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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2001年4月

『3001年終局への旅』, アーサー・C・クラーク
『読書を楽しもう』, 岩波書店編集部 編
『フラッシュフォワード』, ロバート・J・ソウヤー
『偶然の目撃者』, 佐野 洋
『ウィンター・ムーン 上・下』, ディーン・R・クーンツ
『0番目の男』, 山之口洋
『さすらいエマノン』, 梶尾真治
『脅迫なんか恐くない』, パーネル・ホール
『冬休みの誘拐、夏休みの殺人』, 西村京太郎

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『3001年終局への旅』 アーサー・C・クラーク
ハヤカワ文庫SF(SF1347) 本体:660円(01/03)、★★★☆☆
 宇宙船ディスカバリー号から放り出されたプール船長代理が、海王星の軌道付近で1000年後に発見され蘇生された。3001年の世界に目覚めたプールは、ディスカバリー号の旅の結末、ボーマン船長の驚異的なメッセージ、1000年間の文明の進歩を知ることになる。『2001年宇宙の旅』のシリーズ完結篇。

 1000年後の世界に蘇生したプールが、3001年の世界の脅威を覗く話が、クラークらしい健全な科学技術の進歩として描かれていて楽しい。宇宙エレベーターの延長技術の赤道上に建設されたタワー、脳と直接情報をやり取りすブレインキャップ、加速を感じさせない無慣性駆動、彗星を使った金星のテラフォーミング計画など。特に巻末でクラーク自身がそれらの技術の典拠を示し解説してくれていて良かった。

 未来予測という面では、良く出来ていて面白かったが、小説としては実にあっさりしていて物足りなかった。クライマックスにはそれなりの焦らしが必要だし、シリーズ最後ともなるとシリーズを総括するような何かも欲しかった。80歳のクラークさんがよくぞ書き上げたと思う一面もある。  

『読書を楽しもう』 岩波書店編集部 編
岩波ジュニア新書 本体:740円(01/01初)、★★★☆☆
 村上陽一郎さん、北村薫さん、姫野カオルコさん、山内昌之さん、奥平康弘さん、奥村宏さん、田中秀征さん、外間守善さん、長谷川博さん、長谷川眞理子さん、田中貴子さん、安野光雅さん、山田太一さんが、ジュニア向けに読書の楽しみについて書いた物。

 作家や画家、色々な分野の学者が、自分の読書体験や本について思うところを、小中学生を読者に想定して書いている。多くの人が共通して、読書は国語の試験のように決まった答えがあるのでは無くて、好きなように読み取って楽しんで欲しいという事を書いている。

 政治、経済、歴史、文学などの学者の方は、読書というと専門書か文芸書しかないと思っているのか、そういった読書体験しかないのか、話が堅くて詰まらなかった。私が非文科系の人間だからかも知れないが、動物学者の長谷川博さん、長谷川眞理子さんのお二人の話は、身近に感じられて楽しかった。  

『フラッシュフォワード』 ロバート・J・ソウヤー
ハヤカワ文庫SF(SF1342) 本体:840円(01/01初)、★★★★☆
 2009年、素粒子研究所の科学者ロイドとテオは、ヒッグス粒子を発見する大規模な実験を行った。実験は失敗し、全人類の意識が数分間だけ21年後の未来に飛んでしまった。飛行機の墜落や車の事故で多くの犠牲者が出た。みんなが未来のヴィジョンを見たのに、テオは意識を失っただけだった。その意味するところは……。

 皆が揃って夢を見たという騒ぎから、共通の未来のヴィジョンを見たという認識に至るまでの過程が面白く描かれている。こういうところにSFの楽しさを感じる。21年後の自分に絶望した人、満足した人、未来の伴侶に連絡を取る人、21年後の未来を知ってしまった影響が色々な形で現れる。

 21年後に自分が殺されることを知ったテオは、ヴィジョンを見た人々に呼びかけ、犯人探しを始める。知ってしまった未来は変えられるのか? 決定論的な未来や多世界解釈が議論される。ラストには様々な事が明らかになる21年後の世界が待っている。ひとつのアイデアを軸に話が進み、いつになく落ち着いた感じがする。

