読んだ月別、ジャンル別のインデックスがあります。
■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2001年2月

『浦沢直樹の謎』, 大山ヒロオ
『エンダーズ・シャドウ 上・下』, オースン・スコット・カード
『炎の背景』, 天藤 真
『グミ・チョコレート・パイン チョコ編』, 大槻ケンヂ
『密送航路』, フィリップ・カー
『冥王と獣のダンス』, 上遠野浩平

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『浦沢直樹の謎』 大山ヒロオ
コアラブックス 本体:1000円(00/03初)、★★★★☆
 浦沢直樹さんのマンガを初期の作品から、『パイナップルARMY』『MASTERキートン』『YAWARA!』『Happy!』『MONSTER』を紹介。浦沢直樹さんのマンガの魅力をキャラクターの分析やストーリーの比較などで明らかにする。ごく軽く新作『20世紀少年』の話題もある。

 マンガ家・浦沢直樹さんの紹介と、「ジャンル別・全作品の解説」で浦沢さんの世界を確認する。『踊る警官』や『N・A・S・A』などの初期短編集の紹介は、最近になって再刊されたとは言え、余り知られていないので話題にされる事も少なく貴重かも。

 「キャラクターの徹底分析」は、一人一人を紹介しつつ、各作品の登場人物の類似などが語られる。浦沢さんのキャラクター配置の上手さを改めて実感した。

 「浦沢流「スポ根」の秘密」で『YAWARA!』『Happy!』の類似点や違いを語り、「浦沢ミステリの世界」で『MASTERキートン』の魅力を語る。「浦沢流「人間ドラマ」の真実」で『MONSTER』『20世紀少年』の世界を解説する。

 意外性のない当たり前的な内容で物足りなくもあるけど、「浦沢直樹さん」の世界への理解が深まったし、面白かった。浦沢さんの一番の魅力は絵の上手いところだけど、それだけではない事を再確認した。『Happy!』と『MONSTER』は、一部分しか読んでいないので、読みたくなった。  

『エンダーズ・シャドウ 上・下』 オースン・スコット・カード
ハヤカワ文庫SF(SF1330,SF1331) 本体:各720円(00/10初)、★★★★☆
 昆虫の姿をした異星生物バガーの侵攻を撃退した国際艦隊は、次のバガーの攻撃に備えて、未来の指揮官を訓練するバトル・スクールを創立した。劣る体力を恵まれた頭脳でカバーして生き延びて来たストリート・キッドのビーン。その知能を見出されバトル・スクールにスカウトされた。

 この『エンダーズ・シャドウ』は、『エンダーのゲーム』の主要部分をエンダーを補佐したビーンの側から描き直した作品。短編「エンダーのゲーム」は1977年に発表され、1985年に長編化された。その後、『死者の代弁者』などの続編も書かれている。

 上巻はストリート・キッドとしてのビーンの生い立ちが描かれる。その凄まじい生活で『エンダーのゲーム』の世界のイメージが崩された。恵まれた家庭の子供だったエンダーにはないストリート・キッドの貧しさを描くことで、その世界が深まった。

 ビーンはバトル・スクールに入り、上巻最後にエンダーと出会う。下巻は『エンダーのゲーム』の後半を忠実になぞりつつ、ビーンの側から見た『エンダーのゲーム』の裏側が描かれる。つい、下巻の前に『エンダーのゲーム』の後半を読み返してしまったけど、ストーリーは同じでも、ビーン側の新事実が興味深く描かれるので飽きる事はなかった。

 大好きな『エンダーのゲーム』に対し、知らなければ良かった真相もあるけど、ラストを含めて、良い話だった。エンダーの魅力に頼らず、ビーンの魅力を引き出しての話作りも好感が持てる。ビーンの将来が心配なので、続編を期待する。  

『炎の背景』 天藤 真
創元推理文庫 本体:720円(00/03初)、★★★★☆
 母親の情事を見て大学生の兵介は、ショックで放浪生活を始める。酔いつぶれて路上で寝てしまい目覚めると男みたいな女の子と一緒に、中年男の死体付きで屋根裏に閉じ込められていた。遠く山荘を見張る男たちは時限発火装置の稼動を待っていた。二人は運命は……。

 “おっぺ”“ピンクル”と呼び合うのが恥ずかしかったり、母親の情事ぐらいで大学生が放浪するなとか、1976年の小説だから時代感覚に合わない部分もあったが、次々と訪れる絶体絶命の場面を必死で切り抜けて行く面白さには古さなど関係なかった。

