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■■本の感想タイトル・インデックス■■

本の感想 2000年12月

『ナース』, 山田正紀
『ガリコン式映写装置』, 椎名 誠
『20世紀SF 1 1940年代』, 中村融、山岸真 編
『グミ・チョコレート・パイン グミ編』, 大槻ケンヂ
『アマンダ』, アンドリュー・クラヴァン
『私と月につきあって』, 野尻抱介

タイトル 著者
レーベル名 定価(刷年月),個人的評価

『ナース』 山田正紀
ハルキ・ホラー文庫 本体:571円(00/08初)、★★★☆☆
 ジャンボ機が山中に墜落し七人の看護婦が現場に向かう。事故現場に向かう彼女らの前に損傷も無残な死者たちがたちふさがる。医者も自衛隊も警察も男たちは全て頼りなく、襲いかかる未知の化け物に、七人の女戦士たちが立ち向かっていく。文庫書き下ろし作品。

 異常な状況下で、怪我人を救出するという本来の目的が失われているのに、看護婦たちが無闇に危険に立ち向かっていく。何だか分からない化け物が、何が目的なのか良く分からない行動をしている。話の向かっている方向が分からず、読み甲斐が感じられない。

 七人の看護婦というので、少しお色気を期待したけど皆無だった。著者は数年前に奇病で入院し、何日間も昏睡状態、譫妄状態にあったと聞く。お色気がないのは看護婦さんたちを称えた作品だからだろうと想像する。B級ホラー映画的な話から、看護婦さんって大変だなあ立派だなあという賛嘆が伝わって来た。  

『ガリコン式映写装置』 椎名 誠
幻冬舎文庫 本体:533円(H12/08初)、★★★★☆
 幅広く活躍する作家・椎名誠さんの三作目の映画『あひるのうたがきこえてくるよ。』の製作準備から完成までの色々な話や、最近見た映画の感想、映画に関する思い出、日常の出来事などを綴ったエッセイ集。

 「会津街道血ケムリ宿」、「銀幕宇宙の昼下がり」、「ガリコン式愚考装置」の三部からなる。「会津街道血ケムリ宿」は、映画『あひるのうたがきこえてくるよ。』の撮影中に連載されたエッセイで、これだと言う脚本が出来ず、製作開始が何ヶ月もずれた事、シネマスコープで撮影する事へのこだわり、撮影地決定までの経過など、映画製作の苦労と楽しさが分かって興味深い。

 「銀幕宇宙の昼下がり」では、好きな映画、思い出の映画の話から、映画に関する色々な話題が盛り込まれている。映画について様々に語る中に映画監督として思いが込められている。

 「ガリコン式愚考装置」は、「会津街道血ケムリ宿」と同時期に書かれたらしいエッセイで、二作目の映画の全国横断の上映会の話から始まり、毎回色々な映画の話を交えて日常の出来事を綴っている。『風にころがる映画もあった』『フィルム旅芸人の記録』に続く三作目の映画にこだわった本だそうだ。  

『20世紀SF 1 1940年代 星ねずみ』 中村融、山岸真 編
河出文庫 本体:950円(00/11初)、★★★★☆
 1940年代から、50年代、……、90年代の全6巻からなるシリーズ。収録されたタイトルと著者名を上げておく。

「星ねずみ」フレドリック・ブラウン
「時の矢」アーサー・C・クラーク
「AL76号失踪す」アイザック・アシモフ
「万華鏡」レイ・ブラッドベリ
「鎮魂歌」ロバート・A・ハインライン
「美女ありき」C・L・ムーア
「生きている家」ウィリアム・テン
「消されし時を求めて」A・E・ヴァン・ヴォート
「ベムがいっぱい」エドモンド・ハミルトン
「昨日は月曜日だった」シオドア・スタージョン
「現実創造」チャールズ・L・ハーネス

ブラウンさんの「星ねずみ」は、宇宙に行く事になったねずみの話。大先生のなまりやミッキーマウスのパロディになっている所など、著者らしいユーモアに満足。久しぶりにブラウンさんの作品が読めて嬉しい。

アシモフさんの「AL76号失踪す」は、《陽電子ロボット》シリーズの作品。アシモフさんらしくない、科学的な厳密さを無視したユーモアSF。これはこれで楽しい。

ハインラインさんの「鎮魂歌」は宇宙への夢を語った作品。多くのSF作家が似た話を書いている、その原形かもしれない。

ハミルトンさんの「ベムがいっぱい」は、初めて火星に到着した二人が予想外の物と出会う話。でたらめぶりが楽しい。

スタージョンさんの「昨日は月曜日だった」は、昨日が月曜なのに、今日は水曜日。現実の裏側を覗いてしまった話。何とも愉快な発想で嬉しくなってしまう。

ハーネスさんの「現実創造」は、言葉は違ってもグレッグ・イーガンさんの『宇宙消失』と同じ発想だと思う。人間原理とかいうのだろう、1940年代のSFに使われていたとは驚いた。


