読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2001年3月

『結婚恐怖』, 小林信彦
『悪意』, 東野圭吾
『詩的私的ジャック』, 森 博嗣
『ルビーフルーツ』, 斎藤綾子
『ある閉ざされた雪の山荘で』, 東野圭吾
『ハイペリオン 上・下』, ダン・シモンズ

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『結婚恐怖』 小林信彦
新潮文庫 本体:476円(H13/01)、★★★☆☆
 和菓子屋の長男・梅本修は、実家の近くのアパートに一人で住み、フリーライターとしてどうにか生計を立てていた。昔の恋人・麻衣子と再会して驚き、恋人の見合いに動揺し、母親の干渉に腹を立てる。ようやく仕事が安定しはじめたとき、麻衣子が異常な行動に出た。

 まえがきに、主人公がひきこもり型の人間だという事が書いてある。これが無ければもっと楽しめたのに……。おしゃれなバーや高級なレストランでくつろいでいるのを読むとひきこもり型とは思えず、その事が気になって話に集中できなかった。

 主人公・修は、和菓子屋を継がない金もいらないと言いつつ、店と目と鼻の先に暮らし、収入が途絶えて困らないという甘えを感じる。干渉する母親の事や、強引に迫って来る女性の事を、友人と共に批判している姿は醜く思える。著者の小説の多くが和菓子屋の息子が主人公で、著者の分身と思われる。

 麻衣子や母親の異常性がホラーだと思っていたら、後半に唐突な展開が待っている。これは意外すぎて、裏切られたような感じで納得できない。  

『悪意』 東野圭吾
講談社文庫 本体:629円(01/01初)、★★★★☆
 人気作家・日高邦彦は、無断で小説のモデルにされたと訴えられ困っていた。その相談に呼ばれた幼なじみの野々口修が、日高が仕事場で殺されているのを発見する。事件を担当した加賀恭一郎は教員時代に野々口の同僚だった。加賀の捜査が実り事件は解決したかに見えたが……。

 野々口の手記と加賀の記録で話が進む、あっけないほど簡単に犯人が捕まって、事件の焦点は犯人の語らない犯行動機に絞られていく。残り4分の3も使って犯行動機が判明する話かと思い、大胆な話を書くと驚いた。実際は動機だけでなく、意外な真相が次々と明らかになって一転二転していく。

 殺人までの短い手記に、幾つもの伏線が隠されていて、真実が解明されてスッキリしていく過程が気持ち良い。十分な娯楽性を持ちながら、人間の持つ負の部分“悪意”を深く描いた作品として、『白夜行』にも似た雰囲気をもっていると思った。  

『詩的私的ジャック』 森 博嗣
講談社文庫 本体:695円(99/11初)、★★★★☆
 S女子大で女子大生が殺された。現場は密室状態で死体には文字状の傷が残されていた。二ヵ月後、T大でも同様な死体が発見され、ロック歌手・結城稔に容疑が向けられる。密室の謎に挑戦する萌絵。大学祭で賑わうN大でも事件が……。N大工学部助教授・犀川とお嬢様学生・萌絵のシリーズ第四作。

 萌絵が犀川の海外出張中に寂しさを感じたり、萌絵の知らない犀川を知って動揺する姿が描かれていて、彼女の気持ちが今までより理解できるようになってきた。製図室で徹夜して製図を描いて、大学祭もあり、萌絵の友達も出てきて、これまでで一番萌絵の普通の生活が描かれていて親しみやすい話になっている。

 ミステリィとしての謎は複雑だけど、正統的できっちり楽しませてくれた。密室は液体窒素の冷却ポンプ小屋など理系ミステリィらしい状況が面白い。無理な設定を少し持ち込んでいるけど、これくらいなら目を瞑る。人物の魅力も増して、安定した好シリーズになった。  

