読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2001年8月

『初秋』, ロバート・B・パーカー
『ロボットの魂』, バリントン・J・ベイリー
『パラレルワールド・ラブストーリー』, 東野圭吾
『消滅の光輪 1・2・3』, 眉村 卓
『スター・ハンドラー 上』, 草上 仁
『バースデイ』, 鈴木光司
『贋作師』, 篠田節子


タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『初秋』 ロバート・B・パーカー
ハヤカワ文庫HM 本体:600円(88/04初、01/04,15刷)、★★★★☆
 元ボクサーの私立探偵・スペンサーは、離婚した夫から子供を取り戻す仕事を引き受けた。仕事は簡単に片付いたが、対立する両親の間で固く心を閉ざす少年ポールが気がかりだった。父親からの報復を恐れる親子を守ることになったスペンサーは、ポールの自立を目指したトレーニングを始める。

 このシリーズと言うより、ロバート・B・パーカーさんの本を初めて読んだ。本書はスペンサー・シリーズの7作目で、これまでの6冊を読んでいないけど問題ない。心を閉ざして、自分の気持ちを表さない少年が、私立探偵・スペンサーの触れ合いを通じて成長していく話。少年の気持ちの変化が納得できる。スペンサーも仲間も無理をして良い人になろうとしないところが良かった。

 少年に生き方を教える中で、スペンサーの人生観が色濃く現れていく。そういうところが、シリーズ中でも特別な作品になっていくのではないか。主人公の生き方、描かれているものに、ディック・フランシスさんのシッド・ハレー・シリーズに似たものを感じた。特に3作目の『敵手』(ハヤカワ文庫)はシッドと白血病の少女の触れ合いや、素直になれない少年の更生が描かれていて、本書に通じるものがある。  

『ロボットの魂』 バリントン・J・ベイリー
創元SF文庫 本体:650円(93/09初)、★★★★☆
 ロボット師の老夫婦が力をあわせてつくりだした汎用ロボット・ジャスペロダス。未存在から覚めたジャスペロダスは、自分で決断して、粗末な老夫婦の小屋を後にした。波乱に満ちた放浪の旅をつづける彼にひとつの疑問が生まれた。はたして自分には“意識”があるのだろうか?

 天才的なロボット職人によって作られたジャスペロダスの精神活動は、人間と区別がつかないほど人間的だった。ロボットが“意識”を持たないことを証明した〈旧世界〉の理論の存在を知り、自分に存在する“意識”について悩む。全編を通じてロボットの意識について洞察している割に話は楽しめた。

 自分の価値を証明するため王位を狙い、すべてを経験するために旅立つなど、ジャスペロダスを廻る様々なエピソードが面白かった。人類は他の惑星にまで進出した後、数世紀の暗黒時代に文化や技術が後退したらしい。〈旧世界〉の技術は一部の人間に細々と受け継がれている。しっかりとしたSF的な背景設定も大きな魅力だった。

 ただ、25年以上前の作品ということもあって、哲学的な考察が弱いように感じた。ちらっと出てきた「意識とは何か」「人間に意識はあるか」といった疑問に答えを出さずに進んでしまっている。ラストには論理的な矛盾まである。ラストについては、哲学者(アスキーに書いてた人だ)による解説を読んで初めて分かったのだが……。物語中でいう“意識”が、どういう物か分からないので、はぐらかされた感じ。  

『パラレルワールド・ラブストーリー』 東野圭吾
講談社文庫 本体:743円(98/03初)、★★★★☆
 大学院時代、敦賀崇史は平行して走る向かいの電車の女性に恋をした。親友・三輪智彦と共にバーチャル・リアリティを研究する企業に入社して、智彦が連れて来た恋人は電車の女性・麻由子だった。――時が流れ、崇史は麻由子と同棲していた。麻由子が智彦の恋人だったことを思い出した彼は、記憶の混乱に気づいていく。

 見つめるだけの恋と、親友の恋人に思いが募っていくというラブストーリーと、バーチャル・リアリティに関連する技術を使ったSFタッチのミステリという二つの要素が見事に融合されていて良かった。

 現在がバーチャルな世界で、思い出しつつある過去が現実なのか、三輪智彦が研究していた画期的な技術とは何か、崇史は麻由子を手に入れるために何をしたのか、過去が明らかになるほど謎が深まっていく。一度はあきらめた特別な女性への思い、親友への気持ち、ハンデを持った彼への気遣い、それぞれの気持ちが謎を生みサスペンスを盛り上げている。麻由子と同棲している現在と、崇史が思い出していく過去を交互に描いているのが効いている。実に上手い構成だと思う。

 全ての謎が解決した後、さわやかな感動を受けた。ハッピーエンドと言うには、少しつらいラストだけれど……。  

『消滅の光輪 1・2・3』 眉村 卓
ハルキ文庫 本体:780円、860円、800円(00/10初)、★★★★☆
 植民から50年、順調な発展を遂げた植民惑星ラクザーンの太陽に新星化の兆しが発見された。前任司政官の急死によって赴任してきたマセ司政官は、すみやかな退避計画遂行の道を模索するのだが……。司政官制度はかつての強大な権限を失っていた。第7回泉鏡花賞受賞のSF巨編。