 全ての作品の訳に手を入れて、何作品かは新訳になっているそうで、気になるような古さは全くない。発想の新しさに驚かされた。

『グミ・チョコレート・パイン グミ編』 大槻ケンヂ
角川文庫 本体:590円(H11/07初)、★★★☆☆
 高校二年生の大橋賢三は、マニアな映画やロックにひたり、オナニーをしてしまう自分を嫌悪しつつ、いつかは世に出る身と思っていた。親友のカワボン、タクオの二人とバンド結成の決意をするが、とりあえずポルノ映画を観に行く事になってしまう。自伝的青春青春小説。

 のっけから、日に3回のオナニーの話だが、そんな面ばかりでなく、学校からも家庭からも孤立してしまった人間のコンプレックスが描かれている。主人公・賢三の心をふとよぎる不安感と自己嫌悪の事が出て来るが、大槻ケンヂさんが自分の不安症の事を語っていた事を思い出した。

 そういった自伝的な部分に、ブルマー泥棒やポルノ映画の変な老人や共通の趣味を持った美少女など、いかにも創作らしい部分も加わって楽しく話が進む。女の子と仲良くなっていく過程の純情ぶり、バンド結成までのゴタゴタが微笑ましい。ラストの女の子のエピソードは、大槻ケンヂさんが、似た話をしていたような気がするのだが確かではない。

 当時のB級ホラー映画、美少女映画、ロックバンド、アイドルたちの名前がたくさん出て来るので、著者と同年代の人は懐かしく読めるだろう。  

『アマンダ』 アンドリュー・クラヴァン
角川文庫 本体:933円(H12/09初)、★★★★☆
 マサチューセッツ州に旅客機が墜落した。自宅に戻ったキャロルは、事故現場で煤にまみれた男に抱えられた娘アマンダを見つけた。アマンダを追う製薬会社・副社長は事件の報道からアマンダの存在を嗅ぎ付けた。サックス奏者ルーニーを巻き込んで母娘の逃亡が続く、殺し屋に追われるアマンダの秘密とは何なのか。

 主題の選択の上手さ、謎を秘めながらの巧みな展開や、洗礼された語り口など、著者の上手さを堪能した。命を狙われた母娘が逃亡のあげく、賢く強い母親が娘を守って闘うという展開は、先月読んだ『運命の輪』(講談社文庫)と共通している。技術的には本書の方が優れていると思った。『運命の輪』の評価の方が高いのは、登場人物の信頼関係などに魅せられてしまったから。

 幼いアマンダの可愛らしさは申し分ないし、サックス奏者ルーニーの純粋な思いも話に魅力を与えている。色々とほっとするような場面もあるけれど、追われる者の恐怖感が強く感じられて、少し重苦しい。サスペンス小説なのだから、上手いと誉めるべき所だろう。予想外のラストが印象的だった。  

『私と月につきあって』 野尻抱介
富士見ファンタジア文庫 本体:580円(H11/08初)、★★★★★
 ソロモン宇宙協会は軽量化のため、小柄な少女を宇宙飛行士に採用した。協会の美少女宇宙飛行士の三人は、フランスの月飛行のサポートを要請され、訓練のためギアナに向かった。墜落寸前の飛行機を救った彼女たちだったが、フランスの宇宙飛行士のリーダーと対立し計画が危ぶまれる。

 美少女宇宙飛行士とか、登場人物の性格はマンガ的な感じだが、宇宙飛行の技術に関してはハードな科学考証を積んでいる。『ロケットガール』『天使は結果オーライ』に続く三作目ともなると、そういう違和感にも慣れて来た。今回はフランスの少女宇宙飛行士五人と共に月着陸に挑む。宇宙を目指す純粋な気持ちに胸が熱くなる。最新情報を踏まえて描かれた月面の様子が、そういった宇宙の魅力を感じさせてくれる。

 著者の後書きに、月を舞台にしたSFとして、アーサー・C・クラークの『渇きの海』『地球光』が上がっているが、その二作品に匹敵する面白さだった。人間関係のもつれや、サポート役でしかなかった日本の宇宙飛行士の活躍も良かった。事故で宇宙飛行士の帰還が危ぶまれる中、あらゆる工夫で生還したアポロ13号を思わせる緊迫した内容だった。  






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