『ルビーフルーツ』 斎藤綾子
新潮文庫 本体:400円(H8/11初、H11/10,13刷)、★★★☆☆
 女性を主人公にレズビアン、バイセクシャル、SMと過激なセックスを描く、「婦人警官 正美」「誰も許してくれない」「月明かりは蜜の色」「子猫の舌」「もう一度あの海へ」「神々の熱い夜」の六短編を収録。


「婦人警官 正美」は、婦人警官の正美がクラス会の後にはじめる三人プレイ……。彼女たちには恐ろしい趣味があった。
さらっと描いているところに恐ろしさが増す。

「誰も許してくれない」では、初対面の男に拉致され、オモチャみたいに弄ばれた私。さらに異常な行為は続いた。
誰が何の目的なのか、セックス描写に感じるより、殺伐とした感じが怖い。

「神々の熱い夜」は、少女を追ってバリ島に来たまい子。バリ島で夢のような性体験をする。
ファンタジーがかった「エマニュエル夫人」といった感じで、これが一番安心して楽しめた。


 200ページの薄い本。激しく描かれた性描写は興奮するより、寂しく恐ろしかった。主人公ら登場人物の気持ちがすさんでいて、刹那的な行為が空しく感じる。唯一「神々の熱い夜」からは温かい物を感じた。  

『ある閉ざされた雪の山荘で』 東野圭吾
講談社文庫 本体:500円(96/01初)、★★★★☆
 演劇のオーデションに受かった男女七人が、乗鞍高原のペンションに集まった。戸惑う彼らの元に、「ここを閉ざされた雪の山荘だと思って、今後の出来事に対処せよ」と指示が届く。死体の変わりに一枚の紙を残して一人また一人と仲間が消えていく。これらは本当に芝居なのか?

 不可解な演出家の意図を気にしつつも、男たちは一番の美女・元村由梨江の気を引こうと躍起になっていて、駆け引きが面白い。一人目から読者には、被害者が殺されるところが示される。翌朝現場には、死体の様子を記述した紙だけが残されていて、演出の一部と思う彼ら。後になって、本当に殺されたのではと疑惑が湧いていく。

 本当の殺人なのか、手の込んだ芝居の演出なのか、登場人物たちが悩むところが、従来のこの手の設定に新鮮さを感じさせてくれる。この中に犯人がいるのか、次は誰が狙われるのか、色々な可能性が検討される中で、彼らの人間関係が明かされていく。その間に知らされた事が、予想外のラストできっちりと生かされていて見事。  

『ハイペリオン 上・下』 ダン・シモンズ
ハヤカワ文庫SF(SF1333、SF1334) 本体:各800円(00/11初)、★★★★☆
 28世紀、宇宙に進出した人類は二百の惑星を結んで連邦政府を築いていた。惑星ハイペリオンの謎の遺跡〈時間の墓標〉が開き始め、怪物シュライクが解きはなたれた。時をおなじくし、連邦の敵アウスターがハイペリオンに侵攻を開始した。連邦の七人の巡礼者がハイペリオンに到着し、それぞれの過去を語り始める。

 結局『ハイペリオン 上・下』では、七人の巡礼者がハイペリオンに着き、巡礼に向かいながら、それぞれの忌まわしい過去を語るだけで終わっている。本編は続編以降という事になっている。叙事詩に相応しい壮大な物語で、量にも圧倒される。

 七人の巡礼者によって語られる話は、解説によると「ありとあらゆるスタイルとジャンルを詰めこんだ物」という事で、確かに「ハイペリオンの奥地に住む異種族の話」や「退役した大佐の語る戦闘の話」、「詩人の語る壮大な半生」、「女性探偵の話」と多種多様だ。充実した驚くべき話ばかりだけれど、その結末は、本編と共に謎のままであり、読めば読むほどもどかしくなる。

 一章が終わるたびに、話ががらっと変わるので、読む意欲が削がれてしまって読むのに時間がかかった。語られる世界の背景にひとつの世界が見えてくると、多種多様な話の中にも繋がりが感じられて読みやすくなった。読む価値は高いと思ったが、読んで面白いかは少し疑問を感じた。  






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