 「マイクロソフトは、2027年に日付の桁が足りなくなった」とあるので、疑問に思い調べたら、その日付管理はUNIXの方法で、桁あふれは2038年に起こる。マイクロソフト製品でも、OSは不明だが、C言語のライブラリの一部で起こるらしい。2027年は間違いなのかなあ……。  

『偶然の目撃者 北東西南(NEWS)推理館』 佐野 洋
文春文庫 本体:476円(00/06初)、★★★★☆
 新聞記事がヒントになって小説が生まれる事がある。目にとまった新聞記事を掲げ、その記事をヒントにした短編ミステリが載る。電話ボックスで自慰していた男、電話番号をしゃべり続ける迷子の九官鳥、ライターに付いた指紋、新聞記事をヒントに作られたミステリ九編を収録。『北東西南(NEWS)推理館』(文藝春秋)を改題。

 「逃げたインコが住所をおしゃべりした事から、飼い主の元に戻った」というニュースから、警察に届けられた九官鳥が電話番号をしゃべって飼い主が判明するが、飼い主の女性は殺されていたというミステリが書かれた。「巳年の人がいるとツバメが巣を作らない」という投書から、「高所恐怖症じゃない?」と聞かれて「あたし申年だから、高いところは恐くない」と答える場面が出てくる話が書かれている。

 記事の内容そのままを素直に小説に登場させる時や、発想を膨らませとり、他の記事やヒントと合わせたりして使う時など様々。思わず著者の話し作りを分析して読んでいて、話を十分に楽しんでいなかったが、小説の裏を読む楽しさがあったので良かった。

 上記の作品でインコが九官鳥に変わったのは、九官鳥の方がおしゃべりが上手いという著者の知識と体験による。アイデアを生かす知識も作家には必要だと実感した。迷子の九官鳥が発端になって殺人事件が明らかになるという、ちょっとしたアイデアが興味を引く。このちょっとしたアイデアを得るために苦労してるんだろうな。  

『ウィンター・ムーン 上・下』 ディーン・R・クーンツ
文春文庫 本体:本体:各505円(95/12初)、★★★☆☆
 ロサンジェルスのガソリン・スタンドで乱射事件が発生した。警官ジャック・マクガーヴィは犯人を射殺、自分も瀕死の重症を負った。一方、モンタナの牧場では一人の老人が森にひそむ邪悪な存在に脅かされていた。エドゥアルドは武器を用意し、超常現象を研究して、その存在の攻撃に備えるが……。

 むかしアーロン・ウルフ名義で書いた"INVASION"を書き直した話で、元の話より緻密で味わい深くなっているそうだ。失業の不安や凶悪化する犯罪など、アメリカ社会の様々な問題が盛り込まれていて、作品に深みを与えている。

 ジャック一家がモンタナの牧場に引っ越して来て、エドゥアルド老人を脅かしていた存在と対峙する事になる。それまでのジャック一家が、謎の存在とは全然関係なたった訳でそう思うと事件から、様々な不安、社会復帰を描いている前半が長すぎる。

 一家が牧場に来てからの展開や、敵のバックボーンは楽しめた。エドゥアルドや弁護士や獣医が味のある存在だから、もっと活躍しても良かったなと思う。  

『0番目の男』 山之口洋
祥伝社文庫 本体:381円(H12/11初)、★★★☆☆
 中編一編を一冊にした400円文庫の一冊。

 2010年、深刻な環境破壊を改善するために、優秀な環境工学技術者のマカロフを大量にクローニングして育てる計画が持ち上がった。70年後、世界中に数百人のマカロフが生まれていた。《マカロフ》だけが入会できるマカロフ・クラブをひとりのマカロフが訪れる。

 大勢の《マカロフ》が集まって、呑み語るマカロフ・クラブという設定が良い。80年後の未来の世界なのに、このクラブを含めジャック・フィニイを連想させるノスタルジーを感じる。読んでいて心地好いのだが、未来社会の描き方として誉めて良いのか迷うところ。

 基本設定である「優れた環境工学技術者のクローン人間を作る」という話が、環境工学技術者の能力が遺伝するようには思えず、説得力に欠けている。クローン人間や冬眠技術を使ったSFらしさとのバランスの悪さが気になった。爽やかなラストが、それを補ってくれている。  