 植民惑星は連邦から派遣されたひとりの司政官と、多数のロボット官僚によって治められている。この時代の司政官は、かつての権力を失っており、大事業を行うのは厳しい状況にあった。普通の政治には興味ないけれど、惑星全住民の退避という状況での司政は非常に興味深く、良く出来ていた。途中から多少物足りなく感じていたら、巡察官の言動にからんだ大きな展開が待っていた。

 様々な問題を、マセ司政官の思索を通じて分かりやすく説明してくれる。ただし、少し説明過剰な感じもあった。計画が進むにつれ、原住民が惑星に残ることが判明し、その説得などから、人に語られることのなかった原住民の能力と思想が明らかになる。惑星の住民退避という問題を描いただけでなく、知的生命体の未来を示すSF的な展開も楽しませてくれた。

 原住民のラクザーハと人類との間に子供が出来ることが始めに出てきて、現在のSFなら共通の祖先を持つのが普通なんだけど、当時はどうだったのだろうかと気にしながら読んだ。20年前の科学からはそういう設定は要求されないらしい。その当たりに時代を感じた。  

『スター・ハンドラー 上』 草上 仁
ソノラマ文庫 本体:495円(01/07初)、★★★☆☆
 異生物訓練士養成校の卒業試験でハデな失敗をしたミリは、最低の成績で卒業したため就職先が見つからなかった。息抜きで訪れた地元の共進会で、ロデオの選手権に参加したミリは、活躍が認められゼネラル・ブリーディング社の訓練士に内定する。錆びついた宇宙船に乗って怪獣ヤアプ捕獲の旅が始まった。

 異生物訓練士(スター・ハンドラー)を目指す少女ミリを主役に、先輩の主任訓練士ヒューや妙な喋りをする契約ハンターのジャブルら、おかしな奴らが脇を固める。ユーモアSFを得意としていても、草上仁さんの今までの作品には女の子を主役にしたアニメ調の作品は無かったように思う。作風の違いに違和感が消えなかった。

 ミリの仲間たちと、彼らの邪魔をするユーニスのヨット、雇い主の大金持ちペテロ・シュルツの話が目まぐるしく入れ替わり、話が集中しないのも良くなかった。笑いをたくさん詰め込んだため、キャラクターの魅力が十分に出ていないのも良くない。もう少し、キャラクターの喜怒哀楽を前面に出して描いて欲しかった。

 ようやく主要な連中が顔を合わせて、ミリたちが大ピンチを迎えて、面白くなってきたところで、この巻は終った。先輩の訓練士ヒューがミリの父親の何を知っているのか気になる。  

『バースデイ』 鈴木光司
角川ホラー文庫 本体:476円(H11/12初)、★★★★☆
 『らせん』では十分に書かれなかった高野舞の話「空に浮かぶ棺」と、山村貞子の劇団員時代のエピソードを描く中編「レモンハート」、この二作を繋げながら、『ループ』以後の礼子を描いた「ハッピー・バースデイ」を収録。リング・シリーズ三部作から生まれた番外編。

 「空に浮かぶ棺」は『らせん』の一場面を高野舞の視点から描き直した話。構成上『らせん』から削除した原稿かも知れない。

 「レモンハート」は『リング』で浅川の同僚が調べた山村貞子の劇団員時代を再構成している。貞子を愛する劇団員の遠山が当時を思い出していく。甘酸っぱいタイトルとは裏腹に、貞子の恐ろしい能力が描かれる背筋の寒くなるホラー物。でも貞子の苦しみも感じることが出来る。さりげなく「空に浮かぶ棺」のエピソードと繋がりを付ている。

 「ハッピー・バースデイ」はシリーズを締めくくっている『ループ』の後日談。つまり、この話こそ本当のシリーズ最後を描いている。「レモンハート」で「空に浮かぶ棺」が結びついた様に、全二作を取り込んだ型で描かれている。それは『ループ』が『リング』『らせん』を取り込んだときの衝撃を思い出させてくれた。別に意外な展開があるわけではない。

 『リング』『らせん』『ループ』を思い出しつつ三短編を楽しんだ。解説にリング・ワールド三部作って書いてあるけど、SFでは別のシリーズを指すなあ。  

『贋作師』 篠田節子
講談社文庫 本体:563円(96/01初、98/06,9刷)、★★★☆☆
 「生き過ぎた」という遺書を残して、日本洋画界の大御所・高岡荘三郎画伯が自殺した。修復家の成美は、高岡邸に保存された膨大な遺作の修復を依頼された。修復を進めるうち、後期の作品に異質なものを感じ取り、高岡の弟子となった美大時代の恋人の死に疑問を抱くようになる。

 成美と慧は、美大時代から郡を抜いた技術を持っていたが、個性に欠けていた。慧は大御所・高岡画伯の弟子となり、成美は自分の限界を知り修復師となった。十年後、会う事もなく慧は自殺、その後に師の高岡も自殺して成美がその絵を修復することになる。つかの間の恋人だった贋作師・慧が、修復師・成美に絵を通じて何を訴えようとしたのか?

 絵が好きだから、画壇のことや修復のことなど引かれる部分も多いけれど、どろどろした話で辛いものがある。気持ちよく絵画ミステリを楽しみたかったのだが、結構ホラー的な部分も多い。成美の友人の彫刻家が、オネエ言葉が面白く、タフでいい味を出している。慧や画伯の妻の気持ちがもうひとつ理解出来なくて弱い。

 1991年の講談社ノベルスに加筆修正している。  






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