)
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