 男性不信から女性らしさを捨てた久留美と、ショックで女嫌いになった兵介が、火災や絶壁、急流などあらゆるピンチを潜り抜けるうち、色々な触れ合いを経験し男女を意識していく。人の良い兵介が、久留美の女性の部分に徐々に惹かれていくのがほのぼのと暖かい。

 全体的に話の作為的な部分が見えていて、現実的じゃない所も魅力なのかも知れない。  

『グミ・チョコレート・パイン チョコ編』 大槻ケンヂ
角川文庫 本体:571円(H12/09初)、★★★☆☆
 高校二年生の大橋賢三は、自分には人と違った何かがあると思い、友人のカワボン、タクオ、山之上とバンドを結成する。名画座での出会いから親しくなった山口美甘子が、映画監督からスカウトされ女優になり学校を去った。人生がグミ・チョコレート・パインなら、チョキの連勝で彼女に追いつくため、彼らのバンドがスタートするが……。

 もっとエピソードを積み重ねて描いて欲しいのに、書かれない話が多くて薄っぺらく感じる。ライブのシーンは詳しく書かれていて、自伝的な小説として面白いところだ。ライブで出てきて盛り上がる事なく終わる「筋肉少年少女隊」というバンドが出てきて、ちょっとガッカリ。賢三たちのバンドがこの名前になれば、もっと自伝的な色彩が濃くなったのに。

 明るい青春、楽しいバンド活動が描かれているのかと言うと、どうも、それだけでない暗さが存在する。オナニーに明け暮れながら、自分には人と違った何かがあると思い、必死でもがく高校生がそこに存在する。著者はあとがきで、まだ書かれていないパイン編では、全ての登場人物を幸せにしてあげたいと思っていると書いている。ぜひ、彼らを苦しみから解放してあげて欲しい。  

『密送航路』 フィリップ・カー
新潮文庫 本体:781円(H11/04初)、★★★★☆
 デイヴ・デラノーは、5年の服役を経て刑務所を出た。彼はマフィアの黒幕に儲け話を持ちかける。刑務所仲間から、麻薬の売上金が豪華ヨットに隠されて、大西洋を横断する事を知ったのだった。マフィアの手下と共に計画を開始するが、マフィアはデイヴの口封じを狙っていた。

 著者自身が語っているらしいが、エルモア・レナードさんの小説の雰囲気に良く似ている。マフィアが登場し暴力的な場面も多く、主人公ですら必要ならば暴力も辞さないし、金儲けの為には犯罪にも手を出す。映画や小説から引用したセリフが随所に登場して、知性とユーモアを感じさせる。

 FBIの美人捜査官・ケイトと間抜けな上司が絡んできて、ハラハラさせられると共に、FBIの女性捜査官と犯罪者の男の恋という形で盛り上がっていく。セクハラ上司に切れたケイトが、思いっきり罵声を浴びせるところは何とも気分がいい。

 金の行方、恋の行方、マフィアが何時彼を裏切るのか。しゃれた会話や、様々なエピソードで楽しませつつ、しっかりと満足させてくれた。  

『冥王と獣のダンス』 上遠野浩平
メディアワークス・電撃文庫 本体:570円(00/08初)、★★★★☆
 人類は外宇宙の強力な戦闘力を持った存在によって宇宙進出を阻まれた。国々は解体し〈奇蹟軍〉と〈枢機軍〉の長い戦争が続いていた。〈奇蹟軍〉の兵器は特殊能力を持つ“奇蹟使い”だった。若き〈枢機軍〉の兵士トモル・アドと、〈奇蹟軍〉最強の奇蹟使い・夢幻が運命の出会いをする。

 上遠野浩平さんの小説を始めて読んだ。背景設定が舞台設定としっくりと合っていて、良い気分で読み始めた。〈奇蹟軍〉の奇蹟使いたちや、〈枢機軍〉の兵士トモルのキャラも良い。夢幻との出会い、リスキイ兄妹の亡命と前半のすばやい展開にすっかり引き込まれた。

 大きな戦いもあり、豪快なクライマックスも用意されてはいるけど、もっと長い話の一部分的な感じで書かれていて、少し物足りない気もする。もっと長い期間を描いたトモル少年の成長物として読みたかった。続編に期待する。ラストに用意されていた設定など、SFのセンスも高く他のも読んでみたい。

 イラストの緒方剛志さんは、カラーは見ていて溜息が出てしまうほど綺麗いだけど、モノクロでは手の抜きすぎで、構図にも面白みがなく、人物にも魅力がないのが残念。  






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