『さすらいエマノン』 梶尾真治
徳間デュアル文庫 本体:562円(01/02初)、★★★★☆
 地球の生命の40億年の記憶を持つ少女エマノン。長く黒い髪、そばかすの残る彫りの深い顔だち、ジーンズをはき、イニシャル入りのナップザックをかかえて、世界中を旅して周る。凶暴化した最後の象に会い、化学兵器で汚染された地区や、異常な赤潮の迫る養殖場を訪れる。エマノン・シリーズ第二弾。

 十年以上前に文庫化された『おもいでエマノン』を読んでいる。記憶は薄れてしまったが、切なくてとても心地良い話だった印象が残っている。今読んだら、がっかりするのではと心配だったが、そんな事はなかった。

 去年の「SF Japan」の一編を別にすると、久しぶりのエマノンを十分に楽しんだ。40億年の記憶を持つという設定に深く踏み込まず、曖昧なままなところが良い。絶滅する象、化学兵器の汚染、海を汚す産業排水、人間の愚かさが招いた悲惨な現場で、事実を見つめ少しだけ手助けするエマノンの存在が温かい。

 「さすらいビヒモス」「まじろぎクリィチャー」「あやかしホルネリア」「まほろばジュルパリ」「いくたびザナハラード」の五篇を収録している。鶴田謙二さんのイラストが良く似合っている。  

『脅迫なんか恐くない』 パーネル・ホール
ハヤカワ文庫HM 本体:800円(97/11初)、★★★★☆
 事情も明かされないまま、ゆすっている男に金を渡すという美女からの依頼。高額の報酬に指定の場所に向かうスタンリー。無事に脅迫者に金を渡し、ポルノ写真を受け取ったが、依頼人に怒られてしまった。ポルノ写真と依頼者の関係とは……。スタンリー・ヘイスティングズ・シリーズ9冊目。

 マンネリだってやっぱり面白い。主人公は常に収入の事を心配しているし、小さい事でクヨクヨするし、恐がりのくせにいつも殺人事件に巻き込まれてしまう。でも、こんな本こそリラックスさせて楽しませてくれる。

 依頼者が殺され、脅迫者も死んで謎は深まるばかり、事件の謎で読ませていく。めずらしく妻と協力して捜査したりする。9作目だから少しは事件にも慣れてしまうのも仕方ないけど、出来ればいつまでも探偵業に慣れて欲しくない。嫌がって恐がって、失敗と反省の連続がスタンリーの魅力だから。  

『冬休みの誘拐、夏休みの殺人』 西村京太郎
中公文庫 本体:552円(01/02初)、★★★☆☆
 旅に出た少年が、列車で隣になった女の子が誘拐され奮闘する「その石を消せ!」、ポケットに入っていた定期券の謎を追って、幼なじみの危機に巻き込まれる「まぼろしの遺産」、妻殺しの容疑を着せられた兄の無実を晴らそうとする「白い時間を追え」の昭和41年から42年に学年誌に発表されたミステリ三編を収録。

「その石を消せ!」
僕は冬休みに、東京の石ころを九州へ運ぶ意味のない旅行に出た。夜行列車の中で、その石が盗まれ、隣席の女の子が誘拐されてしまう。
アイドルと共に監禁されたりと話の経過は楽しめるが、意味のない旅行の計画や、石をダイヤと勘違いした犯人などに説得力がない。

「まぼろしの遺産」
ある朝、進二のポケットに入っていた幼なじみの定期券。進二は謎を解くため彼女の家を探し当てるが、放火されてしまう。
定期券の謎は面白いし、話がテンポ良く展開するので楽しく読める。でも、こじつけっぽい説明とラストの解決法にはがっかり。

「白い時間を追え」
兄の奥さんが殺され、警察は当夜の記憶を失った兄を疑っていた。和男は釈放された兄と共に、その日の行動を調べ始める。関係者が次々と不信な死を遂げていった。
三作中一番本格的な推理小説かも。結果的に、彼らの不注意で無関係な人が殺されているので後味が悪い。そういうところを丁寧に練って欲しい。  






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